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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第三夜『メルの巫女みこ日記』
122/264

縁起物

 カラテゼィナにおけるメヌーサ・ロルァの拠点。

 かりにも銀河の聖女、あるいは魔女と言われる人の住居なわけで、どんな魔窟なんだろうと内心、結構期待していたんだけど。

「……これは、また」

「びっくりした?」

「うん、びっくりした」

 ある意味期待通り、ある意味大外れ。

 小さなビークルがたどり着いたのはなんと、郊外にある廃村状態の村のさらに奥、大昔の廃坑入口みたいなところだった。

「この中に入るの……って、もしかしてこれ幻?」

「よくわかったわね、そうよ幻術よ。見てなさい」

 ビークルに乗ったまま、徐行で廃坑もどきの中に入る。

 中に張り巡らされている、たぶんこっちの支保工(しほこう)と思われる古い構造材の横を二つばかり抜けて。

 

 その瞬間。

 ビークルは崩れかけた廃坑でなく、どこかの古代都市みたいな場所にいた。


「な、なんだこりゃ」

 思わず目が点になった。

 さっきまで、たしかに廃坑の中のはずだった。崩れかけた支保工も怪しげで、土の壁もむき出し。地球にかりにあったとしたら、間違いなく関係者以外立ち入り禁止は間違い無しの廃坑だった。

 なのに。

 目を剥いた私に、サコンさんが説明してくれた。

『街並みは見た目だけのようですが、しかしそれでもきれいなものでしょう?』

「ええ……でもこれ、どこの景色?」

『メヌーサ様の故郷、トゥエルターグァの風景だそうです』

「……これが」

 何度も話に聞かされた、メヌーサの故郷。

 もう、ずーっと昔に滅びてしまって、今は彼女の思い出の中にだけ存在する超古代の国。

 そして……エリダヌスとかいう、何千万年に及び、全銀河系を巻き込む途方もない大計画をおっぱじめた、いわば言い出しっぺの星。

 

 そんなすごい星の風景が……これだって?

 

 激しく意外だった。

 実は個人的に、もっとこう、透明なステキ物質とかで構成された、いかにも超文明って感じの夢の都を想像していたのに。

 目の前に見える風景ときたら。

 むしろこれは、まるで中世ファンタジー作品に出てくる町並みじゃないか。

 石畳で舗装された道が広がり、そして石造りの家が立ち並んでいる。

「なんだか……不思議」

 思わず口をついて本音が出た。

「え?」

「いや、地球のどこかの町みたいだなって」

 そうなんだよね。

 どこの国と言われるとちょっと難しいけど、でも、これが地球のどこかにあっても納得しそうな街並みに見える。

 なんていうか、不思議だよホント。

 イダミジアとか、今まで見てきたいくつかの星もそうなんだけどさ。

 異星文明、古代文明っていう言葉から想像する、何かこうキテレツなものじゃないんだよね。

 確かに、見たこともない景色ばかりではある。

 だけどさ。

 なんていうか……ものすごく普通なんだよね。

 生活感がありすぎるっていうか……いやま、生活してるんだから当たり前だけどさ。

 ぶっちゃけこの風景なんて……SFというより中世ファンタジー作品だよ、やっぱり。

「資料を見る限り、地球とトゥエルターグァの環境はよく似てるみたいね。気候もそうだし、植物も、そして動物もね。

 そして人類も同じタイプとなると、出来上がる町もそんな極端に外れたものにはならないんじゃないかしら?」

「なるほど」

 同じアルカイン人類だものなぁ。そりゃそうかもしれない。

「けど、地球とは異質の文明圏なんじゃないの?」

「ええ、いずれ全く異質の街並みになるでしょうね。でも現時点では地球の文明レベルが低すぎて、あまり差は出ていないと思う」

「なるほど……今はまだ差異が出るほど成熟してないってことか」

「ええ、そういうこと」

 

 停車場と思われるところにクルマを止めた。

「はい、おりてくれる?」

「あいよ。メヌーサ、家はどこ?」

「ん?もちろんここよ?」

「そうか……」

 目の前に、これまた、英国の某ラノベに出てきそうな、こぢんまりとした木造の家があった。

 うーむファンタジーだなぁ。

「サコン、悪いけどさっきの荷物を持って行ってくれる?」

『わかりました』

「メルは、そのおちびさん連れてついてらっしゃい」

「ういっす」

 私の腕の中で、ハツネがピクッと揺れた。

「なんか怯えてるんだけど……もしかしてメヌーサ、この子に何かするつもり?」

「何かって、そりゃ検査だけど?」

「検査?」

「あのねメル」

 やれやれとメヌーサはためいきをついた。

「その子、再生中に母体が殺されたんでしょう?記憶や人格が引き継げなかったレベルで?

 その状態で生き延びてるって、普通は絶対ありえない事なのよ?

 最悪の場合、未調整のままだと組織の自滅が起きて突然死に至る可能性もあるんだからね?」

「……そんなにやばい状態なの?」

「もちろん。だから要検査ってわけ。わかってくれた?」

「……わかった」

「……」

 ふと見ると、ハツネは不安そうに私を見上げている。

 ぬお、か、かわええ……って、そうじゃなくて!

「大丈夫、ついててあげるから、ちょっと診てもらお?ね?」

「……」

 ハツネは少し不安そうに、だけど、コクンとうなずいてくれた。

 

 

 家の中もやっぱり、外と同様に普通だった。

 北欧かどこかの古い家をちょっと想像したけど……だけど私自身欧州の文化やら家やら詳しく知っているわけじゃない。あまりアジアに詳しくない欧州の人が中国も日本もごっちゃにするみたいに、たぶん色々と勘違いしているんだろう。だからあまり信用しないでほしい。

 だけど、ひとつだけ言える事がある。

 レズラー……つまり、あの宇宙船の内装によく似ているってこと。

 つまり、こういうのがメヌーサの趣味なんだろうね。

「このテーブルの上にその子を……って冷え切ってるわね、ちょっと待ちなさい」

 メヌーサはそういうとテーブルに手をかざし、そして何かムニャムニャとつぶやいた。

「オッケーいいわ、さ、ここに乗せなさい」

「わかった……ん、大丈夫だよ、ちゃんとついててあげるから」

「……」

 ハツネは当初、必死に私の手にしがみついていたけど……顔を見て説得すると、やがておとなしくテーブルに上に乗ってくれた。

「最低限の言語理解はしてるみたいね。これは最初から?」

「どうだろ……でも最初は、問答無用で頭に乗っかられて困ったんだけど」

「あー、魔力に吸い寄せられたのね。その時に説得してみた?」

「あんまりしてない。言っても無駄みたいだったし」

「微妙か……じゃあ、初期状態が真っ白という前提で調べてみるかな?」

 ハツネの下に、光の魔法陣みたいなのが広がった。

「ふーん……あら……これは」

「どう?」

 メヌーサはしばらく難しい顔をしていたけど、やがて唐突に私の顔を見た。

「最悪じゃないけど、お世辞にもいいとは言えないわね」

「具体的には?」

「データ共有した方が早いでしょう。これ見なさい」

 そういうと、頭の中にポンとデータが提示された。

 

『ハヅ・ネィ』※初期生育不全(修理不能)

 ……(以下略)

 

「なに、このハヅ・ネィって」

「メルが命名したんじゃないの?」

「違う。ハツネってつけた」

「ハツ・ネぃ?」

「ちがう、ハ・ツ・ネ!」

「わかりにくい発音ねえ。何語?」

「あ、日本語」

「そんなの聞き間違えて当然じゃないの」

「え、なんで?」

「なんでって……じゃあたとえばメル、日本語に『んき゜ーま゛そ゜』とか『エルグァラントスレキ゜シビビデア』なんて発音ある?正しく聞き取れる?」

「無理。ていうか「き゜」とか何ソレ」

「ダメでしょ?

 つまりそういうこと、この子の言語理解力では未知の外国語の発音なんて無理ってことよ」

「なるほど。ちなみにハツネにわかる言葉って?」

「連邦公用語とパララネア地方第一言語かな。他はあまり期待できなさそうね」

「うわぁ……」

「わかった?」

「よくわかりました」

 連邦やオン・ゲストロの言葉は日本語とかなり違う。

 しかも記憶が真っ白で、慣れない外国語の聞き取りも厳しい。

 これじゃあ、ハツネって聞き取れてないのも無理はないか。

 そりゃ仕方ないな。

「気になるなら命名を訂正なさい」

「訂正って、普通に言えばいいの?」

「それくらい読み取れるわ。退行してるけどドロイドはドロイドだもの」

 なるほど。

 言われたとおり、ハツネに顔を寄せて、意図的に連邦公用語で話しかけてみた。

「あのねハツネ、お名前間違えて覚えてるよ?」

「?」

「ハツネよ、ハ・ツ・ネ。わかった?ハヅ・ネィじゃないよ?」

「……」

 ハツネは少し首をかしげて、ウンウンとうなずいた。

「メヌーサ、どうかな?」

「……問題ないわ、ちゃんと訂正されてる」

「そう」?

「ええ、ほら」

 

 

『ハツネ』※初期生育不全(修理不能)

 パララネア族のマトリクスで構成されたドロイド体。ただし再生時に母体が破壊された事で知識などの継承が行われず、まっさらの状態で再生され、メル・ドゥグラールによって新たな名を与えられた。

 連邦型ドロイド換算で五型相当。

 記憶ともとの人格が失われた事で、ほとんどの能力が使用不可能となった。マトリクス情報も傷ついてしまっているため、現状よりの成長は困難。ただし年月をかけて少しずつ修復すれば元通りの成長も可能かもしれない。

 

 現在、使用可能な能力は以下。

【吸血】物理的に吸血する事もあるが、高エネルギー生命体のそばにいる事でそのエネルギーを取り込む方が良い。普通の食事も可能だが、消化吸収能力が弱いので、現状それだけでは足りない。

操糸(そうし)】糸や繊維質を操る。衣服や装飾品を織るような行為の他、網つながりでネットワーク管理者のような作業もこなす事ができる。ただしもちろん、限界は本体の記憶とその内容による。

 

 

 あ、ほんとだ直ってる。

 よしよし、じゃあ名前はいいとして。

「これ……データひどくね?この小さいまま、もう成長もできないってこと?」

「同じパララネア系のドロイドが他にいれば、遺伝情報を補完してもらうって手もあるんだけどね。

 ちょっと問い合わせしてみるけど、このあたりの星域にはちょっといないんじゃないかな」

「そんな希少な存在だったのか……」

「モデルになったパララネア族自体が、もうずいぶん昔に絶滅してるのよ。残ってるのは彼らのマトリクスを引き継いだドロイドだけってわけなんだけど。

 希少なのはわかるでしょう?何しろ、今までドロイドは子孫を残せなかったんだから」

「うん」

 同族がいないってわけか。

「いっそ、今の姿を完全に捨てて異種族タイプとして生まれ変わる手もあるんだけどね。

 でも、属する種族っていうのはドロイドにとってもアイデンティティになっている場合が多くてね、よほど悲しい目にでもあわなきゃ種族変更なんてしないのよね」

「そっか……そうだよな」

 なんというか、身につまされるような話だなぁ。

「話戻すけどさ。

 じゃあ、この子はとりあえず成長しないって前提はあるけど、生きる事はできるってこと?」

「できるわね。それも、メルのそばで成長させるのがいいと思う」

「私のそば?」

「そそ。どうせ最初のきっかけだって、メルの魔力に引っ張られたんでしょ?」

 まぁ、そうだけど。

「それはいいんだけどさ……私のそばって、それ決定?」

「あら、そのつもりで連れてきたんでしょう?」

「まぁそうだけど、反対されるかと思った」

 正直に言ってみたら、メヌーサも「そうね」と苦笑した。

「普通なら反対するんだけどね、相手が蜘蛛族(キンチキン)なら仕方ないわ」

「キンチキン?」

 なんだそりゃ?

 首をかしげていたら、サコンさんがフォローしてきた。

『メルさん、キンチキンというのは古代銀河語で「釣り師」という意味なんですよ』

「釣り師?」

『良き運命、良き風を釣り上げる者ということです。ほら、これを見てください』

 そういうと、サコンさんは愛用の人間型スーツを見せてくれた。

 え、どういうものかわからない?では再度説明しよう。

 サコンさんは非人類型生命体で、見た目は触手の塊というかクラゲかなにかみたいな感じの生き物なわけで。でも、それだと銀河に多いアー系種族、つまり人間を含むヒト型生命体群用に作られた各種設備が非常に使いにくいんだよね。

 まぁ、そういう時に使うためのパワードスーツみたいなやつね。まぁ、ちょっと大柄な人間サイズだし「パワード」といえるような出力もないんだけどさ。

 で、だ。

 その人間型スーツなんだけど、表面に何か、網目のような意匠の模様が描かれている。

『これ、蜘蛛の巣をデザインしているんですよ。つまり彼女ら「釣り師」に由来する「縁起物」の一種なわけですね』

「ああ縁起物、そっかぁ!」

『おわかりいただけました?』

「いただけた、いただけた。なるほどねえ」

 

 縁起物って。

 そんなもんまで銀河にあるのか、うーむ。


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