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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二日『銀河文明の学び舎にて』
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『このあたりでいいかしら』

 ずいぶんと上空に、というかすでに宇宙だけど……に到達したところでアヤは唐突に静止した。

 もちろん、遅れていた私もそれに合わせ、減速して停止した。

『……』

『なに?』

 意味ありげな無言の通信と目線を飛ばしてくるので、思わず問いかけてみた。

『なんで普通に静止できるのかしら。宇宙は初めてのはずよね?』

『うん』

『自覚もなしという事ね』

 そういって、アヤはためいきをついた。

 わけがわからない。

 わからないのだけど……心当たりが全くないわけでもなかった。

 

 もしかして私、何かやらかしたんじゃないだろうか?

 

 残念だけど、私という人間はあまり頭がよくない。空気を読むのも苦手だし、ひととうまくつきあう技術も持っていない。会話スキルも低い。

 まぁ個人的にいえば、人間、ひきこもろうが何をしようが、ひとに迷惑をかけなきゃ自由だとは思う。

 だけど同時に、全く誰にも迷惑をかけずに生きる事は難しいのも事実。

 まずいな。

 私はこういう事に鈍い。いつだって人の無言のサインに気づけず不快にさせる。

 そして気づいた時には大抵、もう取り返しがつかない。

 昔から、そんな事を何度となく繰り返してきた。

 

 これはちょっとまずいかも。

 とりあえず、相手がアヤなのは不幸中の幸いかもしれない。

 彼女ならきっと、まずい問題があれば教えてくれるだろうから。

 うん。

 聞くは一時の恥だ、さっそく聞いてみよう。

『ねえアヤ』

『何かしら?』

『私、もしかして何かまずい事やってる?』

『え?』

『いや、何か困らせてるみたいだから』

 我ながら情けない質問だよねえ……。

 だけどアヤを困らせたり、不愉快にさせるよりはいいだろう。

 だから飾らず、率直に尋ねてみた。

『……ああ、そういうこと』

 私の話をきいたアヤは、なぜかウフフと笑った。

『別にメルがまずい行動をとったとか、そういうわけじゃないの。今問題になっているのは能力面のことね』

『能力面?』

『予想よりも能力が高いのよ。それも桁が違うレベルでね』

『はぁ』

 アヤは、よくわかってない私に諭すように教えてくれた。

『今、わたしの停止位置にあわせて綺麗に停止したでしょう?』

『うん』

『ここはもう衛星軌道上なの。つまり体感的には限りなく無重力に近いといっていい。

 そんな場所に、しかも高速で下からあがってきたというのに……普通に綺麗に停止してなんの問題もない。

 はっきりいって、これは、はじめて宇宙にあがった者にできる事じゃないわ』

『あ……』

 そういわれれば、そうかもしれない。

『動かすより止める方が難しいってこと?』

『当たり前でしょう。慣性だって地上とは比べ物にならないし、空気抵抗もないのよ?』

 なるほど確かに。

 当たり前だけど、周囲はまったくの宇宙空間。

 何もない暗い空。そして周囲には空気すらもない真空の世界。

 宇宙服もなく、こんな場所にいられるのは確かにすごい事だけど。

 でも。

 そんなことより、そんな場所で普通に飛び回り、好きな場所に止まれるって凄い事だよね。

 なるほど。

 言われるまで全然気づかなかった。

 

 

『無事に宇宙まで上がってきたところで、そろそろ今日のお題をはじめましょう』

『え。今日のお題って空を飛ぶ事じゃないの?』

 思わず突っ込んでしまった。

『飛んでもらったのはただの移動と、あとは性能限界の確認にすぎないの。

 だいたい、自力であちこち飛び回れるようになっているのに、今さらそれをお題にしてどうするの?』

『あー、うん。たしかに』

 そういえばそうだっけ。

『じゃあ何をするの?』

『単刀直入にいえば戦闘力、いえ破壊力のテストね。浮遊している岩石を壊してみるのだけど』

『ちょっと待って!』

 アヤのセリフをあわてて止めた。

『それって前にソクラスの娯楽室でやったような事だよね?』

『ええ。あれは地球でいう拳銃レベルの低威力のものだけどね』

『無理に決まってるでしょう?』

 ソクラスでの情けない思い出が、蘇った。

 

 少し解説しよう。

 惑星イダミジアに来る途中、食後に腹ごなしと称して娯楽室で射撃テストを受けさせられたんだよね。地球の拳銃と同じタイプの銃を持たされて。

 ああ、銃といっても中身はコアをエネルギー源とするもので、大した威力もないオモチャみたいなものだそうなんだけど。

 で、その結果はというと……。

 うん、その、なんだ。

 反動でとんでもない方向に飛ぶわ自分の足元を撃っちまうわ、本当にさんざんだったんだよね。

 

『私は戦闘には向かない。あのテストでハッキリしてるよね?』

『あれはハッキリいってあまり参考にならないわ。ソフィア様に見せるためにやったという性格のものだしね』

『え、あれって見せる用?』

『ええ。だいたい、あれは人工の装置を使ってコアから機械的にエネルギーを取り出そうって一種の実験装置にすぎないのよね。それ自体は技術的に興味深い代物だけど、そんなものでメルの能力を測れると思う?』

『……無理な気がする』

『ええ無理よ。まぁ、メルの体内のコアが確かに作動してるって証明にはなるのだけどね』

『……』

 そうだったのか。

『それにね、直接コアを使って発射する場合、同時に逆方向に力を飛ばしてコアで打ち消せるのよね』

『え、そうなの?』

『その方がタイミングもばっちり合うし、あんな試作品の銃なんて使うよりもずっと簡単なのよ?』

『……あー、無反動砲みたいに使うのか。なるほど』

 無反動砲というより、バズーカといった方が通りがいいだろうか?

 よく映画なんかで、歩兵がロケット弾を発射できる筒みたいなのが登場すると思うけど、ああいうものだと思えばいい。

 人間があんな筒を手にもってロケット弾なんか発射していたら、本来ものすごい反動が出て吹っ飛ばされてしまう。ではどうしてそうならないかというと、発射の瞬間に反対方向にもエネルギーを放射する事で反動を中和するんだよね。その分多くの炸薬が必要になるし、派手にもなるんだけどね。

 なるほど、ああいうイメージでやればいいのか。

 以前の私なら困ったろうけど、杖のおかげで劇的に制御が楽になった今の私なら。

『まあとにかく、やってみましょう。ついてきて』

『あ、はい。ちなみにどこへ行くの?』

『どこって……』

 不思議そうな顔をした後、クスッと笑ってアヤは言った。

『宇宙の採石場かしら?』

『は?採石場?』

『ほら、日本の仮面何とかとか戦隊なんとかって、戦闘になると採石場にいくでょう?あれって、火薬とか使っても迷惑がかからない場所って事よね?』

『……たぶん、それで間違いないと思うけど』

 いったいどこでそんな知識を?

『誠一さんの記憶を走査した時、得た知識なので』

『心の声に突っ込まなくていいから』

 源泉は昔の私の記憶ですか、そうですか。

 

 少し移動すると、採石場というアヤの言葉の意味がわかった。

 ものすごく大きな、透明で箱のような空間があった。

 町のひとつやふたつは余裕で入る巨大な空間が、磁場か何かエネルギーの膜で隔離されていた。そして、その中には大小の岩塊やスクラップみたいなものが思い思いに浮いている。

『ここは?』

『わかりやすくいえば、一種のリサイクル施設ね。

 地球の採石場はリサイクル施設ではないけど、ここも本来は採石場として生まれたものなの。つまり、邪魔な岩塊や小惑星をもってきて、ここで少しずつ分解、整理して資材としていたわけ。

 ただ今では原子分解して再構成する技術もあるし、用途がだんだん変わっちゃったのよね。ここはどちらかというとリサイクル的な仕事が増えてしまったのよね』

『へぇ……』

 宇宙を漂っている色々なものを集めて、そこから資源をとる施設ってわけか。

 そんなことを考えている間に、アヤは何か受付らしいところに行ってしまった。

 そこにある機械みたいなのと話してる。

 聞き耳をたててみた。

『それで、今日はなんの用だい?』

『射撃テストしたいの。人員は二名で、まぁわたしは見ているだけなんだけど』

『あいよ二名ね、ここサインしてくれるかい?』

『あ、はいはい。ところで最近来訪者が多いの?』

『まぁ、増えてるかね。今日はあんたらで五組めになるかね』

『あら本当に多いのね。それはここだけの数字?』

『ここだけだな。ちなみにイダミジア管轄の「庭」全部の合計だと、平均一日百組、個体で三百超ってとこだな』

『本当に多いのね……それ全員ドロイド?』

『さて、うちらは重サイボーグとドロイドの区別がつかないから断言はしないが。書類上で言うなら、重サイボーグの来訪者はあんたのお連れさん一人だけだな』

『それって人間は誰も来てないって事よね……そう、ドロイドの来訪が増加しているのね』

『もともと、こんなとこで装備テストなんてやるのは物好きとドロイドだけだろ?違うかい?』

『あは、そうね』

 なんだろう、この会話は。

 たぶん、庭っていうのはこういう施設の事を言うんだろうな。

 私にしてみれば、何かのエネルギー場で周囲と隔離しているっぽいこの施設も、得体のしれない魔法的な結界と区別がつかない。何もないところにエネルギーだけで障壁を作ってモノを閉じ込めるなんて、地球では完全にオーバーテクノロジーの概念だし。

 ほんと、どこまでが科学でどこまでがアレなのやら。

 といっても、現場にいる私にとって『SF』はないんだけどね。

 だってSFとはサイエンス・フィクション、つまり『科学的考証に基づいた壮大な作り話』なわけで。だから、そもそも魔法か科学かって悩む以前に、現場でそれを見ている私にとって、その時点で『作り話』じゃないからね。おもいっきり現実なわけで。

 とはいえ。

 昔のスターブレイザー映画じゃあるまいし、宇宙飛んでる戦艦の甲板で宇宙服も着ないで話し込んでる男女がいて、風が髪がたなびいてるっていうのは勘弁してほしいよね。アレはそういう作品だから別にいいのだけど、アレを指さしてSFっていう人がいるのは納得できなかった。あれは冒険活劇ではあるけどSFじゃないだろって。

 ああでも。

 宇宙にいるのに巫女さんだの魔法だのってほざいてる私も同類なのかもって思うと、ちょっと頭が痛いよ……。


 なかなかテストが始まりません……。


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