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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第一夜『アンドロイドの少女』
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遭遇

ソフィア嬢の登場です。

 その人が目立ったかといえば、特にそんな事はなかった。

 金髪碧眼の外国人といえば、俺の子供時代の田舎では結構珍しかったのだけど、現代ではさすがに珍しいわけもなかった。このあたりには今の仕事の都合で引っ越してきたのだけど、中でも特に外国人が多いエリアで、昼食をとりに入った定食屋の中ですら、英語ですらもない外国語の会話を聞く事がある。

 だからむしろ驚いたのは、流暢な日本語で「すみません」と尋ねられた時だった。

 え、俺?

 なんで金髪碧眼の外人さんが俺に用なわけ?

 一瞬困ったのだけど、すぐに「ああ」と気づいた。

 

 なんか知らないが、俺って昔から、知らないおっさんやおばちゃんに道を尋ねられるんだ。

 

 よほど平凡なお人好しに見えるのか、ただの地元のおっちゃんに見えているのか。

 とにかく俺は、よく道を尋ねられる。数名の人間と歩いていても何故か俺が尋ねられるから間違いない。

 正直、よくわからない。

 だけど昔、やはり仕事の都合で車に乗っていた頃も、ヒッチハイカーなんて時代ハズレな珍しい存在を拾って最寄りの駅まで送り届けた事もあったりするわけで。

 

 うん。

 やっぱり俺、どこかお人好しな間抜けに見えるんだろうな。

 

「えっと、はい。なんです?」

「すみません、駅まで行きたいんですが道がわからなくて」

 

 うわ、やっぱりかよ。

 まぁ、そうでもない限り、こんな美女が俺に話しかけるなんてありえないけどな、わはは。

 ちなみに、なかなかの美人さんだった。

 ただし、ちょっぴり癖のある美人だった。若き日のシガニー・ウィーバーを思わせるといえば俺の同年代ならわかってくれるんじゃないかな。映画のスクリーンの中、エイリアンと戦って駆け回っていた女傑だ。

 ただ、どこか浮世離れした雰囲気もあって、それが不思議だった。

 なんていうか……庶民や商売人のせせこましさを持っていないというか、なんというか。

 そんな美人が、ライトグレーのレディススーツを華麗にまとっていた。

 俺はシガニー・ウィーバーというとどうしても女傑や科学者のイメージがあるもので、似た人がライトグレーのスーツをまとっているというのはちょっぴり新鮮だった。でもやっぱり似合ってはいるわけで、美人は得なんだなぁとか、当たり前のような事をこっそりと考えたりもしていた。

 さて、それはそれとして。

「駅ってどこの駅?」

 ここ、近くに地下鉄が通っていて複数の路線があるんだ。駅が違うと乗り換えが面倒になる事もある。

 よくよく尋ねてみると、少し遠くにある乗換駅だった。

「そんなとこまで歩くのか?JRに乗りたいのか?」

「いえ違うの、そこの近くに用があるのよ」

「そうか。だったら地下鉄経由がおすすめだよ。ここからなら170円ってとこだろ」

 歩くとちょっと遠いし時間帯も夜だ。地下鉄を勧めてみた。

「いいの、歩いていきたいのよ」

「ちょっと危険な盛り場もあるし、安全をとる事をおすすめするよ?」

「そう、ありがとう。でも歩きたいの。なるべく安全な道ってわかるかしら?」

「あー……『比較的安全』であって絶対安全じゃないんだけど、それでもいい?」

「ええ、いいわ」

 一応だけど、途中、ふたつの駅前を通過する道を教えた。

「いいかい、この道をまっすぐ行くと途中で2つに分かれてる。それを左の方にいくんだ。あとは道なりの道が続いて広くなったりもする。で、途中にある駅の前に近郊の地図があるんだけど……地図は読める?」

「たぶん大丈夫」

「もしわからなくなったらそれを見て。で、駅前をふたつ通るけど、よく探せば交番も近くにあるから、本気で迷いそうなら迷う前にそっちを頼る事、いいね?

 とにかく、迷うと危険だから注意して、いいね?」

「ええ、ええ……ありがとう」

 そういうと、美女はにっこりと笑ってくれた。

 おおーマジで美人さんだー。

 この歳になると正直、だからどうって部分はあるけど、眼福なのは間違いないよな。

「それじゃあ行くわ、ありがとう」

「いえいえ。気をつけて」

 それだけいうと、俺たちは別れた。

 

 この小さな出会いが、まさか俺の人生をすっかり変えちまうきっかけになるなんて。

 まったく、本当に人生、何があるかわからないよな。

 だけどこの時の俺は、当たり前だがそんな事思いもしなかった。

 ただ、この小さな親切イベントは晩酌の酒の肴になるかなとか、そんな、実にどうでもいい事を考えながら俺はいつもどおりの道を歩き続け、そして最後にまだ営業しているスーパーに立ち寄った。

 買ったのは独身むけの安売りカット野菜、それからなめこ。

 冬以外は家に野菜をストックしない人なんで、これは助かる。炒めものをして酒の肴にするつもりだった。

 さて、帰るか。

 そうして歩き出した。

 

 家といっても、俺が住んでいるのは会社指定のアパート。会社の方針で、ありがたい事にいくらか補助を出してくれるんだ。こんなご時世に、口をきいてくれた上司にも会社にも、本当に心のそこから感謝してます。

 徒歩なのでゆっくりだが、家は確実に近づいてくる。

 単身赴任なのは事実だけど、俺は独身だから自分の家族はない。いい歳してひとりはどうよって話もあるけど、婚活以前に出会いがないしなぁ。

 え?さっきの女の人?

 いやいやいや、道を尋ねてきただけの人に何を期待してんだよ。ねえよそんなの。

 物語の世界じゃ、女の子が空から降ってくるような話はいくつもある。それはそれで幻想的だったり中二病だったりはするのかもしれないけど、現実にそんな事あるわけがない。

 仮にそういう派手な運命的な出会いがあったとしても、俺に限ってそれはないよな。もしあるとしたら、それは女の子じゃなくて、やばい感じの黒服のおっさんだったりとか、なんか電波入ってる系のおやじだろうさ。ようするにネタとかギャグってこった。

「ん?」

 そんな、くだらない事を考えていたせいだろうか?

 俺の視界になぜか、妙なものが目に入ってしまったんですが。

 

 黒服のおっさんだよ、しかも複数。

 

 家までの道の途中に、なんか真っ黒い車が来たと思ったら、黒服のおっさんたちをわらわらと吐き出した。

 なんか、ものものしい感じだな。捕物でもあるのか?

 びっくりして見ていたら、そのおっさんたちの目が俺の方に向いた。

 え?

 え?え?

 俺?

 

 ありえない事に、そのおっさんたちはなぜかまっすぐ俺を見ていた。

 えっと、俺の後ろに誰かいるのか?

「……」

 振り返ってみたけど、誰もいない。

 えっと、なにごとですか?

 俺、なんかやらかしちゃったの?

 

 まごまごしているうちに、黒服の男たちが近寄ってきてしまった。

 

「君、すまないがちょっと聞きたいんだが?」

「はぁ、何でしょう?」

「さきほど君が話していた女性の事なんだが。どういう関係か教えてほしいんだが」

 何か手帳のようなものをチラつかせている。警察か何かなのか?

 うーん?

「さきほどって……レジのおばさんじゃないですよね?誰の事です?」

「そうじゃねえよオイ、だから」

「よせ!」

 なんか男のひとりが眉をつりあげて。でもそれを他の男が止めた。

 な、なんだこれ?

 もしかして……なんか、ろくでもない事に巻き込まれているのか?

「あの、よくわからないんですけど、たぶん何か誤解じゃないですかね?

 女性ってことですけど、俺と話した女性なんて、あとは道を尋ねてきた人くらいですし」

「道を尋ねてきた?」

「ええ、JRの駅までの道が知りたいって。

 あそこからだと地下鉄経由したほうがいいって教えたんですけど歩きたいっていうんで、比較的安全な道を教えましたね。それが何か?」

「……ふむ」

 男たちは顔をつきあわせて、何か話しはじめた。

 何かしらないけど、女の人探して黒服が複数たむろってるのって気持ちのいい光景じゃないな。いったい何なんだろう?

 とはいえ、俺みたいなのが関わる案件ではなさそうだな。

 俺はポリポリと頬を指でかいて、そして一応尋ねてみた。

「えっと、俺いいですか?帰りたいんですが?」

 いいですよとか、帰っていいよという返事を期待していた。当然だが。

 でも、返ってきた返事は俺の予想を完全に裏切っていた。

「いや、ちょっと待ちなさい。悪いがもう少し聞かせてもらう」

 え?

 なんか知らないが、腕を掴まれていた。

 なんなんだこれ。

 

 女の人に道を尋ねられて教えてあげたら、黒服に捕まった。

 意味がわからない。

 

「あの、えーと何事なんです?」

 正直ビビッていた。

 無理やり笑顔を作ろうとしたけど、無理のようだった。自分でもわかるくらい顔がひきつっていた。

 いやだって無理だろ。相手はごっつい黒服集団だよ?

 そして、そんな俺の顔を見た男たちの顔が一気に険しくなった。

 ちょ、なんか誤解されたっぽい!?

「どうやら、もう少し詳しく伺ったほうがよいようですね……オイ」

 うわぁ、なんかうなずき合ってるし。

「え?え?」

 俺が対処できずにいる間にも、黒服たちは俺をさっさと包囲してしまった。

 明らかに、強制連行しようってのがありありとわかる感じだった。

 

 うわぁ、なんだよこれ!?

 誰か、誰かちょっとっ!!

 

 でも、こんな時に限って誰もいない。

 まぁ、誰かいたところで、こんな黒服見たら家に逃げ込むだろうけどな。絶対なんかやばい感じだもの。

 

 そして俺は逃げる事もできず。

 そのまま連行されようとして……。

 

「何をしてるの?」

 

 そんな涼し気な女の子の声が、そんな動きを止めた。


お読みいただき、ありがとうございました。

続きは明日になります。

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