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沈黙は金 雄弁はプラチナ  作者: 中田あえみ
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飛べない鳥は落とせない 10

マギーは最初にアレックスのスケジュールをPCで見たが、思ったより埋まっていたので驚いた。彼の事だからヒマヒマだと思っていたが、彼は会議中で暇なだけだった。

ネイトのスケジュールはマギーの愛用の手帳にあるが、こちらも一杯だ。これでどうやってプロジェクトを進めようというのか……。トモミ社長!貴女は仕事中毒ですよ!


辛うじて金曜の午後5時に二人の空きを見つけ、ミーティング開催の依頼を送る。マギーはそれまでに、簡単なアジェンダ作成をしなければならない。


そしてアラン新総務法務室長からは、秘書室設立と室長としての契約更新のための書類を確認してサインをしてくれ、とのメールが来ていた。


リッキーに広報部からの資料と雑誌担当者の連絡先を転送し、アランからの書類を印刷、サイン、そして書類を総務法務室に持っていって、そこで会社設立などの関連資料を見せてもらえばいいか、とマギーは判断した。


生化学事業部門の独立は、この新会社設立と絡めれば一番簡単な気がしたのだが、紡績部門や工場回りを一挙に人員整理なんて出来るはずがない。いや、その反発を狙っているわけなんだろうか。でも良い人材から抜けていってしまう。転職できる人材は、ある意味実力がある人間だ。転職できる人材というのは、転職先で即戦力となれるか、または即戦力となれるように面接ではったりをかませることが出来る演技力のある人間なのだ。演技力のみの人たちにはぜひぜひ出ていってもらいたいのが本音だけど……。


ここまで来て、マギーははた、と気づいた。こんな思考は、秘書には相応しくない。判断は、上司に任せなければ。こんな思考回路では、次の転職活動に差し障ってしまう。次の仕事も『秘書』のはずなのだから。


ふう、とマギーは息をついて、『寿退社』予定のネイトを副社長室の窓越しに見た。元々畑違いの業界にいた人……。家の都合で転職して、彼女とも別れて……。見た目は普通の紳士っぽい所作の金持ちお坊ちゃまなのに、ずっと実家と別れようとしてきていたのか。お金のある人の気持ちは分からない。自分の家の関係会社に勤めれば色々と楽だろうし、理解もしてるだろうし、家族と一緒に仕事するのはやりやすいだろうに。


家族……ハイランド市の両親や結婚している兄を思う。兄は公務員で職場の同僚と結婚している。首都の都職員だから、老後の心配もないし、手当も悪くない。子供が三人いるけど、共働きしている。そういう家庭だ。父は一般のサラリーマンだったが、祖父や伯父が国家公務員だったので、少々保守的だった。マギーも公務員試験を受験しろと言われたが、止めておいた。落ちたら兄と比較されて一生嫌味を言われるかもしれないし、家族代々公務員稼業なんて気持ち悪い。いや、あの頃は若かった。


……似てる?もしかして、ネイトもこんな気持ちだったのだろうか?確かにはた目から見れば、公務員の方が秘書よりもよほど安定しているし、聞こえもいい。でも親から、親戚から、これがお前の将来だと決められるのは嫌だった。


いや、こんな事を考えている暇などない。総務法務室に行かないと。

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