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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第三日『銀河連邦とイーガ帝国』
110/264

姦(かしま)しきボルダの朝

 今回で三人娘の話は、とりあえず一区切りです。

 次話からはメル陣営に戻ります。


 船は特にトラブルもなく飛び、約一時間後にボルダに到着した。

 マキたちは(ステーション)に着くことを予想していたが、いきなり地上に降下したので驚いた。

 その理由はというと。

「ナーダ・コルフォでも地上に降りてたろ?これはそういう船なんだ」

「ナーダ・コルフォて」

「アルカインって言い方しないんだ」

「もちろん。ここはもう連邦じゃないんだぜ?」

「だねえ」 

「そうね」

「……」

 以前にも出てきたが、ナーダ・コルフォとは楽器工房という意味だ。色々と大人の事情があるのだけど、連邦以外ではナーダ・コルフォと呼ばれる事が多い。

 ギガの言葉にプニベスが同意し、そして苦笑するようにエムネアも加わった。

 その応答の順番に、どこかプニベスが遠くになったようにマキは感じてしまった。

 しかし、

「ほい」

「いたっ!な、なにすんの?」

 いきなり額を指ではじかれ、マキはちょっと涙目でプニベスを見た。

「マッキー、くらーい」

「暗くないっ!」

「ささ、いこいこ」

「ちょ、押さないでよちょっと!」

 ちなみにギガ船長は船の作業があるが、あとから合流する事になっていた。

  

 

 (かしま)しいという言葉がある。地球は日本国の古い言葉で「やかましい、そうぞうしい」といった意味になる。女という字を三つ集めて騒々しいという言葉にしてしまうあたり、昔の日本人のセンスもなかなか毒が効いているといえる。

 もちろんこれは地球という銀河文明外世界の言葉なわけだけど、実はオン・ゲストロ語にも「女ばかり(マルママー)」という言葉がある。意味はやっぱり「やかましい、そうぞうしい」なわけで、どこぞのメル嬢は、銀河でもそうなのかと思いっきり苦笑いをしたという。

 そんな惑星ボルダ首都の朝。

「スッゲー……」

「あちゃー……」

 街角に呆然とたたずみ、ポカーン状態のマキとロミがいるわけで。

「……」

「……」

 で、それをニコニコ笑いで見ているのはプニベスとエムネアだ。

「どう、おふたりさん。ここがボルダの首都『カルーナ・ボスガボルダ』よ」

「首都って……ほんとに?」

「ええ」

 ふたりが驚愕したのも無理もない。

 

 そこはなんと自動車ならぬ、騎乗動物のあふれる街だった。

 

 小型恐竜を思わせる二足走行タイプが多いが、鳥型も少なくない。

 哺乳類タイプもチラホラ見受けられるが、これらはのんびりと大荷物を運ぶものが多いようだ。

 果ては、なんの系列なのかマキたちにはさっぱり理解できない、魔物としかいいようのない異様な生物もいる。

 

 それらが全て、交通ルールをきちんと守りながら走っている……クルマのように。

 

「なんだ、これ?」

 ロミの口から洩れた言葉には、マキも同意見だった。

「な、なんで動物ばっかりなの?自動運転とはいわないけど、クルマの一台もないわけ?」

「機械式のはないわねっていえば、わかるでしょう?」

「?」

「……なるほどな」

 ロミが先に気づいたようだ。

「なに、ロミ?」

「これ、みーんな合成生体(ドロイド)らしいぞ、マキ」

「……え?」

 マキの目が点になった。

 想像してほしい。

 メガロポリスもかくやの石造りの巨大都市。

 だけど、縦横に行きかう道路には一台のクルマもない。車輪タイプはもちろん、エアカーのひとつもない。

 代わりにそこにいるのは、走ったり飛んだりして行きかう無数の動物たち。

 鳥のようなもの、獣のようなもの、トカゲのようなもの。本当にいろいろな動物たち。

 

 これが全部人工生体(ドロイド)だって?

 

「え、エムネアさん?これって?」

「ボルダは普通に掘れる化石資源が全然ない星なんだけど、生物資源……つまり動植物はあふれるほど豊富な星だったそうよ。今のボルダ人の先祖が流れ着いた時代からね。

 そんな中、彼らは通常の化石資源に頼らない独自の文明を発達させてきた。

 ……その結果がこの、人造の騎乗動物たちってことよ」

「な、なるほど」

「マジかよ」

 あっけにとられて周囲の景色を見るマキたち。

 で、それを見たエムネアは苦笑した。

「とりあえず市民登録に連れて行こうと思ったけど、とりあえず観光かしら?」

「あー、まぁ、役場は明日でもいけるしねえ」

「イケるしって……プニちゃんなんで知ってるの?」

「え?ほら、これ」

 プニベスは自分のポケットをまさぐると、何やらカードのようなものをとりだした。

「あら市民証じゃないの、前に取得したの?」

「うん、これないと面倒だしー」

「そりゃま、そうだけど……ってちょっと待って」

 プニベスのカードを見たエムネアが眉をしかめた。

「プニちゃん、これビジターじゃなく一般市民用だよね?」

「!?」

「名前が、プニベス・ポルト・イって……これなに?」

「……えーとその」

 それが意味する事は。

 つまりプニベスは来訪者ではなく、本物のボルダ市民ということなのだが?

 さらにいえば。

「プニちゃん?」

「あーいやその」

「これはちょっとお姉さん見逃せないんだけど?どうやって取得したの?彼もグルなの?」

「と、とりあえず犯罪じゃないからぁ」

「じゃあどうして?」

「……そ、そのまんまの意味だもん!」

「そのまんまって……ほんとに?」

 カードを見直したエムネアは、にんまりと笑った。

 そして、

「あのねマキさん?」

「え?あ、はいっ!」

「あ、ちょ、ダメそれ……」

 止めてももう遅い。

 エムネアはプニベスの市民カードをマキとロミに提示した。

 そして次の瞬間、

「……え?」

「プニ……あんた人妻扱いになってるけど?」

「あれ、このポルト・イってどういう意味?」

「イって人の奥さんって事らしいな」

「すると……」

「ギガ船長の名前って、イ・ギガスさんだよねえ?」

「……」

「旦那さん……ギガ船長?」

「……」

「……ねえプニ?」

「あは……は……はは」

 プニベスは三人の目線の前に、盛大に顔をひきつらせた。

 

 

 約二時間後。

 船の作業が終わったギガ船長も合流し、ギガ船長宅に移動した。

 船長は立派な家を持っていた。

「船乗りむけの補助があるんだ。それとこの家は中古でな、前の持ち主がくたばって売りに出てた」

「うんうん、これをわたしが直したんだよねー」

「おう」

(めっちゃ夫婦じゃん。新居?)

(まさか、プニに負けてるなんて……)

 頭を抱えるマキとロミ。

「わたしも知らなかった。あなたたち、いつからこんな関係に?」

「こんな関係って?」

「いや、だから」

「……飲み友達(トモ)だけど?」

「「「えっ!?」」」

 プニベスとギガ船長以外の声がきれいに重なった。

「いや、言いたいことはわかるんだけどさ。こいつがイヤだっていうんだよ」

「だってプニ、ドロイドだもん。子供も産めないしー」

「だがボルダでは市民登録も実際できたわけだし、子供の産めない夫婦もたくさんいるんだぜ?」

「うん、言いたいことはわかるけど……でもー」

「でも?」

 エムネアは首をかしげた。プニベスの言いたいことがわからないようだ。

 対して、マキとロミは眉をよせた。

(これって……なぁマキ?)

(たぶんそう。彼を縛りたくないんだねえ)

 自分がドロイドだから。人間じゃないから。

 いくらボルダでOKだといっても、アルカインでは道具にすぎない存在だから。

 

 ……愛する人の負担になりたくない。

 

(バカプニ、なんでこんな時だけ余計な知恵が回ンだよ!)

(はぁ……バカな女ほど幸せになれるって言葉があるそうだけど……ホントかもね)

 普段おバカなプニベスの選択ということで、その重さがマキたちには切なかった。

 

 だけどそこで、ふと気づいたことがあった。

 

「いや、ちょっとまてよプニ」

「え?」

「いや、今回のアレだよ、エリダヌスのアレ」

「?」

「バカプニ、思い出せよ。マキがこの身体で、つまりドロイドの身体で子供産めるって話したばっかじゃんか!

 だったらプニ、あんただって!」

「……あ」

「……なるほど!」

 思わず目が点になるプニベス。

 おおっと目を輝かせて、ポンと手を打ったギガ船長。

 

 そして、ニヤニヤ笑いの女三匹。

 

「マキさんマキさん、これはもしや」

「ですねえロミさん、お仕事ひとつ増えましたねえ」

「ウフフ、これは楽しいことになってきたわねえ」

「ちょ、ちょっとみんな!マキまで!」

 

 

 その後。

 何年に一回という、珍しいプニベスの雷が落ちた。


次回更新から、メルたちの方に戻ります。


ナーダ・コルフォとアルカイン王国の関係:

 地球的にわかりやすくいえば、イタリアとバチカン市国が近いです。

 しかしアルカイン王国は「銀河連邦の中枢」をさせるためにゼロから作られたいわば人造政府であり、バチカンのような宗教色はありません。アルカイン王国は各国の寄進を中心に運営されており、王宮のある土地もナーダ・コルフォからの期限付き租借地になっています。

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