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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
149/264

ヨンカ・ステーション

 宇宙港という設備を地球の何かに例えたら、と言われたら私は『空港』と答えたい。

 今まで私が行った事のある空港というと、大きな空港では羽田空港、成田空港、二十世紀末くらいのドン=ムアン空港あたりだろうか?で、逆にローカル空港というと、龍馬とつく前の高知空港、徳島空港、あとは本当に昔しか知らないけど旭川、礼文、それから石垣ってところだろうか?横田基地みたいな一般向けじゃないところにもイベントで入った事があるけどまぁ、空港に関するイメージというのはこれらの空港が基本になっている。

 それらに共通するのは……うっすらと、そこはかとなく(ただよ)う『冷たさ』だろうか?

 うん、その特有の冷たさには覚えがあるし、よく知ってもいる。

 つまり。

 トラックドライバーがよくいる場所などにもよくある「旅ゆく者たち」の残り香というか、そんなものだ。

「どうしたのメル?」

「いや……港ってどこも変わらないんだなって」

「変わらない?」

「うん」

 同じ港でも、漁港なんかにはこの雰囲気はないんだよね。

 そしてその両者に共通するのは。

「特有の空気みたいなものかな」

「へぇ。それって昔から?」

「昔?」

「つまり今の身体になる前、故郷で生活していた頃から?」

「あ、うん。さすがに今ほどじゃないけど」

「……そっか」

 とことこ、とことこ。ふたり、プラス頭上にハツネ。

 少し小さくなったおかげもあってか、ずり落ちそうな感はないんだけど。

 でも……。

 ふと、メヌーサに相談してみたくなった。

「ねえメヌーサ」

「?」

「ハツネのことなんだけど、いい方法がないかなって」

「いい方法?」

「うん」

 私はうなずいた。

「私の頭上にいるのは別にいいんだけど……このままだと小さいままで安定しちゃうんじゃないかって」

 これはこれで可愛いんだけど。

 でもハツネは本来、ひとの上半身と変わらないボディで下半身が蜘蛛。つまりヒトより確実に大きかったはず。

 なのに小さいままで安定するっていうのは、それはよくないと思うんだよね。

「あー……たぶんそのまま安定するでしょうね。対処しない限りは」

「対処?」

「ええ。だって今の安定傾向の理由って、メルの頭上にちょうど収まるって事なんだと思うし」

「……やっぱりそうなんだ、これって」

「うん」

 メヌーサはそう返したあと、あれ?と首をかしげた。

「ねえメル」

「なに?」

「それ、異空間収納の魔法があれば解決すると思うんだけど、どうして教えてやらないの?」

「異空間収納?」

 思わず首をかしげた。

「えっと、なんだっけ?」

「……なんで忘れてるのよ」

「うわ、ごめん」

「いいわもう。もう一回説明したげる」

 はぁ、とメヌーサはためいきをついた。

「いろんなものをしまってあるでしょう、杖とか、地球から持ってきた荷物とか。あれのことよ」

「小物入れの魔法?……あれ?」

 そういや、そんな話したっけ。

「でもこれ杖の機能か何かでしょ?それに用途的に教えても役立つとは思えないんだけど?」

 まぁ、自分の荷物くらいは収納できるだうけど。

 でも、そう言ったらメヌーサが頭を抱えた。なんで?

「……ンなわけないでしょうが、このおバカ!」

「あたっ!」

 なんかチョップされた。

「で、でも、杖から出てきたデータの通りにしたんだけど?」

「あのねぇ」

 メヌーサはためいきをひとつついて、そして話してくれた。

「異空間収納なんて高位魔道士や神職にとっては、ちょっとした嗜み程度のものなの。アイテムに付随させる事もあるけど、条件さえ揃っていれば誰でも覚えられるものなの。

 だいたい、杖の機能として発動させていたら、その杖本体が収納できないでしょうが」

「え、そうなの?」

「当たり前でしょうが」

 やれやれとメヌーサはためいきをついた。

「だいたいねえ、異空間収納って名前も原理もおおげさだけど、ニーズとしては簡易な生活魔法なんだけど?」

「生活魔法?」

「そりゃそうでしょ。荷物が重い、収納場所がほしい。どこにでもある、あたりまえの願望じゃないの」

「へぇ……」

 そういうものなのか……なるほど。

 得体の知れない技術って特別視しすぎるのも考えものかもな。

「そんなカンタンなものだったんだ」

「ええそうよ、キマルケの神殿でも来訪者講習やってたから覚えてるわ」

「来訪者講習て……よその人にぼんぼん教えてたってこと?」

「そりゃそうでしょ、ただの生活魔法だもの」

「そうなんだ……」

「そうよ」

 もっと特殊なものだと思ってたよ。

 まさか、そんな簡単に教えられるものだったとは。

「じゃあ、小物入れって誰でもできるものなの?」

「誰でもとは言わないけど、ある程度の魔力があって収納空間をイメージできれば可能ね。それこそボルダやキマルケみたいな星なら、希望者が十人いれば二人くらいダメな人もいるかなって感じかしら」

「へぇ……」

 ふむ、とメヌーサは少し考えて、それから言った。

「論より証拠、ためしにハツネに見せてやりなさいよ」

「ハツネに?」

「お手本みせてやりなさい。で、やってみろって示してやるの」

「んー、わかった」

 周囲をみると、ちょうどいい場所にベンチがあった。

「メヌーサ、ちょっと待ってて」

「どうぞー」

 おもしろそうに見物モードに入ったメヌーサを横目に、頭に手をやってハツネを引っ掴む。

 なんだ、何すんのととりあえず暴れだすハツネ。

 ちなみにハツネ、むんずと掴まれるのはあまり好きじゃないらしい。片手を蜘蛛部の下に添えつつ、背中をそっと掴んで持たれると嬉しそうなんだけど。

 でも、じたばた暴れてるのも可愛いから、ついやっちゃうんだけどね。

 さて。

「はいはい、心配しなくても捨てないから。ちょっと見てほしいものがあるの」

「?」

 不思議そうな顔をするハツネをポンとベンチに置いた。

 ちなみにハツネは、例のミニ杖を背中にしょってる。さながら、どこぞの佐々木小次郎の如く。

「ちょっと見てなさい……『杖よ目覚めよ(ベイ・アー)』」

「!」

 自分の杖を出してみると、それを見たハツネが「おお!」とばかりに反応した。

 で、目の前で収納を見せてやる。

「どう、できる?」

「……」

 ハツネは背中の杖を引っこ抜くと、しばらく試行錯誤らしき動作をしていたが。

「お」

 フッと幻のように杖が消えた。どうやら収納できたっぽい。

「もうできたんだ。すごい!」

 そういうと、にひひひーと何故か照れた顔。

 ついでにナデナデしてやると、いらんいらんと手でぐいぐい押し返された。

 あはは、でも顔真っ赤だ。

「出すこともできる?」

「!」

 何か口が動いたかと思うと、一瞬で杖が出た。

「おお凄い。スジいいじゃん」

 出し入れオッケーですか。もしかして、私より要領よくないか?

 さらに褒めてやると、なぜかムムッと少し考え込むポーズをした。

 そして、何か「きらりーん」とひらめいたような顔をして。

 ……なんでもいいけど、ジェスチャーがいちいち可愛いなホント。

「む?」

 何か思いついたみたいで、杖と、あと杖を背負うのに使ってたミニチュアホルダーまで外し、一緒に収納してしまった。

 いやそればかりか。

「お」

 いきなり、ハツネの身体が消えて首だけになった。

 なんかこう、影から首だけが湧いてるみたいな珍妙な光景になっている。

 な、なんだ?

「さすがに早いわね、もう自分自身の収納覚えたんだ」

「え、なに、どういうこと?」

「蜘蛛族は闇、幻惑、空間の三属性が得意なことが多いの。

 メルはハツネしか知らないから実感ないだろうけど、その子かなり優秀よ?しかも常にメルのそばにいて、エネルギーの供給を受けてるわけでしょ?だから、そのぶんも全部そういう学習とか進化にまわしているのも大きいんだと思う」

「そうなんだ」

 そう言っているうちに、ハツネは全身影に飲まれて消えてしまった。

 しかも、その影はススーッと動いてきて、私の影と融合してしまった。

「えっと……ハツネ?」

「あはは」

 なぜか苦笑しているメヌーサに、思わず首をかしげたのだけど。

「メル、今どういう状況かわかる?」

 もちろん首を横にふった。

「自分の顔、そこの鏡でいいから見てみなさい」

「ん?うん」

 言われるままに鏡を見たんだけど。

「……なんだこれ?」

 鏡を見た私は、思わず首をかしげた。

 

 額の真ん中に、なんか黒やらこげ茶のキラキラしたものができていた。

 

 まず、光る大きな黒っぽいマルが二つ。

 そしてその左右にふたつずつ、合計四つの何かが見えてるわけで。

 視覚的には、何かの目が額に生えてる感じ。頭動かしてもズレたりしないし。

 というよりさあ、これって。

「これ、蜘蛛の目だよねえ」

 つまりハツネの目なんだろうか?

 でも、ハツネのそれにしては妙に大きいんだけど?

 なんていうか、額にアクセサリつけたみたいになってるし。

 うーむ。

 

「メルの頭にあわせて調整してるのね。また器用なことを」

「えーと、それって?」

「お菓子でもあげてみたら?それでわかると思う」

「あ、うん」

 言われるままに、小物いれに突っ込んであったスナックお菓子を少し取り出す。

「ハツネ。これいる?……うわ」

 いきなり私の頭から、ハツネのらしき小さな手がニュッと出てきた。

 そしてその一瞬、蜘蛛肢までわしゃわしゃと頭のあちこちからはみ出してきた。

 ちょ、なんかキモっ!

 で、むんずとスナック菓子を受け取ると、そのまま頭の中に引き込んでしまった。蜘蛛肢も同じく。

「どう?」

「……頭の中でポリポリ聞こえるんだけど」

 なんじゃこりゃ。

 どこで食べてるんだよこれ。

「異空間収納の中で食べてるんでしょ」

「……でも大きさとか変じゃない?」

 ハツネ当人とスケールが合わない気がするんだけど?

「異空間って文字通りの異空間で、こっちと(ことわり)が全然違うから」

 んふふと楽しそうにメヌーサが笑った。

「そのあたりをうまく利用して、そこから潜望鏡みたいに目だけ出して、しかもそれをメルの額にあわせてあるんだと思う」

「なんで、こんな額の飾りみたいになってんの?」

「何かに偽装するのって生き物なら得意でしょう?」

「あ、そうか」

 昆虫から大型生物まで。確かに偽装は生命体の得意技だ。

「わかった。で、害はないの?」

「まぁ問題ないでしょ」

 そういうとメヌーサは肩をすくめた。

「絶対じゃないんだ」

「害が出たケースなんて未だかつて見たことないけど、そりゃ自分の体内に亜空間ポケット開かれてるんだもの。悪い意味の奇跡が起きない、とまで無責任に断言する気はないわ」

「……そんな低確率なんだ」

「うん。わたしじゃなければゼロって答えるくらいには」

 六千万年生きてる人が「見たことない」って……まぁ説得力には充分かな。 

「さて、問題解決したなら行きましょ?」

「ういっす」

 

 だけど。

 すぐに私とメヌーサの足は、再び止まることになるのだった。


異空間収納の魔法を杖に発動させると、杖本体を仕舞えない問題について。


要は缶切りですね。缶切りを缶の中に入れてしまったら、外から操作できないので取り出せなくなります。缶切りには意志がないから。

まぁ対策もできますが安全のため、発動体経由で異空間収納を使う時は、それ自体を中に入れられないようにするのが基本です。


しかし術者自体が缶切りなら自分の意志で開けられるわけで、中に入っても問題ないのです。


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