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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第一夜『アンドロイドの少女』
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宇宙港

『テムノラ・テムラン・テムージ。さまよえる民の安らぐ止まり木、惑星イダミジアにようこそ』

 なんだかよくわからないメッセージが流れている。

「さまよえる民?」

『オン・ゲストロは昔、さまよえる国(レムリア・アルダス)という名前だったんですよ。世代交代を繰り返しつつ何千万年とさまよったあげく、ようやくたどり着いたのがこのイダミジアだと言われています』

「へぇ」

 さくっとソクラスが教えてくれて、俺は思わず納得した。

「連邦としては認めていないけど、でも事実みたいね」

「認めてないんだ……」

「私は、おじいさまのところにある古い記録を見て知っているのだけど……あれを連邦の中枢に見てもらうわけにはいかないのよね」

 困ったようにソフィアが微笑んだ。

「ソフィアって連邦側じゃないの?」

「確かに私は連邦議長の娘だけど、それ以前に科学者だわ。きちんと物証があるのに頭から否定するなんて、そんなの許せると思う?」

「ないですね、ありえない。物証らしきものがあるのなら検証しなくちゃ」

 俺は即答した。

 いや、俺は別に科学の徒じゃないけど、でもそう思う。

 そして、そんな俺を面白がるように、

「そうね、私もそう思うわ」

 ソフィアもまた、そういって肯定した。

 

 

 その宇宙港は、イズベル・マウ・ワナダというらしい。

 ちなみに銀河では宇宙港という表現はまずなくて、単に港という。理由も簡単で、そもそも港というと宇宙港だかららしい。

 話をきいて、そりゃそうだと思わず思ったよ。

 ところで問題の港の設備なんだけど、地上にあるわけではない。いちいち船を地上におろすわけがないしいろいろと無駄なわけで、衛星軌道上に港の本体はある。で、そこに船を接舷して乗り降りし、そこからシャトルや軌道エレベータで地上を目指すんだと。

 ちなみにここの場合は軌道エレベータらしい。

『いってらっしゃい』

「ういっす」

 ソクラスに見送られつつエア・ロックから外に出た。

 外には渡り廊下みたいなのが接舷されていて、何か出迎えロボットみたいなのが数体待ち構えていた。

 その一体が話し始めた。

『ようこそイズベル・マウ・ワナダへ』

『インガス・ラテ・ローラ号の固定を完了いたしました。おかえりなさいませソフィア様』

「ありがと。下への案内はいいわ、補給と調整だけお願い」

『わかりました』

 なんかプラスチック的な光沢のあるロボットが応対して、そして去っていった。

 インガスなんとかというのは、偽装したソクラスの呼び名らしい。

「ソフィア」

「なにかしら?」

「おかえりなさいって言われたのか?」

「それ、いまくわしく聞きたい?」

「やめときます」

 大人の事情なんだから聞くなってか。

 いやま、例のおじいさまとやらがこの星の偉いさんらしいからな、そういう方向で身内認定なんだろうけども。

 なんというか、ごくろうさまだな。

「ところで、インガス何とかって何?」

「船の命名規則はこちらも一緒なんだけど、ラテ・ローラなんて星域も国も実在しないのよ、少なくとも現在の銀河系にはね」

「というと?」

「オン・ゲストロでこの船籍をもつという事は、わけありですって印みたいなものよ。

 ちなみにインガスっていうのはね、ソクラスの名前の由来になった花のこっちでの呼び名なのよね」

「ちゃんと意味があるんだね」

「ちなみに船籍もあるわよ」

 ははぁ、なるほど。

 なんか、天下の暴れん坊将軍が名乗る風来坊名みたいだな。

「でも大丈夫なの?ばれたらやばいんじゃないの?」

「私がいる時点で関係者にはバレバレよ当然。でも、だからって開き直って本来の姿で堂々と出入りしていたら問題がある。つまり連邦側にもふくめて『ちゃんと配慮してますから見逃してね』ってポーズがこれなわけ」

「つまり大人の事情と」

「ご名答。さ、いくわよ?」

「へーい」

 羽田あたりを思わせる長い通路を抜けると、すぐに動く道路に出た。さっそく乗っかる。

 おぉ楽だ。

 ちなみに、本当に羽田の通路みたいで、手すりもちゃんとあったりする。

「これで軌道エレベータまで行くのか?」

「ええそうよ。船ごと下まで降りたほうがよかった?」

「いや、それはちょっと」

 ちなみに、今ここにアヤはいない。

 では留守番なのかというと違う。アヤは直接降りるといって、接舷前にソクラスを出て飛んでいってしまったんだ。

「単体で大気圏突入・突破できるのかあいつ。どんだけ高性能なんだよ」

 見た目が普通に小柄な黒髪少女なだけに、悪い冗談にしか思えないが。

「連邦規格のドロイドでも、高性能な機体だと自力で惑星に降りられるわよ?」

「そうなのか?」

「降下はともかく突破も含まれる場合、かなり高性能の機体に限られるのだけどね。そうね、アンドロイドならアルバ六型相当なら可能かしら?」

「アルバ?」

「人型、つまりアンドロイドの規格のひとつよ。ちなみに誠一さん、あなたも連邦規格にあてはめるとアルバ型ドロイドなのよ?」

「え、そうなの?」

「ええ。アルバ四型といって、医療行為で再生された人間のドロイド体はそこに分類されるの。該当するでしょう?」

「するんですかね。俺は治療を受けたってイメージがないんですけど」

「扱いとしては、戦地など特殊事情で医療設備がなくて、ドロイドに再生してもらった扱いね。

 これは方便じゃなくて、わりと普通のことよ。ドロイドに再生してもらったっていうと無医村や戦場みたいに、きちんとした医療設備がないところで再生されたと認識されるでしょうけど……実際似たようなものでしょう?」

「たしかに」

 いくら東京が地球有数の都市だからって、死者の再生ができるわけがない。たしかに納得だった。

 しばらく運ばれていると、道ごと小さなチューブの中に入った。

「お?」

「加速するのよ。念のため手すりにつかって」

「あ、はい」

 言われた通りにしていると、本当に加速をはじめたようだ。

 港湾設備というだけあって、まわりの風景も雄大だ。比較的小さな機体でもキロ単位にもなろうという船がいくつも遠く、近くに停泊していて、その間を我らが通路は結構な速さで抜けていく。

「あー……広いから加速するのか」

「ええ。でないとメインホールに到達するだけで何時間もかかりかねないから。

 それから手続きして、軌道エレベータで下まで降りるのにさらに三時間かかるでしょう?それから」

「うわぁ」

 アヤが直接いっちまうわけだ。めんどくさいにもほどがある。

「つまりアヤは逃げたってこと?」

「私だってゴメンだけど、人間は自力で降りられないものねえ」

「そりゃそうだ……ところでソクラスの転送機は使えないんですか?」

 そういうと、なぜかソフィアはニヤリと笑った。

「え、なんです?」

「やっと気づいたのね」

「え?」

「実はね、ふだんは下まで直接転送して下で手続きするの。だって面倒でしょう?」

「……は?」

 いってることの意味がわからない。

「あの……じゃあ、どうしてわざわざ面倒なことを?」

「ソクラスの提案なのよ。あなたが面倒だから飛ばせって言い出すまでは、ちゃんと見せてあげようって話でね。

 だって、こんな宇宙文明の港設備なんて、まともに使った事ないんでしょう?」

「そりゃあ……ないですけど」

 言われて思わず、まじまじと周囲を見てしまった。

 確かに、とんでもない絶景だ。

 まわりは宇宙で、周囲は停泊する宇宙船だらけ。その中を抜けていく、なかば半透明の移動通路。

 そして、その向こうにある巨大な惑星。

 これぞSF、いやこうなるとスペースオペラってやつかな?

 そんな言葉が出てくるような、SF好きの地球人なら誰もが狂喜しそうな光景。

 え、俺?

 もちろん感激もんだよ、決まってるじゃないか。

 でも。

「俺のためにわざわざ……めんどくさい方法をとってくれてるんです?」

 そういうと、ソフィアは「しまった」というように少し困った顔をして、そしてツーンとよそを向いた。

「未開惑星出身のおのぼりさんが見たら面白いかしらって、そう思っただけよ。それだけよ」

 文句ある?と言いたげだったが、思わずツンデレ乙とか言いそうになっちまった。

 しかしまぁ、どうやら厚意でわざわざやってくれてるらしい。

 なんというかまぁ……地球でも思ったけど、本当にいい人なんだなこの人。

 いや、ソフィアだけじゃない、みんないい人なんだ。

 そうなるとだな。

 俺もその厚意に甘えつつ、少しはお礼ができればと思うわけで。

「ソフィア」

「なにかしら?」

「俺としちゃ、できれば軌道エレベータも見てみたい。でも、さすがに全部拝見するのは時間がかかりすぎると思うんだ」

「かかるわね。たぶん降下中に仮眠する事になるわ」

「そんなにかかるのか。ソフィア、何か妥協案あるかな?」

「あなたも見られるし、時間も短縮できる方法ってこと?」

「はい」

「あるにはあるけど、どうかしら?」

「?」

「そういう人むけのコースがあるのよ。降下そのものは転送でやるんだけど、一番おいしい景色の部分だけを観光ガイドの説明つきで見られるわけ」

「そっちだと時間短縮もできる?」

「宿泊の必要はないし、そっちだと確かに助かるけど……いいの?」

 それであなたは満足するの?と言いたいようだった。

「俺としちゃ、軌道エレベータの降下っていうものをこの目で見られれば満足だよ」

「そっか。わかった、お気遣い感謝するわ」

「それは俺のセリフ。ホントマジですみません」

「いいのよ、誰だって『はじめて』はあるんだもの」

 俺が頭をかくと、ソフィアもうふふと笑った。

 

 あとで俺は、この頃を思い出す事になる。

 これは、俺とソフィアが最も近い距離だった時代のひとつ。

 もともとソフィアはお姫様でロイヤルな人。住む世界が違うんだ。

 地球という特殊なフィールドでご一緒する事になったわけだけど、本来の居場所は違うわけで。

 

 ……ん?

 今、なぜかアヤのイメージが浮かんだ。

 アヤと、ソフィア。

 アヤはソフィアのことを主人と呼んでいてソフィアもアヤを使っていた。そしてアヤはアンドロイド。

 でも、そんなアヤを見るソフィアの目は、どこか冷たくて……。

 

 なんだろう、この違和感て。

 何を意味するんだろうか?

 

「どうしたの?」

「なんでもないです。で、その観光手続きってどこでやるんです?」

「この先のホールでできるわ、まぁ任せておきなさい」

「すみません、何から何まで」

「いいのいいの。

 実をいうとね、私だって実は、こういう普通の観光なんてほとんど経験ないのよね」

「え?そうなんですか?」

「だって、はじめて飛んだ時からソクラスと一緒だったもの。転送機もついてたし」

「なるほど……」

 俺とは正反対の意味で、はじめてというわけか。

「さ、いきましょ?」

「了解です」

  

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