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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二夜『母にして父なる者と銀の少女』
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風呂

 とりあえず、ぎりぎりのところでメヌーサに救助され……しかし全裸出現という謎の事態に陥ったのだけど。

「あははは、ごめんねー」

「……わざとじゃないよね?」

 サコンさんが持ってきてくれた毛布にくるまりながら、思わず悪態をついた。

「ん、それはむしろ無理ね」

「むしろ無理?」

「そんな小細工するほどの技量がないってこと。遠隔転送でそんな真似できたら、それって超一流もいいとこだもの」

「……ふむ」

 なんの超一流なんだろうね、この場合。

「でもさ。なんで服も、靴もなくなってるのに杖は持ってるわけ?」

「さあ、それはもう本当にわたしにはわからないわね。

 ただ、あえていえば杖は自力でついてきたんでしょうね」

「自力でついてきた?杖が?」

「言わなかったかしら。キマルケ巫女の杖はただの杖じゃないの。ひとが杖を選ぶのでなく、杖がひとを選ぶのよ」

「……」

 そういえば、そんな話を聞いたような。

  

 さて。

 いきなりの事態に驚いたけど、そもそも事態はそれどころじゃない。連邦の追手に嗅ぎ付けられる前に脱出しなくちゃいけないんだけど。

「ああ、それは大丈夫。もう加速を始めてるから」

「え、そうなの?」

「もちろん」

 転送による引き寄せを確認し、ほとんどその直後に加速を開始したらしい。

「セブルやマニさんに挨拶できなかったなぁ」

「お店のところで挨拶してたじゃないの」

「軽くだったんだよね……失礼にならなきゃいいけど」

 危ない橋もわたってもらったんだ。いつかきちんとお礼をしたいな。

「そうね、じゃあ忘れないようにしときなさい。次にこっちに来たら逢いに行けばいいし」

「そうだね」

 実際、それしか方法はないだろうな。

 ただ、宇宙は広い。

 地球でもそうだけど、一度逢ったひとにもう一度会えるとは限らないっていう面では、宇宙は地球以上だろう。

 だからこそ、折々でのお礼はその時にしとくべきだった。

 

 そう。一期一会(いちごいちえ)ってやつだ。

 やれやれ、すっかり忘れていたよ。

 

「なに、どうしたの?」

「なんか結局、私は昔と変わらないんだなってね」

「?」

「昔……おまえはとても冷酷な人間っていわれたことがあるんだ。死者を(とむら)う気持ちがないのかって」

「どういうこと?」

「えっとね。

 親友のようにつきあってた友達が交通事故で死んだんだけどさ。

 私は彼の死亡現場に行って祈り、そして献花してね。友人同士でもお弔いもしたんだ。

 だけど、一度も会ったことのないご家族の方には挨拶はしたんだけど、日本式の一般的なお弔いには一度も出なかったんだ」

「ふうん、それはどうして?」

「彼は仲間だったけど、あった事もないご家族にも、一般的な弔いにも興味がなかったからだよ。それは違うと思っていたんだ」

 そういうと、私はためいきをついた。

「仲間はいつも、そうして自分なりに見送ってきたつもりだよ。

 だけど後年……姉貴が母にいったらしいよ。あの子は冷酷な男だってね」

「……」

「たしかに、そうなのかもって思ったよ。

 友人の葬儀にも参加しないなんて。

 なるほど……私は冷たい人間なんだろうなってね」

「ふうん……よくわからないけど、どうして今それを言うの?」

「セブルやマニさんにもう一度挨拶できるってわからないのに、簡単にすませちゃったからだよ。

 思えばそれって、そういう昔の失敗と変わらないよなって」

「あー……そういうことか」

 メヌーサは、ポンと自分の手を叩いた。

「ようするにメルは、そんなの大丈夫だよ、気にするなよって言ってほしいんだ」

「……」

 そういわれると耳が痛いな。

「まぁ、その甘ったれたハートに心地よい言葉を言ってあげるつもりはないけど、率直に言わせてもらいましょうか?……メル、あなたクヨクヨ考えすぎ」

「え?」

 私の反応に、メヌーサはためいきをついた。

「まぁ、あえて言えば葬儀くらい参加しとけばよかったとは思うけど。でも自分なりに弔ったんでしょう?

 ならいいじゃないの、それで良かったと割り切りなさい。誰になんて言われようとね。

 葬儀とは故人のためというより、見送った人たちの気持ちのためにするものだと思うけど、地球では違うの?」

「……」

「で、それじゃ足りなかったって思うなら、次からそうすればいい。それだけの話でしょう?」

「でもそれじゃあ」

「まさかとは思うけど、それで過去に戻って取り戻せないかって悩むわけ?……バッカじゃないの?」

「……」

 率直すぎて返す言葉がない。

「あのねメル。

 過去をもう一度やり直したいって気持ちがあるならも、それは未来に向けなさい。今つきあいのある人、これから出会うひとを、その、大切にできなかった過去のひとのぶんだけ大切にしてあげなさい。それでいいじゃないの」

「……」

 なるほど、それはそうだ。

「そうだね。ねえサコンさん」

『なんですか?』

「オン・ゲストロって季節の挨拶とかお礼状って習慣あるの?」

『ありますよ。たぶん古風と思われるでしょうが問題ありません』

「そっか」 

 どこかで時間ができたら、簡単なのでいいから一度、お手紙出しとくか。

 マニさん、それから宿屋のおばさんかな。どちらもすごくお世話になったもの。

 そんなことを考えていると、ジロリとメヌーサは目を細めた。

「自分から悩みを増やそうとしてない?」

「めっそうもない」

「ま、いいわ。

 いっとくけど一般論で言ってんじゃないのよ?

 一度あえば、次に会えるかわからない。それは別に宇宙でなくとも同じことよ。

 だからこそ、その時その時を大切にしないとね。

 そして過去の失敗を教訓にこそすれ、必要以上に悔やまないこと。

 そうしないと、いずれ後悔と思い出に押しつぶされてどこにも行けず、何もできなくなる……そんなのイヤでしょ?」

「……そうだね」

 まったく耳が痛い。

 言葉にすれば月並みかもしれないけど。

 でもメヌーサの言葉には、実際に長い年月を駆け抜けた説得力に満ちていた。

「はぁ、説教なんてガラじゃないわ。かんべんしてよねもう」

 眉をしかめて手をふった。

 

「ところでレズラー、状況を教えて。今どうなっているの?」

【ハイパードライブ演算は完了しています。現在、本船はステルス状態でポイントまで移動中です】

「移動終了は?」

【約二分後です】

「そ。サコン、追手はどう?」

『まだ出ていないようですが、いつ動いてもおかしくないでしょう』

「根拠は?」

『三十秒前、衛星軌道上の部隊の間に連絡が飛びました。注意を外に向けたのだと思われます』

「そ。じゃあ、いつ発見されてもおかしくないわね」

 フムフムとメヌーサはうなずいた。

「誤差レベルでもいいから、何か発見したら余さず報告なさい。切り捨ては絶対しないで。

 あとレズラー、お湯のお風呂って使える状態かしら?」

【お風呂ですか?はい、お湯さえチャージすれば使えますが?】

「そ。安全確認後にまた指示すると思うから、よろしくね」

【わかりました】

 ん?お風呂?

「メルのとこはお湯のお風呂だったんでしょう?でもイダミジアあたりって空気に浸かるのよね。違う?」

「あー……色々増えてたけど、確かにお湯はあまりなかったね」

 それは確かに不満だったんだ。

「お湯のお風呂って、みんな一緒に入るんでしょう?落ち着いたらのんびりしましょう。ね?」

「ねって……まぁいいけど」

 それは偏見だと言いたかったけど……でも、みんなでお風呂って確かにいいよな。

 けど、なんでまた突然お風呂なんだろう?

 首をかしげていたら、メヌーサがケラケラ笑った。

「知らないの?お風呂はリラックスして気分を変えて、そして明日への活力を養うものなのよ?」

「……まてやオイ」

 どこの日本人だよそれ?

 そんなことを考えていたら、なんとサコンさんが反応した。

『水やお湯のお風呂を使う種族にはよくあるケースですよ。お風呂が心身のリフレッシュやコミュニケーションの場にもなっているんです。身体を清めるだけの場ではないってことですね?』

「……あー……命の洗濯」

「え?」

「なんでもない」

 

 そんなもんまで銀河にあるのか。

 猫といいお風呂といい、どうなってるんだ銀河文明って?


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