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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
179/264

性差と出産管理

 最初の数日はそれでも良かった。

 たった七日、されど七日。通常便だと十四日かかるともいうが、場合によっては二十日かける事もあると聞いてはもう、いったいそれほどの日数をどうやって過ごしているのかと思ってしまう。

「いろいろよ。寝てたり仕事した遊んだり……えっちな事してる人もいるはずよね」

「あー、そりゃそうか」

 夫婦や恋人で乗り込んでたら、当然それもアリだよな。

 けど、そんなことをフムフムと考えていたらメヌーサに笑われた。

「いや、適当に交換しながら遊んでたり色々だと思うけど?」

「なにそれ?」

 それってまさか。

 

 いきなりなんの話をしているのかって?

 まず、ここは砂浜のビーチ。宿泊場所でみつけたあの砂浜だ。メヌーサとふたりでのんびりと、船員さんに持ってきてもらったパラソルみたいなのを立てて、南の島モードでまったりしている。

 ちなみに余談だけど……メヌーサはなんと全裸。もちろん腹ばいになったりして見せびらかしちゃいないけど、布切れ一枚ないって部分は変わらない。

 見てるヤツなんていないし、いつのまにか担当さんも女の人に切り替わってるみたいだけど……恥ずかしくないのかね?

「慣れよ慣れ。お風呂だって侍女に洗ってもらうじゃないの」

「それ、どこのどんな風呂だよ」

 自動風呂の次は侍女て。中世の王侯貴族かっての。

 そもそも誰かに洗ってもらう風呂なんて……小さい頃に母に入れてもらった記憶くらいかなぁ。

 まぁ「復活」直後にアヤにも入れてもらったてたけど、あれは「慣れない身体なので手伝ってくれた」だけの話しだし、そもそも慣れてからは全部自動洗いだったわけで。

 カラテゼィナのミニロボットたち?あれはノーカン。

 うん。誰かに洗ってもらったことはないな。

 まぁ風俗系で洗ってもらえるのかもしれないけど行ったことないし、老後に介護で入れてもらうことがあれば知らないけどね。

 ところでメヌーサはすっぽんぽんなわけだけど、なぜか私は下着着用。

 いや、実は私も最初は全裸攻撃だったんだどさ。

 寝転んでたらハツネが勝手に下着っぽいのをパパッと作っちゃって、そんで強制着用されたのだよ。ハツネ的には、私がお外で裸なのはNGらしい。

 私も積極的に全裸でいたくないので、そのまま使ってるわけだけど。

「話戻すけどさ。

 恋人でも夫婦でもなくて……その、まさかと思うけど、そういう事するひとって銀河にはたくさんいるのか?」

 さすがに一般的じゃないだろそれ。まぁ銀河だし、そういう趣味の人だって当然いるだろうけどさ。

 けど、そういうとメヌーサが「おりょ?」とばかりに首をかしげた。

「あー、地球ってアレ?貞操観念ってやつ?結婚するまで守りますぅ、相手は固定のパートナーだけですって?そういう文化圏なの?」

「文化圏て……」

 そういうレベルの話なのか、これ。

「んー、異文化だから常識違うってことか。でも大丈夫なのそれ?」

「どういうこと?」

 いや、だからさ。

 気になる部分を質問してみた。

「貞操観念とか、そういう心理的なものもそうだけど……でも、そんな気軽に他人とホイホイするっていうのなら、別の心配もあると思うんだ」

「具体的には?」

「だって、他人と体液や分泌物流し合ったり粘膜同士の接触もあるわけでしょう?衛生面とかも気になるかな?あと病気の感染とか」

 エロ話を期待の方がおられたらゴメンなんだけど、私の気になるのはむしろそっちだ。

 生物学的に深く触れ合うってことだから当然、片方が病気を持っていたら感染も起こりやすいわけで。

 文化的な貞操観念ももちろん。

 でもそれだけでなく、そういう意味でもどうなんだって問題。

 そしたら。

「危険度でいえば、生卵(コル)を素手で割って中身を直接食べるほうがずっと危険だと思うけど?」

「……あー」

 そっちの是非もあったか。

「まぁ生卵の話は次の機会にするとしてさ。

 その、えっちな事っていうか男女のことって、つまり食文化レベルの相違でしかないってこと?」

 生殖にも関係することだから、ナーバスで重たいものって印象あるのだけけど。

 でも食文化レベルで語れる事というのなら……それは私の認識と重さが異なるかもしれない。

「ああ、えっとね」

 メヌーサは少し考えると、ウンとうなずいた。

「そもそも銀河文明では性と生殖が切り離されている場合が多い……って言えばわかるかしら?」

「切り離されている?」

「ええ。基本的に性別も個性のひとつでしかないって文明が多いわね」

 マジすか。

「その状況でどうやって子孫繁栄するわけ?」

 地球では、男女同権などで性別の役割分担が壊れると、子供の数がものすごい勢いで減ることがわかっている。生まれついた性別で区別するのは差別なのかもしれないが、子孫繁栄という点だけに着目すれば、ジェンダーフリーの考えは確実に有害。

 言っておくけど、これは別に男女同権やジェンダーフリーが悪いってことではない。当たり前だ。

 ただ、個人としての是非と、ソーシャルな社会全体としての是非は異なっているのも忘れちゃいけない。

 人口が維持できるだけの子供が生まれなきゃ、遠からず社会は破綻する。

 ならば人口減に結びついてしまうもの……すなわち、女性が生涯に平均して産める子供の平均数の減少に結びついてしまう事柄や考えは、基本的に「非」になってしまうわけだ。

 繰り返すが、男女同権やジェンダーフリーが悪いわけではない。

 ただ「個体数の減少」はそれすなわち、種族としての衰退である限り。

 女性がお腹を傷めなくとも子供が増やせる時代が来るまでは少なくとも、たとえ不平等と言われても、子供が産める身体の女性にはがんばって産んでもらわなくちゃならないし、出産や子育てに必要なら社会としても協力を怠るべきではない。

 そうしなければ、どうなるか?簡単だ。

 たとえ何十億、何百億いようとも関係ない。

 増えなくなった生き物は最悪、たった一世代の時間で絶滅するのだから。

 

 おっと、話がずれた。

 富国強兵なんていうつもりはないけど、生き物である限り「数」が力である事は人間だって変わらない。どんどん増える必要はないけど、ある程度の数を保たなければ必ず優位性は失われ、やがては滅びとなるだろう。

 ならば。

 生まれ持つ性別すらも個性のひとつでしかない……それほどまでに同権が進んだ社会で、どうやって子供の数を維持しているんだろう?

「単体の政策じゃないわね、その国によって色々よ」

「色々?」

「たとえば連邦では徹底したプロパガンダを使ってるわ」

「プロパガンダて……あのプロパガンダ?」

「そうよ、他にあるの?」

「いや、その」

 あまりに簡単すぎて、とっさに反応に困ったんですが。

「ほら、これ。ラダックで最近人気のやつよ」

 ほほう。

 あ、ラダックというのは事実上ほぼテレビのことだと思えばいい。

 ただ地球のテレビがデジタル化して双方向の要素を取り入れたり色々変わっているように、このラダックも立体放送があったり色々で、一口にテレビの事だよと断言できない部分がたくさんあるんだけどね。

 でもテレビ同様にドラマもあったりするし、娯楽メディアという意味ではやっぱり同じかな?

 まぁいい、今はそれじゃない。

 メヌーサに見せられた人気番組のタイトルを見た。

「なんだこれ……『家族になろうよ』って」

「そのまんまじゃないの。内容もそういうものだけど?」

「いやだって、連邦には家族制度ないんだろ?」

「ええ、だからいわゆる家族制度とは違うわよ?子供だって自分のお腹で産んでないし。

 でも『わたしたち両方の遺伝子を受け継ぐ子』が重要な役割を果たすのよ」

「へぇ」

 他の作品のタイトルを見た。

「いろいろあるけど……子供が関係する点は同じ?」

「当然。子供を産むことは大切で、産めるなら産むべきって主張がこめられているからね」

 地球的に言うと幸せなものばかりではない。

 たとえば、妊娠するけど相手が去ってしまうというバッドエンドとしか思えないものもあったりするのだけど。

「……里子システムまであるんだ」

「破局したからって愛情が消えるとは限らないけど、でも、別れた相手の面影がつらい場合もあるでしょう?

 そういう時の救済措置のひとつよ。

 しかも、家族制度がなくたってパートナーと生活し、子供を欲しがる人たちは多いし」

「そうなの?」

「言ったでしょ。子供は大切だって広まってるから。

 パートナーのどちらかが子供を作るのに適さなかったりすると出産許可が出ないんだけどね。

 けど、それでも子供はほしいでしょ?そうしたらどうする?」

「……そういえばホラ、あの農業の星で、生体銀行(ロス・ロズラー)ってのがあったけど」

「あれはいい例ね」

 気のいい爺さんたちのいたあの星。

「里子、養子みたいな制度もそうだけど、出産数の補正に人工的に生み出される子どもたちもいるしね。本当にいろいろよ」

「ほう?」

 自然出産と人工で生まれる子どもたちの両方がいるのか?

 それって、差別の元になったりしないのか?

「ないわね」

「そうなの?」

「だって、人口的な比率だと自然出産の方が稀少なくらいだから」

「そうなんだ……」

「ええ、そうよ」

 メヌーサはためいきをついた。

「考えてみて。

 もし自然出産だけで男女をまったく同権にして男女共同参画社会を作った場合、国にもよるけど合計特殊出生率は最悪、一を割り込んじゃうのよ。

 ねえ、考えてみて。

 男女比が純粋に一対一だとしても、その女性側が生涯に産む子供の数が一を割り込んじゃったら、人口の維持ができるかしら?」

「できるわけない」

 即答した。

「男女比が完全に一対一で病死などが一切なく、全ての組み合わせが結婚するとしても、合計特殊出生率は2.0必要だろ。まして一を割り込むなんて」

 何億いようと、数世代で社会が崩壊するだろう。

「男女同権を完全に実施しようと思えば、自然出産で数が賄えるわけがないでしょ。だって、同権になってもなお『子供を産みたい』って思う女性が全女性の半分だとしたら、その人達は五人も六人も産んでくれなきゃ人口の維持ができないって事になるもの。

 できると思う?」

「無理」

 これも即答だった。

「なるほど……男女同権と人類の未来を両立したいなら、性と生殖を分離しないとダメって事か」

「ええ、そうよ。もちろん自然出産してくれるならその方がいいから、そういう人たちへの援助も必要だけどね」

 ほう。

「そこまでやっても自然出産は排除しないの?」

「そこまで排除するんなら、もう生殖システムなんかいらないでしょ。遺伝子情報だけやりとりしていればいい。

 でも、それって人間といえるかしら?」

「それは……どうだろう」

 ダメな気がした。


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