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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第三夜『メルの巫女みこ日記』
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魔法少女にはサポーターが必要?

 いわゆるテンプレ、あるいはお約束と呼ばれるものがある。

 

 たとえばそれは、はるばる空から落ちてくるもの。女の子が降ってくることもあれば、危険な宇宙の怪物を積んだ船やカプセルだったりする事もあるが、要するに物語の導入部として大きな役割を果たす「はじまりの落下物」全般。

 

 たとえばそれは、魔法少女に小道具と、それからおともの動物。

 魔法少女がバトンを持っている理由として、おもちゃ会社とのタイアップなんてものも確かにあるとは思うが、実はもっと奥深い事情もあったりする。

 たとえばタロット・カードなどに描かれる寓意画を見たことのある方なら、これらに描かれる女性がしばしば、杖や棒状のものを持っていたりするのをご存知だろうか?実はあれと魔法少女のバトンには、おそらく共通項がある。

 つまりそれは、寓意化された『力』のシンボル。

 もう少しぶっちゃけていえば、それは男性要素。

 さらに究極にぶっちゃけると、それはなんと「ちん○ん」ってことになる。

 昔そのことを本で読んだ時、考えてしまったものだ。

 当時放送していた、スティック状のアイテムで変身し戦う少女戦士たち。

 その戦士たちの変身スティックのサイズがね、なんていうか……よく見ると日本人のち○こサイズだなぁ、とふと思ってしまって。うん、13cmってやつだね。

 え、生々しい?

 でもね、実際そうなんだと思うよ。

 たとえば、有名な香水のビンのデザインが実は男のアレを模しているとか、最近じゃなかなか見かけないコカコーラの瓶のデザインが女性のボディラインを元にしているっていうのは、別にネタでもなんでもない有名な話だ。

 そう。

 私たちの生活には、実はそういう「ちょっとエッチな」シンボルは無数にあふれているものなんだよ。魔法少女の杖くらいでいまさら驚くようなことじゃないんだよね。

 ちなみに、おともの小動物にも意味がある。

 彼らはつまり男性の代わり。

 ただいうまでもないけど、彼女たちのそばに適齢期の普通の男が置かれる事は絶対にない。だって彼女たちは「少女」だから。「女」ではないのだから。

 必然的に、彼女たちのまわりにいていい男といえば、父性の象徴的存在……要は年上の頼れる人物または「いい人」のマイホームパパだけになる。例外として弟的存在がいる可能性もあるわけだけど、まぁ前者は常に共にいるわけではないし、そして後者は少女たちの役には立たない。

 だからこそ、常にそばにいられて、しかも「パートナーになりえない」存在として、小動物がわりあてられてきたわけだ。

 

 

「つまりそんなわけで、魔法少女におともの動物はお約束なんだよね」

「ふむふむ、つまりメルはついに本格的に男を捨てるわけね」

「捨てません。もののたとえだっつの」

 だいたい、人前で女言葉にしたり一人称を「私」にしているのも、要は痛いオレっ娘扱いされて目立ちたくないわけで。

 木を隠すなら森の中。

 男女差別とかそういう話ではなくて、単にそういう理由で女言葉を使い、女性的にふるまっているわけで。

 まぁ。

 なかなかうまくいってないのは認めるけども。

「まぁメルの性別話は未来の楽しいイベントのためにとっておくとして」

「なにその楽しいイベントって」

「え?そりゃ彼氏ができての話でしょ?」

「できません」

「えー」

「それなら、せめて彼女にして……」

「ほうほうメルは同性の方がいいと」

「いや、だから中身は」

「それよりまずはこれよ、これ」

 私の話を適当に流すと、メヌーサはハツネのしょっている杖に目を向けた。

「これどうしたの?」

「え?それはその」

「ミニチュア杖を作る技術なんて、もう残ってないはずよね?どこで入手したの?それともメルが作った?」

「いや、それは……露店で」

「露店?」

 メヌーサは少し眉をしかめた。

「なるほど……つまり『夢の中の露店で』買ったわけよね?」

「……」

「返事は?」

「……違う」

「どのへんが?」

「買ったんじゃない。もらった」

「それは屁理屈というのよ」

 私が返事をすると、メヌーサはためいきをついた。

「ったく、やりたい放題なことになってるわね……ちょっと問題かしら」

「問題になるの?」

 確かに、夢の中でもらったものが現実になるのは色々おかしい。

 だけどとりあえず、客観的な問題にはならないと思うのだけど。

「それ自体は問題ないわ。でも夢を見ている間は無防備になるし、食事の時間も眠る時間も忘れちゃうし、はっきりいってサポートが必要になってくるの。

 たぶん、ハツネ……その蜘蛛がやってきたのもめぐりあわせなんだろうけど、その子にサポーターまでは無理でしょう?

 今はわたしやサコンがいるけど、ずーっとついてられるわけじゃないからね」

「それって……この状況が続くと、一人暮らしできないってこと?」

『というより、早めにどこかの神殿預かりになった方がいいでしょう』

 神殿預かり!?

「キマルケ巫女は典型例だけど、他の地域にもそういう巫女や神官はいるものなの。たとえばボルダの神職には夢見ってクラスがあって、キマルケの風渡る巫女とよく似ているわ。過去に交換留学みたいなこともした事あるしね」

「へぇ」

 交換留学て。宗教なのにそんな事するのか。

「で、そういうのがいるとこには必ずサポーター職もいるってことよ」

「なるほど」

 納得した私は、うなずいた。

「あれ、でも光をまく件はどうするの?」

「そっちはね、わたしたちが動かなくても軌道にのってきたっぽいのよ。ほらこれ」

「え?……!」

 ウインドウがポンと開いて、そこには星図のようなデータが表示された。

 で、そこにあったものは。

「この光は全てが銀河文明の光点ね。で、青くなっているところが光の広がっている範疇なんだけど」

「え、なにこれ?」

 さすがに驚いた。

 だって、この図が正しいなら、既に銀河の一割を超えるエリアに光が広がっている事になる。

 しかも、おそろしい速さで広がっている。

『秒速万単位は余裕で超えましたね。しかも未だに増速を続けている』

「もっと速い時も遅い時もあるけどね。まさに水面の波紋みたいに広がってるわ」

「……」

 言葉がない。

「こうなったらもう、誰にも止められないわ。

 連絡がつかず行き来ができない辺境以外は、一年かからずに広がり尽くすかもね」

『メヌーサ様たちの勝利ということで?』

「それはまだよ。

 これは種をまいただけ。ここから新しい命が、どこまで生まれるかよね」

 腕組みをしてメヌーサが言った。

 その嬉しげな顔に、彼女の万感がこもっている気がした。

 

 ああそうだ。

 彼女はこのためにだけ数千万年……骨が石に変わるほどの、途方もない時間の海を旅してきたんだっけ。

 

「メヌーサ」

「なあに?」

「じゃあ、メヌーサがとりあえずする事って、これの結論待ち?」

「そうね。

 最初の結論までは半年ほどで出ると思うから、それ次第ね」

 半年か。

「つまりそれって、新世代がどのくらい生まれるかってこと?」

「ええ、そういうこと」

 ニヤリ、とメヌーサは笑った。

「とりあえず今は、連邦軍の状況を確認してからボルダに移動しましょう。あっちの大神殿に相談して、メルにサポーターがつけられるか話してみるわ。

 で、それ次第で調査の人員を動かすことになるわ。ボルダからね」

「ここは引き上げるの?」

 カラテゼィナはメヌーサの拠点では?

「撤退したといっても、連邦にばれちゃったのは変わらないもの。じきにエージェントも来るでしょうし、この家まで来るのも時間の問題だわ。

 だったらボルダに逃げ込むのが一番よ」

 そんなものか。

「まぁ、そのあたりはわたしたちの範疇だから、任せておきなさい。

 とりあえず今日メルがやるべき事はひとつあるわね……サコン、ちょっと見てあげてくれる?」

『私ですか?かまいませんが、キマルケのものならメヌーサ様がいいのでは?』

「情報収集をするんだけど、サコンが、というよりわたし以外がいることを相手に悟られたくないの。

 カラテゼィナ政府の全員が田舎者じゃないわ、特に情報部の子は、とぼけた顔してとんでもないベテランなんだから」

『わかりました』


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