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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第三日『銀河連邦とイーガ帝国』
104/264

渡航準備

2017/02/02 訂正:ザイード => カラテゼィナ

 移動を決めると後は早かった。

「おい、ちょっと出てくるから後を頼むぞ」

「へい」

 ケマラはそういうと、女三名を連れて移動開始した。

 食堂を出ると下町の奥に入っていく。

「おー……」

 下町の最奥部は治安が悪いと評判で、アルカインに長く住む三人娘にとっても未知のエリアだった。キョロキョロと見回しつつ、ちょっと緊張したように後をついていく。

 なんか酔っぱらいみたいな男が道ばたに寝ている。

 しかし異常な光景ではないらしく、特に誰も気にしていない。

 酔っぱらい男は、うつらうつらと浅い眠りにいたようだが、足音に気づいたのか、ぼんやりと薄目を開いた。そしてケマラの顔を見て、寝ぼけた声で話しかけてきた。

「おーケマラのだんな、なんかねえか?」

「ロッケ、たまには酒を控えたほうがいいぞ?」

 そういいつつも、ケマラはポケットから酒の小瓶らしきものを出して、ポイと与えている。

 ありゃ、あげちゃうんだとマキは思ったが、何か事情ありかもと突っ込む事はしなかった。

 ロッケと呼ばれた年寄りはのんびりと起き上がると、ビンの蓋をあけて酒を飲みはじめた。

 で、そのニオイでマキは気づいた。

(あ、疑似アルコール)

 お酒の代わりに飲ませる飲料のひとつだ。

 見れば、年寄りの方も最初から酒とは期待してないのだろう。それでも幸せそうに飲むと、またごろんと横になってしまった。

 いいのかこれとマキは思ったが、誰も問題にしてないから気にしないことにした。

 

 歩いていくと他にも人に遭遇したが、他も似たようなものだった。

 椅子に座ってボーっとしている年寄り。

 何か敷物を広げ、かったるそうに路上で何かを売っている若者。

(そもそも、こんなとこでお客様くるのかしら?)

 そんなことを考えつつもチラッとマキが眺めていると、なぜかニッコリと笑顔をくれたり。

 マキが首をかしげていると、ロミがポンとマキの肩を叩いた。

「なに?」

 ロミは無言でマキの額に手をあてると、接触通話をかけた。

『あいつの作品よく見ろ。ガキの絵ばっかりだぞ』

「!」

 子供のイラスト、子供の肖像画、子供をかたどった何か……。

 それも、今のマキの外見と大差ない年代の子供のものばかりだ。

『子供好きなのかしら?』

『あー、まぁそういう事にしとけ。さ、いくぞ?』

『う、うん』

 

 一同はさらに、さらに奥へと入っていく。

「ん?あれなんだ?」

「古代語みたいだねえ……」

 ある建物の看板をみて首をかしげるロミとマキ。

 ちなみにケマラはその入口にたち、そして三人の方を見た。

「おまえらこっちだ。プーは前に見たよな?」

「うん、おぼえてるよー」

 にこにこと笑うプニベスに、驚くロミとマキ。

「プニ、あなたこんなとこまで来てたの?」

「相変わらずだな……ったく」

 プニベスは昔から、三人の中で一番のおっとり役である。

 しかし最も大胆不敵なのもプニベスであり、驚くほど顔が広いのも彼女だった。

「で、これは何て書いてあるんだ?」

「ないしょー」

「内緒?」

「さ、はやくいこ?」

「お、おう」

 

 

 建物の深部に入ると、途中から風景が一変した。

 途中まではアルカイン王国によくある風景だった。すなわちコンクリやリノリウムにも似た、いかにも連邦系の銀河文明にありがちな建物ばかりだったのだ。

 しかし。

 今、三人が見ている風景は、それらとは全く異質のものだった。

「これ……木でできているのか?」

「すごいね」

 あらゆるものが、完全木造の風景。

 窓にはガラスらしきものがはまっているが、これも連邦のものとは違うように見える。それに窓枠も何もかもが素朴な木枠でできていて、さらに鍵と思われるものも原始的な真鍮製のものだったりする。

 連邦育ちで星間文明に慣れきっている彼女たちにとり、それは見慣れぬ異様な風景だった。

「驚いたかい?」

 みると、楽しげにケマラが笑っていた。

 ウンウンとマキたちがうなずくと、ケマラは満足そうだった。

「それは良かった。プーはあっけらかんと笑うだけだったからね」

「あー……プーは木造建築慣れてるから」

「え、どういうこと?」

「ロミは知らなかったっけ、うち、昔は木造家屋に住んでたんだよ。引っ越したけどね」

「へぇ。あれ、でも引っ越しって、マキんちって昔からアルカインだろ?」

「転居したの。すごく古い建物でね、保守に手間がかかりすぎたから」

「ほほう。で、その前の実家とやらはどこにいったのさ?」

「もうないよ。楽器工房の人たちが、解体して別のとこに持って行っちゃった」

「へぇー」

 楽器職人ギルドや工房は、アルカイン王国とは直接のつきあいはない。

 だが一部の建物は別で、特に古いものなどは楽器職人ギルドが建てたものが借り上げられ、利用されていたケースもある。

 マキの実家はさすがにちょっとめずらしい例だが、皆無というわけでもない。

「よし、俺はここまでだ。ちょっと待ってろ」

「え?」

 ケマラは右奥の方にある、窓口のようなものに近づいて行った。

 すると、奥から女性らしき声がした。

「何か御用でしょうか?」

「大人三人、ボルダまでだ」

「三人分ですか?」

「俺はいかん、この子らだけだ」

「なるほど、わかりました」

 そのやりとりにマキは首をかしげた。

「どうしたマキ?」

「まさか……」

 トテトテとマキは窓口に近づいていくと、少し背伸びして中を覗き込んだ。

 はたして、そこにいたのは。

「!」

「あら、かわいいお客様。何かごようかしら?」

 うふふと笑う女性は、マキが想像した通りの存在だった。

「アマルー……」

「ええそうよ可愛い混ざりっこさん、ちょっと待ってね。

 ケマラさん、チケットはこのお嬢さんを含めた三名でいいんですね?」

「おう、頼む」

「わかりました」

 そこで窓口業務をしていたのは人間サイズの、ただし三毛猫頭の女性だった。

 ピンと立っている耳がマキのそれによく似ている。

 模様は三毛猫のそれに似ているが、耳や目などのパーツはむしろ虎や(ヒョウ)に近い。すらりと細身の身体なのもあって、野性味にあふれている。

 アマルー族。

 銀河系における第三位の種族であり、二本足で立ち上がった猫である。人間に近い手足と関節構造を手に入れて文明を築き上げている。本来はかなり優秀な種族なのだが、基本がのんびり屋なものだから第三位に甘んじていると言われる。

 ちなみに、基本的に血族主義であり閉鎖的なのだが、ヒトであるアルカイン族には寛容で交流の歴史は長い。またそれはアルカイン側でも同様で、怠惰な性格に賛否両論はあるものの、それでも両者はまったりと共存を続けている。

 ただ、ここアルカイン王国で純血のアマルーに出会うのは非常に珍しい。

 なにせここは連邦の中枢であり、同時に職人の星。つまり堅苦しく騒々しく、しかも皆忙しいわけで。

 こういう星には、まったりを好むアマルーはほとんど住んでいないはずなのだが。

「ケマラさん、ただいま直行便がありません。経由便になりますが、かまいませんか?」

「経由?ボルダに行くのにか?」

 ケマラが眉をしかめた。

 アルカインとボルダは隣の星。なのに経由便ということは?

「経由すんのはどこだ?」

「タータン星系です。緊急の積荷がありまして、そちらが優先なのです」

「おいおい、ただごとじゃねえな。大丈夫なのか?」

「非常の場合は寄港をあきらめるそうです」

「そうか……ほかに便はないんだな?」

「次は明後日になるかと」

「そいつぁ、まずいな……オイ、マッキーとやら」

「はい、何ですか?」

 呼ばれて即座に返答した。

「今すぐの便だが、緊急でタータン星系を回っていくらしい。ちと危険かもしれん」

「あら。それを回避したら明後日?」

「そうらしい。どうする?」

「ちょっと待ってください」

 そういうとマキはふたりに声をかけた。

「だって。どうする?」

「それよりちょっと待て、タータン星系ってどこだ?」

 耳慣れない名前にロミが首をかしげた。

「ああ、それはね」

「ルギル星系っつったらわかるだろ?」

 マキが返答する前なにケマラが答えた。

「ルギルですか、でもそのタータンっていうのは何です?」

「よく知らんが、二十年ほど前にあそこのカラテゼィナ政府が宣言したんだ。今後ルギルでなくタータンを自称するってな」

「そうなんですか。あれ、でもじゃあ、どうして伝わってないんですか?」

 ロミたちはオペレータであり、そういう情報は重要なはずだ。なぜ伝わってないのか?

 そしたら、マキが答えた。

「正式な通達じゃないからだよ。私もお父様にきいたけど、誰にもいうなって言われたもの。ふたりにもね」

「へ?なんで?」

「それは私も知らないの。お父様は危険だとしか」

「それは、改名を提唱したのが、あまり連邦側によく思われてない方だからだそうですよ。

 いずれ連邦にも通知するけれど、それは、ほとぼりがさめるのを待つんだとか」

「あ、そうなんですか」

 首をかしげていたら、アマルー女性が教えてくれた。

 一国の政府がうごくほどの危険人物。

 それが何者なのかは気になったが、とりあえず今、マキたちが首を突っ込む問題ではないだろう。

「わかりました、ありがとうこざいます。それで皆はどうする?」

「ちょっと結論むずかしいかな。保留、マキに任せる」

 ロミは自力での結論を棚上げしたらしい。

「プニは?」

「そうねえ」

 少しプニベスは首をかしげたが……何かに気づいたように眉をしかめた。

「いますぐ、行くべきだとおもうかな?」

「で、そのココロは?」

「表が騒々しいみたい。もしかしたらまずいかも」

「え?」

 そう言われてマキたちも気づいた。

「何か動いてる、さっきの通りに入ってきたんじゃねえか?」

「なんか、いやーな感じだね。プニ、これのこと?」

「たぶん」

 プニベスの言葉に、マキは少しだけ考えたが「よし」と顔をあげた。

「多少危険でもいいです、早い方でお願いします!」

「わかった」

 ケマラはうなずくと、窓口のアマルー女性に告げた。

「今すぐだそうだ、よろしく頼む。急ぎでな」

「わかりました。

 ではケマラさんはお戻りください、あとはわたくしが」

「すまん頼むわ」

 そういうと、ケマラはマキたちに向き直った。

「どうやら俺は戻るべきのようだ、悪いけど行くわ。

 おまえら気を付けていけよ。もし困ったらウチのボルダ支店にこい、いいな?」

「はい、ありがとうございます!」

「お世話になりました!」

 あいさつをするマキとロミにうなずくと、ケマラはプニベスの方を見た。

「プー、わかってるな。注意しろよ」

「わかったー、マッピーも気を付けて?」

「そのヘンな言い方やめろっての。よし、じゃあな!」

 そう言い残すとケマラは去って行った。

 ありがとーと口々に見送っていた三名だったが。

「さて、そしたら後は任されました、と」

「!」

 ふと気づくと、三人の後ろにはアマルー女性が立っていた。

「え……いつ出てきたの?」

 ロミが目をむいたが無理もない。

 窓口の横に出入り用の扉があるが、出入りの音も一切しなかったからだ。

「うふふ」

 クスクスと楽しげにアマルー女性は笑った。

 窓口ごしにも感じていたが、実にスレンダーな女性だった。

 アマルー族は肉食系の種族だが、同時に筋肉質なスレンダーが多い。どうも美的感覚がそのへんにあるらしく、細身と舐めてかかると怪力に酷い目にあわされる事もある。

 そして、異様に薄着なのも彼らの特色である。

 何しろ全身毛皮なのだ。衣服などは局部や乳首を防御するためとしか考えられておらず、若い娘でも、他のヒューマノイド系種族から見ると下着としか思えない装いでウロウロする。

 この女性も例外でなく、ビキニの水着程度のものしか身に着けていない。しなやかなプロポーションも剥き出しであり、毛皮が三毛猫パターンなのもはっきりとわかる。

「エムネア・パルティ・アマルーよ。お船までの短い間だけどよろしくね」

「マキです」

「ロミです」

「よろしく」

 プニベスは自己紹介しなかった。どうやら彼女とも面識があるらしい。

 と、そこでマキが反応した。

「え、アマルー姓なんですか?ほんとうに?」

「あら、マキさんはご存じなのね。ええそうよ末席ですけどね。さ、それより行きましょう?」

「あ、はい!」

 エムネア嬢が歩き出して、そして三人はそれについていった。

 で、ロミが小声でマキに質問した。

「今の、どういう意味?」

「あのねロミ。

 アマルー人には絶対、つけちゃいけない名前っていうのがふたつあるの。

 ひとつはクオン、そしてもうひとつがアマルー。

 クオンは男の、そしてアマルーが女の王族を意味するからね」

「へ、王族……王族!?」

 思わずロミは大声を出してしまい、そして前を歩いていた二人が反応した。

「ああ、でもわたしは本当に末席のはしっこだから、気にしないでくれるかしら。

 さ、それより急ぎましょう?」

「あ、はい!」

「わかりました……」


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