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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二日『銀河文明の学び舎にて』
23/264

ドロイド式登校風景(2)

 身体の中から噴き出してくる、よくわからないエネルギー。

 最初は、なんだか得体の知れないものだった。

 そして、どうにか自分なりの制御の方法をみつけた事で、走るくらいなら何とかなりはじめたようなんだけど。

 

「いい感じですね」

 私に並走しつつアヤは微笑んだ。

「何かを媒介にして、制御のとっかかりを掴んだんですね。最終的にはともかく、最初はそれでいいと思います。あとは練習ですね」

 あい、どうもありがとう。

 返事をしたいんだけど、声を出すと全部バラけそうな気がするんだよね。

 この感覚も、覚えがある。

 裏声で歌う練習をしていた時なんだけど。

 きちんと理解している歌は歌えるけど、よく知らない歌をカラオケのガイドボーカルを聞きながら歌おうとした途端、声がむちゃくちゃになって歌えなくなっちゃったんだよね。

 つまり。

 慣れるまでは、こうして制御中は余計な事はできないって事だろう。

 私たちは、すでに人間の走る速度を明らかに超えていた。

(お)

 ずっと砂利道だったのが舗装に変わった。

「あっちです」

 みれば、その先には高速道路のゲートみたいなもの。

 え、このまま高速入るの?いいの?

 どうやら、いいらしい。

 まさか、マラソンで高速道路に入るような経験を宇宙でするなんて。

 複雑な思いを抱えつつ、私はその、高速みたいなものに入っていった。

 

 

 道はやっぱり高速道路だった。少なくとも地球のそれにあたる道だった。

 たくさんのクルマらしき乗り物がびゅんびゅん走っているのと同じところを、私とアヤは走りだしていた……変わらない速度で。

 すごい。

 すごいんだけど……果てしなく違和感バリバリなんですが?

 アヤに質問したい。

 質問したいけど、声が出せない。

 うーむ。

『高速道路を走っているのが変だと思いますか?』

 通信でアヤが話しかけてきた。

 どうやらアヤは、私の目の動きで疑問を察してくれたらしい。

『単純にいえば、ここの法律ではドロイドも自動車の扱いという事です。なので走っていいんですよ。

 ですが高速道路というシステム上、ある程度の速さで走れない者がいると、そのドロイドかその主人が処罰される事になりますが』

『……へぇ』

 なるほど、そういうものなのか。

『ですけど、驚くにはあたりませんよ?日本だって、たとえば馬は軽車両といって、自転車やリヤカーと同じですけど交通上の区分がありましたからね』

 あ、そう言われてみれば、そうだったかも。

 確かに日本では、馬、自転車、リヤカーは軽車両の分類になる。

 だけど、もし地球に、高速道路を利用できるレベルの騎乗動物がいたとしたら?

『おわかりいただけたようですね』

 にっこりとアヤは笑った。

 へぇ……。

 そういわれつつ周囲に注目していると、自動車とは明らかに違うものが時々混じっているな。

 なんか、ダチョウみたいな走る鳥に乗っている人。

 あと、馬に似ている大きな動物に乗っている人。

 おー、さすがに宇宙の高速道路だ、色々いるな。

『あのひとたちと話す事はできるかな?』

『話す?通信ですか?でも』

 アヤが何か言い出す前に、私はそのダチョウみたいなのに乗ってる人に通信で話しかけていた。

 あ、ちなみにこの人、たぶんドロイドだと思うよ。

『すみません』

『ん?ああ、そこのお嬢さんかい?どうしたんだい?』

 乗っているのは、アルカイン種……つまり人間タイプのドロイドのおばさんだった。ちょっと恰幅がいいっていうか迫力のあるおばちゃんなんだけど、大きなダチョウもどきにとてもよく似合っている。飛行帽やユニフォームみたいなのも決まってるね。

 よし、ダチョウさんについて聞いてみるかな?

 ところが。

『すみません、ちょっとお聞きしたいんですけど……』

『ん?ああ、あんた「じゃじゃ馬の娘」かい。もしかしてこの星に来たばかりなのかい?』

 え?

『えっと、じゃじゃ馬って?』

『ん?知らないのかい?あんたの横で並走しているアルカタイプのドロイドのことさ。

 人間どもがなんて呼んでいるのかしらないけどさ、あたしらはその娘っこの事を「じゃじゃ馬」って呼んでるのさ』

『へ……』

 予想もしない情報だった。

『そうなんですか?私は彼女の名前を「アヤ」だと聞いてるんですが?』

『ああ、それなら間違いないね。

 その娘の名前は「アヤマル・ドゥグル」。よくしらないけど昔の言葉で、じゃじゃ馬娘って意味だそうだよ?』

『そうなんですか?』

 めっちゃ初耳なんですが?

 ていうかアヤの名前で『アヤ・マドゥル・アルカイン・ソフィア』って聞いたんだけど?

 そう思って聞き返そうとしたら、何かアヤが通信に割り込んできた。

『申し訳ありません、その情報はこの子には少し早すぎますから』

 え?アヤ?

『聞こえてたのかい、キマルケのじゃじゃ馬っ子?』

『あなた誰ですか。通りすがりに見せかけていますが、わたしたちにわざと近づいてきましたね?』

 え?え?え?

 なにこれ。どうなってるの?

 おばちゃんは、アヤの指摘にケラケラと楽しげに笑った。

『あたしゃ、ただのンルーダル下町(したまち)の飲み屋のおかみさ。今は朝の仕入れの帰りだよ?』

 飲み屋?

『ほれ、これが紙片情報(リパ・ピーラ)だよ娘さん?』

 次の瞬間、私の脳裏にポンと名刺みたいな小さなデータ塊が現れた。どうやら、おばさんの情報らしい。

 ふむふむ。

 ンルーダル下町の食堂『ズニーク』か。

『わたしを知っていて、なおかつこの子も知っている……やはり只者ではありませんね』

『なぁに、あたしはただちょっと耳が早いだけさね』

 そういって、おばさんはまた笑った。

『まぁいい、じゃじゃ馬も娘っ子も聞いときな、たぶんそっちじゃ掴んでないだろうしね。

 ……あんたらの事を、エリダヌス教が嗅ぎつけたようだよ?』

『まさか。いくらなんでも、それは早過ぎるのでは?』

 エリダヌス教?

『詳しいことはあたしも知らないね。ただ、エリダヌス教徒の知り合いが動き出してるからね、おそらく間違いないよ』

『……』

『ま、そんなわけさ。

 じゃじゃ馬、あんた最近エリダヌス教に顔出してないのかい?キマルケにいた頃は縁があったんだろう?

 今回の事を知った彼らがどう動くのか知らないけどさ。

 でも、一度は顔を出しておいたほうがいいかもしれないね?』

『……そうですか』

『ま、あたしから伝えられるのはこのくらいかね』

 ふむ、とアヤは何か悩んでいるようだったが、

『とりあえずお礼をいうわ、ありがとう』

『って、別にお駄賃はいいんだよ?わざわざくれなくても』

『いえ、その情報は情報屋のそれに匹敵すると思います。仔細の信頼性はともかく感謝します』

『そうかい?それじゃあ、ありがたくもらっとくよ?』

 なんだろう?

 もしかして対話だけじゃなく、謝礼でも渡したのか?

『お嬢ちゃん、気が向いたらいつでも店においで。一杯やりたい時でも、かくまってほしい時でも……そして、一人寝の寂しさを埋めてほしいときもね!』

『最後のは遠慮しときます』

『ひひひ、そうかい。でもまぁ、何かあったらおいで。うちの店じゃ、見知らぬ土地に単身乗り出すような無謀なバカはいつだって大歓迎さ。じゃあねえ』

 そういうと、おばさんの乗ったダチョウもどきはスピードをあげて、行ってしまった……。

 

『……』

『……』

 しばらく、私とアヤは黙ったまま走り続けていた。

『ねえアヤ、さっきのおばさんの言葉で……』

『詳しい話は、今はちょっと』

『ああうん、わかった。じゃあひとつだけいいかな?』

『答えられる事ならば』

『アヤの名前って、アヤマル・ドゥグルっていうの?確かソフィアに聞いた名前は』

 ああ、それですかとアヤは苦笑した。

『それは連邦での名前ですから、本当の名前ではないんですよ。わたしのオリジナル名は……確かに、アヤマル・ドゥグルが正しいです』

 あ、そうなんだ。

『ちなみに意味も『じゃじゃ馬』で正しいの?』

『はい、間違ってないですね』

 そういうと、アヤは遠くを見る目をした。

『わたしは当初、今のメルのように制御が下手くそで、しかも暴走事故も起こしたんです。

 それで、わたしの正式名を決めるとき「じゃじゃ馬娘がいいんじゃないかな」って言い出した人がいて』

『それは……善意なのか悪意なのか』

『アヤっていう名前には可愛いって意味もあるので。

 だから、キマルケの命名でアヤマル・ドゥグルというのは「かわいいじゃじゃ馬」という意味になります。かなり古い言い方ですけどね』

『へぇ……』

 と、そこまで思った時だった。

 ふとわたしは、いつかの夢に見た言葉を思い出していた。

『ねえ、アヤ』

『はい』

『だったら「ドゥグラール」っていうとなんて意味になる?』

『え?』

 アヤの目が少し開いて、そして私の方を見た。

『えっと、どこでその言葉を?』

『わかんない。でも、何か夢の中できいたかも』

『夢の中、ですか……』

 アヤは少し悩んでいたけど、やがて言った。

『ドゥグラールという単語はないです。ただ、思い当たる言葉はあります』

『なるほど。ちなみになんていうの?』

『その言葉がわたしの推測通りならたぶん「ドゥグル・アール」ではないでしょうか?

 ちなみに、意味ですが……じゃじゃ馬の娘という意味になります』

『!?』

 え?

 その瞬間、私は思わずコアの制御を誤ってしまった。

「うわっ!」

「っ!」

 少なくとも時速140kmは出ている状態で、いきなり制御を失ったわけで。

 吹っ飛びそうになったところで、簡単にヒョイとアヤに捕えられてしまった。

 うわ……。

 これでも長年、単車に乗っていたのでこの程度の風ではビビらない。

 だけど。

 運転しているわけでもタンデムしているわけでもなく、女の子に抱えられてこの速度で疾走というのは……別の意味で怖いものがあった。

『はいはい、危ないですよ。気を落ち着けて』

『あ、はい』

 どうやらコアの暴走が止まってなかったようだ。

『はじめて制御して走ったことを思えば立派なものです。これから毎日通えば、すぐに慣れると思いますよ』

『なるほど』

 そのための訓練だったわけか。

『それじゃあ、そろそろ高速をおりますけど。ここまでの位置情報の変化は覚えてますか?』

『あ』

 しまった、途中から止まってたよ。

『やっぱりですか。では、あの看板をおぼえてください。ここが降り口です』

『看板?』

 みると左手、10時の方向あたりに、オン・ゲストロ文字の大きな看板があった。白地にでっかい赤字で『キマセル73』とある。

『なに、あの看板?』

『商品名です。水素ベースの液体燃料で、エアバイクなんかに使われているものですね』

 ほう……。

 よし、覚えたぞ。

 ん?

 もちろんこの場所を、ね。


  


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