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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二夜『母にして父なる者と銀の少女』
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カーチェイスもどき

 突然だけど、映画に出てくるようなカーチェイスをしたいと思う?

 え?ひとに尋ねる前におまえはどうなんだって?

 私は……おっさんだった頃にはもちろんNGだった。命がいくつあっても足りないもの。

 まぁたぶん、自分はガキじゃないって思ってる人ならそうなんだと思う。

 

 だけどさ。

 もしあなたが、超絶レベルの先読み可能な頭脳を持っていて。

 そして、もし自爆しそうになっても、無理やり立て直す事も可能で。

 そして、さらに最悪の事態で事故っても、ろくに怪我もしない反則級の身体を持っているとして。


 ねえ。

 それでもあなたは、やってみたくないかい?

 映画のヒーローみたいにカッコよくとはいかないかもだけどさ。

 

 

「ヒャーッホゥッ!!」

 それは、まだバイクに乗り始めた頃を思い出す、麻薬のような昂揚感。

 それは、はじめて乗ったビッグバイクで、260km/hまでついてるメモリがガンガン上がっていく時の、死の悲鳴すらも掻き消しかねないゾクゾクさせるあの快楽。

 あははは……畜生、思い出すなぁ。

『そこのバイク、止まれー、止まりなさい!』

 アハハハハ、やなこった!

 瞬時にガカッと操作する。

 明らかに物理限界を超え、転倒するはずなのに、そうならない。私の身体は絶妙のバランスでマシンを操り、追いすがる公僕たちとは逆の方向におそろしい速さで飛び出す。

 おっと車線が逆だ、それ!

 いかに銀河のバイクとはいえ、バイクに逆車線に飛び越えて行く能力はない。むしろ転倒防止などに慣性制御を入れているぶん、そういう無茶をする機動性は地球のソレより低くなっているから。

 

 だから、代わりに私がやる……バイクごと持ち上げて対向車線へ!

 

『あ、コラ!危険走行に高機動義体走行区分違反!』

『まてまてぇ、待ちなさーい!』

 はいはい、あははははっ!

 フル加速をかける。

 ちなみに銀河のバイクはホイルスピンをしない。つまらないという人もいるだろうけど、そもそも考え方が地球のバイクとは異なっているらしい。バイク屋でホイルスピンについて説明したら、そんな欠陥品は渡せないと言われてビックリしたっけ。

 まぁそれ以前に、二輪車があったこと自体に驚いたけどな。まぁ、正しくは二輪といっても前輪は簡易型の慣性制御ユニットを兼ねていたり、地球の二輪とは全く異質のものではあるんだけど。

 でも。

 

 これでもバイクは長年乗ってたんだぜ、まぁ、通勤とツーリングばかりだけどさ。

 そして、そんな経験にドロイドとしての性能をプラスすれば、どうなる?

 

「うぉっ!」

 なんか、弾丸みたいなの避けてクルマの間を抜ける。クルマのミラーっぽいアイテムのギリギリ横をとんでもない速さでかすめていく。

 あっぶねえ、こんなん久々だぜ!

 そんなこと考えていたら突然、ビシッという音がしてクルマの中の一台がフラフラと路肩に寄って行った。

 む、今のは流れ弾か何かか?

 そのクルマを、見事な運転で避けて行く他のクルマたち……って、みんな自動運転ですかそうですか。

 まぁ、誰も巻き込まないですむのはありがたいんだけど。

 でも映画のカーチェイスみたいな混乱が全く起きないもんで、警察さんたちがみるみる迫ってくるんですが?

 うーむ、どうしよう?

「おし、フル加速!」

 進行方向のクルマが空いてきたので、ドロイド体の補助もコミでフル加速をしかけてみた。

 たちまち、暴力的な加速と共に景色が線になった。

 バイクのメーターが測定限界になり、何もかもが結晶化していく。

「……くぅ」

 だめだ、もう視覚が追いつかない。

 追いつかないんだけど。

「……」

 そんな状態でも、私の中の『ドロイドとしての感覚』は、正確にバイクの運転を続けている。まるでこの身体に二重写しになって、天才的なプロライダーが同居しているみたいだ。

 うむ、気分は雨のランディ・マモラ。

 なに古い?ほっといてくれ。

 私が辛うじてロードレースに興味をもっていた頃、雨の日に痛快な活躍をしていたのが彼だったんだよ。

 

 さて。

 かように二輪車でぶっ飛ばしているわけなんだけど、厳密には二輪じゃないしアスファルトの上を飛ばしているわけでもない。ただいろんなシステムで補助された結果、地球の二輪に似た姿とフィーリングで走る乗り物になっているだけだったりする。

 だから。

 こんな面白いうえに地球にはない安全性も確保されているってのに、これで遊んでる若者はいないらしい……もったいない話だよホント。

「む」

 警察さんたちが私を見失ったのが感覚としてわかる。

 即座に急減速を行い、近くのスラムに音もなく飛び込む。

 目標は……いた。ドロイド娘たちが固まってる!

「こんにちはー」

 女の子たちは「え?」とこっちを見て、そして一秒ほどしてから、えええ、うそぉっ!って感じに反応になって集まってくる。

「え、やだウソ本物?」

「なんのことかわからないけど、たぶん本物だよ。

 さて、時間がないから確認。危険があるのは知ってると思うけど、受け取る?」

「「ちょうだい!!!」」

 おー、すんごい反応。

 今のとこ、ためらう子はいても断られることはないなー。

「りょうかい。ほい、ほい、ほいっと!」

 順番に分け与えてあげていると、警察の反応が近づいてくる。

「おっとやべ、捕り物だ。わかってると思うけど、みんなも気をつけて。やばいと思ったらその時は手放して、そして次のチャンスを待つんだ。できるね?」

 ウンウンと女の子たちは一斉にうなずいた。

「オッケーよろしく、じゃあね!!」

 バイクを動かして離れる。

 離れかけた瞬間、なんかデータリンク要求がボボボッと来たんだけど。

 悪いけど、それには答えられない。

「ああごめん、応えられないんだ!あぶないから!」

 叫ぶと、ウンウンと皆、うなずいて手をふってくれた。

 

 ちくしょう、みんないい子たちだなぁ。

 それにかわいい。

 

 できるだけ音をたてないように街を離れる。そして外に出たところで、少し角度をずらして加速をはじめる。

「ふむ」

 もう気づいたか、さすがプロ。

 こちらに気づいて加速する組と、街に連絡をとる組に分かれたな。

 

 さて。

 私がこうして逃げている間に、メヌーサは全然別のルートで宇宙に逃げることになっている。

 そして準備完了の知らせが来たところで、私も最大限の力で大気圏を離脱。

 で、そのタイミングで跳躍準備をすませた船に飛び込み、そのまま長距離のハイパードライヴに入るという筋書きだ。

 ……まぁ、うまくいくかっていうと、運試しみたいなとこも大きいんだけどね。

 

「ん」

 そんじゃあもう一発、全力加速してみますか!

 フル・スロットルに切り替えつつ、さらにドロイドとしての能力も使って加速をかける。

 強大な電力が絶大なトルクを生み出し、しかしホイールスピンすら許さない超文明の伝達システムは、そのエネルギーをほとんど散らすことなく前進のためのエネルギーに変換して。

「っくっ!!」

 まるで蹴りだされたような強烈なGを伴って、異星製のオートバイはロケットのような、いや、まるでライダーマシンもかくやというとんでもない加速を開始した。

『こらぁ、待ちなさい止まりなさーい!』

「早っ!」

 くそ、さすが宇宙の警察だ、こっちが高性能なぶん向こうも凄いってわけか!

 

 な、なんのっ!

 逃げ切ったらぁぁぁっ!


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