表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二日『銀河文明の学び舎にて』
53/264

生物兵器

 泣きっ面にハチ。二度あることは三度ある。

 おかしな事、ろくでもない事って、どうしてああも続けてやってくるんだろう?バラバラにくればいいのに。

 

 

 じいさんと別れたあとはいつも通り、普通に登校した。

 校門のところでサコン氏がなぜか待ち受けていたんだけど、背中のリュックについては特に何も言われなかった。ただし鉄のカップには興味を示した。

『これで飲み物を飲むのですか?金属成分が飲み物に入ってしまわないですかね?』

「微量になら入るかもね」

 缶ビールが普及しはじめた頃、同じビールでもビンと缶では味が違うとよく言われた。今でも言われているのかな?

 それに鍋やカップを洗う時、表面を削るようにしてきれいにする事はあるし、実際、使い込まれた鍋が摩耗していたりするのはよくある事で。

 うん。

 きっと、気分だけの問題じゃないと思う。

 そんな話をしているうちに午前の授業は始まった。

 前にいったと思うけど、午前中の授業は基礎的な話が多い。つまり連邦語などの語彙を増やすためのものだったり、銀河文明で生きるにおいての常識やなんかをやるわけ。ここに通っている生徒はそのほぼ全員が、私のように銀河文明とあまりつきあいのない世界から来た人たちだから。まぁサコン氏みたいな事情もちもいるようだけども。

「え?今日って兵器の話?」

『はい。銀河文明でよく使われる兵器について、基本的なお話をするはずです』

 ああ、そういや今日はそんな予定だっけ。

 何だか、ヘンなタイミングでヘンな授業だなぁと思ったけど、まぁ元々組まれていた予定だし。

 そんなことを考えていると、講師のひとりであるアルカイン族の女の人がやってきて。

 そして授業は始まった。

 

 

 地球よりもはるかに科学の進んでいる銀河文明の世界。

 そんな世界ならきっと、恐ろしい兵器がたくさんあるんだろう……と思ったのだけど、実は銀河文明の兵器というのは一種の飽和状態にあるらしい。恒星系ひとつを潰せる兵器までは出来上がっているのだけど、それ以上のものは作られなくなっているんだとか。

「飽和しているんですか?なんでまた?」

 その誰かのつぶやきは、私たちの気持ちを代弁していたと思う。

「理由は簡単です、強力すぎて使いづらいからなんですよ」

「へぇ」

 え、そんな理由?それじゃあ地球の大量破壊兵器と同じじゃん。

 地球で威力の大きな近代兵器が作られ始めてから、その運用はだんだん難しくなってきたんだよね。

 たとえば核兵器。

 核は地球上で使う兵器としては明らかにオーバースペックだし、だいいち撒き散らされる放射能が問題ありすぎだ。たとえ戦争に勝っても何百年と使い物にならない不毛の大地が広がってしまっては、損害があまりにも大きすぎる。また、たとえ物理的被害がなくとも、なんで核なんか使ったんだと味方の核アレルギーな連中が大騒ぎするって別の問題もある。はっきりいって核の使用はリスキーすぎる。

 

 でもこの理屈は、銀河文明にはある意味あてはまらない気がするんだ。

 だって。

 銀河文明っていうのは、すごくたくさんの星域に渡って広がっているわけで。

 たとえ星を砕く兵器があったとしても、一撃で銀河の全てを滅ぼす事なんてできないわけでしょう?

 だったら、地球の大量破壊兵器の原理はあてはまらないと思うんだけど?

 

 そんなことを考えていたら、こっちの考えをあざ笑うような話が出てきた。

「先生、でも極端な話、銀河系全体に影響の出るような兵器なんてないですよね。だったら極論ですけど、ひとつの星系に住めないならそこを切り捨てればいいんじゃないですか?」

「いえ、とんでもない。ありますよ?銀河全体まで影響の及ぶ兵器くらい」

「え、あるんですか?」

「ええ。たとえば一例ですが、次元兵器の類がこれにあたります。もっとも有名なところでは時空震動弾(じくうしんどうだん)があり、過去にいくつかの星域で使用され、いくつもの文明が星系単位でこの世界から永遠に失われたような事もあります」

「……」

 うわ、そうきたか。

 時空震動弾(じくうしんどうだん)て……そんなもんまで実用化してるのか銀河文明、さすが。

 え、時空震動弾(じくうしんどうだん)って何だって?

 簡単にいうと、この世界の一部を切り取り、別の世界にぶっ飛ばしちまう兵器と思えばいい。名前こそ爆弾だけど、実際には空間の一部を切り取り、転送する一種の時空変換装置だと思えばいい。

 この時空震動弾、地球では空想上の兵器とされていて、これが実在すると仮定して作られた物語も実際に過去にあるんだよ。SF仕立ての異世界ツアーみたいな不思議な部分のある作品で、地球時代の私は大好きだった。

 まさか実在するなんて。

「ですが、そのような兵器を持ち出すまでもなく、現在普通に使われている兵器でも充分に大量破壊はできますよ。たとえば銀河連邦とオン・ゲストロの防衛兵器群はだいたい拮抗していると言われていますけど、どちらも銀河系の二割程度を完全消滅させるくらいの威力はあるでしょう。

 ですが、それらが使用される事はまずありません。

 理由は簡単で、支配領域や顧客に重なりがあるからです。どちらか片方だけ損害を与えるなんて事はできませんし、また、今はよくても未来に問題を抱えてしまう可能性が高すぎます。

 それをおして、それでもまだ攻撃するのかという事です。意味がないのです」

「なるほど」

 それは……本当に地球と同じような理由なんだなぁ。

「皆さんご存知の超光速航法(ハイパードライブ)、つまり恒星間文明に必須ともいえるこの技術ですが、これは初歩の空間干渉技術でもあります。ゆえに銀河文明では昔から空間兵器や次元兵器が多く試作されてきましたし、実際に使われた事もあります。

 ですが、次元兵器や空間兵器は威力も影響も大きすぎるものが多い。先の時空震動弾がいい例ですね。

 なぜなら、宇宙の星々の描く軌道というのは微妙なバランスの元に慣性運動を続けているものがほとんどなので、星域まるごと消滅や空間偏差を狂わせるような事をした場合、最悪の場合はこの銀河全体に致命的な悪影響も与えかねないわけですし」

「……」

 ちょ、なんかスケールが半端なく巨大になってきたんですが?

 ここで先生が空中に手をかざした。

 日本なら黒板に板書したりビデオを流すような場面なのかもだけど、ここでは違う。空中にポンっと大きなウインドウのようなものが開いて、そこに円グラフみたいなものが出てきた。

 ん?これは兵器区分かな?

「これは、ここ数百年ほどに使われている兵器の区分を表しています。

 一目瞭然だと思いますが、このように大量破壊系の兵器はあまり使われません。これにはいくつかの理由がありますが、やはり影響が大きすぎる事、相手を地域ごと消滅させては意味がない事などが理由だと思われます。

 ……ところで皆さん。この図を見て何か思い当たるところはありませんか?」

 うーん……あるといえば、ある。

「先生」

「はい、何ですかメルさん?」

「見たところ、生物兵器が上位にいるみたいですけど、内訳を聞いていいですか?」

 これはちょっと意外。

 だって生物兵器って要は、地球的にいえば細菌兵器の類だろ?つまり伝染病を敵地にばらまくとかそういう種類のだろ?

 そりゃ効果はあるのかもしれないけど、病気の大流行とかの元になったら、それこそ後始末の面倒臭さは核兵器以上かもしれないじゃないか。

 なのに、どうしてそんなものがよく使われるんだろう?

 そういうと、先生は得たりと笑った。

「細菌兵器ですか?そういう兵器もなくはないけど、銀河スケールでは一般的じゃないわね」

「へ?」

 どういうこと?

 でも、そんな私の疑問に答えてくれたのは先生でなく別の人だった。

「何いってんだメル嬢、そんなの簡単だよ」

「え、なんで?」

 意外にも、説明をはじめたのはアルカイン至上主義者のポマスくんだった。

「銀河文明にはいろんな種族がいるんだぞ。それら全てに有効な病気なんてサクッと作れると思うか?」

「う……そ、それは難しいかも」

「だろう?」

 ウンウンとポマスくんはうなずいた。

「ポマスくん、発言する時はまず合図からね。

 でもまぁ正解です。

 細菌兵器というのは生物兵器の初期にはよく作られたそうですけど、特定種族にしか効きにくいし、そして汎用性を持たせると今度は威力が下がる場合がほとんどです。しかも、うっかり大規模流行など起こってしまったら後の収拾が大変な事になってしまいます。

 このため、銀河文明によって多種族世界になると、だんだんと廃れていく傾向があります」

「そうなんですか?」

「ええ。

 たとえば、いわゆるアー系種族の全てに下痢を起こさせる程度は確かに可能ですけど、その開発や運用にかかるコストを思えば現実的とは思えないわ。しかも、病気をばらまくというのは後々まで非難される事が多いですしね」

「なるほど」

 アー系種族というのは、現在の銀河における筆頭の三種族、つまりアルダー、アルカイン、アマルーの事らしい。種族ごとにすこしずつ発音は違うけど、でもだいたい「アー」をはじめとする名前ばかりなのでアー系と言われているらしい。

「じゃあ先生、この生物兵器というのはなんです?」

「まぁ、主に戦略用生物ね」

「戦略用生物?」

「そうねえ。たとえば、こういうものかしら」

 先生がモニターを操作すると、ネズミのような小動物や、昆虫らしき生き物の写真に切り替わった。

「これは小型生物タイプの一例ね。これらの生き物は精密機器に入り込んだり、配線を齧ってボロボロにしたりするの」

 ああ、そういう方向の戦略利用なのか。

「でもこれ自然の動物ですよね?一度その土地の自然に放たれたら、後が大変なのは細菌と同じじゃないですか?」

「ええもちろん。ですから、そういう用途にはこういうのもあるの」

 そういって先生が、さらに別の映像に切り替えたんだけど。

「……なんですかこれ?」

 表示された映像を見た時、一瞬ポカーンとしてしまった。

 いや、だってそうだろ。

 そこに出ていたのはまるで、日本の特撮映画の怪獣みたいなやつだったんだ。

「先生、映像間違えてないですか?これじゃ怪獣映画です」

「カイジュウ?その意味がよくわからないけど、これは本物よ。大型の空間戦略生物で、実際に戦争に使われている通称エルドラっていうの」

 信じられないような事を先生は言うと、データをあれこれ出してくれた。

 そのデータをつらつらと、私は信じられない思いで見た。

 

『エルドラ』

 いわゆる空間戦闘生物で、本体の体長だけでも50mを超える。単体で宇宙空間の移動も可能で、自力で大気圏を突入してターゲットに向かい、さんざ破壊した後に自力で大気圏離脱して去っていく事ができる。その性質上、肉体は頑強そのもので、しかも重力破壊兵器を内蔵している。さらに一個の生物なので動きも早く、空間戦闘生物を想定していない文明に放たれた場合、致命的な破壊を一体で与える事も可能。

 弱点としては、音に敏感であるという報告がある。予告のない突然の大音響に驚いて動きを止めたという記録がある。

 あと良くも悪くも生物なので、原理的には鎮静も可能だという。ただし実際に第三者が鎮静したという記録はなく、よくわかっていない。

 製造はボルダの生物兵器工廠。

 

 宇宙怪獣ですか……マジで特撮映画かよ!

 しかもこれ……なんか似たタイプのに覚えがあるんだよな。まぁ日本の怪獣ものは歴史も長いから、よっぽど奇抜なものでもない限り、大抵何かに似ちまうとは思うんだけど。

 生物っぽいのに、どこか戦闘機めいたカタチに見えるのは、たぶん気のせいじゃないだろう。

 自力で虚空から惑星表面に至り、そして再び虚空へ離脱するには、どうしても機動性が必要ということかな?

 

「このエルドラはちょっと極端な例ですが、基本は全て共通です。つまり、これらの戦闘生物は後方攪乱に使われるものが多いのです」

「後方攪乱ですか?」

「はい。つまり戦場のコマとして使うのでなく、敵の警戒網をすり抜けて敵国で騒動を起こすわけですね。

 多くの戦争は無人機を使ったりドロイドを駆使しており、実際に現地にいる人員は決して多くありません。そしてこれらの戦闘生物が狙うのもまた、設備の破壊が中心で人間は偶然巻き込んでしまうケースを除けば範疇外です。

 ですけど、後方の本国でいきなり大災害が起きて連絡が途絶えたら、前線を維持できるでしょうか?

 つまり、これらの兵器が狙っているのはそこなのです。敵を倒すのでなく、前線の維持を妨害するための存在ですね」

「なるほど」

 完全に自立思考で直接現地に赴き、仕事をして、そして自力で帰投できる存在か。

 地球にそれにズバリ該当するものはないかもだけど、いわばミサイル原潜とかステルス爆撃機が強力なAIを積んで、本国から一度も見つかる事なく敵国を襲撃し、そして帰ってくるようなものかな?

 うむう。

 これは、なかなかにおそろしい相手かも。

 

「他にもさまざまな兵器が存在しますが、個々の兵器については実際に社会に出てから見聞きする事もあるかと思います。

 ただ、ここで重要なのはひとつです。

 住んでいる国が宇宙戦争をしていたとして、安全な後方に住んでいるからって油断しないこと。

 これだけは忘れないでくださいね」

 先生はそういうと、にっこりとほほ笑んだ。

エルドラについて。


 これも以前「コンビ」という外伝的作品に出したものです。

 兵器としては決して効率のよいものではないのですが、手間のかからない後方攪乱には最適というニーズがあり、広域宇宙戦争などの「隙間需要」として結構人気があります。何しろ指示しておけば勝手に考えて効率よく攻撃してくれるので。


時空震動弾をとりあげた作品について。


 80年代のTVアニメ『超時空世紀オーガス』のこと。当時少年だった野沢誠一は毎週見ていた模様。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ