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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二夜『母にして父なる者と銀の少女』
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食事

 惑星シャンカスは砂漠が多く、気候も決して穏やかではない。

 そんなこの星で主に食べられているものという……なんと芋だった。

 その名もコソド・ガ・シャンカス。意味は直訳すると『シャンカスの至高芋』なんだと。

 う、うーん……笑っちゃいけないんだろうけど、うん。

 ちなみに、ちょっと反応に困る名前に反して、シャンカス芋は至高の名にふさわしい代物なんだという。

 荒れた土地でもたくさん栽培できて、しかも加工もしやすい。単純に焼き芋のようにしても美味しいらしいけど、さらに多種多様な調理法や加工法があり、捨てるところもないほど。

 実際、至高の名にふさわしい芋なんだとか。

「で……これが全部芋料理?」

「ああそうさ。驚いたかい?」

「驚いたというか……すごいね」

 婆さんの用意してくれた食事なんだけど。

 芋料理といわれても、見た目は全然普通の料理だった。芋そのものの姿が見えるものはほとんどなくて、外見上はむしろパン食ベースの洋食を思わせるものだった。

 むしろ、イダミジアの食事よりも地球のものに似てる。

 これが全部、芋だって?

「同じものばかり食べていると人間、飽きるものだからね。同じ食べるなら楽しみたいのが人間だろう?」

「たしかに、それはわかる」

 使える食材が多くないから、そのぶんだけ工夫したってことか。

 むかし読んだSF仕立てのギャグマンガで、朝食昼食夕食のスイッチしかない自販機みたいなのから、給油よろしく栄養を取り込んでいる主人公がいたけど、普通の人は、ああいう記号化された食事には耐えられないということなのかもしれないね。ネタとしてはああいうのって面白いのだけど。

 そして、品種も色々作られているらしい。

 単一種やそれに近いものが主食を支えているというのはハイリスクなものなんだけど、そうした危機管理の意味でも品種改良は奨励されているんだとか。

 なるほどなぁ。

「それじゃ食べよう?」

「いただきます」

 手をあわせると、皆に不思議な顔をされた。

「今のは何だい?」

「あー、故郷の習慣ですね。食事を与えてくれた人と、それから食事となってくれた食材たちへの感謝というか」

「へぇ、どこの国か知らないけど、似たような習慣はあるものなんだね」

「似たような習慣?」

「この国でも、食前と食後に感謝する習慣があるのさ。最近の人はあまりやらないけどね」

「バルサ、そりゃいつの時代の話だ?わしらでも知らんぞ?」

「そりゃそうだろ。何せオリジナルのあたしが生まれたころの話だからね」

 ドロイドはもともと頑丈だけど、さらに身体が老朽化したら「生まれ変わる」ことでさらに生き延びる。これにより長い、長い年月を活動し続けることができるわけで。

 婆さんは現時点の見た目も婆さんだけど、一番はじめのオリジナルから既に、何世代も生まれ変わってもいるらしい。

 つまり、ものすごく長生きってことだな。

 

 ん、まてよ?

 すると、子どもを作れるようにすることが世代交代を促すというのは、彼女らを短命化するってことでもあるのか?

 そんなことを考えていたら、

『それは、世代交代とはそもそも何かって話にもなるわね』

 頭の中にメヌーサの言葉が響き渡った。

『生き物は世代交代を繰り返すことで環境に適応する。つまり、自分よりも環境に適応しやすい個体を生み出して、それに交代していくことで種全体として生き延びる原動力になっているわけ』

『でも、ドロイドはそれ必要ないよね?』

 そうだ。

 真空中でも耐えられて、個体によっては自力で空さえも飛べる。

 そんな連中が世代交代をする意味って、そもそも何だ?

『一応いっておくけど、じゃじゃ馬みたいに空を飛べたり戦闘ができる個体、つまり高機動個体というのはそんなに多くないのよ。環境耐性のある個体が多いのは本当だけどね』

 それでも十分だろ。

 異星人の血の入ったどこぞの「キラッ」なアイドル歌手なんて、宇宙に放り出されそうになっても無事だったぞ。まぁアニメの話だけどな。

 あのくらい丈夫な体を皆が持っていたら、宇宙開発がどれだけ楽になることやら。

 でも。

 そのことにより、ずっと生きられる人の命が限られてしまうのだとしたら?

『いつまでも、ずっと生きられる事がすなわち幸せとは限らないでしょう?』

『……そりゃま、そうなんだけどね』

 私は今でこそ見た目若いけど、元はおっさんだったんだもの。

 まぁ、よそさまよりはおバカな人間だったみたいだけど。

 

 でも。

 少なくともソフィアと出会った頃の私は……長生きして明日に行くことが幸せとは限らないって、知っている種類の人間ではあった。

 

 芋料理に口をつけてみた。

 銀河のハイテク料理のおかげなのか、やっぱりすべてが芋料理とは思えない。さまざまな食材に見えるそれはとってもおいしくて、またドロイドとしての体内センサーも、いろいろな栄養に満ちていることを示していた。

 おや、これなんかタラの芽みたいだな。

 こっちも美味しい。日本人である私の舌にも、充分に美味しいと感じられる。

 これもつまり、この星の人たちが生んだ技術ってわけだ……生きるために。

「なに、どうしたの?」

「いや……生きるって何だろうなって思った」

「……は?」

 いきなり何いってんのと言わんばかりの顔で、メヌーサはあきれ顔をした。

「おや、芋料理に人生を感じたかい?」

「えっと、何なの?」

 婆さんが得たりと笑って、メヌーサがそれに疑問を呈した。

「たまにいるのさ。本当は芋なのにバラエティに富んでるここの料理を見て、人生とはって考える人がね。まぁ普通は若者じゃないんだけどね、そういうのは」

「あー……すみません、私、中の人は若くないですから」

「ああそういう事かい。ちなみに、()いていいかい?」

「え?あぁ」

 つまり、なんでサイボーグなのかと尋ねられているわけだ。

「まぁ事故ですよ。ちょっとした手違いで殺されちゃいまして、現場に居合わせた人たちが助けてくれたんです」

「そりゃ災難だったねえ」

「まったくです。でもまぁ、そのおかげで『外』に出られたわけでもありますから」

「……そうかい」

 『外』という言い方で、婆さんは私の言いたいことを理解したようだった。

 

 銀河文明の世界。

 子供の頃から憧れていた、宇宙に広がる巨大文明の世界。

 

 いろいろあれど。

 私が今いるのは、遠い憧れのはずだった星の世界なんだから。

 

 

 おいしい料理に舌鼓をうっていると、爺さんたちが変な話をはじめた。

「なんか、連邦の連中が妙に色めきたっとるんじゃが、何ごとかのう?」

「ほほう」

 こっちをチラチラ見ている約一名といい、ちょっと気になる内容といい。

 ふと、ひっかかったことを質問してみた。それも何か怪しい約一名に。

「あのー、ひとついいですか?」

「わしかの?まぁいいが、なんじゃ?」

「ここってオン・ゲストロの勢力圏で、しかもイダミジアから遠くないですよね。どうして連邦がいるんです?」

「む?……あー、そういうことかい」

 フムとひとりで納得すると、じいさんは苦笑するように教えてくれた。

「おまえさん、どこか知らんが閉鎖的なとこか来よったんじゃな?」

「あ、はい。それでイダミジアの訓練校で歴史とか勉強してます」

「なんじゃ訓練校の学生じゃったか。それを早く言わんかい」

 なんか知らないけどウンウンとうなずいている。

「まぁひとことでいえば、田舎というのはそういうものじゃな。商売だとかいろいろな理由で両方に縁があるんじゃよ」

「なるほど、単純に色分けが難しいってことですね。

 じゃあ、そこをあえて勢力分類するとしたら、どちらに属するんです?」

「オン・ゲストロ寄りじゃな。

 しかし単純じゃないというのはここかからでな。

 たとえば、わしの孫娘の結婚相手は連邦駐留軍の者でな、そんな関係で今回の騒動も少し耳に入っとるわけじゃが……」

 やれやれと、じいさんは肩をすくめた。

「わしゃあ、おまえさんたちがもしかしたら関係あるかもしれんと思っとったんじゃが……学生じゃったとはな。悪かったのう」

 ありゃ。

 なんか素直に暴露して謝ってきたじいさんに、私は首をかしげた。

「えっと、あの?」

「わかっておるよ、わしが妙な目で見ているのが気になったんじゃろ?わしにも自覚はあるでな一応。けど、学生となれば話は別じゃ」

「えっと、それは何で?」

「そりゃ、ロブの後輩だもんな。だろロブ?」

「まぁの」

 クスクスと楽しげに笑い出した。

「え、じゃあ、もしかして?」

 うむ、とじいさんは大きくうなずいた。

「まぁ120期も前の卒業生なんでな、今さらじゃろうが……一応これでも訓練校の出じゃ。この星に農業技術者として入ったんじゃよ」

「そうですか。先輩だったとは、これはこれは。……メルといいます。今は休学扱いですが」

「じゃろうな」

 ウンウンとじいさんは笑った。

「訓練校はその性格上、いろんな奴が来よる。たまにはお尋ね者ってやつもな。

 けど、本当の意味のお尋ね者ならば、そもそも訓練校が受け入れる事はないんじゃ」

「本当の意味のお尋ね者?」

「おまえさんたちとは関係ない話じゃから、別にそれはよかろう。そんなことよりもじゃ」

 そういうと、にやっとじいさんは笑った。

「ここまでの大騒ぎは、いくら訓練校生でも珍しいぞ。……おまえさんたち何やらかしたんじゃ?」

「あー……それは」

 返答に困った私の言葉を、メヌーサが笑顔でつないだ。

「ひとことでいえば、封印解除キーを作ったのがバレたってとこね」

「おぉぉぉおいっ!」

 思いっきりバラしてるよ、このひと!

「封印解除?なんの封印解除じゃ?まさか、封印されし古代兵器でも稼働させちまったのか?」

「それよりもっとやばいかも」

「ほほう。で、そのココロは?」

「ちょ、まて」

 メヌーサと名前を言いかけて口をつぐみ、反応が遅れてしまった。

 そして。

 

「ドロイドと人間で混血できないようになってる封印あるでしょ?あれ解いちゃったの」

 うわぁ、遅かった!

 そして爺さん連中はというと。

 

「「「……なんじゃと!?」」」

 全員が思いっきりフリーズした。

 

 しかし数秒たって、突然に笑いが溢れた。

 

「うわっははははっ!そりゃ大騒ぎになるわなぁ!」

「すげえなオイ、で、どっちがやらかしたんだ?それとも共同研究か何かか?」

「共同みたいなものね。素材をそろえたのがこの子で、加工担当がわたしなんだけど」

「くっくっくっ、連邦どもの引きつりまくった顔が目に浮かぶわ!」

 

 なんか知らないけど、実に楽しそうなんですが?

 

 さんざ迷ったあげく、ぶっちゃけて質問してみる事にした。

「あ、あのー……反応それだけなんで?」

「あ?ああそうか、拒否反応しめすかって話かぁ?」

「はい」

 じいさんたちは、そろって首をふった。

「そりゃあおまえさん、農家の嫁不足を思えばなぁ」

「今だって嫁なんざ来ないもんで、卵子を購入して家畜みたいに子作りする羽目になる家もあるでよ。

 で、たまに来たかと思えば権利だの保障だの言ってよ。まぁ言わんとする事はわかるけどもよ、けどよぅ」

「たまーに気立てのいい嫁ごがいるかと思ったら、そいつは間違いなく元男かドロイドなんだよなぁ」

「んだ。セブルんとこのチェシャとかな」

「チェシャか。あの子が子供産めるってなったら、セブルんちはベビーブームになるかもな」

「いやいやまったく」

 あー……嫁不足。

 そうか。

 ドロイドへの偏見や差別がないわけじゃないけど、それも上回るほどお嫁さんが足りないのか。

 で、たまに来てくれるお嫁さんも、そういう現状を知ってて超上から目線の変な子しか来ないと。

 それはまた……なんとも。

 

 なんか、日本の農村問題を悪い意味で想像させてしまう話に、思わず目を白黒させるのだった。


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