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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
172/264

出港

 出されたお茶を飲み、ひといきついたあとは探検に出発した。

 え、どこの探検って?そりゃこの広すぎる『部屋』の中だよ。

 何やらメヌーサとジッタさんは込み入った話をしていたし、その中身も私とあまり関係のない話ばかりだったし。

 実際、行ったこともなければ関係者の知り合いもないアマルー王家の話もそうだけど、ソフィアが関係者とはいえ、アンドロメダにお嫁にいって十年単位の時間が過ぎている上、すでに存在しないアルカイン王国の話もね。呼ばれれば参加するけど、今、鼻を突っ込んでも邪魔になるだけというか。

 そんなわけで建物を出、あるき出したわけだけど。

「……なんというか、森だなぁ」

 建物から出て森に続く通路を歩いてきたんだけどさ。

 

 なんていうか、森林公園の遊歩道というよりむしろガチの山道?

 めっちゃ森の中なんですが。

 

 妙に懐かしい感じがすると思ったら、生物相が日本のそれに似ているっぽい。

 森を構成しているのは、地球でいうところの広葉樹林に近いもの。地面もフワッとした感があるし、ちゃんと腐葉土の層ができているんじゃなかろうか。

 当然、虫なんかもたくさんいて……森の中はある意味雑然とし、清潔感にも欠けているんだけど。

「……なるほど」

 土と石畳の通路があるんだけど、虫も植物も通路には一切、出てきてない。

 最初、きちんと手入れされているんだろうなと思った。実際、作業ロボットみたいなのが動いているのも見たし。

 だけど。

「うん」

 虫が一匹、飛んできたんだけど、通路に入らないんだよね。どういう技術か知らないけど。

 考えてみたら、通路とか各個室なんかに森の生き物が入り放題でも困るわけで。そういう意味ではおかしくないのか。

 まぁ、たとえば森で遊んで虫とか草のタネとかつけた客が部屋に戻った場合どうなるかとか、そのあたりは謎だけれども。

「……ん?」

 なんか水音がするんですけど?

 しかもこれ……波の音じゃね?

 ……まさか!

 思わず駆け出したんだけど。

 

「……マジすか」

 いきなり森が切れたら、今度は白い砂浜ときやがった。

 南の島だよ。エメラルドの海だよ。打ち寄せる波とか。

 まぁ、後ろを見ると森なんだけどな……。

 ふと気づくと、日差しも熱い。

 明らかに森の中と気候が違うんですけど。どこで切り替わった?

 いったい、どうやって区画で分けてあるんだ?

【何かご質問ですか?】

 おっと、悩んでいたら船が訊ねてきた。

 いいけど、客のひとりひとりまでチェックしてるのかこの船?

「狭い範囲で気候が違うけど、どうやってるのかなと」

【森林は環境構築したものですが、さすがにその砂浜は純粋に人造なので】

 ああなるほど。波のあるプールとかのオーバーテクノロジー版ってことか。

「ここまでやらんでもバーチャルにすればよかったんじゃ?」

【魚などは仮想の映像になっています。わたしは旧式ですし小型船ですので】

 それってつまり、普通に海を再現している船もあるってことか。

 うーむ、想像もつかないな。

 とりあえず座ってみた。

 砂浜もきちんと砂浜だった。

 この感触、沖縄の海に近いかな。まぁ私自身、白い砂浜自体がずいぶんとご無沙汰なんだけどね。

 ああ、気持ちいい……。

 そんなことを考えていたら。

【おやすみになりますか?】

 え?

「ここで寝ていいの?もうすぐ出港なんでしょう?」

【特に必要な事などはありませんので。別途のお荷物などもないようですし、お連れの方にはここにいる事をお知らせいたします】

 なるほど。

 どうせメヌーサはあのジッタさんって人と何か話してたし、問題ないかな?

「あ、でもこの日差しじゃ……お」

 突然、薄暗くなったと思ったら、いつのまにかパラソルの下にいた。

 このパラソルは……仮想のものか。でもちゃんと日差しをさえぎってる。

 ふう。

 こうなるともう、どこまでが実態でどこからが虚像なのか、わからなくなってくるね。

 うむ。

 とりあえず寝るか。

 おやすみー……。

  

 

「メルー……って、なんでいきなり寝てるのかしら?」

【波の音で安心なさったようです】

「あー……そういうことか」

 うつら、うつら。

 眠りの向こう、遠くから誰かの声が聞こえる。

 ……ん?この声はメヌーサ?

「ん……」

「おはよう、お寝坊さん」

 え?お寝坊?

「もう出航しちゃったけど、良かったのかしら?」

 あらら。

「それは残念」

 出航アナウンスとか、ちょっと聞いてみたかったかも。

 そんなことを考えていたら、何かメヌーサが微笑んでいた。

「なに?」

「メルって、ササ子よねえ」

「ササコ?ササゴ?」

 小魚みたいな言い方だけど、どういう意味だろ?

「ササっていうのはまぁ故事に由来するんだけど……ズレてる子って意味が近いかな?」

「ずれてる?」

「たとえば、楽しいことでウキウキしすぎて、本番で力尽きて寝ちゃうとか」

「……」

「たとえば、皆でコレだーって騒いでる時に、ひとりだけポツリと違うこと真顔で言って空気を凍らせたりとか」

「……」

「自覚あるんだ?」

「……」

 あいたたた。

「そういう、ちょーっとズレてる変な子をね、わたしの故郷ではササの子、ササ子って呼んでたの。ああ、あの子ササだからって生暖かい目で見るの」

「……なんかこう、聞くからに切ないっていうか勘弁してください」

「あはは」

 なんか楽しそうに笑われた。

 

 

 食事は個室に運んでもらえるらしいけど、あえて皆の食堂で食べることにした。

「お」

 中に入ると、なんか懐かしい感じがした。なんか田舎の学生食堂みたいな雰囲気だな。

「食券タイプかな?」

「ロビー方式ね」

「ロビー方式?」

総合情報受付(ルートロビー)を呼び出してみなさい?」

「ここで?」

「そう、ここで」

 言われるままに総合情報受付(ルートロビー)を呼んでみた。

 あ、久々なので説明しておくと、総合情報受付(ルートロビー)とは地球のネットにおけるポータルサイトみたいなもんだ。

 銀河文明は地球のインターネットのように特定国家にネットの中枢が集まってるわけじゃないから、各地域ごとにポータルがあって、そこにつなぐとネットまわりに必要な情報、現地時間、現地語の翻訳データなんかも得られたりする。もちろん検索も可能。

 で、その総合情報受付(ルートロビー)を呼んでみたのだけど。

「あ、食堂メニューが追加されてる」

「ローカル情報が付加されてるの。便利でしょ?」

 よくできてるなぁ。

「ここから申し込めるわけ?」

「やってみなさい」

「おけ」

 メニューをザッと見てみたんだけど。

「ねえメヌーサ」

「なぁに?注文するならしなさい?」

「メニューはわかるけど内容がわからん。検索しても出てこないぞ」

「あら、それじゃ意味ないわねえ」

 そういうとメヌーサは笑った。

「いや笑えないって、どうなってるのさ?」

 だいたい、メニュー名で検索かけても出てこないって何なんだ?

 それに。

「これってメニューなの?ププンカの褒め上げとかナルコシスの苦笑とか」

「暗号みたいなものかな?」

「わけわかんないって」

 なんでメニューが暗号になってるんだ?

「聖典に出てくるメニューだから、ゲルカノ教徒なら大丈夫なのよね」

「すんません異教徒で。つーかメヌーサもだろ?」

「姉さんの記憶も含めると、通算で二百年くらいは教団にいるから」

「うわぁ裏切り者ぉっ!」

 涙目になっていたら、メヌーサがアハハと苦笑した。

「そんな泣かなくても。よくわからない時は、おススメを選べばいいのよ」

「おススメ?ああこれか」

 おススメを選ぼうとして、ふと気づいた。

 あれ、おススメの横に説明がある。

 

『ススンカの涙』

 聖者ススンカの悲劇に登場するメニュー。スカの素揚げ定食を意味する。

 

 スカ?

 さらに選択してみると、スカの意味もちゃんと書かれている。

 

『スカ』

 ヨンカの河川でおなじみの魚。白身で淡白、素揚げに最適。

 

「あれ?おススメはちゃんと意味が注記してあるけど?」

「よくわからない人は、おススメを頼んでっていうことだから」

「だったら全部に書いてほしいんだけど?」

「おススメ注文が多い方が厨房も楽でしょう?」

「合理化かよっ!」

 思わず脱力した。


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