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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
163/264

異星製オートバイ

 卵のようだと思った最初の印象。あるいはモーターショーに出てくる未来バイクみたいだという気持ち。

 それが正解であり、同時に間違いでもあると思うのはすぐの事だった。

「なにこれ?」

「ポジション調整ですが?」

「それはわかるんだけど」

 バイクやスクーターに乗る人ならわかると思うんだけど、ハンドルと足置き場(ステップ)を想像してほしい。

 たとえば地球のバイクでもハンドルやステップの位置を多少は調整できる。

 でも、こいつはそんなレベルじゃなかった。

 まずシートだけど、なんと上下30cmくらいは調整できる。つまりオフローダーのような高さにもできるし、地を這うようなローライドにもできるってこと。

 となると、やっぱりシート高下げるよな個人的には。

 ステップもそうで、かなり前にできる。前に出しすぎるとコントローラブルじゃなくなっちゃうんだけど、実はチョッパー仕様の単車に乗っていたこともあるので、限度は心得てる。

 ああ、ここいらでいいだろ。

 80年代末期の香り、ローライド風ポジションだ。

「変わったポジションですね」

「ちょこまかと走り回るには向かないんだけどね。低く長くが身上ってスタイルかな」

「なるほど。だったら前輪を少し前に出しますか」

「ホイールベースも調整できるの!?」

 駆動輪なのに前後調整できるのか。どうなってんだ?

 びっくりしていたらマコ氏が説明してくれた。

「旧世代の乗り物なのは見てわかるとおりですが、調整やコントロールなどには最新技術が使われていますからね」

「あー……そういうことか」

 なんとなくわかった。地球にも似たような考えあるもんな。

 ほら、あれだ。ユーザー体験優先とか、ハイテク機器でそういうのあるじゃん。スマホとかさ。

 技術のための技術じゃなくて、ユーザーを楽しませるための技術。

 つまりこの卵っぽいバイクの中には『二輪車(ゲル)』という乗り物をユーザーに楽しませるための装備や技術がてんこもりに突っ込まれている。だけど、それをユーザーに見せびらかさないための『卵』スタイルでもあるんだろう。

 うん、よく考えられてるなぁ。

「ところで、シートを下げると視界が悪化するのは?」

「リンクしてみてください」

「なるほど」

 ネット化前提ってことか。

 バイクのメインパネルとおぼしきところに、何か電波みたいなアイコンがあった。いかにも叩いてくれって感じだったので、ぽんと叩いてみた。

 そしたら頭の中で何かに反応するような音がして、そして声が聞こえた。

【簡易デバイス接続を行いました】

「お」

 カメラ視界みたいなのがリアル視界に重なって投影されてきた。

「どうですか?」

「すげ、カメラ視点みたい。これも上下変えられるの?」

「頭の高さと連動するようになってます」

 ハイテクすぎる……さすが銀河文明!

 で、ここまでくれば。

「もしかして詳細制御も?」

「あ、はい。そうですね」

「なるほど。じゃあ『始動』」

 そう思った瞬間、ブルッと車体が震えた。

【モーター接続。バッテリーのみでの動作時間、約二時間】

【充電を並走しますか?】

「充電してくれ」

【発電システム起動】

 今度は振動のかわりに、視界の横に「充電中」の点滅が出る。

 おお、いろいろと近未来的だなぁ。

 またがってみた。

 その瞬間、視界の隅の方にいろいろな情報パネルが開示された。

 ああなるほど、座ると表示されるわけか。

「質問。これネット化されてない人ならどうなるの?」

「ヘルメットがネット化されているから大丈夫です。はい、どうぞ」

 なるほど。

 言われるままにヘルメット……地球のジェットヘルに近いもの……をもらった。

 じゃあ、自分でリンクしたくない場合はヘルメットにやらせればいいってか。

 感心しながらメットを被る。

【接続済みなのでヘルメット側のリンクは使いません】

 はいよ、オーケー。

「マコさん、ちょい乗りでおすすめの行き先ってあるかな?」

「そうですね、あの山はどうでしょう?」

「あの山?」

「八合目くらいのところに見晴らしのいい公園があるんですよ」

 ほうほう。

 指さされた方の山を見たら、なるほど、ひとつだけぽつねんと山がある。標高も1000mない感じ?

「山頂がスパッと切れてるね。昔、山城でもあったの?」

「お城があったという話は聞きませんが、山頂が修行場だった時代があるそうです。今は遺跡になっていますが」

 ほうほう。

 話を聞きながら山を見ていると、視界にポンと説明書きが出た。『ポンタ山』だって。

 って、これって誰が出してる情報?

「その単車、旧式ですけどナビ搭載してます。リンクしてるなら付加情報が出るはずです」

 ああなるほど、AR仕様のカーナビみたいになってるのか。さすが。

「それはすごいね。じゃあ、あの山までの道順もわか……うお!?」

 あの山までの道順、という言葉に反応したんだろうか?

 ピピッと音がしたかと思うと、視界に重ね合わせ状態で道順のラインが黄色線で示された。

 おいおいARナビもすんのかよ。合言葉(おーけーぐーぐる)も一切ナシで?

 これって、常に自然言語読み取って即応答してるってことだよな。

「あ、そういえば交通ルール……も問題ないか」

 交通ルールという言葉に反応したのか『ここで左折』『レーン変更』『最高速注意』などの表示も追加された。しかも、それだけ情報が出ているのに風景も普通に見える。

 ……言葉がない。どんだけ超ハイテクなんだよ。

「うん、ちょっと行ってきます。店長さん、すみませんお借りします」

「はい、行ってらっしゃい」

「おう、気をつけてな」

 挨拶もそこそこに、バイクを発進させた。

 

 

 走り出して、本当に地球のバイクと変わらないことに気づいた。

 前に別の星でカーチェイスやらかしたこともあるけど、あのバイクは安全装置の塊だったし、そもそも『二輪車』じゃなかった。簡易型の慣性制御とかも入ってて、走らせた感じは地面すれすれを飛ぶ飛翔体に近い感じだった。

 でも、このゲルっていうヨンカ版オートバイは、基本である『二輪で走る』をがっちり守っていた。

 常時二輪駆動にハブステアリング。前後ブレーキはアンチロックも含めて完全自動制御でユーザーはブレーキ強さをレバー握って伝えるだけ。エンジンはあるけど充電目的で常に低速回転するもので、バイク自体を走らせているのはバッテリーによるEV。そして情報系はすべてネット化したユーザーの頭にリンクしたAR表示で、言葉で示すだけでナビも何もかも行う。

 これは、すごい。

 地球の技術の数十年、いや百年先ではあるかもしれないけど、でもかなり地球のそれに近い。

 そう。

 このゲルには、連邦やオン・ゲストロのような『魔法じみた超絶技術』のニオイが少ない。むしろ近未来SF的なものだけで作られている。

 しかも、だ。

「うーむ、エンジン回ってるーって感じがほしいな。ゴッゴッゴッてサウンドと振動が……うおっ!」

 その瞬間、ガソリンのシングルエンジン……それも、めちゃめちゃ相当ロングストロークのやつを思わせるドッドッドッって音と振動が響き渡りはじめた。エンジンというより発動機に近い重低音。

 なんだこりゃ。

 これは日本メーカーのシングルバイクというより……あれだな、どっちかってーと昔のヤンマーディーゼルだろ。2000cc二気筒とかの。

 え、知らない?

 ああごめん、元おっさんだからさ。うん、とても便利な『元おっさん』。

 ……ああそうか、これも『ユーザー体験』か。

 あざとい、あざといぞ、これ作った連中。

 アクセルをひねってみた。

 さっきまでの走りだと、まるで電気モーターのような……ってそのまんまなんだけどさ、そんなウルトラスムーズな走りだったんだけど。

 しかしアクセルをスナップした私は、改めて技術のすごさを知る事になった。

 いや、だってさ。

「お」

 アクセルをひねった瞬間、エンジンは反応しなかった。

 だけど次の瞬間、一瞬咳き込むように喘いでから、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、と重苦しく加速をはじめたのである。

 おお、なんかすげっ!

 けど、どんだけマニアックな設定なんだよ。

 かなりヘンなバイクも乗った記憶あるけど。

 こんな超ロングストロークシングルのモデルなんて、さすがに地球じゃ乗ったことないぞ。

 ふむ、銀河にはこういうバイクもあったのかな?

 しかし。

「うは、ハンドルにもステップにも振動くるし」

 いちいちエンジン音と連動しているのがリアルすぎ。

 でも、悪くない。むしろ懐かしさすら覚える。

「んー……時速80kmちょっと、エンジンの音は」

 回転数はさすがに出てないけど、これ音からして600rpmかそれ以下じゃないか?

 昔、バイトで乗った耕運機で「これで北海道いったら面白いだろうなぁ」って思ったのを思い出すなぁ。いやま、さすがにやらなかったけどさ。

 でも、それがいい。

 ……それにしても、風が気持ちいいな。


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