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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
166/264

死角


 

 指示通りに左折すると、次第に山道のような様相に変わってくる。

 片側二車線程度の広さは確保されているんだけど、ゆったりと曲がりつつも山の上を目指していく。

「これガードレールかな?」

【危険防止フェンスです。ひっかかると強制停止がかかります】

 なるほど、いわばガードレールの進化型か。

 そのフェンスとやらが地球のガードレールと同じように、道の谷側にずっと伸びている。うっかりさんが道からこぼれ落ちそうになったら、やさしくキャッチされて止まるらしい。

 もっとも自動運転全盛の社会じゃ、そんなうっかり事故はめったにないだろうけども。

 ん?自動運転だと交通事故なんてゼロなんじゃないかって?

 いや、件数は少ないけどゼロじゃないって聞いたぞ。

 確かにオール自動化すると原理としては事故ゼロになりそうなものだけど、完全は無理らしい。それに故障などにまつわる想定外の動作による事故もあるし、手動運転に切り替えて走行中にクラッシュするやつだっている。

 減らすことはできてもゼロにするのは難しいんだって。

「おっと」

 話している場合じゅないな。

 発動機側がとてもクセのある代物なので、微妙なコントロールがきかない。山道になると速度を落とし、トルクまかせにゆっくりと上がるのが一番だったりする。

 え?エミュレーションなんだから切ればいいって?んー、とりあえず却下。

 非常事態ならそうするけど今は違うし、こういう不便も楽しみのうちだと思うよ。

 それに個人的にシングルエンジンの単車は大好きなんで、この雰囲気をもう少し味わいたい。

 ゴッゴッゴッともドッドッドッともつかない、特有の低くて遅いエンジン音と、そして大きな振動。すべてが重くて遅い挙動。

 ああでも、これがいいんだよ。いかにもメカって感じでね。

 銀河文明に出て珍しいもの、面白いものをたくさん見てきたけど、逆にこういう古典的な乗り物に触れる機会は減ったと思う。乗り物は自動運転ばかりになったし、鉄道の類は過渡期の文明のものらしく、もっとスマートなものに置き換えられている。

 だからこう、発動機が回ってるぞーみたいな、むきだしの機械的な乗り物に飢えていたというか。

 うん。

 なんか、楽しいかも。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「……」

 上機嫌でゲルを走らせるメルの頭、ヘルメットの上。

 よく見るとそのヘルメットには何か奇怪な脚のようなものがチラチラと浮き上がっている。さらによく見るとそれは動き回っていて、周囲を油断なく警戒しているのがわかる。

 もちろん、それはメルに寄生しているハツネの仕業である。

(道路外に熱源反応多数、いくつかは野生動物と思われるが、知性体と思われる個体の分別が困難。敵性の可能性は低いと思われるが油断はできない)

 ハツネは基本的に自分を出していない。さきほど一瞬だけ脚を出してしまったのは失敗(ミステイク)であり、花の影に隠れて獲物を捕食するハナグモのように、彼女はメルの頭部やヘルメットを上手に利用し、欺瞞している。

 実際、少し前にすれ違った家族連れらしき乗り物がいたが、窓から顔を出していた子どもたちはハツネに気づいていない。メルの姿を見て「きれいなおねーさん」がゲルに乗っている姿を見たにもかかわらずである。

(非常時用の使用可能スキル確認。現状、外敵への対応に使えるスキルは以下であるが、殺傷を可能とするならば新たに手に入れた……)

 推論をしつつ、センサーを巡らせるのは止まらない。

 ハツネは静かに、じっと周囲を警戒している。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 駐車場には車の一台もなかった。

 おそらくそれは、もともとは何かの施設だったのだろう。それを解体したあとにできた広場を平らにして、そこを駐車場にしたと思われる。ただし自動運転車両が前提のせいか、地球のそれのような白線はないのだけど。

 その隅っこの方にゲルを停止した。

「停止しろ」

【了解。発電機も停止しますか?】

「充電がすんでないなら充電のみ続けろ」

【了解。満充電にはあと二十分かかります】

「わかった」

 思ったより早いな。

 地球の場合だけど、燃料電池車の多くは自力で充電は難しい。走行中にバッテリーに送れる電力は補助的なものでしかなくて、本格的な充電は外部から有線でやるものが多いと思う。

 このゲルはさすがに銀河文明のものだけあって、発電機だけの力でも満充電にできるらしい。でも、さすがに走りつつ満タンにするのは無理だったようだ。

 ここで自分のバイクなら、電気だけでどこまで走れるのかとか把握すべきだろう。でも借り物だし、あとはバイク屋まで帰るだけなんだから必要あるまい。

 さて。

 見回すと、広場の向こうに何かの施設がある。あれは展望台かなにかかな?

 ハツネは警戒を続けているようだ。今のところ何もないが。

 うむ。

 どれ、ちょっとあの展望台に行ってみるかな?

 と、その方に向けてあるき出したその瞬間だった。

 

 突然、景色が大きく右にブレた。

 

 気がつくと、すってんころりとひっくり返っていた。

 なんか左の側頭部がズキズキと痛い。なんじゃこりゃ。

 無意識にまさぐった手によると問題はなさそうだけど。

 うむ。記録と内部データで解析してみる。

 

『解析結果』側頭部に実弾による狙撃を受けた模様。

 

 起き上がりつつセンサーを全開にする。

 ああ、路上に何かの破片みたいなものが散らばってる。素材は何?

 

『解析結果』特殊技術で焼き固められた結晶体。主成分は塩化ナトリウム。

 

 塩?どういうことだ?

 

『解析結果』詳細不明だが該当情報あり。

 対人狙撃、および有機サイボーグ体の破壊に塩の弾丸が使われることがある。組織破壊後に体内残留分が溶解し、弾丸種別などの特定が困難になるため。加工技術の関係で特定不能ではないが、現地の技術レベルが不足していると情報がとれずお蔵入りになる事も多い。

 

 ……ほうほう。

 

 頭がだんだんと状況を認識してきたぞ。

 つまり私は狙撃されたと。それも、もし私が通常のサイボーグ体なら殺されていたと。

 頭痛いけど、とりあえず問題なしかな?

 

『あとで検査すべきだが、現状問題なし』

 

 無事だった理由は?

 

『連邦式ドロイドなら五型相当でも破壊されるレベルの狙撃と思われる。

 この機体は基本的にアヤと同じであり、強く、硬い攻撃には強く、硬く抵抗する構造になっている。狙撃を受けた際の外殻強度は重装甲車以上であり、連邦式の徹甲弾にこれを突破し、頭蓋のみ破壊できるものは存在しない。もし破壊するなら軍事力ですり潰すべき』

 

 物騒な解説どうも。

『ハツネ、発射元の特定は?』

『必要ナイ。六時ノ方向カラ接近中』

 ほう。

 振り返ると、確かに向こうから数体のサイボーグが接近していた。

 こちらに向かって、もったいつけるように歩いてくる。

『狙撃シタラシキ一体ハさいぼーぐ。他ハ、さいぼーぐカどろいどカノ判断ハ不明』

『問題ないさ……杖よ目覚めよ(ベイ・アー)

 杖を出して手に持った途端、彼らの動きが一瞬止まった。

 だけど待ってやるつもりはない。

『ちょっとごめんなさいね』

 

 次の瞬間、私は彼らの後ろにいた。

 犯人はすぐわかった。なぜなら、おそらく実弾銃と思われる異形の武器を片手にもち、しかも私のいた方向に向けたままだったからだ。

 殺す?

 いや、とりあえずやる事は決まってる。

 そっと手を添えて、そいつの手を銃ごと握りつぶした。

 

「ぎゃああああああっ!」

「!?」

 男が悲鳴をあげて、残り全員がザザッと飛び退いた。


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