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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二日『銀河文明の学び舎にて』
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授業開始

「それでは、彼女が本日より皆さんと勉強する事になりました、メルさんです。

 メルさんはここから千光年以上離れたチキュウという星で生活していたそうですが、その星には宇宙文明はなく、母星のまわりに小さな有人衛星を飛ばすくらいの文明だったそうです。

 皆さん、仲良くしてあげてくださいね」

 へー、マジかよ、みたいな声が聞こえる。

 あと……なんか知らないけど、ぶしつけな視線に全身をまさぐられているような気がする。

 

 も、もしかしてこれって……そういう目で見られてるってこと?

 正直ちょっと勘弁してほしいんですけど。

 てゆーか先生、こっちの性別ご存知なんですから、せめて成人男性とはいわないけど男の子扱いしてくださいよぅ。

 

 日本語ではない言葉で展開されている事を除けばたぶん、どこにでもあるような新入生紹介そのものだった。

 建物もそうだ。玄関には下駄箱はなかったし土足仕様だったんだけど、でも、その昔、私のいた高校も土足だったからむしろ懐かしい。まぁ、何か掃除ロボットみたいなのが清掃して回っているのは違和感あったけど。

「メルさん、はい席について。授業はじめますからね」

「あ、はい」

 新入生の紹介をしたから、逆の自己紹介もあるのかと思ったけど、それはなかった。さっそく授業に入るらしい。

 指定された席についたところで、いきなり横から声をかけられた。

「ねーねー彼女」

「?」

 見ると、栗色の髪のアルカイン族、つまり人間の男の子だった。隣の席にいた。

「オレ、ポマス・カワン・オーバ・ムリシェ。わからない事があったら何でも聞いてくれ!」

「はぁ、ありがとうございます。こちらこそよろしく」

 ちょっとぶしつけな感じはしたけど悪意は感じなかった。こちらに興味はありありのようだったけど。

 とりあえず、今はそれどころではない。

 私は前を向いて先生の話に耳を傾けた。

 

 さて。

 カリキュラムとか、どうなってるんだろう?

 変な時間にきたから、細かい説明が全部後回し。資料なんかは休み時間にもらう事になっていた。

 とりあえず、現在話を聞いた限りでは、教科は主に、

  

・銀河系種族および国家情勢

・主要言語総論(主にオン・ゲストロ共通語および連邦標準語)

・各種選択教科

 

 の、3つだった。

 まぁ細かいのは他にもあるらしいけどね。歴史とか。

 

 国家情勢は文字通りのお勉強の時間らしい。

 主要言語総論というのは、挨拶や言い回しの用法テキストをデータで配りつつ、実際の挨拶や応対をやってみるというスタイルらしい。

 最後の選択教科というのは色々あり、決まってない者は面接や見極めが行われる。そして希望がない場合、最も向きそうなところに教員たちの判断で振り分けられるらしい。

 ちなみに、その選択で固定ではなく途中で変更もありだそうで、あまり難しく考えるなとの事。実際、何度も変わっている者もいるけど、逆に幅広い視線を得て最終的に決まった職種で役立てている者もいるというから、本当にそのへんは流動的なんだろう。

 なるほどね。

 

「本日の授業は、前半が国際情勢、後半は選択教科になります。メルさんはまだ教科が決まっておりませんから、私のところにきてください。第一回の見極めをする事になります。

 それでは、五分後に国際情勢の授業に入ります。少し待ってくださいね」

 そういうと、アディル先生は教室を出て行った。

 転入生みたいな扱いだから、もしかしたら興味津々に囲まれる可能性も考えた。だけど話しかけてきたのはやっぱり、さきほどのポマスという男の子だけだった。

 転入生は珍しくないって事か。なるほどね。

「メルちゃんの故郷って、種族はアルカだけなのかい?」

「はい、そうですけど?」

 アルカ。アルカイン族、すなわち人間の事。

「知ってるかい?アルカは銀河の第二位でさ、第一位はぶっちぎりでトカゲ、つまりアルダー族なんだよな。

 でも実は、国家あたりの生産力はアルカの方が高いんだってさ。つまり優秀って事だよな!」

「はあ、えっと?」

 何を言いたいんだろう?

 だいたい、教室の中にはそのアルダー人もたくさんいる。こんな場所でそんな発言していいのか?

 ほら。

 なんか、あまり穏やかじゃない目を向けてきている奴がいるんだけど?

「オレの夢はね、ルド総帥、つまりこのオン・ゲストロで一番えらい人の下で働く事なんだ。そのためにここで知識を得て、力を磨いてるんだ。

 そりゃあ、今のオレじゃあ総帥やその下にいる人たちの足元にも及ばないだろうさ。

 だけど、オレはアルカだ。伸ばせば間違いなく上にいけるはずだ。

 きっとオレはやる。やるんだ!」

 さいですか。

 まぁ実際の向き不向きとか能力もあるだろうけど、ポジティブなのはきっと悪く無いよね、うん。

 ただ、ちょーっときになった事もあった。

「ポマスくんっていったっけ?」

「おう」

「自分の出身種族を誇らしく思うのは素晴らしい事だと思うのだけど、言い方と場所には気をつけた方がいいんじゃないかな。ひとの上にたとうっていうんなら特にね、わざわざ自分から敵を作る事はないと思うんだよ。

 今日きたばかりの私が言うのもどうかと思うけど、どうかな?」

「あっそ、そうか、それもそうだな!」

 なんか一瞬、口ごもって、そしてワハハハと笑い出す。やたらと声がでかい。

 うーん、なんなのかなこの子は。

 よくわからなかったけど、応対する前に授業が始まった。

 

 

『銀河系の情勢について』

 現在、銀河系宇宙には約四万強の星間国家が存在する。種族数は、主要種族が五十二、確認されている知的種族数は二千に及ぶ。

 一部の種族はイーガ、それに周辺の小型星雲にも重なっている。

 また、割合としては圧倒的にアルダー族が多いため、イーガなどでは銀河系の事を「蜥蜴(トゥム)の銀河」と呼称している。

 

 

 ふーんと思ってデータを見ていたのだけど、ふと違和感がよぎった。

 星間国家の数が四万あるわけで。

 なのに種族の数が……みんなあわせても二千五十二?

 

 それって、少なくないか?

 

 ふと気になったので、授業と平行して銀河系住民の統計データにアクセスしてみた。

 ……やっぱり少ない。おかしくないかこれ?

 星間国家ってやつがどういう構成になっているかは知らない。

 だけど、ひとつの星が発展して文明を作り、それから宇宙に進出するとして。種族っていうのは各星間国家にひとつとは言わないまでも、それに近い事になるんじゃないのか?

 それとも。

 たとえば人間っぽい容姿をしているとかそういう基準で、実際には全くの異星人であってもアルカ、アルダー等と呼んでいるのか?

 えっと、うん。

 じゃあ、生体データを調べてみようか。

 よし、サンプルとしてアルカイン族で。

 

『アルカイン族』※地域によりヒト族、ニンゲン、アルカ等

 最古のアルカイン族は少なくとも六千万年前の記録に存在する。細かい経緯は不明だが、この時代に広く全銀河に拡散、現地の霊長類と結びつくなどにより一部地域ではバリエーションが広がるが、全体的にはむしろ外部の遺伝形質を取り込むだけで、種族としての根幹は変わらずに広がっている。

 この傾向はいわゆる『アルバ系族』の全てが該当する。

 

 アルバ系族?なんだそれ?

 

『アルバ系族』

 アルバとは知的生命を意味する。いわゆる人型ドロイドのアルバと同じ意味である。

 連邦単位で約六千万年の昔に突如として銀河に拡散した種族の総称。アルダー、アルカ、アマルー等、先頭の発音がよく似ており、この発音をとってアー系族などと当初は呼ばれていたが、後に知的種族を意味するアルバがあてられた。

 これらの種族拡散の理由は不明だが、交易に長けた文明がこの時代に繁栄し、これにより汎銀河(はんぎんが)的に広まったのではないかと推測されているが、現地種族と交流しても遺伝形式の基本は変わらないまま強化される等、いくつかの共通する謎がある。

 なお、一部ではこれらの種族が人工的に広げられたという説もある。

 

 ……人工的に広げられたって?

 

 それはまたすごい説があるんだなぁ。

 いやま、さすがに眉唾だろうけどね。

 

 だってこれ、今いる銀河の大種族のほぼ全部が「人工的に広げられた種族」ってことだよね?

 

 もしこれがマジなら。

 いやいやいや。

 

 そりゃあ、事実は小説よりも奇なりっていうけどさ。

 いくらなんでも、そりゃあアレだ。宇宙冒険活劇(スペースオペラ)じゃないんだからさ。

 ないでしょ、そりゃ。

 

 だけど。

 なんだろう、その激しくイヤな予感って?

 

 授業に意識を戻した。

 種族ごとの人口の割合とか、発展の度合いとかの統計的なグラフ、それから代表的な偉人なんかの話が出ている。

 

 私は、なんかズキズキと頭が痛む思いだった。


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