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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
193/264

ドライバー

「え、まじで運転するの?私がやるよ」

「いいから任せなさい。ちゃんとカラテゼィナで見てたでしょ?ポンチョなら運転できるんだから」

「いや、それ運転やばい子のテンプレだから。頼むからおとなしく乗ってて」

 あのサコンさんですら「生命保険が必要かも」とコメントした怪しい運転だ。

 どんなに長生きして人生経験豊富だろうと、宇宙船すら修理して自家用機として愛用する技術があろうと、どこにでもある庶民用の軽自動車を運転して買い物に行くのはダメダメ。

 まぁ、誰にでも欠点はあるものさ、うん。

「だ・か・ら。カラテゼィナでわたしが運転してるの見てたでしょ?何が問題なのよ?」

 見たからこそ問題視してるんだけどな。

 まぁいいか、じゃあ、ここは別の手でいこう。

「ああちょっとまって、そういう意味じゃなくてさ、私に運転させてほしいんだって!」

「え?」

「だからさ。こういうクルマは初体験なんだよ。運転してみたいんだ」

「……あー、なんだ、そういう意味?」

「うん。ゲルはともかくクルマはね。お恥ずかしい話なんだけどさ」

 君じゃダメだと言うんじゃなくて、私にやらせてほしいと言う。

 うん、結局は同じことなんだけど、相手の印象は全然違うよね。

 そんで前者だと反発するメヌーサも後者の場合は、ほら。

「……しょうがないわねえ、そういう事ならそうと言いなさいよ」

 こういうと、メヌーサはしぶしぶ譲ってくれた。

 まぁウソは言ってない。車輪なしのエアカーのマニュアル運転は確かに初だからね。

 地球の軽四って意味なら初心者の頃、貰い物同然の古い550セルボを廃車になるまで乗り潰したけどな、うん。

 ただ、ここではそんなこと言わない。あくまでメヌーサに「こっちの事情で運転させてほしい」と頼みこむのがミソだ。

 そう、メヌーサはそういうやつだ。

 おまえが頼りないから運転代われといえば間違いなく怒る。だけど、自分の経験にしたいから運転させてくれというと「しょうがないわね」と年長者の顔で譲ってくれる。

 うん、とてもチョロ……もとい面倒見がいいからね。

 まぁ、なんというか。いかつい(ヒャッハー)顔のおっちゃんたちも、なんか癒され系の幼女を見るような目で見てるがそっちは無視しておこう。

 ん?なんかおっちゃんが言いたげだぞ?

「えっと、なに?」

「ああ、すまねえが二人のどっちでもいい、ライセンスもってるか?」

「ライセンスって、ああ」

 つまり免許証か。

 そういや銀河のリアルタイム便利翻訳だけど、なぜか「運転免許証」と訳してくれないんだよね。ライセンスって訳す。なんでだろ?

「メヌーサ、ライセンスあるよね?かして?」

「……なんで断言なのよ」

「持ってるよねカラテゼィナの。かして?」

「いいけど……はい」

 異空間から取り出したライセンスを受け取る。

 お、やっぱカラテゼィナ仕様のやつだ。

 うん、そうだよな。メヌーサの性格ならむしろ、こういうのは現地人以上にきちんとしてたろうし。

「おっちゃん、これでいい?」

「どれどれ……ん、古いが確かに。ちと記録するぜ?」

「はーい」

 そういやカラテゼィナから年数たってるもんな。新しいわけがない。

「今さらだけど、カラテゼィナのライセンスって期限あるの?」

「生涯有効だけど、なに?文句あるの?」

 あ、ヘタクソって言われてると思ったかな?

「違う違う文句じゃないよ。日本は数年で更新しないとダメだったからさ」

「へぇ……そういう事なら心配ないわ」

「そっか」

 ちなみに地球でも生涯有効の国はあるぞ。日本の運転免許が定期更新だから、ちょっと不思議な気持ちだけどな。

 けどクルマ以外のライセンスには生涯有効なものもあるわけだから、奇妙といえば奇妙かな。まぁ車検制度もそうだけど、日本は基本的に、公道を走る・走らせるものは「大丈夫か?」と定期的に確認させる趣向なんだろうと思う。

 話を戻そう。

 見た目はヒャッハー消毒だぜぇといいそうなハゲのおっちゃんだけど、事務手続きは確かだった。サッとメヌーサのライセンスを記録すると、ホイと返却してきた。

「嬢ちゃんら、今から買い物して野営場か?」

「よくわかるね」

 そういうと、おっちゃんはニヤッと笑った。

「ヤンカ復興以来初の聖女様つき召喚儀だからな、ホテルがいっぱいなのは仕方ねえ。野営場にはまだ余裕があるんだが、外食関係もいっぱいいっぱいらしいぜ」

「そっか。食材を買う方はまだ大丈夫?」

「たぶんな」

 ウムウムとおっちゃんとうなずいた。

「たぶん問題ねえと思うが、もしメシが食えねえ、チャージもできねえって事になったら最悪うちに連絡しな。その場合は何とかすっからよ」

「え、いいの?」

 ソレは明らかにサービス外だろう。

 でも、おっちゃんは笑った。

「普通はこんなサービスしねえよ。けどおまえさんたちゃ特別だからな。このイベントの主役が宿泊もできねえんじゃ話にならねえだろ?」

「……あ、そっか」

 まぁ、ここまできたらメヌーサの素性に気づいて当然か。

「野営場の方だが、着いたら『ポチョムキン』て野郎を呼んで、クレセントのおやじに聞いてきたと言え。それで話が通るからよ」

 ロシアの戦艦みたいな名前だな。どんな人なんだろう?

「どうも。悪いね気を遣わせて」

「気にすんな。それより祭りが近くて人が道に出てる、気を付けるんだぜ?」

「ああ、ありがとう」

 会話しているうちにクルマが出口に運ばれてきた。小さいクルマだし重力制御もしてるんで、指で押せちゃうんだけどね。

 よし、と乗り込もうとしたら「ちょっと待ちなさい」とメヌーサ。

「なに?」

「ポンチョの始動ってこうやるのよ。みてて」

 そういうと右のドアをあけて頭をツッコみ、それで「あったあった」と言いつつ何かを掴んだ。

 何かをクイクイと回すような操作をしたかと思うと、シュコッと引っ張った。

 

 え?

 もしかしてリコイルスターター?なんで?

 なんで、電気自動車のポンチョにそんなものついてるんだ?

 

 あ、ちょっと説明。

 リコイルスターターっていうのはホラ、発動機なんかで、ヒモみたいなのをビャーッとひっぱってエンジンかけるやつのこと。

 って、言っているうちにクルマが一瞬胴震いをして、そして灯火類がパパーッと点灯した。

 まぁエンジン音みたいなものは全然聞こえないんだけど。

 

「ん、かかった」

「ポンチョってエンジン式だっけ?」

「基本は電気だけど、水素の方がよく走るから好きかな」

「あー……燃料電池車」

 地球でいうFCVってやつだ。ヨンカで乗ったゲルと同じか。

 全然音がしないし、カラテゼィナじゃそれどころじゃなかったからてっきり電気だとばかり。

 それにしても。

「わざわざかける必要ないんじゃないの?バッテリー弱ってきたら勝手にかかるでしょうに」

 リコイルスターターなんて非常用だろそれ。なんでわざわざ自分で使う?

 でもそういうと、メヌーサが朗らかに笑った。

「ポンチョって、たまにそのまま電池切れまで行っちゃうのよ。不安だから、おでかけ時にはかけちゃうのよね~」

「え?欠陥?」

「大丈夫、自動でエンジン切れるから過充電にはならないよ?」

「そりゃそうでしょ」

 そういう意味じゃなくてさ。

 言葉に困ってたら、おっちゃんが笑い出した。

「なんでぇ、ポンチョの悪癖まで知ってやがんのかい。詳しいな嬢ちゃん」

「ええ、カラテゼィナで乗り回してたもの。シャーリー28だけど」

「おお懐かしい呼び方。しかもお家元でシャーリーかよ!」

「ありがとう。でも28だから、そんな希少な年式じゃないのよ?」

「いやいや、今じゃシャーリー世代のポンチョは希少なんで」

「そうなんだ」

 なんかクルママニア的な符号があったっぽいな。

 うーむ、どこでもこういうノリってあるんだなぁ。自動運転車ばかりになって、こういう人も絶滅したかと思ってたよ。

 

「そんなにクルマ好きなんだ?」

「特定のクルマが好きというより、自分で運転するのが好きなだけよ?」

「下手の横好きだったか……」

「なぁに?」

「なんでもない」

 そんなに好きなら乗れば、という言葉を胸に押し込んだ。

 うん、絶対それだけはやめておこう。危険な予感しかしないから。


『免許証の翻訳問題』

 これは翻訳のせいというより、銀河と地球の運転ライセンスの違いです。銀河のそれは自動運転車の運行者用のものなので、地球の運転免許証とは異質のものです。よって「運転用ライセンス」ではないという認識なので『運転免許証』とは訳されないのです。

 メルはこのへんをよくわかっていません。


『ポンチョの悪癖』

 要は伝統的な欠陥。ここでは、バッテリーが減ってきたら充電用のエンジンが動くはずなのに、自動始動しない場合がある事を意味する。

 この欠陥は有名で、ポンチョのヘビーユーザーがロングドライブをする時は、機械任せにしないで消耗度合いを自分でチェックしている事が多い。中にはメヌーサのように出発時にエンジンをかけておく者もいる。充電完了で止まるのは自動的に行われるからだ。

 しかしシステム起動前にエンジン側のみマニュアル始動するには、メヌーサのように非常装備されているリコイルスターターでかけるしかない。セルモーターをEVのモーターで代用しているための弊害だ。

 しかも、わざわざ面倒な始動法をとらずとも、EV側をかければボタン一発でかかる。

 なのにあえて、まったくEV側に頼らず始動しているわけで。

 これは「ポンチョの扱い方」を習った時のやり方をメヌーサが忠実に今も続けているためだが、この手の「儀式」を好むのはたいていマニア。おそらくそういう人物だったのだろう。


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