異星の理(ことわり)
オーバーテクノロジーの銀河文明の世界で巫女さんとか魔法とか、いったい何事なんだかと思う。
だけど、どんな世界にも文化はあるわけで。
それに魔法なんていっても、要は理解できない謎の技術をそう呼んでいるだけの話。空を飛ぼうとした人間をバカにしたり排斥したりしてきた歴史のある地球人に、それをバカにできる資格があるとも思えないだろう。
確かにそこの存在し、そして未解明なもの。
だったらそれは『非ざる』もの、つまり非科学ではなく未解明のもの、すなわち『未』科学というべきだろう。
正直、宇宙をナメていたと思う。
アルダーだの何だのといっても、結局は細かいパーツが異なるだけでヒトに似た存在だった。だから、見た目的にどんな異形が現れたとしても、結局は似たようなものだろうと、そんな浅墓な気持ちでいたのも事実なわけで。
だけど現実は違った。
目の前で、何本もの触手で食器を扱い、器用に食事をするクラゲだかタコだかわからないような『宇宙人』。
どうしようもなく完全な、非人類系知的生命体。
『すみませんね。驚かせてしまいまして』
「あー、いえ……とりあえず落ち着きました」
事実「落ち着いた」というのは正直な気持ちだった。
助けたその時は気が動転していたのか、全然気にならなかったんだけど、冷静になってから改めて彼、サコン氏を見て。
うん。
見た目はすごい。うん、いろいろと。マジでビビった。
だけど。
ちゃんと理性的な会話ができて、意思が通じるせいだろうか?
何とか落ち着いてしまえば、別にこわくはないね。
「三大種族以外をはじめて見たんだよな?」
「あーはい、たぶん」
「それなのに、よく平気だな……タフなもんだ」
「そう?」
「ああ」
ディッター君は、私の反応に何か思うところがあったらしい。
「俺の故郷も異種族なんていなかったからな。宇宙に出て最初はビビリまくりだったぞ。まぁ話しているうちにだんだん、そういうものなんだって慣れてくるんだけどな」
「私もビックリしたよ?」
「そうか?でもそれにしちゃあ」
『確かに、異種族相手の生理的嫌悪感が少ないようですね』
ふむふむとサコン氏がうなずいた。
いや、うなずいたといってもヒューマノイドじゃないから意味違うのかもしれないけど。
でも確かに同意していると感じた。
「サコン、俺の言ってる事わかって言ってるよな?」
『ええわかってますよ。あなた方、広い意味でのヒト族の多くにとって、私たちのようなタイプは時として怪物のように扱われ、また生理的に嫌悪される事もあるものだとね。ここに来るまでにそれを実感させられてきましたし。
しかしですディッター、だからこそ面白いのですよ』
「おもしろい?」
『彼女は私を認識して大変驚いたようですが、でも驚いただけなんですよ』
「というと?」
『私と意志の交感ができると認識した時点で、みるみる落ち着いてしまいました。今はむしろ良い意味で好奇心のほうが強い。嫌悪感もゼロとは言いませんが、はじめて見たとは思えないほど希薄なのですよ』
「サコンがそこまで言うなんて……本物ってわけか」
『ええ本物です。間違いありませんね』
「なるほど」
まじまじとディッターが私の方を見た。
「えっと、なに?」
「いや、さっきの事なんだけどな。おまえ、なんかこう変身しただろ。変な杖も持ってたし」
「へ?」
私は一瞬、しらばっくれた。
いや、確かに私は昔、テレビで見た魔法少女のイメージで治療を行ったわけだけど。
だけど、それはあくまで『治療する者』としての私のイメージ。
まさか、その姿が第三者から見えてたとは想像してなかったわけで。
『なるほど、他者から見えている自覚がなかったのですか……えっとメルさん、接続承認を』
「あ、はいはい」
もう慣れたものだ。サコンさんからアクセスがきてオッケーを出した。
『ディッター、君もよろしく』
「おう」
続けてディッター君からも要求がきてこちらもオッケーした。
『よし、これで情報共有できますね。ではまずこれを』
「っておまえ、あの状況で映像記録とってたの?」
『私の記録装置は強力なのです。なかなか便利ですよ?さて』
サコンがそういったところで、唐突に三人の間にビデオ映像らしきものが開いた。
「わ、なにこれ。空中にウインドウが」
『面白いですよね。実際にはこんな映像なんてないのに、まるでそこにあるかのように共有できるのですから』
まったくだ。地球のHUDでごまかしたニセVRなんて真っ青だね。
で、問題の映像の中身なんだけど。
「……本当にこんなに見えてたの?」
『ええ、見えてましたよ』
「ああ、見えてたぞ」
キラキラと輝いたかと思うと、私の服がヒラヒラした魔法少女風なドレスになり、そしてピンクの杖が現れた。
うん、確かにアニメのあの魔法少女によく似てる。服と杖は。
そして、歩いてサコンさんの元に行くと
『聖なる杖よ。このひとの命に力を与えよ、毒に打ち勝つための抵抗力を!』
セリフも記憶通りか。
呪文とかは唱えてない。アニメの方でも治療時には呪文を使ってなかったからね、私の記憶通りならば。
で、サコンさんの治療が行われて。
「……他の人にも見えてたなんて」
思わず頭を抱えた。
「一瞬でもとに戻ったという事は、実際に服を替えてたわけじゃないよな。どういう事だ?」
『推測だけど、このウインドウと同じだと思うよディッター』
「これと?でも俺たちはリンクしてなかったんだぞ?」
『そのとおり。全くリンクしてないその場の人々に同じものが見えていたわけで、その時点で完全に規格外ではある』
サコンさんはそこまで楽しげにいうと、
『そうですよね?メルさん?』
「……たぶんそうかと」
実際にピンクの杖に変化されても困るし、あんなヒラヒラドレスで歩きまわって私は男ですとか絶対言えない。
要するに。
「私には治療する力なんて使えないから。だから記憶にある、治癒のちからを持つ者を想像して……そしたらこうなってたんだけど」
『なるほど。「幻の専門職」ですね』
「なんだそりゃ?」
『話にきいた事があります。自分にない能力を使うために、それが使える専門職になりきる事でその力を借りる。確か、どこかの巫女職の学習過程で学ぶんだとか』
「へぇ……それって、何でもできるの?」
『いえ、要は類似の似たタイプというか……巫女が神官の代わりはできるけど、連邦式の技術を使う職業はできないそうです。要は、同じような力で再現できないものは無理って事なんでしょうね』
「なるほど……ああ、あれか。宇宙勇者の冒険だ!」
ディッターがポンと手を打った。
『なんですかそれ?』
「俺の星にあるガキ向けの娯楽ドラマなんだけどよ。何か魔法っつーか得体のしれない力を得た主人公が大人のプロフェッショナルに変身して、ガキにはできない難事件を解決したりするんだが」
『そんなドラマがあるんですか。宇宙は広いのですね』
「……」
それって……おもいっきり魔法少女モノの典型パターンじゃないか。
えっと、それはつまり。
アルダー族、つまりトカゲさんの世界にも魔法少女ものがあるってこと?
うわぁ……。
見たいような、見たくないような。
『どうしたのですかメルさん?』
「いやその、地球にも似たようなものがあるんだけどさ」
私は内心ためいきをつきながら、日本のヒーローものや魔法少女アニメについて説明した。
「へぇぇ、ガキ向け娯楽番組なんざ、どこの世界でも大差ねえってことか?」
『これは本当に興味深いですね。できれば私もこの地球の番組というのを見てみたいものです』
「そ……それはちょっと大変かも」
『そうですか?』
「いやだって、物流はないし。かりにあったとしても、地球の規格のビデオなんて再生できるわけがないし」
『そうですか。現地に見に行くというのは?』
「あー……少なくとも今すぐは無理ですね」
『そうですか?』
「はい。ディッターくんでもひと騒動ありそうですけど、ましてやサコンさん見たら……みんなビックリして、大騒ぎになっちゃいますよ」
『なるほどそうですか』
フムフムとサコンさんはうなずいた。
厳密にいうと、ひとつだけ可能性はある。
すなわち本格的に国交がスタートとして、銀河文明の住人が地球で認知されれば……少なくとも日本では珍しがられる事はあっても拒否はされないだろうって思える事。
だけど。
さすがにそれは無理だよねと、私はためいきをついた。
スッポンパー: 有名な某スペースオペラ漫画の外伝物語に敬意を評して。
僕、大好きなんですよ。