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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第三夜『メルの巫女みこ日記』
125/264

スターブ○イザーですか

「ところでメヌーサ」

「なに?」

「結局、連邦軍は撤退したの?でもどうして?」

「ああそれね」

 ウンと大きくメヌーサはうなずいた。

「メルがカラテゼィナでやらかしたちょっと後くらいかな、連邦軍の旗艦あたりで何かが起きたのよね」

「何か?」

「んー、よくわからないんだけど……どこかから攻撃を受けたのかな?それも狙撃みたいな感じで。

 指揮系統がめちゃめちゃになって混乱が始まったと思ったら、そそくさと徹底したって感じね」

「へぇ……でも、その原因も不明なんだ?珍しいね?」

 メヌーサもそうだけどサコンさんまでいるってのに。

「あら高評価ありがと。

 でもまぁ無理よ、だってレズラーはファミリー向けのお船だもの」

「……なるほど」

 そういや、日本でいえば安いキャンピングカーみたいな立ち位置の船なんだっけ?

 まぁ宇宙船だから多少のセンサーは積んでるだろうけど……ってところか。うーむ。

「でもちょっと気になるな……記録とかないの?」

「見てみる?」

「ぜひとも」

「わかった……ほら」

 そういうと、動画っぽいのがポンとウインドウ表示された。

「なによメル、言いたいことがあるなら言いなさいよ?」

「いや……前から不思議に思ってたけど、どうして完全生身なのにドロイドネットワークに割り込めるのかなと」

 普通にデータリンクにもつながってるもんな。ホントにどうなってるんだ?

 だけどまぁメヌーサの反応としては、

「そんなの秘密にきまってるでしょ?」

「なんで?」

「聞きたいの?魔術理論によるネットワーク端末のエミュレートについてなら来年まで語れるくらいの情報あるけど?」

「やめときます」

 魔術理論と聞いた瞬間、丁重におことわりした。

 いいかげん頭がパーになりそうな話が続いているのに、この上科学と全く異質の骨子でくみ上げたネットワークアクセス技術の話なんて長々と聞かされた日には。

 正直、脳まで論理エラーで凍りそうな気がした……脳みそも生身じゃないけどさ。

「あら残念、科学者の正気をへし折るのっておもしろいのに」

「こっちは面白くない」

 正気をへし折るってなんだよそれ。

 物騒なことを笑顔でのたまうメヌーサに、とりあえず釘をさしておいた。

 そして。

「話を戻すけど、これが記録映像?」

「そそ。中央に見えているおっきいのが連邦の旗艦ね」

 再び映像の方に視点を戻した。

 

 確かにデカい。

 宇宙船というより移動するコロニー、いや、それどころか小型の月といってもいい。

 途方もないサイズだが、それがまた天然の星でなく人工物というのが恐れ入る。

 カラテゼィナで仰天した軌道エレベータがおもちゃに見えるほど。

 

 すごい……。

 これが天体規模の船ってやつかぁ。

 

 そして。

「……お」

 なんか唐突に、そのデカい船が大きく揺らいだ。まるで巨大な何かにぶんなぐられたみたいに。

「なんだ今の」

「すごいでしょ、これ銀河的にもレアな光景よ」

「え、そうなの?」

「うん」

 メヌーサは返事しつつも、興味深げに画像を見ていた。

「天体規模の船ってことは当然ねそれなりの巨大質量をもつわけよね。当然、それを安定させるための慣性制御システムや次元スタビライザーの類もかなり強力で、しかも多重に使われているものよ。

 そんな船を、子供のおもちゃ箱みたいに振り回した……どれだけのパワーが必要か想像できる?」

「無理」

 即答した。

「でしょう?

 ま、質量兵器の類じゃないかとは想像してるし、この後の連邦艦艇の動きからすると攻撃した船は逃げたようだけど……いったい何だったのやら」

「ふむ」

 なるほど、特定の方向に艦隊が移動を開始している。

 つまりこれは、何かを追いかけていったってことか?

 ダメージを受けている旗艦も飛ぶ事は問題ないようで、ちょっと出遅れたが追従している。

「頑丈なもんだなぁ」

「あれだけ大きいとバックアップシステムも無数にあるからね。たぶん、まだ中じゃ火災だの犠牲者の捜索だの大わらわしてると思う」

「いいのかそれ?」

「それが天体級のゆえんよ。

 星のどこかで未曾有の天災があって大量死があったとしても、同じ星のどころかで同じくらいの子供が生まれ、もっと多くの恋人たちが愛を語らっている。それが生命のすむ惑星っていうものでしょう?」

「……たしかに」

 なんかいま、メヌーサがすごく年上みたいに見えたぞ。すごい。

「なんか失礼なこと考えてない?」

「気のせいです。それにしても、あれだけの質量を……む?」

 ふと映像を見ていて、思い出した事があった。

「ねえメヌーサ、銀河文明には亜光速弾ってあるのか?」

「え、なに?」

「いやだから、亜光速弾。

 要するに、亜光速まで加速した重金属の塊とかをドーンとぶちこむだけの代物で」

「あ、そういうことか。

 またずいぶんとアナクロなものを出してきたわね。けど、そんなエネルギーの無駄遣いのわりにロクな威力も出ないような代物で連邦軍の旗艦相手に……?」

 私に反論しようとしたメヌーサだったけど、途中で言葉を止めてしまった。

「……」

 そしてなぜか、じーっと私の顔を見た。

「ばかばかしいとは思うけど……一応、調べとくかしら?レズラー?」

【はい】

「重力センサーはどうなってるかしら?」

【現在、停泊中ですから動かしておりません】

「いつから止めてたの?」

【ドック入り直後に停止しました。再稼働させますか?】

「いえ、いいわありがとう」

 そういうと、メヌーサは渋い顔をした。

「こういう時に限って。うまくいかないものね」

「ねえメヌーサ」

「え、なに?」

「とっているデータはこの映像だけ?」

「そうよ。見てわかるとおり、ただの映像だから可視光線しか取れてないし、そんな高性能じゃないからこれ以上のデータもね」

「そう」

 それだけ言うと、杖を取り出した。

「って、こっちじゃないな」

 コウロギの杖でなく、先日メヌーサにもらった通信特化のカイマチの杖とかってやつを取り出す。

 うむ。

 改めてみると、ホント可愛い杖だ。白くて先端にケモミミ飾りまでついてて。

 で、その杖を左手に持つと、意識を鎮めつつ映像にもう一度目をやる。

「メヌーサ、最初からゆっくり進めて。止めてっていったら止めてくれる?」

「わかった」

 映像が最初に戻り、そしてゆっくりと進み始めた。

 メヌーサは高性能じやないっていうけど、これ4Kくらいはあるんじゃないかなぁ。家庭用なら充分きれいだろ。

 って、

「ストップ!」

「はい!」

 ものの見事に、メヌーサはちょうどピッタリの場所に止めてくれた。

「おー……みえる見える。斜線が見えるよ?」

「え、見えるの?どこどこ?」

「ちょっとまって。今、印つける」

 ドロイド間のデータ共有は読み取りのみ(リードオンリー)ではない。たとえばこんな事もできるんだ。

 ペンツールをとりだして、見えてるとこに印をつけていく。

「いいメヌーサ、射線はここから、こう来てる」

「そうなの?どこで見分けてるの?」

「飛行機雲みたいなもんだよ。確かに視覚情報はほとんど何もないけど、確かに何かの痕跡が見えるよ。

 で、発信源は……このあたりに小惑星やでっかい隕石ないか?」

「レズラー、該当ある?」

【……あります。名無しですが小惑星級の岩塊がひとつ】

「名無し?」

【小惑星帯で鹵獲(ろかく)したレアメタルの塊なのです。ルートロビーに流れている情報と映像が一致します】

 岩塊ねえ。

「その岩塊についての最近の映像ある?自前でもネットでもなんでもいいわ」

【少々お待ちを】

 しばらくレズラーは考え込んでいたが、やがて返答がきた。

【こちらはいかがでしょう】

「これは?」

【マニアの作っている『無印衛星データバンク』というものがあるのですが、そちらに載っていた最新映像です。ネタ扱いされていますが】

「無印衛星データバンク?」

【歴史的事情があるのですが、要はマニアが共有情報をまとめているところです】

 ああ、まとめサイトとかwikiのたぐいか。

 しかし銀河にもwikiあるのか、そうか。

 なんだかなぁ。

 って、それはそれとして。

「なんだこれ?」

 なんか、ヘンな建物が映ってるぞ。

 

 え、何が変かって?

 そうだな……大昔の木造校舎っていえばわかるかな?あれが宇宙空間にある図を想像してほしい。まぁ、どちらかというと、戦国時代の安宅船(あたけぶね)をウンと大きくした感じに近いけども。

 で、それがでっかい隕石みたいなののそばに浮いてるんだ。

 

 なんなんだこれ?

 

 でも、私の困惑とは裏腹に、メヌーサは納得げにしていた。

「また、ずいぶんと懐かしい型の天翔船(てんしょうせん)ねぇ」

「てんしょうせん?」

『船のことですね』

 私の疑問は、じっとギャラリーに徹していたサコンさんが引き取ってくれた。

『ある種の文明では船といえば水を行くもので、宇宙を行くものを宇宙船とか天上船、天翔船などと呼ぶのです。ちなみにわが故郷では天界の船という意味の言葉で呼んでおりました』

「過去形?」

『はい。今は普通に船呼ばわりですね』

「なるほど」

『おや、理解が早い……ああそうか、もしかしてメルさんの故郷も』

「うん。宇宙船って呼んでたよ」

 厳密にいうとSFでの言い方で、現実の地球にゃまだ宇宙船なんて存在しないけどな。

 まさか、ミサイルを改造して衛星まで人を送った「ことがある」レベルのものを宇宙船でございとか、さすがに臆面もなく言えやしないし。

「それはそれとして……メヌーサ、何かわかって?」

「ええ、たぶんだけどね」

 ウフフとメヌーサは笑ってうなずいた。

「たぶんボルダの船よこれ。最後にボルダいったのって五百年くらい前だけど、まだ古時代の天翔船かたくさん残ってたから」

「え、そんなもんなの?」

「ええ。ちなみに元戦艦よ。ボルダじゃ、しれっと定期便に使ってたけど」

「戦艦……これが?」

 思わず、その木造の物体をまじまじと見た。

「ほら、あそこに大筒(おおづつ)が付いてるでしょう?あれ、ハビルザかどこかで昔作ってた魔導加速砲だと思う」

「えっと、あのキテ○ツ大百科の航時機(こうじき)みたいなやつ?」

『メルさん、そのたとえは思考イメージを共有できないメヌーサ様には通じませんよ?』

「あ、そっか」

 ちなみに魔導加速砲というのは、聞けば電磁加速砲、つまりレールガンに近いものらしい。

『魔導には光速の縛りがないので、実はお安く超加速ができるんですよ』

「お安く、ねえ……あれ一発にかかるエネルギーを考えたら、とてもお安くなんて言えるものじゃないんだけど」

 苦笑するメヌーサ。

「よくわからないけど、それを使うとああいう攻撃ができるの?」

「できるわ。

 ただやっぱりコストが悪すぎるから、安価にもっと強力な兵器が使えるようになって、すぐ消えちゃったけどね」

「なるほど」

 戦争は大量消費の権化みたいなものだけど。

 でも、当たり前だけどローコストで戦果があがるなら、それに越したことはないもんな。

 

 なんとも言えない話に、私はためいきをついた。


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