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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二夜『母にして父なる者と銀の少女』
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砂漠の星

 コズマ星系。

 比較的オン・ゲストロに近いが、とりたてて何もない辺境地域である。

 

 銀河で辺境といわれる土地はたくさんあるが、地球における辺境と銀河の辺境は少し様相が異なっている部分もある。

 星間国家というものは互いの距離が離れているから。

 で、その離れた距離をヒモのようにつないで国家を作っていくものだから、勢力圏を立体図になどしようものなら、ぐちゃぐちゃに絡み合ったようになってしまうわけだ。

 そんな状況での「辺境」なわけだから、実は大都会の星域と数光年しか離れてない事も珍しくなかったりする。

 でも、その数光年が途方もなく遠い。

 大型定期航路がないから自力で飛んでいくしかないし、不便もあればコストもかかる。銀河においては物理的な遠方である事もさる事ながら、流通などから外れている、ソーシャルな意味の辺境の意味も大きいということになる。

 コズマ星系もそうした田舎のひとつである。

 イダミジアのような都会の星が近郊にあり、しかも惑星の数が少ない。唯一の惑星シャンカスは過去に大文明があって滅びており、荒廃しているうえに有益な残留物すらもない。

 こういう、過去に滅びを経験した星はたくさんあるから、廃墟観光で人を呼ぶ事もできない。外貨獲得手段がないから、手持ちのリソースでやりくりするしかない。

 そんな、わりと銀河のどこにでもある田舎の星域である。

 

 イダミジアを出て三日が過ぎた。

 ここ数日、私はこの船の見物をして過ごしていた。いわゆる連邦型の科学文明とは全く異質の古代文明の産物であるこの船は、見るもの聞くもの、変なものばかりだった。

 

 中枢というか動力源みたいな場所に連れて行ってもらって、そこにある『動力源』を見て思わず卒倒したり。(い、言いたくない見たくない思い出したくないごめん!)

 むきだしの宇宙空間の下、デッキブラシみたいなので甲板のお掃除をするという珍しすぎる経験をしたり。

 まぁ、それはそれで楽しい時間だったのだけど。

 

 で、三日後。

 のんびりと過ごしていた私たちは、再び最初の部屋で円卓を囲んでいた。

【シャンカスの衛星軌道に乗りました。港湾に停泊いたしますか?】

「いきなり地上に降りるのは危険ね、港の方が情報を集めましょ」

【了解です。では港湾の方に連絡をとります】

 メヌーサとレズラーのやりとりを聞きつつ、朝食をとる。

 船内食で驚いたのは合成食がほとんどないってことだった。イダミジアでたくさん食料を積み込んでいたらしくて、保存システムの性能がいいのもあって、実に新鮮なサラダと美味しい揚げ物の、地球でいうところのプチ洋風な朝食風景になっている。まぁトーストはないけどね。

 野菜、卵、それから少量のお肉。

 見たこともない青い野菜が混じってたり、なんの卵なのこれ?って言いたい不思議な外見だったりするのを別にすれば、まったくもって普通の食卓だった。地球人的にいうと青い食べ物って食欲をそそらないんだけど、イダミジアでだいぶ慣れたし。

 食とは文化。いやまったくそのとおり。

「メル、お茶ちょうだい」

「わかった。悪いけどお茶もらえる?三人分」

【了解。種類は何になさいます?】

「昨日の朝のやつ。あの普洱(プーアル)茶っぽいやつ」

【ソスティーですね。プーアルで登録いたしましたからプーアルでも結構ですよ?】

「ありがとう、でも名前覚えたいの。ソスティーね」

【なるほど了解。ではソスティーで三人分、今お作りします】

 なんだか知らないけど、最後にお茶を頼むのは私の仕事みたいになっていた。

 レズラーは賢いから私の地球の茶の呼び方を覚えてくれるけど、名前覚えないとよそで注文したり葉っぱ買えないわけで。だから、いくらプーアルに似ていても私はソスティーで覚えたい。

 こんな微妙な会話を覚えてくれる賢い人工知能。よくできてるなぁ。

「メルってお茶好きよね。わたし、いちいち覚えてられないわ」

「いやいや、私も全部は覚えてないから。気に入ったやつだけね」

 地球で普洱茶がお気に入りなのも、四川料理の店でめちゃめちゃ辛い麻婆豆腐を食べたあと、杏仁豆腐と普洱茶でまったりするのが好きだったからだ。

 そういう食べ物や飲み物は忘れない。ナンで辛いカレーを食べたらプレーンなラッシーがほしいとかね。

 まぁ、四川式の黒い麻婆豆腐もナンで食べる辛いキーマカレーも、さすがに銀河にはないだろうけど。

 寂しい気はするけど、食べ物なんて地域や状況で変わって当然のものだから仕方ない。

 

 そんな話をしている間にも、レズラーは情報収集をしていたらしい。やがて返答がきた。

【地上にいる連邦の駐留部隊に不穏な動きがあるとのことです。降下は危険かもしれません】

「オン・ゲストロ側はどうしてるの?」

【連邦側を牽制していますが、連邦側がご主人様の名前を出して非常体制を敷いているようです】

「あら」

 メヌーサが目を丸くした。

「お姫様か。ケロアドにいるはずなのに、またずいぶんと対応早いわね」

「ケロアド?」

『イーガのことですよ』

 私の疑問はサコンさんが引き取ってくれた。

 ちなみにイーガというのは地球でいうアンドロメダ銀河のこと。ソフィアは今、結婚準備でイーガに行っているので、たしかにその情報は間違いない。

「イダミジアからここまで4日かかったよね?そう考えればおかしくないんじゃ?」

「でもケロアドから対応できるってことは、即時通信網でもないと無理でしょ……って」

 メヌーサは少し考えて眉をよせた。

「そうか、お姫様が持ってないわけないか。バカはわたしの方だわ」

「メヌーサ?」

「ごめんなさいメル、わたしともあろう者がこんなマヌケな失敗をするなんてね」

 ためいきをつくメヌーサに、私は首をかしげた。

「何かあったの?」

「お姫様の通信手段を少なく見積もっていたのよ。ほら、銀河連邦とケロアドの帝国ってつい先日まで臨戦態勢だったでしょう?ホットライン以外は通信できなかったじゃないの」

「あー……そういえば」

 学校でそんなの習ったっけ。

 銀河連邦とアンドロメダのイーガ帝国は仲違いしていて、戦端が開かれようとしていた。そんな状況が万年単位で続いていて、いつ戦争になってもおかしくなかったって。

 この状況をひっくり返したのが誰でもない、あのソフィアらしい。

 といっても、政治力で納めたとかそんな意味じゃなくてね。

 つまり。

 彼女は戦争直前のイーガ帝国に乗り込み、こともあろうに、あちらの皇帝陛下に見初められちゃったんだ。

 そう。

 信じられないような話だけど、色恋沙汰で銀河vs銀河の戦争が止まったらしい。

 もちろんそれは、愛が地球を救うみたいな脳天気な話じゃなくて、カタブツの皇帝を心配していた周囲の人たちの応援と、銀河のあちこちで戦争を止めた実績をもつソフィアのネームバリューのおかげらしいんだけど、とにかく戦争は止まった。そればかりか婚約のご祝儀ということで景気も少しよくなったり、銀河とイーガの交流も増えたそうで。

 うーむ、何が幸いするかわからないものだなぁ。


 地球で私を巻き込み、あんな地味な問題を起こしたソフィアだけど、実は銀河文明的には、お姫様とかそういう枠を超えた重要人物らしいんだよね。

「銀河とイーガの通信って、そんなに大変なんだ」

「技術的には簡単だけど、何しろ対立の歴史があるのよね。おかげさまで関係修復が進んでいるそうだけど、ホットライン以外は妨害システムの撤去とか、未だに終わってないものがたくさんあるはずなの。

 でもねえ……その和解の功労者そのもののうえにお姫様だもの。そのホットラインを使って緊急通報する可能性だってあったのに、考慮しなかったのは明らかにミスでしょう?」

「なるほど」

 それは確かにわかりやすいミスかも。

 でもまぁ、あれだ。

「まぁ、リカバーできそうな凡ミスで良かったじゃん」

「え?」

「とりあえず状況をまとめよう。

 どうせ目的は例の受け渡しなんでしょう?どの方法が一番いいか考えよう?

 ……ん?どうしたの?メヌーサ?」

「……」

 メヌーサが、不思議なものを見るような目でこっちを見ていた。

「なんで怒らないの?」

「はぁ?」

 意味がわからない。

「いや、なんで怒るのさ。ミスなんて誰でもするでしょうに」

「だってわたし、聖女とか言われてるわけで……」

「いやいやいや」

 なんとなく言いたい事はわかった。

「メヌーサがどこで何て言われてるか知らないけど、ただの人間じゃん。お姉ちゃんっ子のちびっこにどんな重責おっかぶせるつもりなのさ、それ?」

「わたし、すごく長生きなのよ?」

「だから何?長生きしただけ知恵がつくってんなら神かもしれないけど、所詮は人間じゃないか。そんな完璧になれるわけないだろ?」

「……」

 メヌーサは、ぽかーんと私の事を見ていた。

 そして唐突に肩をふるわせて、クスクスと笑いだした。なんか涙まで浮かべて。

 な、なんだ?そんなに変なこと言ったか?

「……なに?」

「いえ、なんでもないわ。

 そうね、じゃあ対策を考えましょうか?手伝ってくれるわねメル?」

「お、おう」


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