沈黙を破る 7
それからマギーは、久しぶりにネイトのスケジュール全体を見直し、関連部署からの依頼メールをばばっと片づけ、繰り延べられる予定はすべて調整した。何と今晩も夕方に会食が入っていた。いや、少し前から毎晩会食が入っていたのだ。ネイトは薄々何かを感じていたのかも知れない。それとも安心しきっていたのかも知れない。
トモミ社長の日程もざっと確認したが、広報関連がかなり入っている。来週は表彰式まで入っている。彼女は自分をエサにして、突然の解任劇の眼をそらす作戦なのか。
知り合いの広報の名前があったので、少し状況を説明して、トモミ社長とのミーティング予定をネイトとの予定時間とぶつけてもらった。トモミ社長の性格から、外部の広報を優先すると読んでの事だ。マギーはこの時ほど自分の秘書スキルレベルについて感動したことはなかった。
これこそ、仕事上の達成感かな……。少し違うような気もするが、直属上司を支えるのは秘書として大事な仕事である。間違ってはいないだろう。
案の定、時間変更の指示がトモミから入る。読み通りである。
マギーは定時少し前に内線でネイトに今日と明日の予定はすべて延期しましたと伝えた。
「……有難う、今自分のスケジュールを確認したが、見事に空白だね」
「来週からまた新たな気持ちで頑張っていただければと思いまして」
金曜午前の重役会議は流石に動かせなかったが、かなり余裕ができたはずだ。
「……そうだな。分かった……じゃ、一緒に出よう。マギー、今日は定時で私と出てくれ」
「あ、は、はい。お言葉は有難いのですが、私はまだ少しやる事がありまして……」
「私が良いと言ってるんだから、そうするように」
有無を言わせぬ声音。……どうやらもう元気になったようだ、お坊ちゃまは。
「……はい」
受話器を置いて、マギーは画面上の未決メールを数え始めた。くらくらする。私、何か間違ったか?間違ってないよね?
リッキーは黙ってマギーの作業を見つめていたのだが、頃合いと見てメッセージを送って来た。
「あの変人、何か言ってきたんですか?見事に予定が消えてますね」
「女に振られたんだって。仕事にならないのよ」
「世の中にはまともな女性もいるんですねー。私もあの人嫌ですよ」
「えー何で?パッケージいいじゃない」
「うーん、何か頼れなさそうです。いざって時に細かそうだし」
「あそ。お付き合いで私も定時上がりなので、よろしくね」
「マギーさんはいいんですよー、仕事してますからねー。私も7時には上がります」
「デート?」
「いや、食事だけです。その後すぐに帰りますよ」
独りじゃないってのはいい。
それだけは分かってる。




