表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
175/264

トリ

 突然だけど、あなたは大きな船に乗ったことがあるだろうか?

 たとえば日本のフェリーでも全長二百メートル越えは結構ある。国内の長距離フェリーには何クラスかあるのだけど、乗ったことのある人ならその広さもわかるだろう。乗客の入れる区画なんて全体のごく一部であるにも関わらず、意外なほどに広いと感じた人も多いんじゃないだろうか。

 この広さの理由にはたぶん『立体構造』であることも関係してると思う。

 ただ二百メートル歩くだけなら人には大した距離ではない。かりに三倍の六百メートルだったとしても、無茶な距離ではない。

 だけど、それが二百メートルずつ三層の立体になり、さらにあちこちで不連続な階段でつながっているとしたらどうだろう。ひとによっては迷路のような立体に感じられ、実際よりも広く感じられるだろう。ひとによっては容易に迷ってしまうかもしれない。

 では、さらにその百倍の長さ、20kmを越える船舶となったらどうだろう?

 しかも地球の船のように長細いわけでなく、横幅も、そして縦にもずっと広いとしたら?

 そう……その広さはもう、陸上の都市のそれに匹敵するのだろう。

 いや、深さや奥行きによっては、20kmの船の『広さ』は地上のメガロポリスのそれに達するかもしれない。

【広いといってもシステム区画や従業員区画は入れませんので、そこまでの心配はないかと】

「そう?」

【はい、それに随所に案内もございますし、メル様ならネットでナビゲートを常時使うことも可能です】

 まぁ確かに。

「ちなみに迷子ってどのくらい出るの?」

【今回の航海で、現在十人ほど】

「出てるじゃん」

 やっぱ迷う人いるんだ。当たり前か。

【複数のソースで参照できるよう情報は用意してあるのですが】

「そんじゃどうして迷うの?」

【ご覧にならないのです。どんなにご案内差し上げても、全く参照してくださらないお客様がいらっしゃいまして】

「……ま、まぁ、私みたいに質問すれば口頭なら」

【そういう方のほぼ全員が、機械はダメだとお話してくださいません】

「……」

 自分から情報拒否ったあげく、まよってたら世話ないよなぁ。

 けど、なんかわかる。

 地球でもそういう自爆型のクレーマーとかいるもんなぁ。そこで粘っても絶対に損するだろうに、なぜか意味不明にクレームつけて粘りまくるやつ。

 登山家かなにかの気分なのだろうか?

 

 さて。

 ところで、船内の広さに飛ぼうとしたらダメって言われたんだけど、かわりに貸してくれたのは電動スクーターみたいなやつだった。

 ちなみに最高速は30kmほど。一般客むけフロアの端から端まで三十分以上かかるらしい。

 屋内だし、この速度は遅くないと思う。要するに広すぎるんだ。

「これ操縦方法は?」

【ゲルと同じです、と申し上げるとご理解いただけますか?】

「ああわかった」

 うん?地上でゲル乗った情報が共有されてるのか?

 なんともネットだなぁ。

【操作方法や体感システムを同じにしますか?】

「いらない。ただしスロットルだけは右手で同じ操作にしてくれる?」

【了解。設定いたしました】

「ありがと」

 SFで構内交通用に出てきそうなミニスクーターが、ドコドコいって走ってたらキモいだろう。

 ちなみに電動スクーターみたいといったけど、カタチはスクーターとは程遠い。確かにスクーターっぽいカタチなんだけど、なんと前輪がないんだこれが。

 モナ、モノビークル、一輪車。要は一輪スクーター。

 とはいえ地球の一輪車を想像するならそれは間違い。だって前輪がないことを除けば地球の二輪車そのものなんだよね。

 つまり、前輪がないのに普通に走ってる二輪車を想像してみて。

 本来、前輪のあるべき場所にあるのは、何かの装置。

 要するに重力だか慣性だかを軽く制御することで、操舵の役目を果たしつつソリのように車体を滑らせているらしい。ブレーキングも同じ制御ユニットがやるそうで、原理上前輪スリップは絶対ないそうだ。

 なにそれ、ずっこい。

 ちなみに推進力もコレで作れるけど非効率らしくて、ここだけ古きタイヤの摩擦を今も利用しているそうだ。でも車重も軽減しているかわりに、路面にタイヤを少し押し付けることで圧倒的な設置感を実現しているとか。

 なんじゃそれ。

 近距離用ビークルはこのタイプが多いらしい。あのゲル屋にあったミニビークルもそうだったし。

 このふざけたシステムを使うと、転倒事故もほとんどないという。寝てても目的地までつれてってくれるそうだ。

 そりゃコケないだろうなぁ。自力でバランスどりするうえにスリップなし、操作もシステム任せにできるんだもの。

 しかし、後輪一個だけなのに二輪車的に立っているという、この見た目が物理法則無視した感じで怖いというかキモイというか。銀河の人たちは疑問に思わないんだろ?

【生まれた時から当たり前に存在するからかと】

「……やっぱりそうなるかぁ」

 うーむ。

 個人的にはやっぱり、せめてゲルだよな。車輪そのものがないのは感覚的に受け付けられない。

 そんなことを考えつつ乗り込む。

【接続いたしました。エイドム・リンター号船内ビークル011番にようこそ】

 ゲルで見慣れたメーター類や運航情報パネルが視界にパパッと現れる。

「ほいほい、そんじゃ出発ー」

【了解】

 そのまま音もなく、異星製スクーターによる船内探索は始まった。

 

 船内をしばらく進んでいくと、一気に生活ブロックみたいなところに変わった。

【こちらは一般船室です。入り口から違うので馴染みがないかと思いますが】

 たしかに。

 食堂には人もいたけど、あれは一般船室の客じゃないらしいもんね。上等客というか、地球の飛行機でいうとビジネスクラス、プレミアムクラスの客ばかりらしい。

 どうもこの船では、入り口と船室、食堂設備についてはハッキリ分けてあるらしい。

「しつもーん」

【はい、何でしょうか?】

「なんでそこまで区分けするの?」

【サービスの差別化のためですが、危険防止でもあります。まことに残念なことですが一般客にまじり、上級客を狙う犯行というのはいつの時代にもございますので。

 また同様に、一部の上級のお客様の中には一般のお客様の迷惑になる行動をとる方もおられますので……歴史的経緯で隔離するのが基本となっております】

 ああ……そういうことか。

 銀河にもそういう、あまり楽しくない現実があるってことか。

「閉鎖された船内で狙っても、すぐにバレるんじゃないの?」

【もちろんです。

 しかし、すぐ逮捕されても被害者の気持ちを元に戻すことはできません】

「そりゃまぁ」

 時計の針を元に戻さない限り、それは無理だよな。

 だけど。

【本船はなるべく多くの方に快適に過ごしていただきたいのです。

 そしてそれは被害者になりうる方々だけでなく、たまたま魔がさして犯行に及んでしまうような方々を保護する意味合いもあるのです】

「……」

 なんだって?

「それって、加害者も保護するってこと?」

【何もしてないのですから、加害者ではありませんが。

 しかし事件そのものを起こらないようにするということは、不幸にも加害者側に立ってしまう可能性のある人を防ぐという意味合いもあるのです】

「……すべての人を信じなさい、しかし牛には焼印を押しなさいってか」

【はい?】

「いや、いい。なるほどわかった」

 今のは昔のひとの言葉だそうだ。

 牛に焼印を押すのはかわいそう、盗人なんかいないというのなら焼印なんていらないだろう、という言葉に対するもの。

 ひとの善意を信じている。

 だけど、ひとを『出来心の誘惑』から守るため、きちんと「防犯」も示しておけということ。

 なかなかに含蓄(がんちく)のある言葉だと思わないか?

 

 しかし、なかなかに現実的だけど賛否ありそうな対応だなぁ。犯罪防止のために乗客をクラスで隔離するとか、日本とかだと差別だなんだって大騒ぎになりそうだ。

 だけど、別に共用の一般区画で会えばいいだろうし、一緒にいたいならクラス変更もできるだろう。言うほどガチガチではないはずだし、だいたい採用している地域で問題なしとされているのなら、外部の者がとやかくいう話じゃないだろう。

 それに個人的にも、なぁ。

 さて、それよりも。

「ちょっと聞きたいんだけど」

【なんでしょう】

「この船の最後尾に行きたい。もちろん、ひとが入れる範疇でかまわないんだけどさ」

【わかりました、では指示の方に進んでください。それともオートモードにいたしますか?】

「え、この乗り物ってオートモードあるの?」

【はい、もちろんございます】

 へー。

「おもしろい、じゃあオートで頼めるかな?」

【わかりました】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ