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沈黙は金 雄弁はプラチナ  作者: 中田あえみ
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飛べない鳥は落とせない 9

マギーがメール確認を始めたのを見て、リッキーは自分の机に戻った。

総務法務室の手伝いが出来るのも楽しみだったが、経理人事室へ(雑用でも)行くことが出来るだなんて、嬉しかった。自分の仕事の範囲が広がり、自分の夢に一歩近づいた気分だ。これが契約社員と正社員の違いなのかもしれないと思う。


正社員であれば、この『会社』の『将来』を考え、携われる。仕事を探すときは、あまり契約の形態を気にしなかったのだが、この精神的充足感は、まるで抗うつ剤の様(多分)、もっと働きたい、という気にさせる。


これが経営者の従業員に対する罠なのかもしれないが。


マギーはトモミから「プロジェクト・ラブの進行について」という確認メールに少しげんなりした。新会社設立と全従業員の転出である。これは大きい。

そして新着メールがレベッカから「給与計算の外部委託費用」と題して、契約書の添付ファイルが来た。ネイトの決裁とはこれだろう。ファイルを開けて見ると、見積書だった。「至急」の文字もあったので、マギーはネイトの内線をかける。

「マギーです。レベッカから至急のメールが来ていますので、確認ください」

「分かった。ところで生化学事業部門はどうだった?」

「思ったより活気がありました。ただ本当に紡績部門と全く違う人材が求められると思います」

「そうだろうな。ところでラブの方で法務総務と話したか?」

「いえ、まだです。正直言うと、どれから手を付けていいのか分からないんです」

会社を辞めたい私がやっていいかもわからないんです。

と言いたかったが、いつもの通りそれは心の中で付け加えるにとどめた。

「来年の1月をめどにしているんだから、もう動かないと。取り敢えずはアレックスと私と君の三人でオフラインミーティングを組みたい。調整してくれ」

「分かりました」

総務法務副室長アレックス・チョウ。彼はマギーの苦手な種類の人間だった。上級秘書として上司の選り好みは許されないが、それでも人間として、得手不得手があるのは仕方ないのだろう、とマギーは自分を許した。これでも最初は十分頑張ったのだ。


マギーが書類の期限が来て催促しても、まだ上司の決裁をもらってないと理由を付けられたり、それがトモミ副社長(当時)の依頼であっても、社長(当時)の許可がないからと拒否されたり。やっともらっても違う書類だったり。果てはマギーの指示内容がよく理解できない、とトモミに抗議する始末。お手上げだった。


そんな人間とプロジェクトをやるなんて……。


お断りだ、とマギーの心が囁いた。やっぱり辞めてやるんだこんな会社!



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