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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
187/264

銀の四番

 蜘蛛につづいてネコミミまで生えた件について。

 なんというか。

 思えば地球で「おっさん生活」を良くも悪くも堪能していた身なわけなんだけど、どうも自分の人生というのは、どこかにネタを仕込まずにはいられないものなんだろうか?

 

 いい歳になるまでは、普通に負け組な感じの夢破れたおっさんだった。

 そこまではどこにでもありそうな、まぁ、底辺の生活だったはず。自分でいうのもなんだけど、どうでもいいような有象無象の人生で終わるはずだったんだ。

 

 なのに。

 

 ある日突然に黒服に追い回されたうえに殺されてしまい、さらに生き返った。

 しかも、目覚めた自分はなんと少女の姿に。

 この時点で、どこの安物SFだよって状況なんだけど。

 そんで、想像上の存在だった『恒星間宇宙船』に乗せられ「宇宙文明」に招待されることになって。

 しかも、なぜかわざわざ銀河文明の星で「職業訓練校」に通うという、妙に生活臭の漂う事態となり。

 そして、あなたの天職は巫女さんですと、宇宙の訓練校とは思えない謎すぎる宣告を喰らっちゃって。

 あげくの果てに、いつのまにか『銀河の母』みたいなわけのわからない立場になっちゃって。

 気がついたら、もう何千万年も聖女扱いされているというリアル怪物な女の子と共に逃避行中。

 

 そんで、頭の中に蜘蛛娘を住まわせたうえにネコミミ生えたと。

 

 なんぞそれ。

 ギャグマンガにもなってないぞ。

 衛藤ヒロユキレベルなんて贅沢は言わないけど、もう少し何とかならないもんか。

 改めて列挙すると、我ながら全然意味がわからん。

 

 まぁ、その、なんだ。

 人生に有意義なものを求めるほど青臭いガキじゃないつもりではあるけれども。

 でもなぁ。

 せめてもう少し、普通の落ち着きがほしいなぁって思っちゃいけないんだろうか?

 

「落ち着きのある人生がほしいの?」

「切実に」

「まぁ、じゃじゃ馬の件が一段落つけば、どういう結末にしろ落ち着くんじゃないかしら?」

「……思いっきり不審なんですが」

 ほんとか?

 ほんとにそんな、うまくいくのか?

「たぶんだけど、現時点で近未来の予測はふたつに絞られたと思うの」

「ふたつ?」

「ええ」

 メヌーサは静かに笑った。

「まずひとつは、じゃじゃ馬の襲撃で負けちゃった場合だけど。

 本当に死んじゃうにせよ、マトリクス情報を抜かれてまた別のカラダに入れられるにせよ、どちらにしろメルの暮らしは安定するでしょうね。死んじゃったらそもそも先のことなんて気にしなくていいし、別のカラダに移されたのなら、おそらく今度こそじゃじゃ馬の支配下から出してもらえないだろうしね」

「『死』を安定って考えるんだ?」

「おかしい?」

「いや、おかしくないけど」

 死生観としてはちょっと意外かな。

「……その、あとの方の根拠は?」

「ソフィア姫、今はソフィア妃かしら。彼女がメルの再生を命じるとは思う?思わないでしょ?」

「……ええ」

 そりゃそうだ。

 私を殺せというのはソフィアの命令なわけで、わざわざ殺させたのを蘇生させるとは思えない。

「じゃじゃ馬はそれでも、メルのマトリクス情報を得たら再生させると思うの。つまり、それはじゃじゃ馬個人の意思ってことになるでょう?

 だからこの場合、ソフィア妃とかかわらない時代と場所になってからメルを再生して、そして静かに暮らそうとするでしょうね」

「そういうもの?」

「そうよ。あの子の性格ならね」

「……へえ」

「え?」

「アヤに詳しいんだ」

「そりゃもちろん」

 ああ。

 そういえば確かメヌーサって、アヤの製造に関わったんだっけ?

「開発スタッフのひとり、というだけじゃないわ。じゃじゃ馬の教育を神殿でやってた時に個人的に関わってもいたわ。自分でいうのもなんだけど、友人のひとりにはなれてたと思う」

「へぇ」

 それはちょっと意外。

「ふふ、今でも思い出すわ。メヌちゃーんって子犬みたいに駆け寄ってくる姿を」

 え、ちゃんづけ?

「……」

「なぁに?」

「いや……ちゃんづけ、だったの?」

「なぁに?」

「……いやその」

「正直にいっていいのよ?そんな可愛い言い方は似合わないって?」

「それはない。むしろ似合う」

 とりあえず即答しておいた。

 メヌーサ・ロルァという女の子をひとことで言えば、日本人的には『北欧的美少女』だろう。長い銀髪の白人系で、あまり出るとこも引っ込むともの未だ「途上」な感じなのがまた「少女」というイメージにぴったり合う。まぁ、瞳の色は灰色じゃないんだけど。

 ……え、わかりにくい?

 あなたがゲームやアニメのファンなら、もう少し単刀直入にわかりやすい女の子のイメージがあるんだよね。

 そう、あれだ。あの懐かしい伝奇系作品。

 巨大な戦士をひきつれて少年を殺しに来た、あの可愛くもおそろしい銀髪少女。

 

 ……うん。

 かわいいだけじゃない、むしろやばいってあたりがまたメヌーサに似てるかも。

 

 具体的な商業作品のイメージで悪いんだけどさ。

 あまり銀髪系の欧米人って日本人的には、ちょっと馴染み薄いよね?

 そういう意味で「もっとも有名な日本人はマリオ兄弟」っていう笑い話的な意味づけでいえば。

 うん。

 メヌーサに最も似ている女の子のイメージは、まさに彼女なんだよな。

 

 閑話休題(はなしをもどそう)

 

「それで、アヤに負けなかったパターンとしては?」

「当初の予定では、この星域周辺でほとぼりをさましてからボルダに行く予定だったんだけど……そもそも十年単位で時間がズレちゃったし、その猫ちゃん(アマリリン)の件が割り込みで来たでしょう?悪いけどまずはそっちをすませて、それ次第ね?」

 なるほど。

「うーむ、いつになったらきちんと巫女になれるんだか」

 今のところ、メヌーサに見てもらいつつの独学状態だからなぁ。

 やっぱり、本格的に巫女になるなら、どこぞの神社なり何なりに入るべきだろうし。

「当初の予定ではボルダだったけど……極端な話、アマルーの領域にある神殿の可能性も出てきたわね」

「え?アマルーに神殿あるの?」

 それってつまり、猫の巫女さんがいるってことか?

 ……。

 頭の中で、二本足で立つ巫女装束の三毛猫のイメージが一瞬で固まった。

 いや、その。

 80年代に流行した不良(ヤンキー)猫グッズの親戚ですかね?

「……メル」

「なに?」

「……」

 なんでためいきをつく?なんで、そんな残念そうな顔をする?

「アマルーたちは宗教ってあまり馴染みがないみたいなんだけど、キマルケやボルダとはつきあいがあったのよね。で、アマルーの中でも変わり者の中には神官になったりした者もいたりしてね。

 で、そんな関係でボルダ式の神殿が数か所にあるのよね。

 ボルダ本星のは有名だし、他にも王族由来のいくつかの星に支所があるはずよ」

「へぇ」

 猫の神官や巫女さんか。……なんかすごいものが見れそうな予感。

「ま、とにかく今は生き延びなくちゃね。がんばりなさい」

「なんか他人事だなぁ」

「あら他人事だけど?」

 あっけらかんと言い放つメヌーサ。

「冷たいなぁ」

「わたしにはわたしの役目があるもの。

 それにメルにはメルを助けてくれる者がいるわけだし」

「助けてくれる者?」

「ええ」

 ウフフとメヌーサは笑った。

「例のなんとかってメルの後輩ちゃん、到着後に合流らしいわよ?」

「あ、そうなんだ。連絡きたの?」

「ええ」

 メヌーサは大きくうなずいた。

「なかなかおもしろそうな子よね。戦力になるかどうかは未知数だけど、素質はあると思う」

「へぇ」

 それはまた。

 メヌーサが他人をそういう風に評価する発言て、はじめて聞いた気がする。

「素質ってどういうもの?」

「こっちで調べた範疇なんだけど『剣』の再現を試みるグループと親交があるみたいなのよね。どうも使い手の可能性もありそう」

「剣?」

 なんだそりゃ?

「ああ、知らないんだ」

 ふむふむとメヌーサはうなずき、そりゃそうよねと何か納得していた。

「わたしの能力が『防ぐ』こと中心で、あまり攻撃力はないって話はしたっけ?」

「あーうん、よくわかんないけどそんな話してたよね?」

「それは、わたしが『盾』だから。

 わたしの名前『メヌーサ・ロルァ』なんだけど。

 メヌーサとは銀、銀色、銀に輝くとかそういう意味。で、ロルァはロル、つまり数字の四なの。

 つまりわたしの名前は『銀の四番』って意味なんだけど」

「そうなんだ」

 銀の四番?なんか象徴的な意味があるってか?

「銀の四番というのは、ずーっと昔の文明で作られた『盾』のことなの。この世に存在する、あらゆる力を防ぐ究極の盾で、たとえ星が砕ける力で攻撃されても、わたしがわたしである限りダメージを負わないというものなの。

 ちなみに余談だけど、宇宙服がいらないのも実はこれのおかげなのよね。真空くらいじゃ死ねない(・・・・)の」

「……そうなのか」

 荒唐無稽にも思えたけど、ウソだとは思えなかった。

「ちなみに、わたしの盾を貫けるものがこの世界にひとつだけ存在『した』の」

「した?過去形?」

「ええ、過去形。もうないの」

 そういうと、メヌーサはウフフと笑った。

「それは究極の(ほこ)、あるいは槍。

 金の一番、あるいは『星光霧散撃(ゲオゲア・ガーラ)』とよばれしもの。この世にある、あらゆるものを貫く究極の破壊槍なんだけど……実はこの槍、キマルケ巫女が所有していたの。それも究極最高の巫女である『風渡る巫女』がね」

「ほう?」

 そうなんだ。

「あとはわかるでしょ?キマルケが滅ぼされた時、鉾も失われたわけ。

 うふふ、知ってる?

 かの槍はもともと、盾役(メヌーサ・ロルァ)が暴走したら、その盾をぶち抜いて止めてくれって託されたものなの。もとはといえばね。

 でも、それを託した者たちの仲間の手でキマルケは滅ぼされ、わたしを止められるものは永遠に失われたの。

 まぁ、なんともよね」

 そういうと、メヌーサはクスクスと(たの)しげに笑った。


『衛藤ヒロユキ』

 メルは漫画家の衛藤ヒロユキのファンです。

 ちなみに、ほかには手塚治虫、竹本泉、ふくやまけいこを「特に好きな漫画家」として挙げています。


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