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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二日『銀河文明の学び舎にて』
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かえりみち

 やたらと濃い昼食時間が終わった。

 クラゲもどき(カムノ)族のサコンさん、それにトカゲ(アルダー)族のディッターくんとはリンクの登録もしたし、当面お友達として交流をもつ事になった。聞けばサコンさんはちょっと変わった立場でクラスを移動できるそうで、私たちのクラスに移動してくるつもりだとか。

 これは、ちょっと面白くなりそうだね。

 でも、なんていうか……魔法だの巫女だの、なんかファンタジーなネトゲでもやってる気分だよ。

 

 だけど、友人たちはもちろんファンタジー世界の住人ではなく、生身の異星人。

 私だって、中身がおっさんの元地球人の全身サイボーグ。

 そんで。

「……」

 窓の外を見れば、遠くにどどーんと巨大な塔……そう、軌道エレベーター。

 うん。

 やっぱりここは惑星イダミジアであって、サイバーでオーバーテクノロジーな宇宙文明の世界だよね、うん。

 

 そういや昔「サイバーと名のつくものはロクなもんじゃない」って言い放った偉い人が地球にはいたというけど……。

 いやいや、そんなアホな事考えてるヒマがあったら帰ろう。うん。

 

 

 学校の門から出ると、そこは高速道路のたもとにある街はずれ。歩いている人もたぶん、ほとんどは学校関係者。

 まぁ、学校だけならいざ知らず、こんな高速のICみたいなところの周辺に街作らないだろうしね、めんどくさそうだし。

 さて。

 走り出そうと思った私だけど、そこでふと考えた。

 空を飛んで帰れないだろうかと。

 アヤとの訓練の時でも、自動車やバイクレベルの速さでは飛べた。そして今朝だって、そのへんの速度で走っていたわけで。

 だったら。

 それに杖を加えれば、もっと安全かつスムーズに帰れるんじゃないか?

「……」

 杖に力を流し込む。

 まだ二時間と使ってないはずだけど、実にスムーズに杖は力を受け取った。そしてぼんやりと光り始めた途端、いくつかの術式が頭にポンポンと浮かんできた。

 おお。

 まるで私の、空を飛びたいっていう気持ちに答えてくれたみたい。

 ようし、じゃあ……。

羽根(ファー)

 指示通りにキマルケ語で魔力を込め、つぶやいてみた。

「お」

 ふわり、ふわりと身体が浮き上がった……だけど。

「……浮くだけみたい」

 何かの作業には使えそうだけど、どこかに飛んでいくのは無理っぽいかな。

 えっと、これの解除は……ああ魔力を止めればいいのか。

「お」

 すとんっと下に降りた。

 まわりに注目されるかと思ったけど、特に見ている人はいなかった。

 後で知ったんだけど、空を飛べる程度の高機動義体の持ち主はそこそこいるらしい。だから女の子が唐突に空を飛んだとしても、ああと思うくらいで注目される事はないんだと。

 それは、さすがというべきなんだろうか?

 ま、それはいい。次いこう。

(フォワー)

 これ、とても最初の『羽根』と発音が微妙。正直、私もアヤにもらったデータなしに外国語として聞いていたら、理解できたかどうか。

 でも、中身は大違い。

「!」

 次の瞬間、私は大空に投げ出されていた。

 

 一瞬焦ったけど、すぐに制御が戻ってきた。

 おそらく、慌てた瞬間に過大な力が流れたと思うんだけど、それを杖が抑えてくれたっぽい。暴走しないように。

 なるほど初心者むけってことか。

「……しかし」

 すごいなこれは。

 今どこにいるかというと、少なくとも数百メートルばかりは上空だった。ここまでたぶん、二秒とかかっていない。

 しかも、それを瞬時に制御しきるなんて。

「すごい杖だなぁ」

 思わず、まじまじと手に持った杖を見てしまって……っ!

「うわっとっとっとっ!?」

 一瞬気が抜けて、ぽろりと杖を取り落としてしまったんだけど。

「……え?」

 だけど次の瞬間、私は何が起きたのか理解できなかった。

 手から離れて落下しかけたはずの杖が次の瞬間、私の手の中に戻っていたからだ。

「え?え?」

 わけがわからない。

「も、もしかして……」

 今度は積極的に、ぽいっと投げ捨ててみたんだけど。

「……うわぁ」

 確かに投げ捨てたはずなのに、なぜか手の中に戻っている。

 なにこれきもい。

「えっと……お、何かまた字が浮いてる」

 読んでみた。

 

『緊急機能について』

 奪われたり、天変地異などに巻き込まれて杖が手から離れてしまう事がある。

 だがキマルケ巫女においては、巫女が杖を選ぶのでなく杖が巫女を選ぶ。よって不意に奪われたりした場合でも、それがあなたの杖である限り、あなたの気持がどうあろうと杖はあなたの手に戻る。

 もし手放したいなら修行して上位の杖と結ぶべし。ちなみに理力の杖の次は通常、コウロギかイナゴの杖となる。

 

 やっぱり自動帰還機能あったんだ。

 でも持ち主の気持と関係なく戻るって、やっぱり何かキモイんだけど。

 

 あれ、まだ何か書いてあるぞ。

 

『収納について』

 巫女が最初に習う魔法は、言うまでもなく小物入れである。あれは初歩の亜空間収納であるが、雑用に小物入れは欠かせない道具なので、ほとんどの神殿や社務所では最初に教え込む事になっている。

 もし未収得なら、どんな形でもいい。道具の入るポケットを想像しつつ杖に魔力を流せ。

 なお、杖そのものも小物入れに収納できる。

 その場合の杖の呼び出し方は『杖よ目覚めよ(ベイ・アー)』である。

 

 ああ、そういう魔法もあるのね。

 小物入れってアレか、ゲームのアイテム入れ(インベントリ)みたいなやつか。やくそう99個とか保存できるんだろうか?いや、やらんけどさ。

 けど、必要ない時に杖を収納できると便利だよね。

 よし、やってみよう。

 ゲームのインベントリをイメージしつつ、杖に力を……。

「お」

 できたっぽい。

 とはいえ、こんな空のど真ん中で試すのもなんだし、そろそろ移動しますか。

 

 きょろきょろと周囲を見回す。

 何しろ数百メートルの上空だから、登校時に使った高速道路もよく見える。目印の看板もばっちり。

「ということは、帰り道はあっちか」

 ようし。

 杖の手をかりて、そろそろと『(フォワー)』に力を回していくと。

「お」

 はじめはゆっくりと、そしてだんだんといい速度で、音もなく空を飛びはじめた。

 

 

 私は昨夜、アヤのシミュレータの中でばしめて空を飛んだ。

 だけど、あの時はコアを制御するので四苦八苦するばかりで、とてもまわりを見る余裕がなかった。

 それが今、こうしてのんびりと空を飛んでいると。

「すっごいなぁ」

 まさに、それしかなかった。

 地球にいたなら、どんな航空機に乗っても味わえなかった事。

 自分の身体ひとつで、身ひとつで飛ぶ空なんて……それこそ懐かしの少年ロボット漫画の主人公でもないと無理だったろう事。

 夢の中でしか叶えられなかった事。

 

 私は今、空を飛んでいるんだ!

 

 速度を維持しつつも高度を下げ、高速道路にそって飛んでいく。

 今朝も思ったけど、高速にはたくさんのクルマが走っていた。地球のに似たデザインのもあれば全然違うもの、そしてクルマというより飛行機みたいなのとか、さらに騎乗動物っぽいものまでちらほら。

 こんなに混在していて、よく事故らないもんだ。

「あら?」

 そういえばと見ていて、ふと気づいた事があった。

 そう。誰かが運転しているっぽい乗り物がほとんどないのだ。皆無ではないけど希少っぽい。

 ちょっと考えた末、検索してみた。

 

『イダミジアにおける手動運転車の存在について』

 イダミジアでは手動運転車と自動運転車が混在している。地域により比率もさまざまで、全惑星でデータをとると、自動運転が約七割で、手動が三割である。これは連邦の統計に比べると手動の比率が非常に高い。

 

 連邦はもっと自動化してるって事か。

 やっぱりそういうとこは、オーバーテクノロジーの世界なんだなぁ。

「お」

 そんな余計な事を考えていたせいだろうか?

 ふと気づくと、全然知らないところを飛んでいる事に気づいた。

「しまった……どうしよう」

 一本道ならよかったんだけど、実はさっきから何本ものジャンクションがあったりして、どの方向に戻ればいいのかもわからなくなっている。

 しかも、ご丁寧に雲が出てきて視界もきかず。

 現在地の確認?

 あははは、忘れてたよそんなの。

 せめて、ずっと現在地を記録していたら履歴からわかるんだろうけどさ。

「笑いごとじゃないよね、どうしよう……」

「ああそうだ、軌道エレベータ!」

 えっと、軌道エレベータまでの方向と距離を調べれば、それを頼りに戻れるわけで。

 

『どの軌道エレベータの位置を出しますか?』

 

「いくつもあるんかいっ!」

 ダメだ、これも使えない。

 ん、まてよ?

 

 周辺マップをみようと思って地図を呼び出していたんだけど、その中心に何かの光点をみつけた。

「えっと、これって……私だよね?」

 いいけど、本当にゲームみたいだな。

 ん?ゲーム?

「もしかして……」

 確か、ソフィア、アヤ、それからサコンさんとディッターくんとはリンク結んだわけで。

 あれってもしかして、ネトゲのフレンド登録みたいなもの?

 だとすると……。

「アヤの居場所は……おお出た!」

 見ている景色に重なるように、アヤのいる方向と距離がパパッと映される。

 おおおおっ!なにこのVRみたいなの!

 すげー、ほんとにすげー!

「よし、あっちか!」

 私はヨシッとうなずくと、そっちに向けて飛び始めた。


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