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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二日『銀河文明の学び舎にて』
32/264

変身

 うっすらと光りはじめた杖。何事かと思ったんだけど、理由はすぐにわかった。

 私の魔力だ。

 なんの事はない、私から流れこんだ魔力が何かのきっかけで動き出し、光を放ったらしい。

 そして私の脳裏に、キマルケ語で言葉が浮かんできた。

『杖は願望器であり、ただ使用者の望みを叶えようとするだけの存在である』

 へえ?

『魔力というリソースが尽きない限り、どこまでも持ち主の意図を反映しようとする。しかし、他ならぬ本人がこれをうまく使いこなせない事で制限が発生する』

 あー……うん、言わんとする事はわかる。

 結局それって、アヤが言っていたのと同じだよね。

『意志の力でエネルギーを取り込み変質させ、これにより望む事象を引き出す力となります』

 そうアヤは言った。

 意志をうけて発動するものだからこそ、意志と魔力さえあれば何でもできる。

 だけど魔力が足りなかったり、意志がいいかげんだったりすると、思うように動かす事ができないってわけだ。

 なるほど。

 細かいことはよくわからないけど、確かに筋が通ってると思う。

 でも、じゃあさ。

 その制限を何とか埋める方法はないのかな?

 

『理論的には、あらゆる事象を起こす事ができるが、難しいものもある。

 たとえば巫女は医療知識がないので、いかに治療したくても直接医療行為はできない。具体的にどう骨をつなぐか、どう傷をいやすかの指示をする事ができないからだ。もし無理に行おうとすれば、確実に患者を死亡させてしまうだろう。

 だが現実には、医療行為は下級巫女でも行っている。

 この差異を埋めるのに最も多用されるのが「医療士になる」事である』

 

 ん?つまり医者になるってこと?

 どういうことだろう?

 

『医療士は魔道により体内を腑活化して医療行為を行う事ができる。人体の知識があったほうがよい医療士になれるが、なくても通常の医療行為なら問題ない。

 だから、巫女が医療行為を行う最良の方法は、医療士になりきる事で医療魔法を間接的に駆使すればよいのである。

 もちろん大病の治療には向かないが、本職の医療士がくるまでの時間稼ぎなら全く問題ないだろう』

 

 そうか、つまり自分自身が医者になる事によって、多少性能は落ちるけど医者の魔法が使えるってことか。

 おー、よくできているんだなぁ。

 

 ん、あれ?でも。

 この医療士って、つまりキマルケ式の、つまりこのコアの力を使ってる医者って事だよね。同じコア使いなんだから、なりきり状態で物まねすればいいって事だよね?

 つー事は……今の私では使えないって事?

 いや、いやいやいや、ちょっとまてよ?

 

 目の前にいる、クラゲともイソギンチャクともつかない異形の患者さんを見る。

 う……なんか苦しんでる。

 先生やお医者さんはまだなの?

「おいどうした!」

 先生きた。

 ああ、さっき道を尋ねたトカゲの先生じゃん。

「ティガ先生、こいつ倒れたんだ!なんか身体にあわんもの食べたんじゃないかって!」

「なに、ちょっと見せてみろ!」

 先生はクラゲさんに近寄り、そして眉をしかめた。

「こりゃあいかん、ちょっと待て!」

 そういうと先生は右の耳を押さえて何かしゃべりだした。

「俺だティガだ!食堂で生徒が倒れてる!カムノ人だ!食中毒かもしれん、すぐ医療班を!

 ……なに、カムノのデータがない?ばっかやろ生徒として入れた時点で医療データは必須だろうが!ざっけんなスカート野郎!さっさとやれ!」

「せ、先生せんせい、言葉」

「おうわかっとる、それよりこいつを安静にするんだ。誰か毛布をそこに敷いてくれ!」

 先生が、なんかきびきびと指示をはじめた。

 そして私は、クラゲさんの状況を『見た』。

 

『サコン・ココカカ・カムノ』状態、悪化中(あと推定30分強で治療不能となる)

 カムノ族の青年。といっても完全な非ヒューマノイドであり、足のたくさんあるクラゲのような異様な姿である。

 故郷では古代魔法の研究家をしていたが、もちろん連邦でもオン・ゲストロでも魔法なんてものはないので、ただの難民扱い。

 現在、食中毒で危険な状態だが、本来の体調なら問題ないレベルのはず。

 なんらかの方法で生命力を回復させれば自力で毒消しできる。

 

 生命力を、回復?

「……」

 頭の中に、昔みた癒しの魔法少女の姿がもう一度浮かんだ。

 

 そうだ、そうだよ。

 キマルケの魔法の医者なんて、見たこともないものなんて私には再現できない。

 だけど。

 あの魔法少女なら、きっと……!

 その瞬間、杖がパアアアッと一気に光りだした。

 

 身体の中を、何か清浄な光がビュンビュンと駆けぬけていく。

 身体を包む服が一度カタチを失い、遠い昔に見たアニメの魔法少女の衣装に作り替えられていく。

 ああ……これは。

 ふと杖を見ると、杖も今までのファンタジーな杖でなく、ピンク色のアニメの魔法少女の杖に変わっていく。

 

 

「うわ、な、なんだ!?」

 ビックリしたようなディッター君の声で、ハッと我にかえった。

 ああいけない、やるべき事をしなくちゃ。

 私はうなずくと、クラゲ人さんの元に移動した。

「お、おい」

「お話はあとで」

 困惑顔の先生にひとことそういうと、クラゲ人さんに向けて杖をかまえた。

「聖なる杖よ。このひとの命に力を与えよ、毒に打ち勝つための抵抗力を!」

「!」

 杖から緑色の輝きが溢れると、クラゲ人さんに向かって降り注ぎはじめた。

「お……これは」

「よくわからんが……何か回復してる?」

「おいサコン、サコン!」

「いや待て、まだ揺らすな!光が止まるまで待て!」

 私のやっている事を多少なりとも理解してくれたのか、先生がまわりの生徒を止めてくれた。

 その間にも、クラゲさんの中にとどまっていたよくないものはだんだんと小さくなって……そして消えてしまった。

「……終わった」

 光を止めた。

「どうですか?えっと……お名前はサコンさんでいいのかしら?」

『サコンで結構です。アルカのお嬢さん』

 頭の中に声が響くと、ゆっくりとクラゲ……サコンさんは起き上がった。

「お、おいサコン、もう大丈夫なのか?」

『ああ、彼女が生命力を回復させてくれたおかげですよ。これで自力で毒を追い払えました』

「え、そうなのか?」

『これでも本来、毒素には強いタイプなので。ただ今回、ちょっと弱っているとこに無理をしたのがまずかったようです』

「そうか……やれやれ驚かすなよ」

『みんな、すまなかった。先生ありがとうございました』

「うむ、しかし念のために医療班が来たら看てもらっておけ。いいな?」

『はい先生』

 そういって、サコンさんは皆に軽くおわびをして、先生にも謝意を示した。

 そして。

『ところでお嬢さん、お願いがあるのですが』

「へ、私?」

『はい。助けていただいておいて、いきなりぶしつけな願いだとは思うのですが』

 そういうとサコンさんは、するすると触手を出してきて私の手に絡ませた。

「え、あの?」

『実は私、これでも魔道研究者なのです。さきほどの魔道の発露、そして不思議な力の使い方。是非ともお話を伺いたいのですが?』

「はぁ……」

 クラゲかタコかって異星人さんに、もしかしてお誘いされてますか私?しかも興味しんしんな感じで?

 えっとその……。

 自分で言うのもなんなんですが、日本で生活していたウン十年も含めて、お誘いなんて生まれてはじめてなんですけど?

 

 はじめてのお誘いの相手が、クラゲの宇宙人さんですか……。

 ちょっと色々とマテやオイ。

 

「あ、すまねえカムノさん、そのお誘い俺も混じっていいか?」

『サコンでいいですよディッターさん、お嬢さんも。ところでお嬢さんのお名前を伺っても?』

「あ、メルです」

『ほう』

 なんか、キラキラとサコンさんの中で何かが輝いた気がした。

『なるほどよい名ですね。よろしくお願いしますメルさん。

 ではおふたりとも、とりあえずはお食事の再開からでも』

「あ、たしかに」

 もってきた定食は、もう冷えはじめている。

 

 ふと気づいてみると、衣装もいつの間にか元に戻って。

 そして杖も、ピンクのかわいい魔法少女のでなく、元の杖に戻っていた。


『スカート野郎』

 しっぽのある種族が、しっぽのない種族を揶揄する言葉。ひらひらするもんがないので代わりにスカートでも履いとけという故事に由来する。決して女装趣味の事ではない。

 類似の言葉に「てめー(の尻尾を)踏んでやる」という言葉がある。「ざっけんなこのスカート野郎!」「やかましいわ、踏まれたいかてめえ!」って感じに使う。ちなみにしっぽには神経の集まっている種族が多く、大抵踏むと痛い。

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