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宇宙(そら)へ逝こう  作者: hachikun
第二夜『母にして父なる者と銀の少女』
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嵐の三人娘

 レスタたちの会話の数時間後。

 今日の仕事を終えて交替したオペレータたちは、食事に休憩にと、それぞれの場所に散って行った。

「おつかれー」

「そっちもおつかれー」

「ばいばーい」

 オペレータチームは王宮事務職でも生え抜きというわけではないが、ここアルカイン王宮ではオペレータ職に条件があった。

 それは、人間とドロイドの混成チームでうまくやれること。

 そもそも王宮オペレータは元来、ドロイドと人工知能のお仕事とするのが普通だ。待機時間が長いうえに失敗が許されないからなのだけど、しかし歴史的事情からアルカイン王宮では、オペレータ職には人間を使うことになっている。

 この点をどう埋めるか?

 そう。

 オペレータが「人間を含めた三人」構成となっているというのは正式には正しくない。確かに現実はそうなのだけど、書類上は人間ひとりでやっている事になっている。ドロイドの二名は人間スタッフの「サポートマシン」にすぎない。

 そんな経緯があるため、オペレータチームには再編成というものがない。「ひとりプラス装備品」なのだから当たり前だ。

 しかし現場で働くオペレータからしてみれば、自分と同じものを食べて出し、同じように泣き怒り笑う『道具』と仕事しろと言われても色々な意味で難しい。

 本当にドロイドを道具としか見ない者は道具と一緒くたに仕事する事にストレスをため込むし、そうでない者は逆に、まったく同じ仕事をしている同僚が道具扱いという事にストレスをため込んでしまう。

 結果として、適正のない者は耐えきれず辞めていく。

 では、そうじゃない生き残りのオペレータはというと。

 そう。

 つまり彼女らはふたりの『仲間』に順応し、無事『三人チーム』になれた者たちということになる。

 

「ふい……疲れたぁ」

「うふふ、マッキーおつかれ」

「ごめんねえ、がんばって早く大きくなるね?」

「あはは、いいんだよマッキー?子供から大人になる事はできても逆はできないんだもの。あわてる事はないよ?」

「そうだけどぉ」

 さきほどのマキと呼ばれた娘、どうやらスタミナ切れのようである。

 

 改めて紹介しよう。

 彼女の本名はマキ・マドゥル・アルカイン・ドムナー。宮内庁長官ドムナーの娘である生粋のアルカインっ子である。

 ただし種族は純粋な人間(アルカイン)族ではなく、俗に猫耳人(アルマー)と呼ばれる混血種の特徴を持っている。これは父親の先祖のどこかでアマルーと混じったためと思われるが、かなり昔のようで詳しいことはわかっていない。

 マキは少し先祖がえりの傾向があるようで、なかなかに立派な猫耳を持っている。かつて大人の女性だった時は上手に隠していたのだけど、今は子供ということもあり、ピンと生意気な耳が自己主張していた。

 ちなみに脚力などもアマルーには届かないとはいえ、アルカイン族の平均値よりは高い。しかも一瞬のばねがきいているため、子供の身体である今なら、二階に飛び上がる事さえ可能だ……スタミナ切れで潰れてなければだけど。

 連邦は純血主義が多い。

 それは確かに事実なのだが、なぜかアルカインとアマルー、すなわちヒトと猫の混血については寛容な地域が多いのも事実だ。理由はよくわかっていないのだけどこれは事実で、マキのような者がお堅い職場のはずの王宮で仕事できているのもそのためである。

 

 さて、そんなマキなのだけど。

 マキは外見こそ子供であるが、それは再生されて間もないからである。本来は一緒に歩いている二人を加えた王宮オペレータチームのリーダーつまり人間組なのだけど、つい先日事故に巻き込まれて死んでしまい、居合わせた二人のうちのひとり、個体名プニベスによって胎内再生されたためだった……そう、野沢誠一がアヤにより再生されたように。

 まぁ誠一は未開の原住民のうえに男性だったのでややこしい事態になってしまったが、マキは連邦人の、しかも女性なのでそういう面倒はない。ただ元のサイズと外見になるまで、幼い身体で過ごさなくてはならないのはどうしようもないが。

 

 ちなみに、ここアルカインにはもちろん補償制度も休暇もある。本来、肉体再生するほどの大惨事の後なら入院していてもかまわないはずだった。

 それでも早期にオペレータ仕事に戻った理由はというと。

「私、リーダーだもの。責任があるの!」

「はいはいマッキー、ほら、ママがいまちゅからねえ~」

「……あうぅ」

「これが大マジメだっていうんだからなぁ……アホなのか凄いのか」

「ん?プニはマッキーのおかーさんだよ?だって、プニのおなかで産んだんだもの」

「胎内再生と出産を一緒にすんなって」

「似たようなもんだよぉ」

「まったく、こいつは……」

 

 にこにこと笑いながらマキを抱きしめる銀髪ロングの女。アルカイン族の成人女性としても大柄で、全身これ母性のような豊満さに満ちている。

 本名プニベス、通称プニ。ドロイド娘である。

 言動と行動がおっとりしているものの、メンバー最大の耐久力の持ち主でもある。いざという時にマキたちを無理やり仮眠させるのは大抵、彼女がやっていたりする。

 彼女はこのアルカインで作られたドロイドで、マキの実家にメイドとして買われてきた存在だった。ただしメイドとしては、おっとりしすぎた性格のせいか問題が多発したり、悪意ある同僚に罪を着せられたりと、ろくな事がなかった。

 そんなプニベスだがマキは昔から大変お気に入りで、彼女を売る話が出た時、珍しくわがままを言って自分の専属にしてもらったのである。その際に屋敷のメイドとしての役割からも解放し、自分と同じ部屋に寝泊まりさせる勢いで徹底的に囲い込んだ。

 まぁそんな経緯でマキの元にやってきたプニベスだが、よほどマキのそばが良かったのだろう。その後はグングン本来の能力を伸ばしていき、そしてマキの専属筆頭となって今に至る。

 ちなみにプニベスとは『のんびり屋』の意味である。彼女によく似合っているといえよう。

 

 そんなプニベスにツッコミを入れている三人目はというと。

「プニ、マキの心配ばっかしてるけどアンタもそろそろ体力やばいだろ。無理は禁物だぜ?」

「わかってるよぅロッピー」

「ロッピー呼ぶなっつの!」

 その名はロミという。

 本来メンバー中もっとも小柄で幼げなのだが、今はマキが子供なので中堅になっている。もともとマキに何かあった時の副主将的ポジションだった事もあり、そのマキがおちびさんになっている今、お姉さん風吹かせまくりである。

 ちなみにマキはロミを普通に呼ぶのだが、プニベスはなぜかロッピーと呼ぶ。理由は不明。

 灰色の髪と目をもっているが、彼女の産地はよくわかっていない。そもそもロミは昔、アルカイン・マーケット開催時にマキが拾った浮浪ドロイドというやつで過去の記憶もなく、記録もなかった。どこかの星からの商船に紛れ込んだのだと思われたが、マーケットにやってくる有象無象の商人たちの船をすみずみまで調べ上げた結果、近郊のザイードで紛れ込んだらしい事はわかったものの、それ以前の事となると何もわからず。

 こういうドロイドは、たまにいる。

 おそらく母星が消滅などして帰るところがなくなり、破壊と再生を繰り返しつつ放浪していく中で記憶をなくしたのだと思われる。もとより居場所などない存在なので、誰かが保護したり雇ったりして最終的にどこかに落ち着くものなのだが。

 で、マキはその頃もう、希望職業がオペレータだったので、彼女をロミと名付けて自分の『仲間』としたわけだ。

 ちなみにロミというのは銀河における幼児名のひとつでもあり、かわいいもの、小さなものという意味。ロミ本人は容姿のコンプレックスがあって気に入らないようだが、マキがとても優しい意味をこめた経緯を知っているので訂正もできない。

 ふたりはそういう関係だったりする。

 

 そんな経緯の三人組であるが。

「そんなことよりプニベス、ロミ。どこかでゆっくりお話しよう?」

「どこかで?家じゃなくてか?」

「おうちはまずいかも」

「あー……」

 そのマキの言葉で、どういう意味かをドロイド組は認識したらしい。

 ふむん、と最初に首を動かしたのはプニベスだった。

「ロッピぃ、だったらやっぱり?」

「だな……あぁ、そういやちょうどいい、あそこいこうぜ?」

「あそこ?」

 反応に何かを感じたのか、マキがロミの方を見た。

「エムノゼ屋台だよ。今ちょうどきてんだ」

「エムノゼ屋台?ほんと?」

 マキはエムノゼ屋台が大好きで、屋台がたてば食べに行きたがるのだ。

 だがしかし。

「あれ、でもちょっと待って。マーケットでもないのに屋台?しかも今どき?」

 商人は世相の動きに敏感なもの。今回の事件だってとっくに掴んでいるはず。

 なのにどうして、屋台なんてのんびりやっているのかと。

「急用でボルダの方に来たついでだって。何日かいるっていってたぜ?」

「あら珍しい、いいわね、行こうか?」

「ん、マッキーが行くなら、さんせー」

「おし決まりだ、いこーぜ?」


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