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人間に対していつも疑問に思う事がある。
何故、人と言うのは進化の過程で自ら進んで防衛能力を下げたのだろうか。
全神経を集中させた目線の先には、白い肌を存分に露出した女の姿。
我々の様に保温性や機能性に優れた毛皮を身に纏っているわけでも無く、体表面の10数パーセント程度の毛が生えているのみ。
しかも、水辺等の危険な場所は進んで防御能力を下げている様に見え、更には何故か自信に満ち溢れた雰囲気を醸し出すのも存在する。
視線の先で全身から湯気を放出しているこの女に至っては、僅かに布をつけてるとはいうものの、手足や胴体の大部分が白く露出していた。
あの柔肌では、爪はおろか我々の牙など防ぎようが無いではないか。
脂肪が多量に含まれていそうな2つの大きな部分は防御しているらしいが、それも薄い気休め程度の布でしか覆われていない。
むしろ気を抜けば防御面から溢れそうである。
人にとって急所らしき場所も防御している様だが、上部の布より下部に身に付けた布の方が薄く、所々透き通っている箇所もあった。
むしろその布の上からでも透けて見える毛皮の方が、防御面で優秀に見えてしまう。
全くもって理解に苦しむ。
命が惜しくないのだろうか。
そんな疑問や懐疑心が鋭く発信される視線に含まれていたのか、女の眼も頭にかぶせている布の隙間からこちらを向いた。
「どうしたの?ワンちゃんでも、このセクシーな魅力がわかるのかしらぁ?ふふ」
全身から立ち上る湯気を纏い、全身をくねらせてこちらに視線を送る女。
威圧にも似た圧力がこちらに送られてくる。
一瞬、緊張が背筋を走ったが、女の表情はむしろ緩やかなものであり、威嚇ではないらしい。
「もう、つれないわねぇ。尻尾くらい降ってくれてもいいんじゃない?」
女は少し不満げに、再び視線を外し頭の毛を布で掻き乱しながら歩いて遠ざかる。
何を求めているのかは不明だが、今の所、害意は感じられず差し当たって危険は少ないようだ。
「まぁ今は何もないからこれで我慢してもらおうかしら…」
そんな声が届き、金属音や何やら機械音が立て続けに響く室内。
人というのは、こんなにも様々な雑音に囲まれて煩く感じないのだろうか。
半ば呆れに近い感情を浮かべ、身体を伏せ、耳で周囲を確認しながら脚から胴体へとゆっくりと緊張を解いていった。
今は身体を少しでも休めて、いつかの為に蓄えておきたかった。