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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
200/264

キャンプ

 リンからその能力などについての説明を受けた。

 驚くべきことに、彼女はサイボーグつまり元人間でありながら、ドロイドとしての能力もがっつり駆使できるのだという。事情については説明してもらえなかったけど。

「そこはちょっと、ひとことで説明しづらいのです。

 まぁ、いずれお話します。それよりも今は、目の前の脅威にどう対応するかを考えましょう」

「たしかに」

 アヤがこの星に来ているのは確定らしい。

「アヤなんだけどさ、いきなり攻めてこないのはどうしてだろ?」

「こちらが逃げない、正しくは逃げられないと知っているからでしょう。

 この惑星ヤンカは再開発が始まったばかりで、最寄りの人のいる星系というとヨンカに戻るしかありませんから」

「なるほど」

 定期便なりなんなりだけ押さえておけば、逃げようがないってことか。

「そもそもなんですが、お姉さま……逃げられるとして逃げますか?」

「そうだね。逃げないね」

 私の性格も読まれている、か。

 

 正直言うとこわい。逃げたい。だけど。

「都市型惑星でアヤと戦闘になったりしたら……その方が怖すぎるよ」

 もしイダミジアみたいな大都市惑星で戦闘になったら、どうする?

「ええ、たしかに最悪ですね……彼女はおそらく、都市ごと破壊もいとわない」

「やっぱりそうなんだ」

 なんて厄介な。

 そんな会話をしていたら、メヌーサがポツッとひとこと入れた。

「それは仕方ないわね。じゃじゃ馬は今の銀河基準でいうところの『ドロイド』じゃないから」

 そう。

 アヤは自分をドロイドと紹介していたけど正しくはドロイドではない。

 では何か?

「たしか魔操兵士っていうんだっけ?」

「ええ、いろいろ言い方はあるけど、その言い方が主流だったかしら?」

 ゴーレム、あるいは自動人形(オートマタ)

 そう。

 アヤは厳密には地球人的にいう『アンドロイド』には該当しない。

 有機ベースで作られた『意思あるゴーレム』あるいは『思考する自動人形』。

 どちらにせよ、彼女はもともと、サイエンス・フィクションでなくファンタジー世界の住人なんだ。

 そして。

 前にもいったけど、この銀河宇宙にアシモフ先生はいない。ロボット三原則なんてものはない。

 

 あ、そういえばロボット三原則ってキミはちゃんと知ってる?

 とりあえず復習しよう。

 こういうやつだ。地球でwikiの公開データから取り込んだライブラリで出してみる。

  

「第一条」

 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

「第二条」

 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

「第三条」

 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

 

 子供の頃にこれ見て「ずいぶん勝手な物言いだなぁ」と思ったのを覚えてる。

 

 この三原則は確かに合理的だけど、それ以上にロボットに対する不信感が読み取れる。すなわち「自分より優れているものが自分に従うわけがない」という認識がまず最初にある考えなんだよね。

 まぁ、その事の是非は今はいい。

 ロボット三原則は地球製のものだけど、銀河のドロイドたちにも似たようなルールがある。

 ただしハードウェアとして「人間に手を出さない」ようなヘンなガードはかかっていない。

 理由は簡単。

 つまり銀河は多種族混在世界なので、どこまでが守るべき知的生命体なのか定義できず、適用させようとすると使い物にならないからだ。

 たまにそのあたりを無理やり設定している文明もなくはないのだけど、そういうとこのロボットって、自分たちの種族だけを知性体とみなして他種族は全部物体扱いするなど、とてもじゃないが銀河で使いたいようなものではない。

 ゆえに銀河におけるドロイドたちは「命令の尊守」と同様、ロボット三原則に似た考えを「初等教育」として習う事になっている。相手が人間と見た途端に物理的に腕があがらず攻撃不可能になるとか、そういうハリウッド映画的なヘンな仕込みはされてないんだな。

 そして、キマルケ生まれのアヤも同様の教育を受けている。

 実のところ、アヤのプライドの高さもそのせいらしい。

 誇り高いからこそ、そのプライドをもって仕事を楽しみ、そして余計な犠牲を出さない。そして司令に悪影響がないかぎり、弱きを助け強きをくじく。

 うん、よくできてるわけだ。

 ただし当然、そのプライドに抵触すると不機嫌になるって問題点もあるけどね。「人間」扱いされると逆鱗に触れたかのように不機嫌になるのもそのためらしい。

 さて。

 そしてもうひとつの問題。

「銀河のドロイドは汎用機体だけど、じゃじゃ馬は戦闘機体って問題もあるわね。あれは戦いこそ我が家って種類の存在で、殺戮への忌避もまったく持っていないのよ」

「え、人殺しをなんとも思わないの?」

「思わないわよ。忌避感も罪悪感もないわ」

 ちょ、こわっ!!

「でも、会話しててそんな感じは全然なかったけど?」

 会話どころか添い寝までされてたけど、全然平気だったけど?

「あたりまえよ。忌避がないからといってポンポン殺してたら殺人狂でしょ。そんな状態で社会に入れる?生活できると思う?」

「あ、そうか」

「そうかじゃないわよ……どんだけ武器アレルギーなのよ」

「いや、だって日本人だし」

「あのね。非武装ってことは安全保障を他人に押し付けるって事よ?確かに権力者とかルドくんみたいなお金持ちならそれもアリとは思うけど、威張って堂々言うことじゃないでしょう?」

「……そこでご老人とか、非武装の民間人って考えはないの?」

「メルはどっちでもないでしょ?」

「あー……まぁ」

 それ言われると弱いな。

 まぁ、そのへんを語るときりがないから今は脇においとくけど。一部の日本人の武器アレルギーは洗脳レベルだから、あの病巣は深いと思う。

 さて。

「殺人の忌避がないってことはつまり、誰かを守る時、命のやりとりが必要な時にためらわないってことよ。戦いのための存在なんだから、そこで足踏みしてたら欠陥品じゃないの」

「……たしかに」

 そりゃそうだ。

 戦争中に突然、非武装の子供がトコトコ歩いてきたら、人間の兵士なら間違いなく、とりあえず撃ち方をやめるだろう。

 だけど、実はその子供が偽装したドロイドで、中身は彼らのいる塹壕を粉砕できる爆薬だったら?

 銀河の戦争では、なまじ技術が発達しているからこそ、そういう、おぞましいほどに底意地の悪いトラップも大量に使われるという。

 なるほどな。

 そういう面があるからこそ『兵器』なら非情な行動ができなくちゃいけないんだろうな。

 ふむふむと考えていたら、メヌーサが少し意外そうな顔をした。

「なに?」

「いえ、メルって思ったより理性的なのねって」

「は?」

 なにを言いたいんだろう。

「メルって時々、とても短気にガーッと動くとこない?ここはそうじゃないだろとか、イラッときたらガマンしないとことか」

「……いわれる」

 それで失敗数多いです、はい。すみません。

 なかなか治らないんだよなぁ、これ。

「別に謝ることはないけど、もう少し気楽にいけばとは思うわ。

 で、話を戻すんだけど、じゃじゃ馬に殺人禁忌がないってところにもっと激しく反応すると思ってたのよ。肯定か否定かはともかくね」

 あー、それは。

「いや、だって、どっちだってアヤはアヤだろ」

「……そういう解釈なんだ」

「うん」

 

 どういう感情かはともかく、一度は身内同然に思ってた。いや、今も身上としては身内だよ。

 何があろうとアヤはアヤだ。美醜は関係ない、むしろ醜さも個性と受け入れてこそ身内だろ。

 

 その身内と殺し合いをしなくちゃならないって、私の気持ちはともかくとしてだけど。

 

 そんなことを考えていたら、なぜかリンにそっと抱きしめられた。

 いやあの、柔らかくてちょっと、うん、まずいんですが?

「えっと、あの?」

「優しいですね、お姉さまは」

 身長差があるから、声は頭の上から聞こえてきた。

 もちろんそれと一緒に、身体の振動というカタチでも伝わってくるのだけど。

 

 ああ。

 抱きしめられて声をかけられると、こんなふうに響くものだっけ。

 なんだかな。

 こんなの、小さい時に親に抱きしめられて以来で忘れてたよ。

 

 ああ……安らぐ。

 柔らかくて、いいにおいで。

 

「……落ち着かないわね」

「!」

 ぼそっと背後でメヌーサの声が響いて、あわてて離れようとした。

 だけど、リンはガッチリと抱え込んで放してくれない。

「お姉さまは優しい方ですから」

「キレやすいとこもあるけど?」

「そういうのは、治るまでパートナーとなる人が押さえておけばいいんです。そのうち習慣づけば治りますよ。

 ご存知ですか?地球、お姉さまの故郷の星には、旦那の器量は嫁次第って言葉があるそうですよ?」

「……へえ」

 

 え、なに?なんか火花が散るような幻聴が。

 

 少しして、メヌーサのためいきが聞こえてきた。

「まぁ、わたしとしてはその辺はあなたに任せるわ。

 ……だけど、あなたたち、少しふたりっきりで対話する時間が必要みたいね」

「そうですね。それがいいかもしれません」

「そう。じゃ、そうなさい。わたしはここで調べ物してるから」

「はい、わかりました」

 

 え?え?え?

 

 なんか意味の分からない会話が出たと思うと、唐突に抱きかかえられた。

 ちょ、これ、お姫様だっこっ!

「え?え?ちょっ!」

「メル。ちょっとその子と仲良し(・・・)してきなさい。半日くらいは待っててあげるから」

「……はぁっ!?」

 な、なに言ってやがるんですかこの人っ!

 だけどメヌーサは私の顔の前にくると、むんずと鼻をつかんでゆさぶってきた。

「んあ、ななななななっ!」

「どのみち、メルの身体のために彼女の手を借りるつもりだったんだけど、お互いにその気ならちょうどいいじゃないの」

「ちょうどいいってなにがっ!」

「にぶいわね。抜き差しならない関係になってきなさいってことよ……あらお下品」

「おいいいっ!!」

 問答無用にメヌーサが遠ざかっていく。

 まぁリンにそのまま運ばれているんだけどさ。

「いや、ちょっとまて、今はそんな悠長なことしてる場合じゃっ!」

「そんな場合よ。大丈夫、じゃじゃ馬はまだ来ないわ!」

 いやいや、来ないってなんでさ!

 そんなことを叫ぼうとしたら、リンのつぶやきが聞こえた。

「そうですね、彼女はまだこないでしょう」

「……リンもそう思うんだ。どうして?」

 思わず質問してしまった。

「彼女の性格からして、こっちの準備が整うまで待つと思います。潰しに来るのはそれからかと」

「なるほど……って、それとこれとは話がっ!」

「いいじゃないですか。さ、いきましょう?」 

 そのまま、問答無用に寝所に連れ込まれた。

 

 え、そのあとのこと?

 んー……えっとまぁ、その。ごめん省略。

 人様にお見せする風景ではないので。


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