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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
147/264

移動開始

 ポッドの中で近年の大まかなニュースを聞いた。

 中でも連邦中枢であるアルカイン王国の消滅は大きかった。

【現状はそのようなところです】

「なるほどね。現在の連邦中枢はどこになってるの?」

【現在はトルーナ星域にある人工亜惑星に設置されています】

 メヌーサが眉をひそめた。

「トルーナて。またすごいところに設置したわね……」

【一番文句が出なかったそうです】

 トルーナ?

 耳慣れない名前に首をかしげていたらメヌーサが教えてくれた。

「銀河中心に近いところにある星域よ。もともと億年単位の昔にあったらしい文明の遺跡なんだけど、今まで、あまたの文明が交流の地として使ってきたところなの」

「へぇ」

 億年単位って、まさに超古代文明ってことか。

 しかもその遺跡が人工亜惑星で、さらに今も現用で使ってるって。

 ……スケールが凄すぎて現実感がないなぁ。

 ん、ちょっとまてよ?

「ちょっと待った」

「なぁに?」

「今も使ってるんなら遺跡じゃないんじゃないか?」

「そこは感性の問題だと思うけど……そうね」

 メヌーサは少し考えると、言い足した。

「もしメルの故郷で用途不明の巨大遺跡が発見されたとして、とりあえず調査をはじめたとしましょうか。

 けど、あまりにも大きくて調査に人もお金もかかりすぎるから、とりあえず調査が終わってて使っていいところを使って商売をはじめたとして。

 それは遺跡と呼ぶかしら?それとも」

「あー……それは」

 なんともいえないな。

 実際、日本では昔の城跡なんかを真っ平らだからって理由で公園にしてるケースがあるけど、あれもそうか。今も使っているわけだけど、でもそこは大昔にはお城だったわけだから、よく見たらお堀や城壁もあったりして。

「なるほど、イメージは理解できた」

「そ、ならいいわ」

 メヌーサはうなずいた。

「けど、そんな古い施設を再利用して大丈夫なもんなのか?」

「古いといってもステーションの技術なんて大差ないからね。何とかなるものよ。とりあえずはね」

 なんだ、歯にものが挟まったみたいな言い方だな。

「何か面倒ごとでも?」

「そりゃあ……何しろ再利用開始からでも一千万年はたっているから、銀河各地の有象無象がはびこりすぎてもう何が何やら」

「ああ、しがらみの多さも遺跡級ってことか」

「それだけならいいんだけどね」

「他にもあるの?」

「ヒトがいれば、それについてきたもの、付随してきたものがあるんだけど」

 付随……あ。

「まさかと思うけど」

「言ってみて」

「まさかと思うけど、外来種問題?」

「あたり」

 うわぁ……。

 ああ、ちなみに外来種っていうのはこんなもの。

 

『外来種』

 人やモノの渡航か交流と共にやってくる、もともとその土地にいなかった種の事。たとえば日本だとミシシッピアカミミガメ、ウシガエル、セアカゴケグモ、ブラックバスなど多数。時期が不明だが外来種とされるハクビシンなども含まれる。

 え?ミシシッピアカミミガメってなんだって?幼体を通称ミドリガメっていうんだけど、縁日やペットショップで見たことないか?

 ちなみに、意図的に人の手で導入されたもの……たとえばレジャーのために不心得者が各地にばらまいているとされるブラックバスなどは侵略的外来種という呼称で問題視されている。

 

 マジかよ。

「銀河文明なのに。そういう対策は完璧だと思ってたよ」

「メル、言いたいことはわかるけど、それは生命体を甘く見てると思う」

「甘く見てる?」

「ええ」

 メヌーサが肩をすくめた。

「たとえばね、草の種の中には数百度の熱に耐え真空を生き延びるものもあるわ。

 あるいは、耐久卵の状態なら絶対零度に近いほどの極超低温にも、鉛が溶けるような高温でも耐え抜く生き物も結構いるのよ。

 それどころか、炭素系生命体なのに摂氏数百度の世界で普通に暮らしているものもね。

 そんなものが荷物に張り付いたりして拡散するのを、しかもさまざまな文明圏の生き物までカバーして完全に防ぎ切るっていうのは……いくら銀河文明でも無理というものよ」

「それは……」

「わかるでしょう?それらの生き物を完全排除しようとしたら、本来守るべき生身の知的生命体まで通せなくなる。違うかしら?」

「……違わないね」

 確かにそうだ。

「なるほど、人間が住めるってことは動物にもいい環境だもんね」

「ええ」

「で、そいつらが逃げ出して住み着いてると」

「そういうこと」

 地球でもよくある事だけど。

 植物の種や小動物、果ては細菌などに至るまで。

 そりゃ有害な生物についてはオーバーテクノロジーで処理できるだろう。でも、それでもなお処理しきれないもの、処理すべきかグレーゾーンのものがあるんだよね。

 たとえば、人体には様々な微生物が同居しているけど、これらをどう扱うのか?

 それこそ、いわゆる寄生虫のたぐいだって、実は人間と共生関係にある生き物もいたりするわけで。これらを雑多な各種族ごとにこれはOK、これはNGなんてできるだろうか?

 たぶんだけど、つまりそういう事なんだろうな。

「そんなにいっぱいいるんだ?」

「まぁね……何しろ化石ができるほどの時間だから」

 ……うーむ。

「放置区画って言われてるとこがあってね。あちこちのコロニーから紛れ込んだり逃げ込んだ、有象無象の生命体が食い合い混ざりあい、果ては独自進化までしちゃってすごい事になってるらしいのよね」

 ほうほう。

「ヘタしなくとも異星生物同士だよね。大丈夫なもんなのかな?」

「大丈夫らしいわ。

 なんでも、中には炭素構造さえも異なるのに平気で共生している生き物もいるらしいわよ。生物学者の悪夢って話もあるけど」

 うわぁ。

「そういえばメル、あなた昔は動物学者志望だったんだって?」

「え?誰に聞いたの?」

「サコンだけど?」

 ああサコンさんか。

「まぁそうだけど……正直、みるのが怖いような状況だねそれ」

「あはは」

 いろんな意味で頭痛がしそうだな。

「なんでまた、そんなところに重要設備なんて」

「別の意味で面倒がないんじゃないかしらね」

「?」

「確かにめんどくさいとこだけど、だからこそよ。あそこに力で押し込もうなんてバカな国はないだろうし」

「攻めにくいってことか……無茶するなぁ」

 いろんな意味で、銀河文明ってやつを再考したくなる話だよな。

 

「話変わるけど、それでもう外に出ていいの?」

【はい、お話中に大気調整を行いました。いつでも出られます】

「そっか。じゃあ扉あけるわよ?」

【どうぞ】

 メヌーサが、ちゃちゃちゃっとコンソールをいじると、扉の方でパスッと軽い音がした。

「メル、扉に手を添えて少し押してくれる?」

「押す?」

「万が一があるから、ポッドの主扉は一回、力を入れて押さないとダメなのよ」

「わかった」

 言われるままに出口に近づき、扉に手をやった。

「ぐいっと押すの?」

「そうよ」

「わかった」

 グッと少し力をいれてみる。

「何も変わらないけど?」

「もっと力いれて。グンッて」

「大丈夫かな?」

「大丈夫よ」

「わかった……っ!」

 本格的に力を入れてグンッと押してみたんだけど。

 

 ガコンと派手な音がして、扉が一気に引っ込んだ。

 

「おっととと」

 思わずバランスを崩しそうになって、よろめいた。

 壁に手をやって踏みとどまる。

「うわ、あっぶねー」

「……」

 なぜかメヌーサは私の方を見て、そしてためいきをついた。

「えっと、なに?」

「メルって、ポンコロよねえ」

「なにそれ?」

 ポンコロ?

 なんか可愛い響きだけど、いい意味じゃなさそうだな。

「ああ、直訳がないのね。えっと、ゼロと百しかないお間抜けさんの形容というか、微調整がきかないというか」

 なんじゃそりゃ、昔の2サイクル車かよ。

「……つまり中庸を知らない馬鹿力だと?」

「バカヂカラ?……ああ何となくわかったわ。うん、そんな感じかな?」

 ひどいなもう。

「ひどくないわよ。だってこれ見なさい」

「え?……あ」

 メヌーサが指差したコンソールを覗き込んでみたら。

「……壊れてる」

 ドアに破損警報がついてる。

「重機なみの力で押したら、そりゃ壊れるわよ」

「……」

「さぁメルさん、ひとことは?」

「ごめんなさい」

「はいよろしい」

 なんだかなぁ。


【ポンコロ】

 由来不明。あえて地球のネット世代的に意訳すると「ぽんこつ」だが、元はもっと悪い意味。脳筋が力任せに頑丈なものを破壊しちゃった時などに使う罵倒語だったが、響きをかわいらしいと感じるいくつかの文明圏で、日本語でいう「ドジ」「へっぽこ」に近い意味で使われるようになった。


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