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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第三夜『メルの巫女みこ日記』
118/264

癒し

 超リアルなファンタジー映像。

 その光景を見た時、真っ先に浮かんだイメージがソレだった。

 ひとは、目の前の光景があまりにも衝撃的な時、まるで映画か何かのように見えてしまうものだ。要は認識が追いつかず、もちろん反応も追いつかないという事なんだろうけども。

 そこは、おそらく本来は駐車場か何かなんだろうと思う。

 地球の駐車場と同じように地面が綺麗に舗装されていた。白線に類するものは引かれてなかったけど、ところどころに信号機のようなもの、おそらく何かのシステム端末みたいなものが立っていた。イダミジアでも似たようなのを見たことがあるけど、あいつが交通整理をするし、ほとんどの車両が自動運転という事もあって、人の目に見えるような無粋な白線がいらないって事なんだと思う。

 そんな、とても広い場所に……おそらくはドロイドらしき女性たちが無数に「置かれて」いた。

 置かれてと表現しているのは、その状況……つまり彼女たちはほとんど例外なく拘束されたり、ひどい重傷を負わされていたから。もしかしたら何割かはもう死亡しているんじゃないかと思うくらい、悲惨な状況だった。

 

 なんだ、これ。

 

 さっきの靴屋とは比較にならないくらいの凄惨きわまる光景だけど、不思議と意識が飛ぶような事はなかった。

 後から思うにたぶん、隠れた場所から見ていたからだと思う。非常回路って要は自衛プログラムなわけだから、私自身が安全圏にいる場合は切り替わらない、そういう事なんだろうと思う。

 ついでに言うと……アルカイン族どころか、完全な非人類型がたくさんいた事も、目の前の風景の現実感を失わせていたかもしれない。

 たとえば、ケンタウロスのごとき半人半獣タイプ。

 獣人タイプだと思うんだけど、ウサギとかサイとかに似た、いわゆるアー系種族とは異なる形態の異星人。

 それら……日本人的感覚だとファンタジー世界の住民にしか見えない個体が大多数をしめていて、むしろアー系種族みたいな典型的な知的生命体タイプは珍しかった。

 

 これはいったい、どういうことだ?

 いやまて、ちょっとまて。

 

 彼女たちがドロイドなのは間違いない。外見が違うのは単に、オリジナルというか属する種族形態が違うだけの話なんだろう。

 そして……いた。

『……!!』

 今まさに、重症を負わされている人たちを見てしまった。

 何か鈍器のようなもので殴られている人。

 既に傷つけられ倒れているのに、さらに衣服を引き裂かれている人。

 そして……。

 見るにたえない光景だった。

 遠すぎて会話内容などはわからないが、何をしているかなど想像するまでもない。

 

 殺したいだけなら、射殺すれば一撃だ。たとえドロイドといえども、至近距離で中枢を破壊されれば死ぬしかない。

 なのに、わざわざ苦しませ、傷つけている。

 性的に襲っているっぽいのも、おそらく連邦兵士たちがクソだからではない。同族の女っぽいタイプなら犯す事も指示のうちに違いない。

 なぜかって?

 もちろん、単に殺すより、そうやって深く傷つけてから殺したの方が、より残酷だからだ。

 そして、そんなことをしている理由は。

「……」

 そう。「住民」でなくドロイドばかりを狙っている点からいっても理由は明らか。

 つまり、ここカラテゼィナの民衆や政府への脅迫なんだろう。

 

 ドロイドに人権はない。つまり、彼らがやっているのは虐殺でも凌辱でもなく、単に窃盗および器物破損でしかない。

 ああやって広場で傷めつけているのが、主要知的種族の女性の姿をしていない事からも、その真意が透けて見える。

 いくらドロイドだからって、同族の女の姿をしたものを傷めつけたら民衆は怒る。それが生き物として当然の反応だからだ。

 だけど、明らかに人と違うドロイドたちなら?

 かわいそう?

 いや、相手は結局のところドロイドであり、同族に見える(・・・・・・)者を傷つけられる事による本能的な嫌悪は誘発されないわけで。

 かりに「かわいそう」みたいな感覚があったとしても。

 そこから誘発されるのは、連邦軍人たちの暴力への反感まじりの恐怖の方が大きいだろう……。

 

 ……ぶつん。

 

 そこまで理解できたところで、私は、私の中で何かが切れる音を聞いた気がした。

 

「『杖よ目覚めよ(ベイ・アー)』」

 何も考えず、まずは杖を取り出した。

 

 出したところでちょっとだけ頭が回りだした。

  

 さて、どうやって攻撃する?


 敵の数が多すぎるし、助けたい者たちも多すぎる。当たり前だけど完全に私の手に余る。

 だけど彼女たちだって無力な者たちではない。

 おそらく対ドロイドの装置を用いてるんだろうけど、連邦式のあの手の装備ならアヤに対処法を聞いてるし。

 

 ならば。

 今、私がやるべきは……うん、できることがひとつだけある。

 そう。

 つまり、あそこにいる全員を癒し、さらに対ドロイド装置を妨害すればいい。

 

 妨害については、きっと何とかなる。

 それより問題は治療だ。

 イダミジアで、サコンさんを助けた時と同じことをやればいいわけで……ただし千人単位を相手に。

 

 うん、とにかくやってみよう。

 やるしかない!

 

「『変身……癒しの魔法少女へ!』」

 あの時は成り行きだったけど、意図的にイメージを浮かべ、変身する。

 もちろん肉体的に変わるわけではない。

 要は巫女の力で、空想上の『癒しの力もつ者』になりきるだけだ。

「……」

 

 杖が、あの時のように輝きはじめた。

 光は全身を包み込み、やがて全身がぬくもりに満たされていく。

 

 もちろん私は、オリジナルの魔法少女とは違う。ただ癒しのイメージを借りているだけ。

 それに実際、彼女と同じバックボーンまでは持ちたくないって気持ちもある。

 まぁ、そこいらは元おっさんアニメファンの大人の事情だから詳しくは語らないけどね。

 ただ、今だけは。

 病気のおさななじみを優しく癒す、最終回のひとつ前の彼女の微笑だけを思い出していく……。

 

 目を開けた。

 

 またしても杖がパステル調の、いかにも魔法少女っぽいバトンに変わっていた。

 持っている手も白い手袋をしている。

 かわいらしいドレスを切り詰めたような衣装は、むかし、女の子のあこがれだった時代の、古き良き「看護婦(注: 看護師ではない)」のイメージを魔法少女的に大きく書き換えたもの。

 

 え、なんで古き良きなのかって?

 そりゃもちろん、この魔法少女が、いわゆるナースキャップをモチーフにした帽子をかぶっているからさ。

 今どき珍しいよね、イメージでなく本当にナースキャップかぶったナースなんて。

 まぁ、今はどうでもいい話だけども。

 

 無事に変身を終えた私は、たぶんどこから見ても可愛い戦闘ドレス姿の魔法少女だろう……うん、鏡は見ないけどな。絶対。

 で、どうしてこの姿になったのかというと。

 実は原作の彼女、なにしろ看護婦がモチーフだけあって戦闘力はほとんどない。そもそも普通の魔法少女が戦ったりするような場面で、汚れや病を「浄化」するわけであり、彼女が最も光り輝く場面は、なんといっても治癒や浄化といったシーンになる。

 そして、その能力たるやなんと。

 全惑星にも、いや最終的には全宇宙にまで届くほどの途方もない癒しの力を持っているわけで。

 

 まぁいい、とにかく杖を構えて目を閉じた。

 イメージを広げ、そしてこのカラテゼィナの全惑星に薄く、広く概念を広げていく。

 

 癒す対象……よく、確定した。

 

 もう死んでしまった者は、残念ながらどうしようもない。

 だけど、瀕死も含め、まだ生きているのならば。

 

 

「癒して……虐げられる人々の傷を!汚され、折られた心を!!絶望した魂を!!!」

 

 

 次の瞬間、全身から物凄い勢いで力が抜け始めた。

 

 とんでもない脱力感だった。

 まるで貧血に襲われたように一瞬、何も見えなくなった。そのまま棒のように倒れそうになったんだけど、ギリギリのところで意識が戻ってきて、何とか転倒せずに持ちこたえた。

【警告: 魔導コア・エネルギー蓄積全消失。これ以上の使用は生命力の枯渇、細胞組織の自壊の原因になります。警告、警告】

 頭の中に頭痛を伴い、ガンガンと警告が鳴り響く。

 だめだ、足りない。

 願いに対して、それを実現する力が足りないんだ。

 

 アヤゆずりのこのドロイドの身体で足りないなんて、そんなの初めてのことだった。

 どうすればいいのか?

 どうすれば不足分が補えるのか?

 わからない。

 

「……?」

 ふと、何か(・・)に見られているような気がした。

 しかし見渡しても誰もいない。

 いないんだけど。

「お願い、見てる人……今だけでいい、私に力を……貸して!!」

 気が付けば、そう叫んでいた。

 何者かは知らない。

 でも。

 なぜかわかる。

 その誰かは、何か途方もない、とんでもない力を持ってるんだって。

「……お願い!!」

 どのみち、このままでは支えきれない。

 止めるには術を解除するしかないけど……それももう間に合わないかもしれない。

 そして。

 間に合わなかったら……私はたぶん死ぬだろう。

 再度、願いをこめた。

「…………お願い!!!!」

 その瞬間だった。

 

 ドウッと、何か凄いものが流れ込んできた。

 

 それは、まるで小川に流れ込む鉄砲水だった。

 それは、既存の私の構造を支えるものを根こそぎぶち壊し、そして押し流した。私は問答無用で押し流され、どこか遠い場所に一瞬で運ばれていった。

 だめだ、どうしようもない。

 人は川でも海でも泳げるけど、それは平時での話だ。豪雨で濁流となった川、津波の押し寄せる海。どちらに入るのも人の身では自殺行為であり、まして泳ぐなど論外以前の問題。

 そして私は、その濁流だか津波の中で翻弄されているに等しい。

 もはや何も見えず……ただ流されるだけ。

 

 ──だけど。

   だけど、この願いだけは。

 

 何も見えない中で、杖をただ掴みなおした。

 そして意識を統一し、意志を明確にした。

 

『…………皆を癒して!!!!』

 

 その瞬間、どこかで誰かの声が響いた気がした……『緑の呪文(ル・ファール)起動(アクアラケイ)』と。

 

 そして。

 それっきり、私の意識は途切れた。


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