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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第三夜『メルの巫女みこ日記』
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しかたがないね

 かぽーんっていう例の音は残念ながらしないし、ケ○リンの黄色い洗面器もない。

 だけど、そこは確かにお風呂。

 しかも「天然の」とか「露天」という言葉がつく種類の。 

「なんつー贅沢な」

 湯船にまったりとつかり、首だけ出した私は、思わずつぶやいた。

 

 

 

 状況がつかめたような、つかめてないような。

 とにかく、認識できていることを頭の中でまとめてみる事にしたのだけど。

 考えに浸っていると、なぜかメヌーサに言われた。

「先にお風呂入りなさい、昨日そのまま寝ちゃったでしょ?」

「えーめんどい……」

「ダメよ女の子、ちゃんと入る!」

「いや、中身はおと」

 男と言いかけたんだけど、続くメヌーサの言葉に目が点になった。

「浴槽に浸かるタイプのお風呂あるけど?」

「え」

「地球のもそうなんでしょ?だったら気に入るんじゃないかしら?」

「……マジで?」

「マジで」

 どうだと言わんばかりのメヌーサの微笑に、思わず言葉を失った。

 だってさ、それって普通のお風呂ってことだろ?

 元おっさんの感性にピクッときちゃった。

「どうしたの?入りたくないの?」

「い、いやいや」

 きっとそれはウソだ、いや、ウソじゃないかもだけど何かワナに違いない。

 うん、たぶん船のお風呂みたいにお湯でもみくちゃにされるんだ、そうなんだ。

 あれはあれで悪くないんだけど、安らぎがないっつーかなんつーか。

「本当に浴槽式のお風呂だよ?パパッと入るには向かないんだけど、補助ロボットがいるから楽ちんだし」

「……補助ロボット?」

 なんですかそれ?

『メルさんの語彙でわかりやすくいえば、三助(さんすけ)が近いでしょう。

 家の中で水やお湯を使う作業全体を取り仕切る小型ロボットで、背中を流したりもしてくれます。

 まぁ逆にいうと、こういうロボットが使われている事自体、このあたりじゃお風呂そのものが大昔と変わらないことの証でもありますが。

 銀河文明で普及している多くの自動式のお風呂だと、補助ロボットなんて必要ないですからね』

「なるほど」

 なんとなく状況は理解できた。

 つまり、ここがそれだけ田舎だって事でもあるのか。

 都会なら、スパッと早く終わる自動型の風呂が好まれるのかもだけど、のんびりした田舎じゃ好まれない。それどころか、未だにお風呂場が近隣コミュニケーションの場になっているような地域もあるという。

 なんだそりゃと思うけど、確かに合理的ではある。

「まぁそんなわけだから、いってらっしゃい。その間にわたしはちょっとやる事があるから。サコンはどうする?」

『ご迷惑でなければ、メヌーサ様の方に』

「あらいいの?助かるけど」

『とりあえずは』

 なんか知らないけど、メヌーサとサコンさんの間には無言のやりとりがあるみたい。

「んーわかった、とりあえず行くよ。じゃあ」

 じゃあ行くよとハツネに言おうとしたんだけど、その必要なかったらしい。

 膝の上にいたハツネはササッと私の身体によじ登ると、やっぱり頭の上に収まった。

「……いいけど、あんたそこ随分気に入ったのね」

 蜘蛛は声を出さない。ハツネは人の上半身がついてるタイプだけど、やっぱりしゃべらない。

 でも頭の上で、フンスと鼻息を鳴らした。どうやら同意しているっぽい。

 やれやれ。

 私は立ち上がった。

 

 

 そんなわけでまぁ、お風呂の中にいるわけなんだけど。

 いやーまさか、自宅のお風呂が本物の露天風呂とは、なんてリッチな。

 まぁ、特有の臭気はあるんだけどさ。

 白濁のお湯は昔懐かしい硫黄を含むタイプで。なかなか素晴らしい。

「……」

 ちなみに私の横には、なぜか木製の大きな桶に入って幸せそうにしているハツネ。

 

 え、どういうことかって?

 実はハツネの場合、蜘蛛側の方が軽いらしくてバランスどりが難しいっぽい。人間部分が全体のバランスの足を引っ張っている部分もあって、何度か湯船の中でひっくりかえってワタワタしちゃったんだよね。

 そうしてたら、例の三助ロボットが大きな桶を持ってきてくれたと……なんつー気が利くんだか。

 ちなみに、横に何か書いてある文字が『ペット用』なのは気にしないでおこう。うん。

「気持ちいい?」

「……」

 いや、そのドヤ顔で腕組みしてるの見たら、気持ちいいのはモロわかりだけどね。

 

 ところでその三助ロボットなんだけど、はじめ見た時は思いっきり笑っちゃったよ。

 いや、この建物の中、身長40cmくらいの小さなロボットが何体もいて掃除やら片づけやらをしているんだ。どうやら家政婦的なモノらしいんだけど、そいつらの防水仕様と思われるやつが水回りもやってるらしくて。桶を持ってきたのも彼らなんだよね。

 もちろん検索もしてみた。

 

『家庭用ミニロボット端末 ミニミニ34』

 ハウスキープのために作られていた家庭用ミニロボット。34シリーズは中枢のスーパーバイザーと端末群で構成されていて、家の規模に応じて端末数を調整できる。水回りをやる防水型など、特殊端末もある。

 

 要するにアレだ。地球にもあるお掃除ロボットみたいなのの究極進化版らしい。

 ただし、よくある古いSFの家政婦ロボットみたいに人間に似たのが一台あるんじゃなくて、群体的なものっぽい。

 比較的賢い中枢があって、歩き回っている奴らは端末。ある程度の自己判断力もあるけど端末はやっぱり端末。シンプルにお安くなっていて、壊れたら交換してくれ方式らしい。

 よくできてるなぁ。

 その端末クンなんだけど、お風呂場には二台いた。

 一台は今、私が湯船から出るのを待ってるみたい。で、もう一台はハツネの桶に定期的にお湯を足して、わざと溢れさせて新鮮なお湯で常に満たすようにしているっぽい。

 ほんと、かいがいしいなぁ。

 

 さて。

 落ち着いたところで、風呂を出てメヌーサたちと対峙する前に状況を整理しておく。

 

 どうやら私は、またやらかしてしまったらしい。

 メヌーサの言ってることはよくわからないけど、どうやら巫女としての勉強は順調らしい。ただしメヌーサの想定とはちょっと違った方向に行っているようで、そこで彼女を困らせているんだと思う。

 うーん。

 このあたり、修行を中断してメヌーサの手伝いだけをしばらく続けるとか、そういう提案もしてみるかな?

 実際、靴屋さんの件もある。

 私は銀河の常識について、もう少し学ぶべきだと思うんだよね。

 

 次なんだけど……こっちはさらに問題だ。

 メヌーサもだいぶ話してくれたけど、私の認識はそれでも甘かったっぽい。

 つまり、どうも「光」の件は私の想像すらもはるかに超えた危険物という気がするんだよね。

 うーん。

 本当に、このまま銀河を回っていいのかな?何かこう、もっといい方法はないものかな?

 むむ……わかっちゃいるけどデータが圧倒的に足りない。

 とりあえず……そのあたり、ぶっちゃけて二人に相談してみるかなぁ。

「……キュウ」

「ん?」

 ありゃ。

 ヘンな音を出したからまさかと思って目を向けたら……ハツネが伸びていた。

 もしかしてハツネ、のぼせたか?

 思わず私も湯からあがって、

「……うわ」

 こっちもクラッときたっ!

『緊急治療モード開始』

 体内の修復機構が勝手に動き出して、私のフラフラ感は急速に落ち着いてきたんだけど。

 当然、ハツネはそのままだ。

「どれ」

 とりあえずホカホカ状態のハツネを桶から取り出した。

 すると、それを見越したかのようにロボットたちが寄ってきた。

「ぬるま湯と水をもってきてくれ。少しずつ冷やす」

『了解しました』

 残念ながら蛇口はないからな。彼らが頼りだ。

 

 やっちまった。

 こいつは記憶がすっからかん、つまりガキと変わらないって知ってたはずなのに。

 

 くたーっと腕の中で伸びているハツネに、私は心の中でごめんと謝った。


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