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沈黙は金 雄弁はプラチナ  作者: 中田あえみ
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飛べない鳥は落とせない 8

マギーが自分の机に戻ると、リッキーが伝言がありました、と告げた。

「経理人事のレベッカさんが、今日中に副社長決裁が必要な契約書を送るのでそれのフォローアップを、と」

「レベッカここに来たの?」

「いえ、アラン部門長に呼ばれていたようですけど、その後副社長の部屋に入っていました」

秘書に隠し事はほとんど不可能である。意図的に隠そうとしていない限り、様々な情報が集まるようにできているのだ。それでこそ、秘書が務まるというもの。

「そうなら……経理に何かあったのかしらね?」

「不明なレポートがあったようですよ。販売管理レポートで、ケイトさんが元社長経由でグループに提出していたものなんですが、誰もやり方を知らないとか」

ケイト・タムラ……。

5階下に従姉妹がいたようですが、何か?

何だかわからないけど、イラつくものだと知った。縁故というか、親戚知人の紹介で会社を広げるのは、いい時はいいけど、悪い時はとことん悪くなる。しかしこの不機嫌さは、マギーの今の仕事には関係ないのだ。マギーは努めて微笑みを継続した。

秘書(わたし)も社長がそんなレポ出してたなんて知らなかったわ」

「そうなんですよ、あの二人の業務って、結局誰も把握出来てなかったってことです。ジョーンズ家(へんじん)がウチに乗り込んでくるのも、一応理由があったんですね」


リッキーは昼食の件をまだ根に持っているし、マギーはまた別の意味でネイトが『変人』だと思っているので、彼の呼称はそのままだ。


「副社長は来週から社員全員と人事ミーティングをします。時間管理はわたしがやりますので、マギーさんにはお知らせだけ」

「はい。人事考査って事?」

「ええ、レベッカさんはそれで副社長に呼ばれたようです。社員全員の人事資料の準備が出来たら、私、経理人事室にいって、書類を副社長室まで届けます。先ほど日程を組んだら、2週間ほどで終わる予定です」

「メールのカレンダー機能、更新したのね?」

「はい。それで確認いただければ。あとトモミ社長から、先日の雑誌のインタビューに載せる広報資料が見たいとのことです。問い合わせ先をいただけますか」

「色々大変ねえ、リッキーも。うん、あの雑誌の担当にリッキーを紹介しておくので、直にやり取りしてみて。初稿が上がるのはまだ先だろうけど、早めに伝えておいた方がいいわ」

「分かりました」

「後は?」

ネイトとトモミのスケジュールを手早く確認しながら、リッキーの顔に目をやるのはかなり忙しい。

「トモミ社長と副社長が今夜社外でミーティングするそうです。資料収集のためのリストがメールされています。私もお手伝いしますので、指示お願いします」

変わったなー、とマギーは思う。こんなに積極的だったかしら、リッキーって。

毎日遅刻で残業をしない、言われた通りにやる契約社員だったのに。


眼が、少し輝いているのか。


マギーはまた思い出した。「やりたい事はないのか?やりたい仕事は何だ?」

でも失敗したくないのだ。失敗して惨めに地面を這いずり回りたくはない。無様すぎる。出なければ杭は打たれないし、飛ばなきゃ鳥も落ちないのだ。何てことだろう、ほんの少し前までは、『秘書の自分』に酔えたのに……。

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