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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
170/264

エイドム・リンター号

 ヤンカへの渡航準備は順調に進んでいった。

 何より正式な航路による定期便というのがいい。

 今まで乗った宇宙船というとVIP専用船、個人所有の船、果ては救命ポッドごと貨物船のようなものに運んでもらうといったものばかりで、まっとうな定期航路なんて初めて乗るわけで。

 おお、なんか子供の頃を思い出すなぁ。

「どうしたのメル?」

「え?いやなんでもないよ」

「?」

 いや、なんかワクワクするんだけどね。

 ローカルネタで悪いけど、小さい頃、はじめて定期航路の船に乗ったんだよ。宇高連絡船(うこうれんらくせん)といって、もう廃止になって久しいんだけどね。西暦にすると1974年くらいの頃かな?

 あれからたくさんの船に乗った。船内で何泊もする船にも乗ったさ。

 あの時のドキドキは今も鮮明に覚えている。

 それでなんかワクワクするんだけどさ。

 でも、そういう気持ちって、どうやって説明すればいいんだろう?

 ははは。

 何十年か生きてるはずなのに、どうしてこんな簡単なことも説明できないんだろうね?

 ほんと、私ってマヌケだわ。

「うん、すごいかも」

「ん?何が?」

「ああごめん、こっちの話」

「……よくわからないけど、船旅で浮かれてるのはわかったわ」

「ごめん」

「いいのよ別に」

 笑われてしまった。

 まぁでも実際、船はロマンだと思う。

 それは水の上の船だろうと、星の海を行く船だろうと変わることはないと思うんだ。

 ねえ、君は船に乗ったことあるかい?

 そんなすごい船じゃなくてもいいんだ。乗ったことがないのなら、いつか、どこかで乗ってみてほしい。

 君がもし私と同類なら、きっとワクワクできると思うから。

 さて。

「えっと、予定だと出るのはいつだっけ?」

「明日よ?」

 え?

「いつのまに」

「臨時船って言ったでしょ、忘れてた?」

 あー、そういえば。

「今、燃料入れてるのよねマコ?」

「はい、燃料と各種資材積み込み中です。定期便より三日早く出られますね」

 マコさんが答えてくれた。

 しかしマコさん、いつのまにか専用エージェントみたいになっちゃってるな。すみませんご迷惑を。

「船足は倍なんだっけ?」

「はい。七日で到着しますから」

「しめて十日短縮か。ごめんね迷惑ばかりで」

「とんでもありません」

 こっちは荷物など何もない。渡ればいいだけだ。

「船内の食事なんかはどうなってるの?急がせてる身だから贅沢はいわないけど」

「ロイドバーがあります。あと緊急なので乗客の方に募集を出しましたら、移動店の申請が若干ありまして、特別に受理しています。こちらも今、搬入中です」

「移動店?」

「屋台や露店みたいなものよ。船内の多目的ブースを使って売るんだけどね」

「屋台!」

 あ、いいな。

 ちなみに露店や屋台のたぐいって銀河にもあるんだよ。というか単純すぎて他の形になりようがないというべきか。

「ちなみに料理のジャンル申請はあるの?」

「時間がないせいか、本格的料理はないです。軽食と飲み物スタンドですね。軽食は何種類かありますが、連邦式はありません。イダミジア式と古エリアナ式、それとヨンカ伝統食です」

「お酒は?」

「飲み物スタンド申請で一件。ただし船の中ですからジャンルはお察しですね」

「それは仕方ないわね」

「好みの銘柄はありますか?」

「『ヨンカ祭』ってまだ造ってるかしら?」

「またマニアックな銘柄を……ありますよ、といっても復活版ですが」

「あら、一度潰えたの?」

「はい。メヌア様ご愛飲ということで、なんとか復活させたのですが、味まで同じかはわかりません」

「あらら……ごめんなさいね」

「いいんです。我々も楽しみましたから」

 酒の確認は忘れないんだな。さすが。

 しかし、指定のローカル銘柄もあるとか。メヌーサまじ酒飲みだな。負けてはいられないな。

 え?なんで対抗意識燃やしてるのかって?

 ふふふ……これでも一応は日本有数の飲んべの国、高知生まれの高知育ちなんで。

 

 

 そんなこんなで翌日、私たちは宇宙にあがっていた。今度は前回の貨物ブースのある港じゃなくて、ヨンカ行き乗り場のある旅客専用の宇宙港だ。

「これがエイドム・リンター号です」

「変な形……」

「ははは、これは手厳しい」

 なんか妙なやりとりをしているメヌーサとマコさんは置いといて、まずは見物。

 ふーん……思ったより普通っていうか、SFっぽくないな。

 工業デザイン的にいえば、地球の大型船のそれに近いと思う。たぶんだけど、ハリウッドの娯楽作品で描かれる宇宙船の方がずっと未来的というか、サイバーな感じがするんじゃないかな?

 むしろこれは、あれだ。

 冗談でもなんでもなく、日本の田舎で運行されていた小さいカーフェリー……あれくらいのイメージで大型宇宙船を造ったらこうなりますよって感じというか。

 え、何を言いたいのかって?

 つまりさ、生活臭がにじみ出てるんだよ物凄く。

「……これは」

 思わず唸ってしまった。

キレイなんだけど、どこか薄汚れた巨大な機体。

 真空の宇宙空間で、しかも大きな船。これ長さ何kmあるんだ?

 これでも銀河的には、そんな大きなものじゃないらしいけど……ねえ。

 地球的にはありえないサイズだけど、万人単位を収容できる『宇宙客船』ならば、確かにこの大きさになっても不思議じゃないよね。

 だって、考えてほしい。

 客船というのは、生命維持や食事のためのインフラも当然として、しかも「快適に過ごす」ためのものが必要なわけで。

 一般の船と客船の違いというのは、程度の差こそあれ、ただ運ぶだけじゃない何かを提供することだと思うんだよね。

 ただ食事可能ってだけなら自動給餌器でもなんでもすればいい。

 だけど「客船」であるからには、程度の差こそあれもう少しマシなものを提供すべきなわけで。

 

 そして、そうして長い年月使い込まれた結果……生活臭というのはやっぱり出るんだと思う。

 真空中では酸化もないし、薄汚れることはない。確かにそのとおり。

 だけど人が乗る限り、汚れてしまうチャンスはあるわけで。

 そう。

 使い込まれるとは磨り減る事であり、汚れたり、壊れたりしていくこと。

 たぶんだけど。

 そういったものの総称が、今、私の目に写っている「生活臭」ってやつの正体なのかもしれない。

 そんなことを考えていたら。

「メル、どうしたの?」

「うん……ずいぶんと使い込まれたお船だねって」

「そう?まぁそうだけど、なかなかきれいに整備されていると思うけど?見た目なんかほとんど新品……」

 そこまで言いかけたメヌーサが「ああ」と楽しげににんまりと笑った。

 メヌーサ?

「なぁに?」

「なんでもないわ。いい感じに成長してるわねってこと」

「??」

「いいから。さ、行くわよ」

「うん」

 乗り場はいくつかあるらしいんだけど、乗客用乗り場は広い通路になっている。

 ただし地球のSF的にいうとありえない事だけど、見た目は海の船の乗り場に似てるんだよね。何を言いたいかというと、空港の乗り場みたいにチューブめいたものを飛行機につなぐとか、そういうものがない。思いっきり開放状態。まぁプラスチックみたいな透明の壁はあるんだけど、気密機能なんてなさそうな、というか、要は子供が飛び出さないようにってレベルの囲いでしかない。

 これはつまり、一気圧を保つために通路を密閉する必要がないってこと。

 そう。いわゆるシールド技術ってやつだ。

 ちなみに閉鎖的なトンネルもあるそうなんだけど、普段は物資の搬入用らしい。見た目が悪いというのもあるけど、要はシールドが使えない状況の時には古来のエアロックを使えるようにしておくっていうのが決まりなんだと。

 こんなとこにも大人の事情がってやつだ。

 そんな風景を見つつ渡り廊下を通り、船の中に入っていく。

「この子ってかなり大きいのかな?」

「あくまで旅客船だから、そこそこかしら。ていうか自分で調べなさい」

「え?接続していいの?」

「いいのも何も、山で一度つないだんでしょ?同じことよ」

「あー、あれってゲル経由だったから」

「どういうこと?」

 なんかメヌーサが眉をしかめてきたので、説明した。

「いや、借りたゲルの通信システム、パターン認識がイダミジアで触ったネットワーク機器に似てたんだよ。たぶん同系列のアーキテクチャーだろうと思ってさ。これなら代理(プロキシ)できるかなと思って。

 なんかためしに中継アクセスを試みてみたら通じたから」

「……」

「メヌーサ?」

「確かにその身体にはそういう機能があるけど……なんで人間のメルが使えるの?」

「へ?いやだってネット機能だよね?この身体って体内にネット端末持ってるようなものだし」

 そうなんだよね。

 最初とまどったけど、ずーっといじってたら、ああそうかっていうのがわかってきてさ。

 わかってみると便利だよやっぱり。常にネットと接続OKで、しかも考えるだけで操作できて充電もいらない超絶高機能のパソコンが体内にあるようなものだから。

 でも、そういうとメヌーサが何か凄い顔をしてた。

 呆れ?怒り?

「メル。あなた元技術者だっけ?」

「うん。IT屋……っていってもわかんないかな」

「わかるわ。言葉はわからないけど、同時にメルの頭からニュアンス自体を読み取ったから」

「あいかわらず器用だなぁ」

「あなたほどじゃないわよ。

 空もうまく飛べないくせに、どうしてそういう能力だけ普通に伸びてるのかしらね?」

 そういうと、メヌーサはしみじみとためいきをついた。


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