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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二夜『母にして父なる者と銀の少女』
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地下の旅

 退屈なような、それでいて忙しいような。

 地下プラントの旅とは、そんなものだった。

 プラントはハイウェイではないし、まだ目的地までは1000キロ以上の距離がある。で、この軽トラみたいな乗り物はあくまで特定区画で作業するための乗り物なので、時々乗り換えなくてはならないからだ。

【本機で移動できるのはここまでです。六分後にこちらのエリアの機体がやってきますので、しばらくお待ちください】

「ありがとう」

【いえ、お気をつけて】

 そういうと、軽トラもどきは音もなく去っていった。

「うーん……」

「どうしたの?」

 グラス片手にメヌーサが微笑んだ。

 いいけど、こいつ飲んでも全然変わらないな。火が付きそうなくらい強い酒なのに。

 白人系はアルコール耐性強いっていうけど、異星人もそうなのか?

 むむ……アヤに再生された私の耐アルコール性は「生前」と変わらないのに。理不尽だ。

 え?おまえもグラス持ってるだろって?

 いや、樽を背中にしょってるのは私なんだから、おあいこだろ。

「なぁにメル?」

「いや……酒強いんだなって」

「強いというより、酔わないのよね。飲むそばから分解されちゃうの」

「酔いを楽しむこともできない?」

「意識して分解に抵抗すれば可能ね。ほら、今みたいに」

「お」

 いきなりメヌーサの目がとろんとして、顔も赤らんだ。

「なんでいきなり変わるわけ?」

「この身体、本来はそれほど強いわけじゃないから。毒物を分解する術式が、飲むそばから分解してるだけなのよ」

「お」

 一瞬で戻っちゃった。

 

 ふむ……術式、ね。

 そんなとこにも「魔法」とやらが使われているってわけか。

 まぁ、いいけどさ。

 

「ところで」

「え?」

「移動時に背負う専用の樽とか背嚢(はいのう)とか……すごい文化だよね」

「うふふ、そうね」

 酒瓶でなく、樽を背中にしょって歩く専用の器具があるのには驚いた。ポスコっていうらしいんだけど、あえて訳すなら『酒リュック』ってところかな?

 おかげさまで私は、見た目だけなら木製っぽい古風な樽をリュックのごとく背中にしょっているわけで。しかもその状況で、ちゃんと自分のグラスにかんたんに注げるようになっているのもすごい。

 おまけに謎技術で、体温で樽が温まることもないんだって。

 どんだけ酒好きの国なんだよ、ここ。

「穀類とかイモ類が主食でしょう?よくある事よ」

 そうなのか。

「個人的には、宇宙にこれだけお酒があるなんて思わなかったよ」

「どうして?発酵っていう概念があれば、当然出てくる流れだと思うけど?」

「そりゃそうだけどさ。酔っぱらうのはよくないから排斥されるとか麻薬扱いって事は?」

「そういう国もあるけど……でも一般的じゃないわね」

「そうなの?」

「お酒程度で麻薬扱いしてたら、正直何も飲み食いできなくなるわよ?」

「たしかに」

 まぁ、それもそうか。

「まぁ、お酒が神聖な扱いの地域もあるし、お酒自体が忘れられた国も確かにあるわね。だけど嗜好品だから、特にアー系族の系列なら、オン・ゲストロや連邦に加盟したところで飲酒文化が復活するところもあったりね。そこはまぁ、国際化の状況次第かしら?」

「あー、そうか」

 その国で忘れられたとしても、お酒のある国と国交するようになって、そこから復活もあるわけか。

 たかがお酒といえど、色々あるんだなぁ。

 

 あれ、でもまてよ?

 

【お待たせしました。お待ちのおふたりは、あなたがたで間違いないですか?】

「ええそうよ、よろしく」

【はい、それではお乗りください】

 考え込んでいる間にも、新しい軽トラもどきがやってきてた。

 ああ、これも使い込まれてるな。作業のついでに回ってきてくれたって感じか。

 こっちの事は把握してるっぽい軽トラ(仮)に乗り込むと、再びそれは走り出した。

 ゴムタイヤでもないしサスペンションがあるようにも見えないのに、全く揺れない快適な旅路。

 まったりと座り込んだところで、今さっき気づいた事を質問してみた。

「ねえメヌーサ」

「なぁに?」

「前から疑問に思ってたんだけどさ、アー系種族ってなんなの?」

 アー系種族。つまり、アルダー、アルカイン、アマルーに代表される銀河の主要種族のことだ。なぜか発音が「a」から始まる種族ばかりなので、ア種族とかアー種族とか言われるらしいんだけど。

 聞けば、銀河には銀河文明に至らないものを含めると億単位の国家があるらしいのに。

 なのにどうして、たった三つの種族で銀河の過半数を占めたりできるんだ?

 それに。

 地球人と肌の色やその他、誤差程度の違いしかない種族が『アルカイン族』なんていって、少数派(マイノリティ)とはいえ一応は銀河第二位の勢力っていうのは、どういう事だろう?

「ああ、そのこと」

 メヌーサは私の質問を、驚きもせずに返した。

「その質問に答えるには、わたしたち姉妹の話をしなくちゃいけないんだけど……聞きたい?」

「できれば」

「わかったわ」

 ウンと大きくうなずくと、メヌーサはお酒のグラスに何かつぶやくと、そのままどこかに仕舞い込んだ。

「今、なにやったの?」

「洗浄。ここ洗えないから」

「それマイグラスなんだ?」

「あたりまえよ。どこでも飲めないと困るじゃないの」

 その発想がすでに酒飲みです。

 とはいえ、私もリュックの中にアメリカ製の鉄コップ(ロッキーカップ)があるから同類だけどね。

「ずーっと昔、まだわたしたち姉妹が生まれる前の話なんだけどね。銀河文明は大きな問題を抱えていたの」

「問題?」

「それぞれの環境の違いによるもの。環境のすりあわせとか色々ね。

 同じ空気を吸っているように見えても、わずかな違いが大問題の元になる。片方にはとてもよい環境なのに、もう片方には猛毒の大気になってしまう。

 それは、当たり前といえば当たり前のことなんだけど。

 でも、それが元で大惨事になったり、起こらなくてもいい戦争の元になったり。

 それを何とかしようねって試みが何度も銀河で繰り返された。そう、何度もよ」

「……それってもしかして、タンパク質の差異まで合わせるってこと?」

「乱暴に思えるかもしれないけど、まさにそういうことよ。

 実際、この計画はなかなかうまくいったそうよ。億年単位の時間がかかったらしいけど、一部を除いて多くの星で、致命的な構成の違いはだいぶ圧縮できたそうよ。

 それが解決したところで、当時の人たちはさらに凄いことをしようとして……でもこれは失敗したそうよ」

「凄いこと?」

「そもそも、どんな環境でも住める究極の知性体を生み出して銀河の種族とすり替えようとしたの……まぁ失敗したけどね」

「そりゃそうでしょ」

 どんな新種族だったのか知らないけど、今まで生きてきた種族はどうなるのさ。

「ちなみにこの時の種族は、わずかだけ生き残りがいるわ。ま、いずれ会えるでしょう。

 そして、今度は次の挑戦が行われたの。これがわたしたちの時代の話ね」

「ふむ」

 いよいよ本題らしい。

「もともと銀河で最も繁栄していたのは、今でいう古アルダー、すなわちトカゲ系人類の一種だったの。

 これは、ケロアド……つまりイーガ、メルの言うところのアンドロメダにその証拠となる言葉もあるわね」

「証拠?」

「あっちの古い言葉で、銀河系のことを『トゥム』というのよ。トゥムというのはトカゲの国という意味で、つまり彼らにとり銀河系はトカゲ人の世界だったわけね」

「へえ……」

 銀河系はトカゲ人の宇宙だったと。

「だから、彼らをベースにアルダー族が作られたわ。

 彼らはたくさんの環境にばらまかれ、その土地で時間をかけ、独自の発展を遂げて行った。進化により多少の差異を内包しつつも、少しずつ変わった程度の同胞としてね」

「……え?ちょ、ちょっと待った」

「なあに?」

 メヌーサの言葉を途中で止めた。

「ごめん、よくわからないんだけど。

 メヌーサの言葉通りに聞いてたら、なんか、今の銀河系のアルダー人がまるで、人工的にばら撒かれた種族って聞こえちゃったんだけど……いやごめん、今なんていったの?」

「謝る必要ないわ。そういったんだから」

「……はい?」

 私は思わず、まじまじとメヌーサの顔を見直した。

「えっと……私の言ったことわかってる?」

「ええ、アルダーが人工的にばらまかれた種族っていうんでしょう?その通りよ。

 ちなみに、アルカインもアマルーもそうよ?

 だからこそ、みんなあれだけ種族が違うのに指の数も、体格もそう大きく変わらないでしょう?あれは、元々の出発点が近いからなのよ?」

「……」

「メル?」

「……」

 私は、自分のアゴがカクンと落ちる音を聞いた気がした。


次話更新は12/26のこの時間になります。

……週末+クリスマスが居た堪れないから引きこもるんじゃないからねっ! ><


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