到着
何かやらかしているハツネはとりあえず放置して、こっちはやるべき事をやっていく。
ポッドのコンソールに向かい、まず周辺調査。
『ポッドのネット受付に接続要請……受諾、接続完了』
直接、外の情報総合受付につなぐのは危険すぎるので、まずここから。
『現在のネット接続状況を』
【外部のネットに未接続です。接続が必要です】
おっと、ハツネは外部接続してないのか。
でも考えてみたら当然っちゃ当然か。
今のハツネは私に付属するような扱いだし、私が目覚めるのを待っていたんだろうから。
『通信波はまだ出すな、受動で通信ターミナルを探せ』
【該当二件。港湾一般むけ接続口と、19号中継コネクタ】
ああ19号か。よし、彼にアクセスしてみるかな?
『19号に接続要求。対話要請が出たら即応対して』
【要求出しました……仮受諾、通信来ます】
途中で通信ターミナルの声が途切れ、19号……あのロボ首さんのそれに切り替わった。
【おはようございます。お待ちしておりました】
『おはよう。周囲の安全などはどうなっているかな?』
【ご質問の内容が捜査官や軍の干渉を意味するならば、まったくありません。いつも通りです】
『わかった。とりあえず君経由で情報総合受付に接続させてくれる?』
【了解、どうぞ】
『ありがとう』
現在地やローカルタイムデータ、それから言語、基本的な情報接続方法などの基礎データを受け取る。
ふむふむ。情報を見る限り、無事にヨンカに着いたっぽいね。
あれ?でも?
『えっと……ずいぶんと予定より時間が過ぎてないか?』
何しろ光速以下の移動なのだから、ヨンカまで時間がかかるのは聞いていた。
ただし、ちょっとした裏技的なルートを使って移動するので、その分が短縮されると聞いていたのだけど。
寝ているうちに外では三十一年という時間が経過しているらしい……データに間違いがなければ。
……冗談だろ?
『この三十一年て……い、いや待て、こ、こここれは翻訳の結果かな?』
地球時間で三十一年でもずいぶんな長さだ。唯一の肉親である姉貴ももう生きているかどうか。
だけど、もしこれが……。
そして応答は血も涙もなく。
【そのデータは連邦時間で書かれております】
『……おお』
連邦時間で三十一年てことは……地球時間だと半世紀越えるんですが。
はは……ははは……なんてこった。
これは……さすがの姉貴ももう生きてないかもなぁ。
どのみち、直接会う事はできない身だけど、手紙くらいは許されるだろう。もし生きてたら出してみるか。
え?他に親戚とかいないのかって?
うちはもともと、他の親戚と世代がズレてたんだよ。
まぁ、いとこの子孫くらいは残ってる可能性あるけどさ……正直、手紙でしか姿を見せない自称、遠い親戚だもんなぁ。無理だろ。
まさかいきなり、時の迷子になるとは予想外だった。
「……おはよう」
「あ、うん、おはよう」
よほどボーゼンとしていたせいだろう。いつのまにかメヌーサが起きて、しかも背後に来ていたのに全然気づいてなかった。
「メヌーサ、これ」
「あーらら、ずいぶん時間過ぎたわね。19号はなんて?」
「今から聞くとこだよ」
気を取りなおして、横に座れと促した。
「とりあえずお茶でも飲もうかしら……って、飲料棚が編み物に縫い込まれてるんだけど?」
「ありゃ」
言われて見てみると、確かに。備え付けのドリンクバーが完全に編み込まれる。
あれ、でも何か隙間があるよな?
あー……これはもしかして。
「ハツネ?」
声をかけると、今度は一番奥のカプセルの影から出てきた。
いったい、今度はどこをデコってるんだこいつは。
まぁいい。
「ハツネ、悪いけど茶を全員ぶん入れてくれ。もちろんメヌーサのもだよ?」
「!」
ハツネは、しゃきっと敬礼すると、食器棚の方にいそいそと移動していった。
あ、やっぱりだ。自分は入れるように仕掛けしてら。
「どういうこと?」
「自分しか使えないようにしたんだよきっと」
「……なんでまた?」
「あくまで推測だけど、嫌がらせじゃないかな?」
「誰相手の?」
「たぶんだけど。ただ茶をいれろって指示すると、メヌーサのぶんを省略するんじゃないの?」
「……」
ちょっと微妙な空気が流れた。
「ねえメヌーサ」
「なによ?」
「なんでハツネにこんな嫌われてるわけ?心当たりは?」
「わたしが聞きたいわよ。なんでか知らないけど、蜘蛛タイプには昔から嫌われるのよね」
「そういや、はじめて拒否された時も驚いてなかったっけ?」
「ええそうなの……本当、なんでなのかしら?」
あらら。
蜘蛛族に特有の何かがあって、それがメヌーサと相性悪いってことかな?
「ちなみに、他にそういうメヌーサの苦手な相手っている?」
「種族全体ってわけじやないけど、アマルー王家は苦手ね。前に王宮いった事があるんだけど、仔猫扱いで上から下まで、文字通りねこかわいがりされて、すんごく辟易したのよね」
「……なにそれ?」
「わたしが聞きたいわよ」
「何か、アマルーの人たちに好かれるような事でもしたとか?」
「仔猫っぽいってよく言われるんだけど……猫っぽいっていわれてもね。正直、基準が全然理解できないんだもの」
種族特有の何かがあるってことかな?
「王家だけってことは、何かこう特有のものがあるんじゃないの?」
「どうかしらね……ソロンは明らかに面白がってたみたいだけど」
「ソロン?」
「アマルダンキィ・ソロン。前に話さなかったかしら?」
「あー……アマルーの始祖だか何だかのヒトかな」
「ええ、それよ」
お茶が入るまでの間にネットの安全確認をとり、さらにニュースなども吟味していった。
うん、どうやらネット直結しても大丈夫っぽいな。
「へえ、思ったより賑やかそうじゃないか」
人口データや都市の規模などをみると、なんか活気にあふれているのがわかる。
田舎なんだけど、ここ何十年かでガンガン開けてきたって感じかな?
だけど。
「……そうね」
メヌーサは少し首をかしげて、そしておもしろそうに笑った。
「メル」
「なに?」
「あなたさっき、寝ている間に三十年過ぎたって仰天してたわよね?」
「うん」
そりゃもうビックリだった。いや、過去形じゃないけどね。
過ぎた時間は、当然だけど戻せない。
たぶん、浦島太郎を実感するのはこれからなんだろうけども。
まぁ、幸いなのは、今から上陸する星が、はじめて行く星であることかな?メヌーサは知ってるとこみたいだけど。
でも、そういうとメヌーサは首をふった。
「確かに昔、きたけど……ものすごい昔なの。懐かしさからここを選んだけど、当時の国も、町も、何も残ってないのは間違いないわね」
「そうなの?」
「ええ」
メヌーサはうなずくと、ちょっとだけ教えてくれた。
「むかし、ゲルカノ教って宗教があったの。規模は小さいけど、エリダヌス教団よりもさらに、さらに古い古代宗教のひとつよ。
ヨンカはずっと昔、その兄弟国家であるヤンカと並びゲルカノ教では有名な星のひとつだったの。まぁ、とある国の宗教狩りの対象にされてヤンカは滅亡、ヨンカも見る影もなく衰退しちゃったんだけどね」
「そうなんだ……」
それはまた、なんともいえない話だな。
「その宗教と何か関わりがあったの?」
「正しくは、ゲルカノ……ゲルカノ教団が崇めていた対象そのものと、ちょっとだけね」
「崇めていた対象?」
「ええ……まぁ、いずれ会うこともあるかしらね」
メヌーサはなぜか、謎めいた事をいい微笑んだのだった。




