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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第三夜『メルの巫女みこ日記』
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旅立ち

【そろそろ出発いたします。就寝に入る必要はありませんが、扉の閉鎖と消灯をお願いいたします】

「あ、はーい」

 メヌーサはそう返事すると扉の方に戻り、パネルのようなものをチョコチョコッと操作しようとした。

「あ、ちょっと待って」

「え?」

 ひとことメヌーサに断ると、改めてカプセル内部の隅っこなどを検索しはじめた。

 ふむふむ、ふむふむ。

 んー、とりあえずいいかな?

「おーけー、ありがと」

「うん。なんかずいぶんと慎重ね?」

「当然。危険なエイリアンとか放置したまま飛び立っちゃったら大変だろ?」

「……はぁ?」

 そんな古いアメリカ映画みたいな会話は置いといて。

 改めてメヌーサが何か操作すると、扉が動き出した。

「お」

 何重にもなっている出入り口の扉が次々と閉じて行った。

 そして完全に閉じると、室内アナウンスのようなものが流れ出した。19号さんとは別の、たぶんこのカプセルの中の声なんだろう、平坦な機械音声だ。

 

【外部との扉が閉鎖されました。

 以降、本カプセルは安全地帯に到着するか非常コードにより解放されるまで、開くことはありません。

 艇内生命維持装置が作動いたしました。

 食糧や空気には充分な余裕がありますが、非常の際も考えられます。できるだけお早目にスリープに入る事を強く推奨いたします。

 なお、全員がスリープに入って八時間後に温度調整が、二十四時間後に換気装置が待機モードに戻ります。これはスリープ・カプセルのどれかが起床モードに入るまで自動的に続けられます】

 

 おおすげえ、かっこいい!SF的!

 ソクラスにしてもレズラー号にしても、なまじ賢いからこういう「いかにも人工頭脳」的な平坦な音声じゃなかったんだよね。

 ただ、ひとつだけ残念なのは。

「それって技術的に遅れてるってことなんだけど。それがカッコいいの?」

 そう冷静な声で言われてしまうわけで。

 うう……メヌーサさんや、そんな情緒のないことを。

「いや、あのねメヌーサさんや……この人工的な感じが『いかにも』って思わない?」

 そういうとメヌーサは「んー」と少し考え、そしてまた言った。

「言いたいことはわかるけど、それは無理よ。要は主観的な美観の問題でしょう?」

「うう……たしかにそうなんだけどさ」

 この感覚を共有できないのは、なんかこう残念だったり。

 ふーむとおもっていたら、もぞもぞと頭の上が動き出した。

 ん?ハツネ?

「……」

 何か知らないが、ハツネが頭をのりだして私の顔をのぞき込んでいた。

 あたりまえだけど、まっさかさま。

 そしてなぜか、にこにこと楽しげな笑い。

「もしかして……なぐさめてくれてる?」

 いや、何か違う気がする。

 ん、まてよ?

 いやまさか、でも?

「もしかして……き、共感してる?」

「!」

 その瞬間、パアアッとハツネは笑顔になった。

 そしてその瞬間、こまぎれの単語が意識に流れ込んできた。

『いかにも機械的』『いかにも無骨』『いかにも人工物』『興味そそる』『人それぞれ』

 お、おぉ、おお?

 も、もしかして会話可能になってきた?

 そんなことを考えていると、メヌーサがコメントをもらした。

「ふーん、やっぱり成長はやいわね、その子」

「やっぱりって?」

「その子、メルの力を常時食べ続けてるからね。

 まぁメルの内包するエネルギーを思えば微々たるものだろうけど……何か思い当たる事とかあったりする?」

 へえ、そうなんだ。

「ああ、そういえば朝、頭が重いかも」

「え?」

 なんかこう、青少年だった頃を思い出す感じに。

「ここんとこ毎朝低血圧みたいになってるね。

 そっかそっか、あれって力吸われてるからだったんだ?

 いやー気づかなかった。てっきりただの低血圧だとばかり」

「ちょっと待ちなさい」

 困ったようにメヌーサが突っ込んできた。

「そんなわかりやすい前兆なら普通気づくでしょ、おかしいって思わないの?」

「え、なんで?ちょっと血圧低いだけだよ?それに若返ってるわけだし」

 性別がそもそも違うって問題があるけど、そもそもおっさん、おばはんの年代から唐突に子供に戻ったわけで。昔のように朝、頭が重いのだって、低血圧まで戻ってきたのかって思っただけだよ。

 でもそういうと、メヌーサが怒りだした。

「何いってるの。全身ドロイド体で低血圧になったら故障よそれ!」

「そ、そうなの?」

「そうなの!」

 言いすぎたと思ったのか急速にトーンダウンしたけど、きつい目線は変わらなかった。

「まったくもう、どっかのお花畑みたいな認識すんのやめてよね?」

「モウシワケナイデス」

「で、ほかに不調はあるの?あったら何でも言いなさい?」

「んー、今のところなし」

「そう。だったらいいわ……もう驚かさないでよね」

 頭を抱えているメヌーサに、私は頭をかくしかなかった。

 

 そんな話をしていたら、唐突にガコンとポッド全体が動いた。

「およ?」

「運ばれてるみたいね。ほら」

「おお」

 さっきまでいたブースが離れていく。

 反対側には窓がないから確認できないけど。

「反対側の映像?ほら?」

「おお」

 ポンとメヌーサが投影してくれたのを見る。

【ウインドウ・シェードを閉鎖します】

 全部の窓、その外側にあるらしいシャッターが、一斉に閉じて行った。

 そして全部の窓が閉じると同時に、いくつかのウインドウが空中に現れた。

「現在位置、カラテゼィナ衛星軌道上……あれ?もう上にあがってたんだ?」

 いつのまに。

 確かにドックは地上じゃないけど、そんな超高空でもなかったはずだ。

「だいぶ前から上がりだしてたわよ。気づかなかった?」

「全然」

 まぁ慣性も重力も制御されきってるし、ドロイドボディといっても元人間だからなぁ。

 話に夢中になっていたら、外の景色でも見てない限り気づかないってわけか。

「さっさと寝ちゃってもいいけど、この宙域を出るまで待機してるのも悪くないわね。メルはどうしたい?」

「どっちでも。この後って何があるの?」

「確か近郊に集積場があって、そこにジャンクが集められているはずなのよね。

 そこを一度力場に取り込んで、それからアステロイド帯に移動。

 で、そこで改めて最終的な力場に包まれて、そこからヨンカ星系までの最初の大加速に入るわけ」

「へぇ……」

 ハイパードライブを使わない加速なんだろ?

 うん、面白そうだな。

 だけど私のそんな気持ちは、次の言葉でふっとんだ。

「それで、そのアステロイド帯まではどのくらいかかるの?」

「一か月ってとこじゃない?」

「そう、一か月……一か月!?」

 目が点になるっていうのはたぶん、この瞬間のことを言うんじゃないかなと思う。

「どうする?一か月ここで待つ?」

「寝よう」

 ふたつ返事で答えた。

 

 さすがに、こんな会議室程度の空間に月単位で待つのはちょっと勘弁。

 それに、その間もリソースを消費し続けるのも無視できない。

 見てみたい気もするけど、やっぱり寝ちゃいましょう。

「そ。じゃあ、ベッドにはいりましょうか」

 なぜかにっこりと、メヌーサは笑った。


そして、スリープ・ベッドに入るだけでまるまる一話使うと。うむ。


ところで、こわいアメリカ映画とはもちろんアレです。すごくネタバレなので、あえて書きません。古い作品だし有名だけどね。


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