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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
153/264

竜人

 教団の人たちは、当たり前だけど全員が竜人さんってわけじゃないらしい。

「そもそも、このヨンカはアルカとアマルーの星だったのです。我々ユベは竜一族の一角として竜王国に長らく住み、外に出る事はありませんでした」

「そうなんだ。じゃあ、どうして外に?」

「それは、始祖母様のお導きで新しい子供たちが……」

「あのー?」

 じっと目を向けると、竜人さん……マコ・ユユンさんは自分の側頭部を叩いた。

「すみません、……メル様」

「うん、よろしく」

 始祖母って言われるのがどうにもアレなので、名前でよろしくと頼んだのだけど。

 うーむ。

「説明続けます。

 我らが竜王国の女王陛下の命令で、我々は外の国々に旅立ったのです」

「命令?」

「外にも住める場所を探し、そこで人生を謳歌せよと」

「産めよ増やせよと?」

「いい相手を見つけて住み着けば、そうなるでしょうね」

 ちなみにマコ・ユユンさん。名前はマコなのに男性らしい。なんで?

「マコが女性的ですか?自分の名なので良否のコメントは差し控えますが、オスらしくてよい名だと言われるのですが」

 マジですか。

 ううむ、これがセンスの違いというものか。

「じゃあ、ちなみに女っぽい名前ってどんなのがあるの?」

「そうですね、ガイとかロドンゲとか可愛くていい名じゃないかと」

「……そうっすか」

 どうやら根本的にセンスが違うらしい。

「変なこと聞くけどさ。じゃあ、わたしのメルって名前はどう聞こえる?」

「あー、それはですね」

 あ、これはわかりやすい。困惑してるな。

 ん、でもどうして名前で困惑するの?

 首をかしげていたら、メヌーサはクックッと横で笑い出した。

「メヌア様だめです!」

「あら残念」

 え?え?

 もしかして、メルってすごくアレな意味なのか?

「ナイショよね」

「はい、よろしくお願いします」

 おい……逆に気になるだろそれ!

 

 

 ずっと昔、この星ヨンカ、それから隣のヤンカは友邦だったという。

 なんでも、元々はヤンカに人がいて、そこからヨンカに移民があったらしい。そのうちまったく別の星系からもアプローチがあり、ふたつの母星をもつ文明圏は静かに、しかし豊かに発展していった。

 だが、今もロングセラーの宇宙船シリーズを生み出して注目を集めたことから、いくつかの通称連合がヨンカに目をつけた。

 彼らはヨンカで深く信じられていたゲルカノ教をエリダヌス系の邪教と決めつけた。そして圧力をかけるかたわら、棄教して自分たちの庇護を受けるというのなら、対外圧力から庇ってやろうとマッチポンプの脅迫をしてきたのだという。

「ひどい話だね」

「よくある話だけどね」

「それで戦争が?」

「ええそう。ここは基本的にただの田舎星だったから、侵略者にいいようにやられまくっちゃったのよね」

 もちろんヨンカ・ヤンカ連合も負けてはおらず、反撃することで外敵を撃退した。

 しかし、その戦いのためにヤンカは事実上の壊滅状態となってしまったし、同じゲルカノ教を信仰していた多くの星が被害を受けた。テンドラモンカをはじめとするいくつかの星は、今もなお復興のめどが立っていないという。

「ちなみにその侵略者はどうなったのさ?」

「他の星系相手にもそういうマネをしていたらしくてね。でも現地の抵抗にあっているうちに連邦が介入、結局その星域は連邦に取り込まれちゃったのよ」

「ほう」

 自らの欲に滅ぼされたって感じかな?

「それにしても、竜王国ってなぞだらけだなぁ」

「そう?」

「うん。ダメダメだった」

 ためしにネットで調べてみたんだけど、余計にわけわかんなくなっちゃった。

 なんていうか……デマだらけなんだよね。

 検索すると、なんていうかその、都市伝説めいたデータばかり出てきて実状がわからなくなってくる。なんかこう、徹底して情報を隠されてる感じ?

 だってさ。

 竜人はたくさんいる種族のひとつにすぎず、本国にはホンマもんの竜がいるとか。

 そして彼らのあがめる神は、宇宙を旅し、恒星のエネルギーを食べて生きる、長さ数kmの巨大な八つの首をもつ怪物で、並み居る宇宙艦隊もブレスひとつで薙ぎ払うとか。

 いくら私が田舎者でも、騙されないっての。どこのファンタジー設定だよ。

 あのね、都市伝説はいいの。それより実際のデータほしいんだけど?

 だいたい、宇宙スケールのデマにしてはスケール小さいんじゃないか?いっそ恒星もブッパして一撃でぶっ飛ばすとか、空間ひんまげて何もかも時空連続体の彼方まで吹き飛ばすとか、せめてそのくらいのスケールにしろよと言いたい。

「うわ、ひどいなこれ。コラ画像まであるよ」

「コラがぞうってなに?」

「捏造された映像ってこと」

 げげ、アルカイン襲撃もドラゴン軍団のせいにされてるよ。

 しかも、なんか全銀河に流れてるっぽいんですけど?

 ひどいな。

 銀河のネットリテラシーって地球なみなのか?

「……」

「ん?なに?」

「なんでもないわ」

 なんだろう?

 ここにきてからというもの、メヌーサが時々いみありげに笑うようになったなぁ。

 

「そういえばさ」

「なんでしょう?」

 うん。竜人さんがいるうちに尋ねておこう。

「うーん……あのさ、気を悪くしないでほしいんだけど。

 ユベラルダだっけ?あなたたち竜人とアルダーが別の種族っていうのが、どうにも理解できなくて」

 確かに竜人の方がゴツゴツしているけど、だからなにって違いだしなぁ。

「ああなるほど。確かにアルカの皆さまにはわかりにくいでしょうね」

 フムフムとマコさん(♂)はうなずいた。

 いや、ごめんって。どうしてもマコって名前には女性を想像しちゃうからさ。

「ん?アルカイン族にわたりにくいんならメヌーサも?」

「わたしは大丈夫。長年見てるから」

「おお、亀の甲より歳の……」

「なんかいった?」

「イイデンキデスネ」

 とっさにごまかした。

 メヌーサって、妙なとこで普通に女の子してるよな。あぶねー。

「ユベとアルダーの違いだけど、まぁ無理もないわね。確かに見た目はすごく近いもの。

 でもユベラルダとアルダーって、実は(アルカイン)(アマルー)よりずっと遠いのよ?」

「え、そうなの?」

「ああ、確かにそうなのかもしれませんね」

 マコさんも同意したって事は間違いないのか。

「メルの視点でわかりやすくいえば……うーん……そういえば地球にはシナンチの仲間がいるでしょう?」

「シナンチ?ああ鳥ね。もちろんいるけど?」

 銀河ではポルポルと呼称することもあるけど、有名な食用鳥だ。

「そうそう、ユベラルダはその鳥ってやつに近い種族なの?」

 へ?竜人は鳥に近い?

 鳥……ああっ!

「そうか、そういうことか!」

 そういわれて、なるほどと納得がいった。

 

 そうだ、恐竜だよ!

 アルダーがトカゲのような典型的な現代の爬虫類ベースと考えるなら、竜人たちは恐竜に近いわけか!

 なるほど納得!

   

 あ、ちなみに余談ね。

 恐竜(ダイノサウルス)という言い方からわかるように、地球では昔から恐竜をトカゲの一種と考えてきたのは、昭和うまれの恐竜好きなら皆さんご存じの通り。

 だけど近年この説は大きく変わり、恐竜は鳥に近い種族と言われるようになっているんだ。

 ま、21世紀の恐竜好きなお子様たちは間違えないだろうけど、トカゲの仲間と習ってきた昭和のおっちゃんたちは要注意なんだぜ?

 

 けど、この取扱の変化ってさ、実は驚くべき話でもないと思うんだ。

 だって昔、いろんな恐竜やら巣やらの復元図見てさ「なんでこんなに鳥っぽいんだろ?」って思った人、結構いるんじゃないか?

 そう。

 昔の恐竜の分類は解剖学的な所見で骨盤を見比べていたんだけど、それだってさ。

 鳥盤類……すなわち鳥に似た骨盤をもつ大グループの存在は古くから知られていたわけでしょう?

 だからさ。

 むしろ鳥に近いっていうのは、ある意味納得の落としどころだと思うんだよね。

 

 まぁ例の始祖鳥の件もあり、もともと小型恐竜の一派から鳥が生まれたって考えは昔からあった。でもそれはむしろ変種的な扱いだったわけで、まさか主流だったとはねえ。

 あとまぁ、他にも体温維持と冷却システムの関係もそう。恐竜イコール、トカゲで冷血って今も思ってるキミは古いぞ!

 って、誰に向かって言ってるんだ私は?  

「謎は深いなぁ」

 思わずうなっていたら、なんか人が来てマコさんに耳打ちしていった。

「メヌア様メル様、検査室の用意ができたそうです」

「そう、ありがとう。さっそく使わせ「メヌーサおなかすいたねえ、何か食べようよ」ってちょっと待ちなさい!」

 逃げようとしたら、むんずと掴まれた。

「あの、メヌーサ?」

「なに逃げてるの。その身体のチェックが必要って話したでしょ?」

「あー……それは」

 うん、確かにきいた。カラテゼィナで眠りにつく時に。

「あれから数十年たってるわけだし、もう大丈夫だよ」

「はいはい検査嫌いはわかったから。こっちいらっしゃい」

「あー……」

 

 そうして私は、検査室にずるずると引っ張られていった。


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