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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第四夜・とある旅路の日記
146/264

閑話・アルカイン滅亡

今話で別視点終わりです。


 惑星アルカインの王国首都『ケセオ・アルカインシティ』。

 大銀河連邦の中心地としてゼロから作られた人造都市ではあるが、それも二千年である。今では立派に大都市としての規模をそなえ、人々は日々の暮らしを謳歌していた。

 人口比としてはヒト、つまりアルカイン族が多いのだけど、政府関係には蜥蜴(アルダー)も少なくない。最も少ないのは(アマルー)で政府機関に純血のアマルーは誰もおらず、また、先日まで王宮オペレータをしている混血の娘がいたが、その者は反連邦のスパイに騙されてボルダに逃亡したとの情報が流れていた。

 ちなみにその娘の個人データはネットに流れていないが、これは情報統制のため。該当者は王宮の役人の娘であり、報道関係が報道を控えているからだった。逆に彼女の連れでスパイであろうと断言されているプニベスなるドロイドのデータはほとんどすべて出回っており、逃走先とされるボルダの方にも引き渡しを求めている事まで報道されていた。

 しかし、騒いでいるのは一部だけで、王国首都は一見、何も変わらないようでもあった。

 そう。まさに一見だけだが。

 

 ある者は、いつも満員だった昼の食堂が、最近ガラガラだなとつぶやいていた。

 またある者は、近頃、町で異種族をあまり見かけないと首をかしげていたし、

 そしてある者は、知っている市内のドロイド店がすべて閉店していて驚いたり。

 そんな、本当に小さな違和感が、毎日少しずつ蓄積していた。

 

 

 ケセオ・アルカインシティよりだいぶ北にある、通称ボラチオ山。

 この山には、この星にたくさんある楽器工房のひとつが大昔から存在しているのだけど、この関係で山中にはたくさんの山道がある。本来は楽器の部品にするための間伐材をとったりするための道なのだけど、軽登山などのレジャーにも使われている道である。登りつめると山頂には大きな広場があり、そこはたまにケセオ・アルカインシティから地球のようにハイキングに来る家族連れなんかもいるような場所である。

 平素ならば、だが。

「……なんだこりゃ?」

 唖然として、そこに立ち尽くす三人家族がいた。

 首都に暮らす勤め人コズラ・マドゥル・アルカイン・ミーメさん。

 そして、その妻のソムラ・マドゥル・アルカイン・ゴズマさん。

 で、ひとり娘のヨーナ・マドゥル・アルカイン・コズラさん。

 以上の三名様が、アルカイン式ハイキング道具一式を持ったまま広場の入り口でフリーズしていた。

「なに、これ……ねえパパ?」

「パパも正直さっぱりだ。こんなのはじめてだぞ」

 固まっているのも無理もない。

 いつも閑静な山頂広場がなぜか、難民キャンプのように成り果てていたからだ。

「お父さん?」

「わかってる。おまえはヨーナとここにいてくれ」

「わかりました」

 コズラ氏は入り口にいた警備員のような男のところに行き、話しかけた。

「すみません、これはいったい何の集まりですか?」

「ふむ?ああご存知ないのですか」

 警備員は少し首をかしげて、そしてアアとうなずいた。

「皆さん、避難されてきたんですよ」

「避難ですか?どこから、いったいどうして?」

「ケセオ・アルカインシティからです。あの町は危険ですからね」

「危険って……そんな話は聞いておりませんが、いったい?」

「失礼ですが、あなたはどちらの方でしょうか?あと、お連れの方々は?」

「どちらの、ですか?ああ、私はこういう者ですが」

 ポケットから、仕事に使っている社員証を取り出す。

 惑星アルカインでは証書やカードはほとんどデジタル化しているが、初対面の人同士がデジタル接続する事は別の意味問題がある。そこで小さな紙片を加工したり樹脂で固めたようなカードを作成し、これをまず最初は提示する事になっている。

 警備員は、その使い込まれた社員証を見て「なるほど」と微笑んだ。

「連れは家族です。妻と娘です」

「ツマとムスメ?……ああもしかして」

「はい。うちは本星からアルカイン(こちら)に駐在で来ておりますので」

 なるほどと警備員はうなずいた。

 アルカインには家族制度がないので、奥さん子供連れの集団でも家族(ファミリー)単位で取り扱うことはない。外国人の場合でも続柄の確認は必ず行われている。

「オーセン商会の方でしたら、ボルダに関する噂はご存知ありませんか?」

「ボルダの?……ああ」

 コズラ氏は「知っています」と頷いた。

 そして同時に、その顔が険しいものになった。

「すみません、私の所属はオーセンでも技術部でして、しかもここのところ追い込み仕事で会社に詰めておりまして。

 妻と娘は当局発表のデータしか知らんのですが。恥ずかしながら私も、久々の休みで一日くらいと油断しておりました。

 これはまさか……いよいよ開戦したという事ですか?」

「はい。それで最新情報では、こちらからボルダに向かった部隊が全滅したとの事で」

「!!」

 コズラ氏の顔がひきつった。

 実のところ、アルカイン側の発表は大本営扱いであり、無条件で信用はできない。ボルダ側の情報も確認したりコミュニティで情報共有するのは、政府筋と関係のない庶民レベルでは普通のことだった。

「そういう事ですか……戻る時間はもうありませんな」

「詳しい情報は我々も。しかし今から戻るのは正直おすすめしかねます」

「そう、ですか」

「はい」

 両者の間で一瞬、無言の応酬があった。

「わかりました……ありがとうございます。我々が入るのは問題ないんですね?」

「もちろんです」

 そこで警備員は顔を寄せると、クスクス笑った。

「実は我々も避難民なんですよ。ただ、こうも人ばかりだと問題が出るものですからね」

「ああなるほど、そいつはごくろうさまです」

「ありがとうございます」

 どうやらこの警備員も手弁当らしい。

 コズマ氏はうなずき、そして妻と子の元に戻った。

「どうでしたの?」

「ここの人たち、王都(ケソー)からの避難民らしい。今から戻るのは危険だとさ」

「あら。じゃあもしかして」

「うむ、ふたりとも端末を非通信に切り替えとけ。俺も切る」

「え……ええええっ!!」

 あらまぁ、と困った顔をした妻とは対照的に、娘は悲鳴をあげていた。

「どうしたヨーナ?まずい事があったか?」

「いや、あるかないかっていうと、あるけど……」

 娘は盛大に眉をしかめていた。

「ま、まぁ、データは退避してあるからいいけど……まさかこのタイミングで」

「もしかして友達か?」

「う、うん」

 娘はちょっとあわてたようにうなずいた。

「その子たちはどこの子だ?『避難所』はそう多くないはずだから調べられるかもしれんぞ」

「エ、ホント?」

「断言はせんが可能性はある。場所決めたら問い合わせしてやるから今は心配すんな」

「あ、うん」

「よし、じゃあ入るぞ」

「はーい」

「ええ」

 警備員に断ると彼らは中に入って行った。

 

 ハイキングのつもりだった彼らは重装備などもってはいなかったが、ここは軽いとはいえ登山コースに指定されるレベルのところではある。突然の天候変化にそなえて縮小パッキングした野営具とわずかな食糧は持参していたし、ボルダの件で持ち出しパックもあった。とりあえずここで情報を集めるくらいならいいだろう。

 場所を決めて隣近所に挨拶をし、テントを設営した。久しぶりだったがワンタッチの簡易タイプを選んでいたこともあり、問題なく設営できた。

 ネット放送を聞きたいと思ったが、誰かが流しっぱなしにしているようで、そちらはとりあえず不要だった。

 しかし。

 とりあえずと本来のハイキング用の昼食にとりかかったところで、妻が口を開いた。

「あなた、なんだかアルカイン側の旗色が悪いようですけど」

「ああ、そのようだな……やれやれだ」

「大丈夫なんですの?」

「おまえの心配が失職という意味なら、そっちは大丈夫だ。今回の事態にそなえてボルダ支所と話はついてるからな。何とか向こうに渡航せにゃならんが」

「そっちが問題ですわね」

 その点は妻も理解できるようで、きれいな眉をよせた。

 と、その時だった。

「ん、なんだ?」

 子供たちの騒ぐ声が聞こえる。

 そこには小さな高台があり、そこに子供たちがたくさん集まっていた。

 何しろ子供向けの遊び場がないのだ。普段は閑散としている場所だが、そこには据え付け型の望遠鏡というギミックがあり、それが子供たちをひきつけていた。

「ちょっと行ってくる!」

「あ、おいヨーナ!」

 止める間もなく娘も走って行ってしまった。

「やれやれ」

「大丈夫でしょうか?」

「ヨーナの性格なら大丈夫だろ。ここに来るのもはじめてじゃないしな」

 そういうと、コズラは娘の向かった高台にもう一度目をやった。

「あら?」

「どうした?」

「わたくしの見間違いかしら。望遠鏡、みんな同じ方を見てるみたいな」

「なに?」

 妻の指摘でコズラは確認してみた。

「本当だ。全部王都(ケソー)に向いてるな……いや違う、もしかして王宮か?」

「アルカイン王宮ですの?」

「そうだ。でも変だな」

「何ですの?」

「仰角がおかしい。あれじゃ空しか見えないはずで……」

 その瞬間だった。

 その王宮の方向から、空全体に広がるようなものすごい光が飛び交った。

「!」

 コズラは驚き、その光景を見た。

「これは……!」

 なんですのこれ、と言いかける妻をよそに、コズラはあわてて端末を取り出した。

 通信停止になっているそれを『緊急相互通信』に切り替え、娘の端末を呼び出す。

 相手はすぐに出た。

『わ、なにこれパパ?通信止めてるのに』

「ヨーナふせろ、衝撃波がくる!」

『え?』

「いーからすぐに身を伏せろ!光をこれ以上見るな!死ぬぞ!」

『わ、わかったっ!』

 娘との通信を切ると妻にも言った。

「おまえも伏せろ、はやく!」

「は、はい」

 その剣幕に驚いた妻が、コズラに習って身を低くした瞬間、

 

 世界全体が揺れるような猛烈な衝撃が襲った。

 

 

 マドゥル星系アルカイン王国は、政府が首都ごと吹き飛ばされるという結末により消滅した。犠牲者は数万に達したが、一般市民の何割かは口コミ情報で避難済みであり、そうでない者たちもボルダ系の設備に避難して難を逃れた者が多くいた。

 この日、アルカイン国王レスタは王宮ごと即死。連邦議会職員の多くも亡くなった。

 監視映像によると、それはアルカイン上空に広がったおびただしい数の『ドラゴン』の襲撃であったという。そしてそれは、実行犯である竜帝国の王女本人による声明でも認められた。

 銀河文明の中心であり科学の頂点のひとつでもあったアルカインの王宮が、よりによって、ファンタジックな『ドラゴン軍団の攻撃』で消滅。

 このニュースはたちまちのうちに全銀河を流れ、あまたの星間国家を揺るがす大事件となっていった。

 後の世でいう『ケセオ・アルカイン事件』である。


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