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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二夜『母にして父なる者と銀の少女』
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ロル・ロット・ローラ

「マニともうします、よろしくお願いします」

「どうも、こちらこそよろしく」

 マニさんというのか。なんかショートの髪型が名前通りマニッシュな感じなのがよく似合っている。

 名は体をあらわすっていうけど、もちろんマニッシュなんて言葉は銀河にはない。

 ないんだけどなぁ……不思議なもんだ。

 私としてはアヤみたいなロングのストレートが好みなのだけど、こういうのも活動的でいいなぁ。

 それにしても。

「……」

 うん、やっぱり視線がこっち向いてる。

 いや、いちおうはメヌーサにもきちんと挨拶してるんだけど、やっぱりこっちを注目してる。

 えっと、なんだろ?

 あ、例の光はちゃんと渡しましたよ?そっちはもう終わっている。

 なのに?

「そりゃ注目するでしょうね。しないわけがないわ」

「え?」

 振り向けば、なぜかニヤニヤ笑いを浮かべるメヌーサの姿があった。

「忘れたのメル?」

「何を?」

「何をって……あなたがもたらすデータが何を意味するのかってこと」

「この光のこと?」

「ええ」

 制御のコツを覚えてきたので、ちょっと手元で光らせてみた。

 そんな会話をしていると、

「メル様、メヌーサ様。こちらです」

「はーい。ほら行くわよメル?」

「あ、うん」

 言われるままにプラントを出て、廊下に入った。

「連絡通路?」

「はい。地上には出ないで移動します。少し歩きますが、この通路の向こうにローバーを置いてあります」

「ローバーミニ?」

「いえ、ローバーです」

「ええと、だからローバー社の」

「いえ、ローバーは社名ではなく乗り物の名前です」

「え?……あ、ご、ごめん!」

 しまった、ついやっちゃった。

「いえ、それはいいのですが。もしかして、どちらかにローバーという会社があるのですか?」

「ええ。ごめんね、勘違いしちゃった」

 いや、つい。

 こんなとこに地球の自動車メーカーがあるわけないのにね。

 って、それよりも。

「で、そのローバーってどういうもの?」

「あ、はい。業務用車両です」

「あれ?このあたりだとロライバーとかいうんじゃなかったっけ?」

 何か知っているらしいメヌーサがツッコんだのだけど。

「はい、おっしゃる通りです。

 ですが、それは四輪以上の中型や大型のものですね。待機させているものは小型のモデルなのですが、こういうものはローバーとかロバということが多いのです」

 メヌーサのつぶやきにマニさんは突っ込んだ。

「あぁ、そういうこと」

「?」

「ロバってこのあたりの言い方で小さいものって意味よ。習わなかった?」

「オン・ゲストロ語のライブラリにはなかったかも」

「そうですね。中央ではもう使われないかもしれません」

 ああ、古い言葉ってことか。

「ちなみに、あまり若い女の子がこのへんでロバロバいうのもオススメできないかな?発音する時はローバーと伸ばすのがいいわね」

「え?なんで?」

 メヌーサの言葉に首をかしげていると、マニさんがクスクス笑いだした。

「ああ、それはですね……ロバって幼児語で、おちん○んって意味もあるからですよ」

「……あはは」

 思わず笑いがこぼれた。

 

 

 そんな会話をしている間にも、通路は本当に連絡通路じみてきた。むきだしのコンクリートじみた壁なんかが地球のそれと似ていて、思わずここが東京かどこかの地下道のような気がしてくる。

 だけど私は昔の私ではないし、もちろんメヌーサみたいな美少女の知り合いも当時はいなかった。それに皆の服装だって、地球の洋服とよく似ているけど細部はどこか違う。

 予想外に似ていることに驚くべきなのか。

 それとも、こんな超文明の世界なのに似た風景があることに安心するべきなのか。

 悩んでいるうちにも事態は進んでいく。

 通路をすり抜けて、進んでいった先にそれはあった。

「……おー」

 なんか地球のコンパクトカーっぽいのがいたよ。なぜか日本車っぽいけどさ。

 え、最近の日本車はまるで宇宙人が作ってるみたいだって?いや、そんなこと言ってないよ?

 それよりも。

「もしかしてゴムタイヤ履いてる?」

「ゴム、ですか?たしかにタイヤは履いておりますが、ゴムという素材は使っておりませんね」

 むむ?

「触っていい?」

「ええどうぞ」

 タイヤっぽいのに触ってみた。

「固いな」

 確かに地球のラジアルタイヤだって止まってる状態じゃ硬いけどさ。

 ドロイドの能力で解析もしてみた。

 

『タイヤ』

 車軸をもつクルマで一部使われているもの。特に狭い場所での運用には完全重力制御より簡便である事から、今も多用されている。

 かつては衝撃吸収材をかねた自然素材が使われていたが、現在ではシクルス系合成素材に移行している。また中に気体をいれる事もしていないので、気体もれやそれに類するトラブルの心配はない。

 

 さすがに空気は入れてないか。

 

「慣性や重力の制御はしてるの?」

「もちろん。事故などの衝撃防止などで必須ですから」

 マニさんの話によると、よほどの特殊車両でない限り衝突時の衝撃を打ち消すための制御システムは必須らしい。

「自作のデバイスで走るぶんにはその限りではありませんけど、一般公道を走る事は許可されません」

「どんな乗り物でも?」

「はい、もちろんです」

「きびしいな」

 つまり地球の乗り物は、どんな高級車でもこの星では走っちゃいけないわけだ。

 

 思えば日本でも、オートバイにABSが義務化の流れらしい。私がいるうちには義務化されなかったけども。

 騒音規制が進み、安全装置の装着が義務になり。

 これを寂しく思う人もいると思うけど、私はそうは思わない。

 同じマシンならメンテナンスフリーがいいに決まっているし、安全な方がいい。音も静かな方がいいだろう。

 自分も怖くないし、ひとに迷惑もかからない。

 同じ公道を走り続ける限り、それは大切なことだと思うんだ。

 

 まぁ、こんな事を書くとエンジン・フィールについて語りだす人もいるかもしれない。

 その話は昔の私も大好きだったし、今の私も好きだよ。

 でもね。

 その素敵なエンジン音、灼熱の真夏の真昼間にずーーーっと聞き続けてごらんよ。

 いくら大好きなエンジン音でも、走り続けるには、その、もう少し静かな方がいいんじゃないかって知るものだよ。 

 話をローバーに戻そう。

 農業プラントの軽トラもどきと違って、こちらは普通に屋根のあるSFものっぽいクルマだった。

 だけど、よくみると乗用車とは違うのもわかる。

 よく見ると、ハッチバックっぽい作りになっている事がわかる。そして車体後部には仕事に使うんだろう機材や道具類にあふれているあたりが、やっぱりプラントのアレと同じだと思う。スタイルは違うけどやっぱり業務車らしい。

 そのことを指摘すると、マニさんは笑った。

「わたしの仕事はこのトンネルみたいな設備の検査なんですよ。本格的修理の担当は別にいますし、測定器具を積んであちこち移動しますからね。これ重宝してるんです。あ、どうぞ、狭いですが」

「ありがとう」

 メヌーサとふたりで後ろに乗り込んだ。

 乗り込むと確かに狭かった。日本のコンパクトカーの後部座席を感じさせる狭さだった。

「すみません狭くて。ちゃんと乗れてますか?」

「大丈夫」

 ちなみにこのローバー、運転者は前の真ん中の席に座るらしい。どうやら自動ではないらしくて、操縦装置の前にマニさんが座っている。

「へえ、運転席が真ん中なんだ」

「歴史的事情ですね。元々ローバーは三輪だった経緯がありまして、今も真ん中に操縦席というスタイルだけが残っているんです」

 元々私たちのいる後部座席は助手席の進化したものらしい。

「ひとりだけ前って、家庭用とかだと嫌がられそうだなぁ」

「そういう場合は前部二席にしますね。操縦ユニットは規格品なので簡単に変えられるんです」

「なるほど。マニさんはどうして?」

「わたし、運転席の脇に道具を置く人ですから」

「あー……なるほど」

 みれば、さっきまで身に着けていたベルトみたいなものが、左わきのトレーに普通に置かれていた。

 

「それでは参ります。そんなにかかりませんし揺れる事もないとは思いますが、まさかの事がありますのでお気をつけください」

「ええ、わかったわ」

 そういうと、三輪車(ローバー)という名のトラックめいた乗り物は、のんびりと走りはじめた。

「……エンジン音がしないね」

 あと、動力機関が動いてる感じもしない。

 思わずそういうと、マニさんが答えてくれた。

「はい、電動ですから」

「やっぱりそうなんだ」

「電動というと大昔は大出力に向かなかったそうですけど、とても効率のいい動力変換法が開発されまして。それで置き換わりました。充電もすぱぱーって簡単になったんですよ?」

「なるほど」

 いいな、それ。

 地球でもEVの普及は確かにあったけど、充電時間の問題だけはまだ解決してない。

 少ない容量でも大きな力が得られて、なおかつ充電時間対策もできたら。

 そうしたらきっと、一気に普及するだろうに。

 

 え?車なんて乗らなきゃいい?

 そういわれてもなぁ、田舎じゃクルマって必需品だよ?

 ほら。

 スーパーに買い物をしに行くにも、仕事にいくにも必要だし。

 あと、台風きたら田んぼとか船の様子を見に行ったりもするだろ?自転車とかじゃ危ないからな。


すみません、次回更新は特にない限り年明け、1/4になると思われます。

(できれば年末年始に何かいれたいところですが)

また、帰省中は反応が遅延したり、1/6以降の反応になる可能性があります。


それでは。

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