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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
185/264

閑話・彼女の知らない一閃

 惑星ヨンカに近い宇宙空間。

 定期便のセンサー探知外の宇宙空間に、一隻の宇宙船がスタンバイしていた。

 その船は機械というより巨大な生命体のように見えた。灰色から黒色に覆われたその船は銀河連邦やオン・ゲストロでよく見かける船舶とはどこか根本的に異質な文明圏の産物のようで、闇の中にありながらも異彩を放っていた。

 

 形式・有機船(オーガンシップ)

 船名・『アルゴノート』。

 所属・イーガ連邦中央、イーガ・サントス。

 所有者名・ソフィア・イーガ・サントス・ルシード・エムレイラ。

 

 有機船自体は銀河にもあるが、どちらも数は多くない。

 というのも、部分的に生物素材を使うのと違い、有機船はそれ自体は一個の生命体だからだ。こういう船が性能的に不利というわけではなく、変化の激しい今の銀河文明だと持て余してしまうため、連邦のような新顔の文明圏ではあまり使われていない、というのが正しいだろう。

 過去の文明では有機船が大量に使われていた時代もあるので稼働数自体は少なくない。

 しかし現在の銀河では有機型の存在は既存の生命体の部分または全体の模倣を基本としており、純有機型で宇宙船を作ろうという流れは主流ではなくなっている。もちろん将来的にはわからないが。

 またこの船は『ソクラスのソフィア』と呼ばれた女傑だった当時のソフィア姫に、あえて「ソクラスより優れた船を造り贈った」という挑戦的なエピソードでも知られている。

 その生まれを誇るようにこの船はその後も進化を続けており、生まれて十年単位の時間が過ぎている今もなお、銀河系・イーガをあわせても指折りの超高速、高性能船の立場を維持していた。

 

 ただ、今このアルゴノートを持ち主のソフィア妃が見たとしたら首をかしげたかもしれない。

 アルゴノートの船首には、本来この船が持っていないものが装備されていた。それは自己進化する有機船の能力を利用し、この船を現在使っている者がアイデアを出し、船の頭脳と協議を重ねて製作した「武装」だった。

 それは、古代の銃器が装備している『銃口』と呼ばれる穴に似ていた。

 ただしサイズが桁違いだった。少なくとも直径数十メートル以上はあろうという銃口で、ご丁寧に内側にはライフリングまで掘られていた。

 そして、そんなアルゴノートに乗っているのは、ひとりの女。

『アヤ、ひとつ確認してもかまいませんか?』

「なぁに?アルゴノート?」

『どうして、この武装の再現にこだわったのです?わざわざオン・ゲストロの監視の目をくぐり連邦未加盟の星の資料まで取り寄せてまで?』

「仕方ないでしょ。イダミジア系のネットにもデータがないんだもの。だったら地球に行かなくちゃ」

『いえ、その理屈はわかります。問題はその特定の武装にどうしてそこまでこだわったのかと』

「もちろんメルのためよ。メルの中のひと……誠一さんが子供の頃に大好きだった武器だから」

『ほう?』

 声の中に納得めいたものが混じった。

『なるほど、ターゲットが好きなものだから……それでですか。ふむふむ』

「それで、再現はできたの?」

『映像を分析してみるに架空兵器ながら、次元エネルギー兵器の一種と考えればよいようでした。最も近いのはコリガン砲のようなので、コリガン砲をベースに若干の改造を行いました』

「ごめんね、無理させちゃった?」

『いえ、無理は特にありませんでした。

 ただ映像描写に習い、発射機構に集約システムをとりつけました。このためうかつな使用は非常に危険です。最弱モードで発射しても、直径2800キロ程度の岩塊ならぶち抜けるでしょう』

「あらら」

『未開文明ならではの兵器思想といいますか……これは我々的には武器というより、むしろ開発用装備ですね。戦争に使ってしまった場合、敵の拠点を基地どころか恒星系ごと破壊しかねませんからね』

「そうね。根こそぎぶっ飛ばしちゃ意味がないわね」

『はい』

 戦争にはいろいろな理由がある。

 しかし、相手の完全殲滅が目的の戦争というのはむしろ珍しい、

 戦争というのは基本、こちらの言い分を相手に押し付けるためのもの。従わせる相手をその属する大地ごと消してしまっては意味がない場合が多い。

 つまり、あまりに強力すぎると逆に使いにくくなってしまうわけだ。地球の核兵器がそうなりかけているように。

「うんわかってる、さて」

 そういうと、アヤはクスッと笑った。

「エネルギー充填開始なさい」

『はい、エネルギー充填開始します』

 そういうと船内の明かりが一斉に消えて、管制システムらのもたらす明かりだけになった。

 静かな船内に声だけが響いている。

『エネルギー充填二十パーセント……三十パーセント……』

「艦首砲口を目標に向けなさい。目標、エイドム・リンター号」

『アヤ、本船は戦闘艦ではないので艦首とは言いませんが』

「いや、そこは空気読んでよ……」

『ダメです』

「ヘンなとこで融通きかないんだからもう!」

 たはは、と情けなさそうにためいきをついたアヤだったが。

「さて、バカやってないで始めるわよ、いいわね?」

『了解。ところでアヤ』

「なに?」

『どうして汗をかいているのですか?船内温度を下げますか?』

「様式美よ様式美!星をも砕く最強兵器をぶっ放すのよ?緊張して当然じゃないの!」

『コリガン砲クラスの兵器なら無数にありますし、全部私が制御しますのでなんの心配もありませんが?』

「いや、だから様式美……」

 悲しげにうつむいたアヤだったが、やがて気を取りなおしたようにまた顔をあげた。

「エネルギー充填状況は?」

『百パーセント。充填完了しました』

「そこは百二十パーセントって言わない?」

『言いません。コリガン系エネルギー砲にそんなに充填したら壊れます』

「うそつき。設計思想上百五十パーセントまで耐えられるんじゃないの?」

『だからってわざわざ規定以上まで普通にぶちこむマヌケがどこの世界にいるんです?未開世界の古代船じゃないんですよ?』

 えらい言われようだった。

 だが実際、アルゴノートの言うのも一理ある。普通に百二十パーセント充填するエネルギー砲ってなんだ。ボイラーか何かの圧力弁と勘違いしてるんじゃないのかって言うアニメファンも実際に昔いたわけで。

 まぁそんな話をもしメルが聞けば「そもそも宇宙での戦闘で爆発音が響いて煙があがってる時点でお察しだろ」のひとことで終わるのだけど。彼女はかのアニメを冒険活劇として愛していたのであり、SF作品とは見ていないので。

 まぁ、それはいいだろう。

「ま、まぁいいわ。とにかく発射準備完了したのね?」

『はい。いつでも発射できます』

「それじゃ秒読みしてくれるれる?刻みは地球の単位で三十秒で」

『……アヤ』

「なあに?」

『いいですけど、そこまでこだわってどうするんです?当人はどうせふっとばされて死んでしまうのでしょう?』

「……」

 アルゴノートのその質問に、アヤは目を細め、そしてにんまりと笑った。

『アヤ?』

「さぁ、どうかしら……ね」

 そこまで言うと、アヤはクフッと楽しげに(わら)い、そして椅子に座って脚を組んだ。

「発射秒読み開始、対ショック、対閃光防御!」

『秒読み開始します。ところで慣性制御がありますので衝撃などは……』

「ねえアルゴノート」

『はい?』

「いいかげんにして」

『ハイハイわかりましたとも。耐ショック対閃光防御。秒読み二十七、二十六、二十五……』

 

 アルゴノートの船体、前の銃口のようなものの中が明るく輝きはじめた。

 ライフリングのようなものに沿って、光が奥に向かって流れていく。そのさまはまるで何かのエネルギーが吸い込まれていくようなのだが、実際には吸い込まれているわけではないらしい。

 そんな光だが、みるみる強くなってきた。

 

 再び船の中。

 各種センサーを睨みつつアヤはじっと待っている。 

『十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、』

 そしてその瞬間、アヤは叫んだ。

艦首(・・)波動砲発射!」

『ですから「艦首(・・)」ではありませんと』

 いちいちツッコミをいれるアルゴノートの声に重なり、全てのセンサーや窓映像が真っ白になった。

 宇宙空間なので発射音などは存在しない。

 だが船内のシステムに小さくない負荷がかかっている振動と共に、

 次の瞬間、光がはじけた。

 銃口のようなところから強烈な光のようなものが吹き出して、一直線に虚空に向かって伸びていった。

 そんな風景の中、冷静にカウントだけが進んでいく。

『着弾まで三十二、三十一、三十……』

 だがそのカウントは途中で変化してしまった。

『途中で止められました。状況は対消滅と推定』

「そう……対消滅?」

 船内で各種センサーを睨んでいたアヤがその瞬間、眉をあげた。

 止められる事は想定していたようだが、何かひっかかる。そんな顔だった。

「どこで止められたの?」

『こちらです。現在地、止められたポイント、目標の座標です』

「……」

 しばらくそのデータを見ていたアヤだが、眉をしかめた。

「おかしいわね」

『といいますと?』

「定期便にあれを防ぐ力はない。だいいち距離も遠すぎるし、戦闘態勢にも入ってないはず。

 でも近くに船もないし……メヌちゃんがやったとも思えないし」

『メヌちゃん?』

「メヌーサ・ロルァ。むかしはお友達だったわ」

『そうですか。その者には止める手段があると?』

「たぶんね。でも今のは違うだろうけど」

 むむむとアヤは腕組みをした。

「アルゴノートはどう思う?」

『不明です。ただコリガン砲型のエネルギー弾を防ぐ方法はありますから、センサーに反応がない事自体は不思議はありません。方法がわかりませんが、要はセンサーをごまかせばいいわけですから』

「なるほど。技術的にはわかるけど、それは無理かな」

『無理?なぜですか?』

「あのねえ」

 ぽりぽりとアヤは頬を書いた。そのしぐさは以前、野沢誠一がアヤに見せていたしぐさにどこか似ている。

「何者か知らないけど、そいつはわたしたちの射線上に正確に移動してきて、しかも絶妙のタイミングで対消滅させたわけよね?小惑星くらい軽くぶちぬくエネルギーを。しかもこちらのセンサーにまったく気取られる事なく。

 ……こういっちゃなんだけど、ちょっと無理があるんじゃないかな?止めきれないか、なんらかの反応が出てこちらに発見されちゃうんじゃないかな?」

『たしかにそうですね。ではしかし、どんな方法で止めたのでしょうか?』

「簡単じゃないの。素早く動けて射線上にピタッと出られて、しかもあのエネルギーを対消滅させられる存在」

『申し訳ありません。そのようなことのできる存在が想像つかないのですが』

「そう?わたしは心当たりあるけど」

『そうなのですか?もしよろしければ、お教えいただければ──』

 その声が途中で止まった。

『アヤ』

「なあに?通信でも入った?」

『入りました。つなぎますか?』

「ええ、よろしく」

 

 映像ウインドウが開いた。

 そして、そこには──。

 

『はーい、こんにちはお人形さん』

『……』

 その映像の向こうには。

 何か巨大なものの上に座っている、メヌーサ・ロルァによく似た娘がふたり(・・・)いた。


『艦首波動砲について』

 1982年の第一版『アンドロイドα-7』のオマージュ。

 

『メルは元ヤマト好き』

 そういう年代だったようです。

 なおメルは、『宇宙戦艦ヤマト』を冒険活劇と考えていました。

 さらにいうと「波動砲を使えと命じたのは私。すべての責任は私がとるから、君たちは未来のためにヤマトを動かせ」と古代たちに言い切った、松本コミック版ヤマトの沖田艦長が大好きだったようです。


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