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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二日『銀河文明の学び舎にて』
43/264

学校2

お久しぶりです。少し時間が飛びます。


 たった一日でいろんな事が起こりすぎると、たまに頭が受け付けてくれなくなったりする。

 本当に先日はひどかった。

 コアを使ったはじめての登校。

 アヤの本名についての話。

 不思議な白ヘビ人間のアディル先生。

 民族主義のヒト(アルカイン)族のポマスくんに、派閥。

 ヒーロー気質の赤いトカゲ(アルダー)のディッターくん。

 職業適性が巫女さんだったり。

 そして空を飛んで、宇宙で魔法のおけいこときた。

 

 

 そんなこんなで、この星の時間で一ヶ月ほどが過ぎた。

 

 

 さて。

 新しい生活をはじめる時っていうのは、最初の数日が非日常であって、その後はだんだんと日常に変わっていく。

 まぁ、学校だろうと職場だろうと生活っていうのはそういうものだと思う。

 入学直後とか新学期には当然、新しい環境と刺激がある。だけど、どんな暮らしでも日々のリズムが確立されてしまえば、それがその人にとっての日常になる。

 そういうものだよね?

 だから。

 こんな異星人だらけの日常だって、やがてすっかり日常となっていくわけで。

「おはようございます、サコンさん」

『おはようございます、メルさん』

 教室に顔を出すや否や、クラゲともイソギンチャクともつかない顔に出迎えられる。

 サコン氏。

 もちろんモンスターなどではなく、れっきとした異星『人』。

 そして、出会った次の日にはクラスメートになっていた『人』。

 カムノ族。人類型とは全く異なる系列の知的生命体だ。

 彼らのような知的種族もこの銀河には結構いるらしいのだけど、ここイダミジアにはあまりいないらしい。理由は簡単で、まぁひとことで言うと気候的な理由。ここの気温は彼らにとって、ちょっと寒すぎるんだそうだ。

 ではサコン氏はどうしてここにいるかというと、彼は研究者だからと言う。

『私の研究対象がこちらにいらっしゃいまして。そう、メルさんもご存知のアディル先生がそうでした』

「……でした(・・・)?」

 過去形なのか?

『はい。私の専門分野は、あなたもよくご存知の魔導コアですからね』

「なるほど」

 そういえばそうだった。

 魔導コアを研究する専門家。

 つまり、コアを持っているという理由で私も研究対象なんだって。

 

 そもそも、どうしてサコン氏が魔導コアの研究をしているかというと、実はサコン氏自身がコアもち、ただし私のような後天的なものではなく、生まれながらに持っているのだそうだ。

 カムノ族でコアもちは非常に珍しいそうで、おそらく今代は彼だけ。

 そしてそのことが、彼が研究者になったきっかけだという。

『自分の身体に一般的でないものがある。そして連邦やオン・ゲストロにもほとんど情報がない。つまり』

「未知への探求であり、同時に保険ってところかな?」

『ええ、そのとおりです』

 ひとが持たないものを持つ。それはちょっぴり得した気分になる事でもある。

 だけどそれは同時に、病気などの際にリスクを負う事でもある。

 だったら。

 自分のことを知りたいという欲求と、身の安全を確保したいという気持ちと。

 その両方を満たせるのが、彼にとっては研究者だったのだろう。

 でも。

「あれ?」

『なんです?』

 いや、ちょっと気になったのだけど。

「学者なら、わざわざ生徒しなくてもいいんじゃないの?」

 研究のために学校にいるのなら、わざわざ学生としてそこにいる理由はないはず。

 そんな私の疑問に、ああ、そういう事ですかとサコン氏は答えてくれた。

『そりゃ、お金がないからですよ』

「……は?」

 単刀直入すぎる話に、一瞬だけど目が点になった。

「国から研究費とか出てないの?学者さんなんでしょう?」

『出ていますけど、貨幣価値が違いすぎるんです。

 さすがに連邦やオン・ゲストロで生活できるほどくれとは言えませんし、言いたくもないですね。予算をつけてくれるのと引き換えに、国に借りができるのはちょっと勘弁してほしいですし』

「あー……何か大人の事情があるわけね?」

『はい。恥ずかしながら』

 私もあまりひとの事は言えないからね。

 そんな話をしていたら、声をかけられた。

「では次の設問。メルさん、答えてもらえますか?」

「あ、はい」

 おっと授業授業、もどらないと。

 予備脳のレコーダーで素早く過去一分ほどのログを見て、そして内容を把握。

 教科書をもって立ち上がると、私は答え始めた。

「連邦初期の三国同盟とその発足の理由について。

 連邦はオン・ゲストロと違い、多言語の翻訳による問題やロスを共通語構想により物理的に無くそうと考えました。そして、そのために採用したのが当時の言語学者アーロンの提唱していた人造言語『トゥム』で、この共通語を軸に連邦は最初ゆっくりと、でも実績を積み上げるごとに急速にその輪を広げていきました。

 ただこの方式は同時に、共通語方式を受け入れない国々との間の壁も厚くしてしまう結果となり、銀河の中に大きな利害の対立する勢力圏を生み出す元凶ともなってしまいました。そのため……」

 

 先生の質問に答え終わり、席についた。  

『さすがですねメルさん』

『いや、むしろいまのは責められるとこでしょ。先生の話を聞いてたのではなくて、単にログを見返しただけなんだから』

 サコン氏の賞賛に、小声でなく通信で返した。

『そうなのですか?』

『そうだよ』

 昔、ネトゲでプチ居眠りこいた後、仲間とのチャットログを見てそのまま会話に戻った事があった。周囲も「ああ今、こいつ寝てたな」と苦笑しつつも会話を続行していたのを思い出す。

 音声でなくキーボードでチャットしていた時代には、地球のネットでもそんな事できたんだよ。

 それで今なんだけど。

 もちろん、宇宙の学校の授業はチャットで行われているわけじゃない。だけど、この身体にある補助脳ってやつが優れていて、テキストチャットと同様に簡単に聞き戻せるし検索もできる。

 で、これをザッと読み返して返事したってわけ。

 いやぁ、すごいすごい。本当に便利だわコレ。現実(リアル)でテキストチャットと同じ事ができるなんて。

 スマホで音声入力を扱う仕事もした事あるからわかるけど、連続した音声認識って難しいんだよね。しかも相手を聞き分けるなんて。

 さすが宇宙文明、こんな細かいところまで超絶進歩しているなんて。

 おっと、話を戻そう。

 そんなわけで無事に先生の質問に答えられたわけだけど、本来は、よそ見してサコン氏と話していた事を注意するつもりのはずだったんだろう。

 すみません、先生。

 そんなわけで、ちゃんと先生に向き直って勉強の姿勢に戻した。

 教壇の先生はそれを見て「うむ、それでよろしい」とでもいうように微笑んで、そしてまた授業を再開した。

  

 

 授業がおわり、食事のため食堂に移動した。

 あの翌日、おなじクラスに移ってきたサコン氏は、ほとんど毎日のように私のそばにいる。このお昼もそうで、よろしくとだけ言ってそのまま私の隣に落ち着いた。

「ディッターくんは今日はどうしたの?」

『お友だちと仲良くケンカしているようです』

「ああ、彼ね」

 人間(アルカイン)族至上主義者のポマスくんだっけか。

 彼には初日に驚かされたんだけど、逆にいうとそれだけだった。

 多種族混在世界である銀河文明。そんな中で特定の種族だけを持ち上げるなんて自爆行為にも等しい。今は行き過ぎた郷土愛とか冗談と受け取られているようだけど、それなりに成熟した外の社会に出て行っても同じ事を言っていたら、もちろんただじゃすまない。

 そんな彼だけど。

『彼は彼で学んでいるのですよ。彼の民族主義とはつまり、故郷とは違う、多種族混在世界でアイデンティティを確立しようとした結果のひとつにすぎないのですから』

 う、それって?

「つまり一時的なものってこと?きちんと自分の立ち位置ができれば解決すると?」

『おそらくは。メルさんも経験したように、彼は主張が変なだけで悪人ではないのですから』

「あー、たしかにね」

 そうなのだ。

 いきなり初日でアレな出来事があったアルカイン族至上主義者のポマスくんだけど、実は普通に善人だった。単に自己主張がアレなだけで。

 そして、いろんな主張があってこその混在世界か。

 なるほどね。

 初日に率先して案内をしてくれようとしたのだって、たぶん本人には全く他意はない。純粋に厚意(こうい)だったんだろう。

 対するディッターくんだってそうだ。ふたりは主張や立場が異なるだけの似た者同士といえる。

 ああいう種類の人たちには、確かに日本でも覚えがある。

 たとえばポマスくんは、日本でいえば政治団体とか思想団体の人に似ている。変なヒモがついてはいるけど、やっている事自体は善意の行動だったりするという例のアレだ。

 対するディッターくんは、あれは偽悪タイプだろう。

 つまり誰かを助ける時、普通に手を出して助けたくせに、「たまたま目についただけだ」とか「いい歳こいて無理してんじゃねえよ」とか、なぜかその後に混ぜっ返してご破算にする人だ。

 悪ぶってみたり理由をつけたりするけれど、そういう人は大抵、偽善ならぬ偽悪の人だ。お人好しの善人と思われたくないとか、いろんな心理が働いていて、結果として悪者ぶったり、ぶっきらぼうに応対する。

 異質にみえるけど、実は善意という点では二人には共通点があって。

 そして、お互いのそれが見えるからこそ、ふたりは衝突するわけで。

『しかも両者ともお互いをよく理解している。しかも、相手を通して自分の問題点まで見えてしまうと』

「いい関係ってこと?」

『相手を通して自分も成長できるわけですから、まさにいい関係といえるでしょうね』

 サコン氏は触手をふるふると小さく震わせた。

 それは私たちがいうところの、微笑みに該当するものだった。

 

『ところで話は変わりますが、メルさん。今日の課外時間にちょっとおつきあいいただけますか?』

「いいけど、また町にいくの?」

 この学校に入った時、午後の授業がないのが変だと思ったんだけど、理由はすぐわかった。

 要するに、午後は課外授業のカタチになっていて、皆それぞれの事をしているんだよね。

 就職にそなえ、行き先でもうアルバイトを始めている人。

 さらなる勉強をして知識を、技能を磨く人。

 それぞれに時間を使っているわけで。

 で、私はどうしているかというと。

 地球でいうところの一週間みたいなものがあるのだけど、その前半はアディル先生の元で勉強する事が多くて、そして後半はサコン氏の案内で町にいく事が多くなっていた。

 え?遊んでいていいのかって?

 知らない文化圏の、知らない星の、知らない町。

 しかも、連れは非ヒューマノイド人類のサコン氏。

 学ぶべき事は、もうありすぎるくらいにあったから。

 

「それで今日はどこにいくの?」

『はい。酒場にと』

「酒場って、今は昼だけど?」

『そうですけど、それが何か?』

「いや……昼間から飲むわけ?」

『無理に飲む必要はありませんけど飲めますね。それが何か問題が?』

「……」

 

 むむ、それも価値観の相違ですか。

 まぁ、酒の国、高知県の出身としては楽しいお話ではあるのだけれども。


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