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二度間違えた俺は三度目の正直を願う

一度目の失敗

 俺は知っていた、いじめられっ子の女の子、いじめの原因となったとある事件、犯人にされたのはいじめられっ子の女の子それまでは友達の輪の中心にいたのにその事件をきっかけに苛められるようになった。いじめの内容は苛烈というか醜悪というか。耐えられずに彼女は自殺をしてしまった。俺は知っていた、知っていたんだ。彼女が冤罪だってことを。真犯人が他にいたことを。でも俺はそれを言い出せなかった、その真犯人はクラスの中心人物と仲が良かった、事件の後、程なくして中心人物とつき合い始めた。俺は怖かった、彼女の冤罪を訴え出れば彼らを敵に回すかもしれない、いじめの対象が俺になるかもしれない。怖くて、恐ろしくて、怯えている内に彼女は居なくなってしまった。俺が彼女を殺した、いじめには加担していない。でも止められなかったのなら同罪だ、いや、むしろ俺なら止められた筈なのに、止められなかった。自分が可愛くて、保身に走って。ならば彼らより、俺こそが罪深いのだと。そして俺は出来なくなった。学校に行くことを、外へ出ることを、人と関わることを。俺は部屋に引き籠った。そして俺は死んだ。誰にも知られることなく、誰にも顧みられることもなく、誰にも惜しまれることもしない、ただひっそりとこの世から消え去った。そういえば、彼女は似ていたな、当時まだ仲の良かった妹がハマっていた乙女ゲームの悪役令嬢、容姿も、性格も、境遇も。そっくりだったなと思いながら。





二度目の失敗

 俺は知っていたはずだ、彼女にまつわる噂が誤解だと言うことに。俺は知っていたはずだ、彼女の性格がとても誤解されやすいということを。俺は知っていたはずだ、彼女の行動を誰かが捻じ曲げていたということを。俺は知っていたはずだ、彼女こそが俺の婚約者だということを。だが俺はしなかった。噂を治めることも、誤解を解くことも、誰かの行いを咎めることも、婚約者を大事にすることも。なぜなら俺は彼女が大事だったから、彼女こそが大事だったから、彼女こそが真なる愛する人だったから。彼女とは誰だ?彼女は彼女だ。俺の本当に大切な人だ。本当にそうか?子供の頃、俺は彼女が好きだった。親が決めた婚約者、次期王となる俺の婚約者、初めてあった日に好きになった婚約者。彼女のためなら頑張れた。勉強、剣術、馬術、礼儀作法に魔法。彼女にふさわしい夫となるために、彼女にふさわしい国王となるために。彼女が大事だ、彼女こそが大事だった、彼女を愛している。俺の心の傷をいやしてくれた、いつのまにかよりそっていた、心無いいじめをうけていた、彼女を守らなければいけない。だから俺は行動した。噂を煽り、誤解を広め、捻じ曲げることを黙認した。そして俺は彼女に罪を告げる、彼女にふさわしい夫となるために。そして俺は彼女に婚約の破棄を告げる、彼女にふさわしい国王となるために。なぜ俺は彼女に罰を与えている?なぜ俺は彼女に別れを強いている?彼女が大事だったはずだ、彼女が大切だったはずだ。そうだ俺は彼女を愛している、真実の愛を教えてくれた彼女こそを。彼女とは誰だ?目の前で打ちひしがれ跪く彼女だろうか。彼女とは誰だ?俺の腕の中にいる胸によりそう彼女だろうか。彼女とは誰のことだ?そして彼女は首を刎ねられ死罪となった。そして彼女はティアラを被り王妃となった。そして俺は王となった。誰の為に?何の為に?そして俺は死罪となった。反乱に敗れ、彼女と同じ首を刎ねられ首を晒した。そういえば、この世界は似ていたな、前世の記憶のゲームの中に、人も、国も、出来事も。そっくりだったなと思いながら。






三度目の正直

 俺は知っている、この世界が乙女ゲームの中ということを。俺は知っている、俺と言う人物を。俺は知っている、この扉の先で婚約者と出逢うことを。俺は思い知る、今度こそ失敗してはいけないことを。


 憶えている失敗の記憶を。我が身可愛さに彼女を救えず堕ちた人生を。大事な人をこの手で貶め狂わせた人生を。

 

 ならばこそ、恐れてはいけない。ならばこそ、間違えてはいけない。ならばこそ、やり遂げなくてはいけない。

 この手で救う。この手で守る。この手で幸せにしてみせると願った、誓った、心に決めた。

 二度の失敗、三度目の生。遙か遠い記憶の彼方、三度目の正直と言う言葉があった筈だ。神に願う今度こそ救えるようにと、仏に願う今度こそ守れるようにと、全てに願う今度こそともに歩めるようにと。

 俺に三度目の正直を下さい。



 この日がやってきた。忌むべき記憶。断罪の日。ゲームの記憶にある断罪イベント。

 「今日という今日こそは貴女を見損ないました。」

 「アリシア嬢、キサマは人として最低だな。」

 「アナタという生徒は学園史上でも類をみないほどに愚かな方ですね。」

 「義姉さん、そこまで堕ちてしまったんですね、もはや貴女は公爵家に相応しくない。」

 彼女の取り巻きともいうべき四人が一人の女性に対し攻撃的な言葉を紡ぐ、卓越した手腕で政の舵を取る宰相の長男、優秀な騎士を多く輩出する侯爵家の次男、この学園の教師で子爵位を賜る男性、そして俺の婚約者の義弟で多大なる魔力を有する魔導師の卵にして公爵家の跡取り息子、皆優秀であったり将来、国の中枢を担うと言われていた者たちだ。

 「貴方がたにそのように私を貶められるような謂れはありませんわ。ましてやそちらのご令嬢を私が不当にいじめていたなどと身に覚えのないことで。」

 女性の反論にさえ耳を貸すことなく、さらなる罵声を彼女に浴びせる。

 「この期に及んでまだ白を切るのですか、貴女が行ったことはすでに明白なのですよ。」

 「この様に可憐な彼女を斯様な所業をしておいて、どこまでも最低だな!」

 「アナタには期待していたのですが、残念でなりません。」

 「義姉さん!いい加減に自分の罪を認めたらどうなんだ!?」

 現在、彼女はこの四人から罪の告発を受けている。そう、脅える様に俺に縋りつき、震えている彼女に対する諸々の不正行為について。

 「話になりません。では見せていただけますか?私がそちらのご令嬢に対し不当な扱いを行ったという証を。」

 身に覚えが無ければ当然の要求であろう、行っていない事に対する証拠などあろうはずもないのだから。

 「彼女は階段から落ちた時、貴女に背を押されたと言っているのですよ?当事者なら間違えるはずがありません。」

 「この様な可憐で誠実な彼女が見たと言っている。それ以上の証拠等あるものか!」

 「私はいつも相談を受けて見ています。アナタに辛辣な言葉を投げかけられ傷つきながらも健気に耐える彼女の姿を。」

 「義姉さんはどうしちゃったんだよ、昔はそんなにも愚かじゃなかったはずだよ。」

 この期に及んで物的証拠が何一つ出てこないところはいっそ清々しくもある。

 「ふぅ、これ以上は何を言っても無駄なようですね。」

 「そうだな、さっさとこの学園から、いや、この国から去るといい。」

 「学園もアナタに対する処罰を検討していることでしょう。」

 「今回ばかりは義父さんも義姉さんをかばえないだろうね。」

 「ま、待ってください、わ、私は一言謝っていただければそれでよいと思って。こ、ここまでの大事になるとは思ってなかったんです。で、ですから皆さんも・・・、そ、それに彼女はクリス様の婚約者様なんですから、皆さまが勝手に処遇を決めてしまってはも、問題が。」

 震えながらも必死に我が婚約者の嘆願を申し出る彼女の様子は真に健気であると言える、隠しきれない口元の嗤いさえなければ。

 「ああ、貴女という方は・・、」

 「くっ!あそこまで酷い仕打ちを受けながらもなんて優しいんだ!」

 「おお、やはりアナタこそ全学生の模範となる人だ。」

 「レイチェル、僕の義姉さんだからってそこまで優しくしなくてもいいんだよ。」

 背を向けているため口元の見えない四人は口々に彼女の健気な優しさを讃えている。

 「貴女の言う通り、彼女の処遇は婚約者である殿下が決めるべきでしょうね。」

 「さあ殿下、この場に沙汰をお願いいたします。」

 やっと俺の出番が来たようだ、俺の今生の努力と苦労はこの瞬間のためにだけあったと言ってもいい。さぁ始めるとしよう、今度こそ救えるように、今度こそ守れるように、今度こそ幸せにするために。

 まずはいつまでも俺にしがみついているこの女に離れてもらう、その際に目を見るようなことはしない。目を見ればゲーム補正の力に捉われてしまう、何度かそれで失敗しかけたが、補正の仕組みについて学べたと思えば軽い代償かもしれない。

 この女も転生者かもしれない、流れるような手際で他の攻略対象者四人を無駄なく落していった手腕は見事としか言いようがない。補正の力やイベントの流れを把握していることをばれないように、俺の知っている二度目の人生と同じ流れ、逆ハーエンドの断罪イベントを起こすためには骨が折れた。

 彼女を取り巻く根も葉もない悪い噂をはあらゆるツテを使い沈静させた、誤解されやす彼女の性格は少しフォローしてやれば目的に対する誠実さ、一途さを表してくれる。彼女が不正に関与したと捏造された証拠は世に出る前にすべて消し去った。事件を目撃していた者が居れば王室の保護と援助を申し入れ仲間を増やしていった。全てはこの断罪イベントとその後に訪れる彼女の破滅を回避するためだ。

 「本来、上級貴族の進退に関する権限は国王陛下ただ一人にのみあるべきなのだが、学園の中という特殊な場に慮っていただき、この俺に陛下の代理としてこの件に関する裁量を賜っている。よって、この場における俺の発言は陛下の言として重く受け取るべし。異論のある者は今、この場で訴え出よ。」

 誰一人、異議を申し出るものはいないようだ、そんな勇気がある奴がいたらお目にかかりたいものだが。

 「皆、異論は無いようであるな。ではこの場の沙汰を申しつける。」

 「まず、宰相の長男であるエドワード、君には御父君から自宅にて三ヶ月の謹慎を仰せつかっている、今日より自宅へ戻り謹慎に入るようにとのことだ。」

 「なっ!?」

 「次に、侯爵家次男のアーサー君、君の御父君からは卒業後二年間の騎士への叙勲の禁止と同期間の歩兵隊での修行を命じるそうだ、頑張ってくれ。」

 「マジで!?」

 「そして、当学園教師のクルツ子爵。学長より解雇の辞令が下っている。」

 「なぜですか?」

 「最後に、公爵家の跡取りにして、我が義弟になる予定のマルス君。義父上殿からの伝言だ、跡取りの指名を取り消すが次の指名には猶予を与える、再度指名が欲しければ死に物狂いで努力せよ。とのことだよ。」

 「そんな!?」

 なぜか皆驚いているようだが当然の結果だろうに、職務を怠慢し、責任を果たさず、義務を放棄した。学生会は機能せず、全生徒の模範たる上級貴族が率先して風紀を乱し、家の決めた婚約者をないがしろにした。むしろ処分としては軽い方だ、廃嫡されないだけ、勘当されないだけ、飼殺されないだけましな方だ。俺がフォローに忙殺されそうになったとき俺に手を貸してくれたのは、お前達の周囲にいた者だ、お前達を慕っていた者だ、お前達が見向きもしなくなった者だ。彼ら、彼女らの嘆願があったればこその、この処分。お前達が再び周りに目を向けるのはいつになるだろうか。誰がこそ大事なのだと気付けるのはいつになるのだろうか。


 「ああ、忘れるところだった、男爵家令嬢のレイチェル。まず学園内における不正の関与、風紀を著しく乱したことによる学園からの退学処分を言い渡す、並びに婚約者を持つ複数の貴族男性との不義、不正の関与に対する目撃者への暴行に与した罪、その他余罪多数として、国外追放の命令が出ている。」

 特に複数の男性と関係を持ったのはいただけない。わが国では、貴族の間では、重罪なのだ。平民ならば問題ない、外聞は悪いのかもしれないが罪では無い。しかしながら貴族となるとそうはいかない、誰の子かも判らない赤子を孕んでもらっては困るのだ、血の乗っ取りは何をおいても防がなければならない。

 「は?なんでよ!?私はこのゲームのヒロインなのよ!?なんでこの私が断罪されなきゃいけないのよ!?断罪されるのはそこの悪役令嬢の筈でしょ!?それにアンタは攻略対象で今は逆ハールートなんだから私の言いなりになりなさいよ!?なんで勝手な行動してるのよ!?だいたい──「もういい、さっさと連れていけ。」

 彼女が諸悪の根源ということはないだろう、彼女は世界を知っていた、彼女はゲームを知っていた、彼女は補正の力を知っていた。彼女にとってこの世界は、きっと楽園だったのかも知れない、地獄だったのかも知れない、ただのゲームだったのかも知れない。知っているから動いた、知っていたから動かされた。彼女はただ選択肢を選んだだけ、選択肢を間違えただけ。この国からは出て貰う、他の国で暮らしていくのなら生活の保証もする。この国に戻るのは許さない、他の国で生きれないなら容赦はしない。




 

 やっと静かになった広間で貴女を見る。一連の流れに付いていけずに呆気にとられている。その表情も可愛く思う、その姿も愛しく想う。

 この先のシナリオはしらない、この先にイベントはない。この先には路があるだけ、間違えてはいけない、踏み外してはいけない、ただ歩みたいと願う路。

 「さて、アリシア、我が婚約者殿。俺はまだ貴女の婚約者を名乗ってもいいのだろうか?」

 「はい、この婚約は両家で交わされた正式なもの、斯様な些事で破棄されるものではありません。」

 「アリシア、我が婚約者殿。貴女はまだ俺の婚約者を名乗っていただけますか?」

 「はい、私は幼少より王太子殿下の妃となるよう教育されてきました、この程度で婚約者の任を降りる訳には参りません。」

 「アリシア、我が婚約者殿。貴女はまだ俺を慕ってくれているのだろうか?」

 「はい、私の努力は全て貴方の妻になる為に、今も昔もこの先も貴方をお慕いする気持ちに変りはありません。」

 「アリシア、我が婚約者殿。俺はまだ、間に合っているのだろうか?この気持ちを貴女に告げることを。」

 「すべては殿下の御心のままに。」



 「ならば私は誓おう。如何様な窮地に陥っても私は貴女を救うと誓おう、如何様な危地に赴いても私は貴女を守ると誓おう、何時如何なる時も貴女を愛すると誓おう。」

 「偉大なる父王に学び、民を安んじ地を肥えさせ、我が愛する国を栄えさせる。貴女に誇れる王となることを誓う。」

 一度目は失敗した。

 二度目は間違えた。

 三度目は──

 「どうか貴女には、望んでいただきたい俺と共に生きることを、選んでいただきたいこの手を取り隣を歩むことを、ただ見せていただきたい。」

 ──貴女の笑顔を。


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[良い点] これでもかって言うほどに胸糞悪い。 胸糞悪さが一周して良い点に思える。 [気になる点] 駄目だ解せぬ。 [一言] 自分の読解力なさを情けなく思います。 一回目の表現が回りくどい文字数かせぎ…
2017/07/18 20:17 退会済み
管理
[一言] 最低限の一般的な読解力があれば二回目のグチャグチャに描写される思考に ああ所謂ゲーム補正とか魅了や洗脳の術の類いで強制された運命だったんだなーと予想できますし その後やっぱりゲーム補正のこと…
[一言] うーん……あんまり救いがあるべき主人公に見えなかったかもです。 一周目の後悔は……流せる。 まだまだ学ぶ身の上で、そのような悪意に当ってしまい、己の身を守ることしか出来なかった。 それに良…
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