飛べない鳥は落とせない 15
「で、出てないわよ……。出てれば、こんなに迷ってないもの」
何を言い出すのか、とマギーはキャロルの言葉にむせた。
「迷いがあるってだけで、もう先は見えてるわ。ま、元人事コンサルタントとしては、どんどん転職活動を進めなさい、って言うべきだけど、でも、マギー自身が納得してないと駄目よね」
「納得?リストラへの?」
キャロルは優雅に口の中のサラダを飲み込むと、薄く微笑んだ。
「興味が湧いたんでしょ、副社長に。彼も中々人間味あるじゃない。お金持ちのお嬢様と付き合いながら、家柄の釣り合わなかった元カノへの未練をまだ断ち切れないなんて」
「それは大分美化されてない?結局ご縁がなかったって事でしょ、別れたって事は?」
「僻まない僻まない。男運が減っていくわよ。男ってのはね、ロマンが好きなのよ、女性への幻想もあるしね。それをうまく利用してやるってのが、我々女性の役割なのよ」
かなりひどい事を言っているのだが、彼女は男を切らしたことがない。今だって、将来は弁護士というインターンと付き合っている。その前は人事コンサル時に出会った顧客の一人と付き合っていた。大物を必ずしとめているのだ。
「どうせ私はモテないよ、キャロルは凄いよ」
「マギー、貴女はモテないのではなく、『男女交際』に興味ないだけよ。不細工でも禿でもデブでもいいから、とにかくまずはデートすべきなのよ。それでさっさと次へいく、でないと経験値が上がらないでしょうが」
「……傷つきたくない」
「ああ、もう!自転車乗る練習、子供の頃やったでしょう?何回転んだ?」
「数えきれないよ、ひざに砂利がめり込んだこともあるもの。痛いし膿むし」
「でも今は自転車乗れるでしょ?その痛みを乗り越え、時間をかけて経験値を上げたからこそ、今は色も形も大きさも選び放題で自由に道をこげるんでしょうが。男も同じよ!練習しなくていい人も確かにいるけど、大多数は転びながらつかんでいくのよ」
「ひざの傷、まだあるんだよ。一生消えないと思う」
「痛むの?」
「痛まない……。でも思い出す」
そう、思い出すのだ、あの痛みを……。心臓が何本もの針で同時に突き刺されるような、純粋な痛み。
マギーはまだ忘れていない。キャロルは今度は盛大なため息をついた。




