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沈黙は金 雄弁はプラチナ  作者: 中田あえみ
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沈黙を破る 11

マギーは慌ただしく新会社との切替用に用意するための雇用契約書に目を通していた。新会社周りの書類を見直した後は、自分も含めた一般社員の書類周りになる。


そして役員用……。


こればっかりは、暫定的に(多分)魂が抜けている副社長とアラン室長に頼むしかない。トモミ社長の決裁が必要だし。


マギーは軽く副社長室の内部を伺ったが、ネイトはおとなしく机に座っていた。少々不気味なので、本当は休んでくれて構わなかったのだが、彼にとって実家は居心地が悪いのかも知れない。お見合いとなれば、家と家との話になるのだから。


「あんまりピンと来ない」

ある日、マギーがまだ20代の時、いくつかお見合いをしたことがあった。結局最後のお見合い相手は若社長で、どう考えても高スペック。何故彼が実家を離れてキララで働いているマギーと会おうと思ったのかさっぱり分からなかったが、可もなく不可もなく別れ、母親から感想を聞かれてマギーは答えた、ピンと来ない、と。


母親はため息交じりに

「そんなこと言っちゃ駄目よ、マギー。もう紹介してもらえなくなるわよ」


そして本当にその後お見合いの話はなくなった。


今思えば、もっとお見合い相手も向き合えばよかったと思う。たとえ1、2時間でも、しっかり話し合って、興味がないならないとはっきり、これが嫌いならこれが嫌いとはっきり、伝えるべきではなかったか。


それをどうせこの日限りの事だからと、全てあいまいに。

「何故私と会おうと思ったんですか?」

その一言すら言えなかった。

ただにこにこして、相手が社長なんて絶対無理だから、美味しい食事して帰ろう、そう思っていただけだった。


ネイトはきちんと相手に話せたのだろうか。

相手もきちんとネイトに伝えたのだろうか。

気にはなるけど……。昨日の愚痴からすると、元婚約者(の予定)だった人より、元カノの方がまだ記憶に残っているようだった。これって、世の男性はみんな過去の女性を忘れられないという事なのか、それともネイトの例が特別なのか、マギーには全く分からない。


キャロルに話すべきか。

……いや、何やら進展を期待されても。


定時少し前に、流石にネイトは今日は一人で会社を出ていった。

少し口元を上げて秘書室の前を通って行ったように見えたのは気のせいか。

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