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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二夜『母にして父なる者と銀の少女』
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救助

 あたりまえと言われるかもしれないけど、電気バイクにはギアチェンジがない。

 どうしてこの世にマニュアル車があるかといえば、それは内燃機関型のエンジンに一定の回転数が必要だったからに他ならない。

 言うまでもないが、信号で止まるたびにエンジンまで止まっちゃ使い物にならない。

 そこで、クラッチでエンジンと車体を切り離したりつないだりしつつ、さらに適切なギアをクルマでなく人間が選んで繋ぎ変えることで、限られた馬力とリソースしかないクルマを快適に走らせるというのがマニュアル車のしくみということになる。

 逆にいうと、全て電気化してしまったり燃料電池化してしまった場合、あるいは車輪そのものがなくなった場合、こうした配慮はいらなくなるわけで。

 つまり、この世の自動車がオートマチックに向かっていくのは時代の趨勢(すうせい)というわけだ。

 でもさ。

 こうやってカーチェイスもどきを繰り広げているとね、バイク出身の私は思うんだよ。

 つまり。

 ここで一つか二つシフトダウンして、ドッカーンとロケット加速して奴らを置き去りにできないものかってね。

 

 

「!」

 警察以外の追手らしいのが増えてきたと思ったら、いきなり撃ってきやがった!

 しかも背中に直撃だよ!

 あいたたた、ちくしょうめ!

 

 こっちも反射的に防御したらしく、身体への物理ダメージはない。

 だけど、着ているのって防護服でもライディングウェアでもないっていうか……これ巫女装束なんだよね。

 ちくしょう、たぶん破れたな背中。

 昔、買ったばかりの安いカッパがバイクの風で破れちゃったのを思い出すよ。

 

 とりあえず防御膜で全体を覆った。

 

 体内のセンサーが正しいなら、現在の速度は時速390kmに達している。地球でもアウトバーン以外じゃ間違いなく違法だよね。

 ちなみに、この国には個別の制限速度はないらしいけど、これはクルマがほとんど自動運転だからの話。で、法定速度というのは別途ちゃんと決まってる。

 つまり、現在の移動速度はこの国でもやっぱり違法ってことだ。


 空は晴れ渡っている。

 道は伸びている。

 マシンは絶好調で、ギュルギュルとなぞの機械音を立てながら、とんでもない速度で爆走している。

 だけど、追手はさらにその上をいくみたいだ。

「……む」

 また何発か撃ってきた。

 防御膜がうまく働いているみたいで、今度はダメージはない。だけど、防御されていると知ったのかすぐに止まってしまった。

 そのかわり、何か別の部隊が側面やら前方やらに現れはじめた。

 

 これは……高速関係の専門家っぽいな。

 

 巧みにバイクをあやつり、連中の隙間をかいくぐる。

 しかし。

「っ!」

 今なんか、網かなんか、妨害システムの横すり抜けた!

 あぶねえ!一瞬遅れたら何が起きたか!

 

 こっちはとんでもない速さのつもりなんだけど……どうやら銀河レベルでは対処不能ってわけじゃないらしい。

 彼らはじわじわと対策をとり、普通に暴走車を取り押さえる感じで確保にかかっているっぽい。

「む」

 そういえば、周囲に一般車両が全然みえなくなった。

「まずいな、これは道路封鎖で検問コース……って、うわやっぱり!」

 体内センサーが、前方の道路封鎖と危険表示を訴え始めた。

 

 だめだ、もうバイクじゃ逃げ切れない!

 しかしどうする?

 

 空に逃げれば、おそらく追ってくる。

 今彼らが空から襲ってこないのは、たぶんこっちがバイクで逃げているからだろう。空を高速で飛べる個体っていうのはドロイドでも多くないそうだし、そもそも空を飛べるやつは、わざわざ不便な乗り物なんて使わないからね。

 え、じゃあ飛べるおまえがどうしてバイクで逃げ回ってるのかって?

 そりゃあ面白そ……いやいや違うって、もちろん捕り物上の都合だよ。

 だって、バイクで逃げるなら路上の、つまり平面上の捕り物になるわけでしょう?空を追ってくるやつがいても、そいつは飛翔体を捕まえる前提にはなってないはず。かりに逃亡者が飛んだとしても、それは苦し紛れのものだろうからね。

 つまり、こうしてバイクで逃げている事自体もフェイクのひとつってわけ。

 

 こっちがやりたいのは、ようするに時間稼ぎ。

 メヌーサが上の船に転移し、船をスタンバイさせる。そして合図をくれたところでこっちも超高速で合流し、ただちにハイパードライブに入る。

 なにしろメヌーサの船は宇宙港に停泊してないからね。彼らの発見は遅れるだろう。

 しかもメヌーサの船はいわゆる古代船で、ハイパードライブに必要な時空計算ってやつも自力でやっている。今どきの一般船みたいに、ハイパードライヴ計算を共用のターミナルに委託しないから、そちらの記録も残らない。

 うん、最良とはいわないけど悪くない作戦だと思うのだけど。

 

 うわぁぁ、検問っぽいのが目視でも見えてきたぁっ!

 ええい、こうなっちゃ仕方ない!

「『杖よ目覚めよ(ベイ・アー)』」

 現れた杖を左手で引っ掴むと、バイクに最後の指示をする。

「私が離れたら安全速度で停止なさい。ありがとう」

【走行中の危険行為は禁止されています、おやめください】

 バイクからの警告を無視して礼だけ言い、そして飛び出した。

 

 降下の時にメヌーサに助けてもらったように、私は空間を立体で識別するのが苦手だ。特に上下のない宇宙での戦闘なんてことになったら、戦う以前に目を回してしまうかもしれない。

 まぁ、そこは仕方ないよね。常人が空なんか飛べない現代日本人だもの。

 だけど。

 比較対象のある場所、つまり地上付近なら。

 そして……なんでも頼るのはシャクなんだけど、巫女の杖があれば。

 そうすれば。

『む』

 突然に迫り始めた視界に、検問らしきものが見える。

 高度は変えない。

 まるでバイクから何かが発射されたように見えるかもしれないけど、このままコース変更はなし。前面に防御を固めたまま突入する!

『でやぁぁぁぁっ!』

 内心ビビりつつもそのまま突っ込んだ。

 検問はとりつけられていたけど、それはバイクを止めるためのものだった。だけど車輪用でなく力場に干渉して強制減速させる仕掛けらしく、飛んでいる私にも強烈な重圧がきた。

 だけど。

『すり抜けろ!』

 一瞬、身体のまわりの重さが軽くなったと思ったら、次の瞬間には検問をぶち抜けていた。

 よしバッチリだ……ってっ!

 突然に制服姿の女性が数名、並走するカタチで飛んできてギョッとした。

 でも、次の瞬間に気づいた。

 

 この人たちはドロイドではない、サイボーグだと。

 

 ドロイドと全身サイボーグの違いといっても、それは中のひとが人間かどうかの違いでしかない。

 だけど、今この時にその違いは大きい。

 

 だって。

 それはつまり、この人たちが敵だという事になるから。

 

『アヤ・マドゥル・アルカイン・ソフィア!これ以上罪を重ねることはない、おとなしく捕まりなさい!』

『却下、信用に値せず』

 無反応でもよかったんだけど、つい律儀に反応してしまった。

 ところが。

『信用できない!?連邦が信用できないというのか!?』

『バカよせ新米、挑発にのるな!』

『しかし隊長!』

 うわっと、私以上のおバカが混じってたか。

『私は異邦人であり、銀河の価値基準は知らない。自らの感覚で見て聞いて、正しいと思った行動をとるまで。

 そしてその結果、連邦のイデオロギーはともかく組織は信用できないと判断したまでのこと。

 私は奇妙なことを言ったのだろうか?』

『……なるほどな、言わんとすることはわかる』

 どうやら隊長さんが返事してくれるらしい。

 もちろん背後では、この時間を利用して包囲網が狭まっているはず。相手はプロなわけで、そのへん抜かりはない。

『しかしメル嬢、理屈はそうであっても法は法なのだ。君は連邦法に従わねばならず、そしてこの星でも逃走の結果とはいえ暴走行為を働いてしまったね。

 なるほど遺憾かもしれないが、今の君は罪人となってしまっている。

 ならば争うべきは法廷であって、多くの人に迷惑をかけ犯罪行為を続ける事ではない。そうは思わないかね?』

『うん、まったくその通り。連邦所属ではないけど法治国家に生まれ育った者として、隊長さん、あなたの発言を支持させてもらうよ。

 ……だけどね隊長さん、それはつまり、法治国家が法治国家として正しく機能する場合に限られるんだよ。

 連邦は信用できないと私が言ったのは、まさにそこだ。

 通常の場合、連邦は信用できる団体かもしれない。

 だけど、こと、ドロイド問題が絡むと連邦は法の下の平等など適用されない。そうだよね?』

 

 幸いなのか、あいにくなのか。

 日本人である私は、反日という言葉の元に白も黒といい、法の下の平等もなく、法の不遡及なんて基本的原則すらも無視する国があるのを知っている。

 

 それが正しいかそうでないかは、私の言うべきところじゃないと思う。

 ただ、ひとつだけわかることがある。

 

 状況でコロコロ法の適用を変える相手は、信用できないってことだ。

 

『きみはおかしなことを言う。器物であるドロイドと人間を交配可能とするなど、善悪以前にありえない破壊行為じゃないか。

 メル嬢、きみは電子機器と人間のあいの子がポンポン生まれてくるような、おそるべき混沌と冒涜に満ちた世界を正しいというつもりかい?』

『隊長さん、あなたが言ってるのは狂信者の論理だよ。

 それを私に納得させたいのならそもそも、アルカイン族そのものが人造生命体なのに人間扱いされている理由を教えてくれなくちゃね。

 あなたがたの理屈が正しいというのなら、あなたたちも全員ドロイド、器物だってことになるんだけど?』

『きみは……そうか、エリダヌス教にそこまで染められてしまったのか。残念だ』

 

 しまった、時間稼ぎに失敗したっぽい。

 まわり人たちが一斉に武器をかまえたぞ。

 

 これはいけないと思った、まさにその瞬間。

『お』

『む、何だ!?』

 突然、私のまわりが不思議な光に包まれた。


 助けか、なんでタイムリーな!

 

 周囲の風景が溶けるように消えて行き、それと重なるようにメヌーサと船の風景が現れてくる。

 おお、どうやら転送らしいな。

 

 見慣れた風景が戻ってきたせいだろうか、なんかこう、開放感を覚えるな。

 肩の力が抜けたというか、身体が軽くなったというか。

 

 ……ん?

 思わず下を見てしまったのだけど。

 

「……え?」

 

 そこに見えたのは……おっぱい。小ぶりだけどな。

 え、ちっぱい?

 うるさいほっといてくれ、巨乳になった自分なんて見たくないっての。

 

 って、そういう問題じゃないだろ。

 おっぱい見えてるってことは、つまり。

 

「……え、えぇぇぇええええぇぇぇっ!!!」

「ああ、ごめんしっぱい」

 頭かいてんじゃないメヌーサ!?

 つーか、わざとか、わざとなのか?

 

 なんで、すっぽんぽんなんだよぅっ!


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