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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二日『銀河文明の学び舎にて』
30/264

適職候補2

「ガレオン族ってご存知かしら?男は狼、女は獣耳の人間っていう風変わりな姿で有名な種族だけど」

「え?」

 その名前には覚えがあった。

 そう。

 ソフィアに教えてもらったばかりの、とてもめずらしい例だという種族の名前。

 そういやソフィアもいってたっけ。

 

『もちろん自然にそうなったものではないわ。彼らには彼らの歴史的事情があってこうなっているだけで、彼らは本来、私たちと同じアルカイン系の種族なの』

 

「彼らの姿は昔、滅亡を回避するためにあの手この手を使った事の後遺症なのよ、知ってる?」

「ソフィアに聞きました。そういう種族がいるって」

「そう。実は最終的に彼らの星を緑化し、滅亡から救ったのもキマルケの巫女なのよ。

 ついでにいうと、これは伝聞や伝説ではないわ。連邦の記録にもちゃんと残っている事実よ」

「え、そうなんですか?」

「ええ。

 もっとも連邦側の担当官も、どういう経緯で緑の星に戻ったのかは全然わからなかったそうだけどね。ただ調査中にいきなり全惑星の気候が変わり始めて、みるみるうちに正常化。おそろしい勢いで植物や動物がはびこりはじめたそうよ。

 まぁ、その余波なのか知らないけど、精密機械がたくさん壊れたってオチもあったそうだけど」

「精密機械がですか?」

「ええ。壊れた機械の中はカビが生えたり虫が住み着いたり、大変なことになっていたそうよ」

 うーむ、わけがわからないな。

 あれ、でも。

「……ああ、そうか」

 悩みかけた瞬間、頭の中で、理屈も何もかもすっとばして何かの確信みたいなものがあった。

「なるほど。緑の呪文(ル・ファール)でしたっけ、たぶんソレの影響なんでしょうね」

「え?」

「いえ、ですから。

 急激な緑化をしたのはいいけど、たまたま機械の中にある程度の湿気があって、胞子が入り込んでいたんじゃないですか?そいつまで急成長しちゃったと。動物はわかんないですけどね」

「そうね、報告書にもそう書かれているそうよ。植物の急成長を促した原因まではわからないそうだけど」

 やっぱりか。

 どういう原理で起きたものかは知らないけど、確かに星が救われるような事態が起きたと。

 その原因が何かは別にして、それは確かに起きたわけだ。

 うん、興味深いね。

「アディル先生」

「何かしら?」

「お話はわかりました。とても興味深いと思います。

 ところで、とりあえず私はどうしましょう?」

「えっと、なに?」

「ですから。

 元々ここでやっていた事って、私の職業の最初の見極めですよね?」

「え……あー、ええ、ええ確かにそうね、ええ」

「?」

 なんだろう?

 アディル先生、何かこう、微妙に何かひっかかるような態度なんだけど?

「先生?」

「何かしら?」

「何か隠してます?」

「……隠してはないわね」

「というと?」

 先生は私を見て、すうっと目を細めた。

「適性が特殊すぎるの。間違いなくこれを伸ばすべきなのは確実なんだけど、この職業を目指すべきっていうのが断言できないのよね」

「……は?」

 わけがわからなかった。

「えっと、具体的には?私の適性って?」

「ぶっちゃけると、あなた一般職の才能ないと思うの、全然」

「……」

 おうふ。

 ものすごい否定(ディス)られ方をしてしまった……。

「断言ですか。マジで?」

「ええマジよ。

 他の才能もなくはないけど、ひとつの才が強すぎてね、他の職種につけばたぶん、ことごとく本来の才能が邪魔をしてひどい目にあうと思うの。

 だから、ここは逆らわず、本来の才覚を伸ばすべきだわ。先生絶対にそう思う」

「……」

 理由を詳しく尋ねてみたら、傷口にナイフ突っ込まれてかき回されたでござる。

 ああ、もうやめて先生、私のライフはもうゼロよ!

 ……なんつって、アホな事を考えそうになった私の頭に、先生の次の言葉が飛び込んできた。

 

「あなた、普段から思考に没頭して夢に溺れてるでしょ?」

「!?」

 

 私は思わず、ギョッとしてアディル先生の方を見た。

「ああ、やっぱりね」

「いえ、あの先生?それは単に私が夢見がちなだけの話で」

 小さい頃からよく注意されたものだ。ボーッとしているんじゃないって。

 でもそういう時って、ボーっとしてるんじゃなくて、何かの考えに夢中になったり、何かの情景を見たりしている事が多くて。

 だから。

 ボーッとしているっていうのにムッとしたりする反面、ひとが考えを巡らす時って、他人から見るとボーっとしているように見えるんだろうなって普通に認識していたわけで。

 なのに、アディル先生は違うと断言した。

「そうね、あなたはそのつもりなんでしょうけどね。

 でもねメルさん、あなたはその心理状態の時、限りなくトランス状態に近いってわかってる?」

「トランス状態って……」

 あわてて否定しようとした。

 だけど残念だけど、私には覚えがあった。

 

「そういや昔、集中すると神がかって見えるって飲み友達のおっちゃんに教祖様にされかけた事があるけど」

「あら、過去に実例まであるんじゃないの」

「いやいやいや、あれは単にタロット占いやってただけだから!」

 子供時代、タロットやおまじない(ウィッチクラフト)の類に傾倒してた時代がある。友達の影響で一過性のものだったけど、十九くらいまでは特技にしていて、たまに占いを披露していたんだよね。

 とにかく時間がかかるので、だんだんやらなくなったんだけど。

「占いね。昔やってたのかしら。やめちゃった理由は?」

「親戚の婆ちゃんの未来を占っていたんだけど……どういう死に方をするのか当てちゃったんだよ」

 しかもそれを「まさかね」といいつつ本人に告げちゃって。

 そして、そのとおりに本人が亡くなっちゃった。

 

 出たカードだって一部は覚えるよ。もうずいぶん昔なのに。

 そのカードは『剣の四』だった。

 

 ぶっちゃけると当時の私にとって、占いは神秘な感じのする楽しい遊びだった。むかしの人が残した、エキセントリックで楽しい遊びだと。

 だからこそ、たまたま当たってしまった悪い予想は、私に占いをやめさせるに十分すぎたんだ。

 

「そこまで明らかな萌芽があったのに、どうして神職を目指さなかったのかしら?」

「そりゃあ男だから巫女職はできないですし、実家の宗派の都合でも無理ですし。なったなら坊さんかなぁ」

 元々の母方の家系は神道だったんだけど、じいさんが仏教に改宗したんだよね。ばあちゃんだって神社の家系だったそうなのに。

 何があったのか知らないけど……まぁ当時の事情なんだろう。

「なるほど、現地の宗教的理由で神職には就かなかった、そういうわけね?」

「はい」

 そもそも、適性が巫女だっていうんならお坊さんは無理だったろうしなぁ。

 アディル先生は「ふむふむ」と私の話を聞き、そして少し考えこんだ。

「現状であなたの適性を活かせるとなると、ボルダに行くしかないかしらねえ」

「ボルダ?えーとそれって」

 先生の国と交流があったってとこだっけ?

「キマルケと似たような経緯の星で、今も惑星単位で神事をやっている星なの。国家元首を神官長がやっているのに宇宙にも進出しているって、ものすごく変わった国なんだけどね」

「へぇ……はじめて聞いたかも」

「え、そうなの?」

 不思議そうにアディル先生は私を見て、そして「あ、そうか」と納得顔になった。

「なんです?」

「そういや、ソフィア姫……ソフィア様の庇護下なのよねあなた。そりゃあ知ってるわけないわね」

「え?」

 どういうことだろう?

 首をかしげた私にアディル先生は笑うと、とんでもない爆弾を落とした。

「ボルダはね、連邦未加盟で仲もよくないんだけど……実はソフィア様の故郷、惑星アルカインのおとなりの惑星なのよ」

「いいっ!?」

 なんじゃそりゃ。

「ちょ、ちょっとまってください」

「?」

「アルカインって連邦の中枢なんですよね?」

「ええそうよ」

「じゃあそのボルダって星……連邦中枢の星とそんな隣接しているのに、連邦と敵対しているっていうんですか?」

「敵対はしてないわね」

 ふるふるとアディル先生は首をふった。

「連邦的感覚だと、ボルダは宇宙文明のない原始惑星なの。

 知的生命はいて全惑星も掌握しているのは知っているけど、そういう文明に対し連邦国家は手出しをしないの。むしろ彼らが自力で宇宙に出るまでは、見守るにとどめるっていうのが原則なのよね」

「……なんだかわからないけど、いろいろと複雑なんですね」

「ええ、そうなのよ」

 先生はクスッと笑って、そして言った。

「まぁいいわ。とにかくメル、その杖はあなたに預けます。使いこなせたら、そのままあなたのものにしてもいいわ」

「え、これを?貴重なものじゃないんですか?」

「貴重なのは否定しないけど、贈られた時のキマルケ側の条件に合致するからかまわないの」

「条件に合致する?」

「この杖が当時のオン・ゲストロに預けられた時、キマルケの担当はこういっていたそうよ。『未来に、そちらに巫女候補が現れる。その者に扱えるよう特に調整した杖だ。現れたら引き渡してやってくれ』ですって」

「……はい?」

 わけがわからなかった。

「それって……二千年前の話なんですよね?」

「ええ、そうよ」

「そんな昔のひとがどうして、未来にオン・ゲストロに候補が現れるって断言したんです?変じゃないですか?」

 そんな私の当然の疑問に、

「さあ?けど、キマルケ巫女ってそういう人たちだったらしいから、別に不思議はないかも」

 アディル先生はそういって、クスッと笑ったのだった。


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